11月16日の土曜日の朝、【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】で、「桜を見る会」前夜祭に関する法的問題を指摘した。翌週月曜日、安倍首相の「ぶら下がり」会見で「説明」したことに対して、【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】【最終盤を迎えた「桜を見る会」安倍首相“詰将棋”、「決定的な一手」は】と、さらに問題を指摘し続けたところ、安倍首相は、それ以降、「ぶら下がり会見」での説明は一切行わなくなった。それに代わって、菅義緯官房長官が、連日、内閣委員会での答弁や、定例会見での質問への対応を行っているが、菅氏の「説明」は完全に「破綻」している。それは、「桜を見る会」前夜祭に関して、安倍首相が「説明不能」の状態に陥ったということであり、将棋に例えれば、完全に「詰んだ」と言える。
安倍首相の「桜を見る会」前夜祭に関する「説明」がなぜ詰んだと言えるのか。「将棋の盤面」の喩えで考えてみよう。
「桜を見る会」追及が始まった時点での盤面
まず、「桜を見る会」についての追及が始まり、前夜祭の問題に及んだ時点の盤面が《盤面1》である。
《盤面1》
「5八」に位置する安倍首相の「玉(ぎょく:王将)」を守る駒として、「3七」の位置に安倍後援会の「金」(斜め後方以外の場所に1マス動かすことができる駒)、「7六」の位置にホテルニューオータニの「銀」(左右と後方以外の場所に1マス動かすことができる駒)という「二つの駒」があった。
安倍後援会が、安倍首相の指示どおりに動くのは当然であり、ホテルニューオータニも、絶大な政治権力を持つ安倍首相にとっては、動かすことが容易な「駒」だったであろう。
当初は、前夜祭の夕食パーティーの1人5000円という会費が安過ぎるのではないか、実際にはもっと高く、その差額を安倍後援会が補填しているのではないか、そうだとすると、安倍首相の地元の支援者が多数参加している夕食会は、有権者に対する利益供与(公選法違反)に当たるのではないか、が問題にされた。
この段階で、安倍首相が強く意識したのは、「公選法違反」の問題であった。直近で、同じ有権者に対する利益供与の問題で、菅原一秀氏が、就任間もなく経済産業大臣を辞任していたこともあって、公選法問題は、総理大臣辞任につながりかねない重大リスクであった。《盤面1》上の「敵の駒」としては、敵陣「2二」の位置にある「飛車」(縦横どこまででも動かせる駒)であった。
しかし、「桜を見る会」前夜祭に関するリスクはそれだけではなかった。政治団体である安倍後援会が深く関わっていることは明らかであり、それについて、収支が発生していれば、政治資金収支報告書に記載しなければならない。しかし、その収支報告書には、過去に、「桜を見る会」前夜祭の収支が記載されたことはなく、収支の記載義務があれば、もろに政治資金規正法違反となる。《盤面1》で言えば「6二」の「香車」(きょうしゃ:前方にどこまでも走る駒)であった。
そして、盤面の中央に位置する駒が、マスコミやネット上の安倍政権に対する批判の言論の「金」であり、これには、私自身も含まれる。
つまり、《盤面1》の上で、「安倍王将」を守る駒が「後援会」(金)、ホテルニューオータニ(銀)、攻める方が、「公選法違反」(飛車)と「政治資金規正法違反」(香車)、そして、それらを背景とする言論(金)という構図だった。
安倍首相にとって最大の「悪手」だった「6七玉」
そこからの盤面の動きを示したのが《盤面2》だ。
まず、野党側の追及は、ホテルニューオータニの鶴の間でのパーティーは最低でも「一人11000円」とされていることなどから、前夜祭の夕食バーティーが有権者への利益供与の公選法違反に当たるのではないかという指摘だった。「2二飛車」は「2八飛車成り」で、一気に、「3七金」の安倍後援会に迫った。これによって「飛車」は「龍」(もともとの飛車の動きに加えて、斜め前方と斜め後方に1マス動かせる駒)となる。
《盤面2》
そこで、安倍首相側の意識は、公選法違反の「2八龍」の方に集中した。この局面で、安倍首相は、後援会側に動くことによる公選法違反のリスクを恐れ、反対のホテルニューオータニ側に都合の良い説明をさせる方針をとった。
11月15日、「ぶら下がり会見」で
「すべての費用は参加者の自己負担。旅費・宿泊費は、各参加者が旅行代理店に支払いし、夕食会費用については、安倍事務所職員が1人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。」
と説明し、18日の「ぶら下がり」会見でも、
「安倍事務所にも後援会にも、一切、入金はなく出金もない。旅費や宿泊費は各参加者が直接支払いを行い、食事代についても領収書を発行していない。」
と述べた。
そして、安倍首相は、ホテルニューオータニ側が、1人5000円という会費の設定を行い、自ら参加者から会費を徴収したものだとして、「安倍後援会側に収支が発生しない」という説明をすることで、説明責任を、後援会ではなく、すべてホテルニューオータニ側に押しつけようようとした。
夕食パーティーの参加費の価格設定も会費の徴収もすべてホテル側が行うという、「ホテル主催の宴会」であるかのように説明したのである。そうすれば、安倍後援会は一切関与せず、収支も発生しないことになる。つまり、「3七金」の安倍後援会ではなく、「7六銀」のニューオータニの方に寄ろうとし、「6七玉」という手を指したのである。
しかし、それが、安倍首相にとって、致命的な「悪手」(あくしゅ:形勢が悪化するような指し手)であったことは盤面上も明らかだ。
15日の夜、私は、【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】と題する記事を出した。安倍首相が説明するとおり、ホテル側が会費の設定を行い、自ら参加者から会費を徴収するのであれば、安倍首相夫妻、安倍事務所、後援会関係者からも当然会費を徴収しなければならない。支払った場合は、安倍後援会としての支出が発生するので、後援会に政治資金収支報告書に記載がないことが政治資金規正法違反となる。逆に、支払っていない場合には「無銭飲食」になる。もちろん、その「無銭飲食」は、ホテル側が「被害届」を出さなければ「事件」にはならないが、それは、ホテル側が「無銭飲食」を見過ごし、その分の支払を免除することで、ホテルニューオータニという企業が、安倍後援会に企業団体献金を行ったことになる。
安倍首相には、違法にならない「説明」の余地はない。
「6六金」という「王手」(おうて:次に相手玉を取ることができる状態)だった。政治資金規正法違反の「6二香車」が効いており(玉で「金」を取ろうとしても、前方に一直線に動ける香車にとられてしまう)ので、「6六金」の王手で、完全に「詰み」なのである。