【奥山真司】中国・習近平「ウイグル人に容赦するな」極秘文書流出、衝撃の全貌 「弾圧マニュアル」も作られていた

写真拡大 (全4枚)

NYT紙の超弩級スクープ

アメリカの有力紙であるニューヨーク・タイムズ紙から、世界を揺るがすような衝撃的なニュースが発表された。11月16日、中国政府の高官によるリークでもたらされた膨大な「内部文書」の存在をネット上で報じたのだ。

この文書によると、北京政府は新疆ウイグル自治区で「職業訓練を行っている」と主張する施設にウイグル人たちを強制的に収容し、外部と通信が遮断された環境の中で徹底した思想教育を行っているという。

また、2014年に習近平国家主席が非公開で行った演説の内容にも触れており、ウイグル人の取締りについて「容赦するな」という指示を出していたことや、ウイグル人の弾圧をめぐって共産党内からも反発する声が出ているといった事実を伝えている。

さらに衝撃的なのは、「強制収容所」と言われる施設にウイグル人を収容する際、残された家族にどう対応すべきかについても、北京政府が具体的なマニュアルを作成しているということだ。

まずここでお断りしておきたいのだが、筆者は中国を専門に研究している人間ではない。したがって、中国側の詳しい事情の解説や分析については、そちらを専門とするジャーナリストや研究者の方々におまかせするつもりだ。

本稿では、現在進行中の「米中冷戦」とも言えるグローバルな世界政治の戦略状況の文脈の中で、ニューヨーク・タイムズ紙の記事を分析しつつ、最終的には、日本が本件をどう理解し、どう行動すべきかについても簡潔に提言してみたい。

北京政府に不満を抱く幹部のリークで

この内部文書の分析記事は、2人の記者の共著となっている。ともに中国取材のベテランだ。

1人目はオーストラリア出身の元ロイター通信の記者で、中国に20年の滞在歴があるクリス・バックリー記者。もう1人は、同紙の香港担当のオースティン・ラムジー記者である。

「新疆文書(The Xinjiang Papers)」と題されたニューヨーク・タイムズ紙の第一報記事

当記事は香港発のものだが、ラムジー記者はこの記事をまとめるために、しばらくの間、香港のデモ活動に関する取材と報道を停止していたようだ。

記事そのものは印刷すると40ページ前後にもなる膨大なものであり、あまりに長いため、ラムジー記者による「5つのポイント」と題されたまとめ的な記事も同日に発表されている。

記事のもととなった内部文書は、北京政府のやり方に不満を抱いた中国共産党の幹部によって、当然ながら匿名でもたらされたものだという。文書は24本、全体では403ページにわたる膨大なものであり、同紙のネット記事では、原書の一部が画像化され公開されている。

家族が「強制収容」に気づいたら…

記事はまず、新疆ウイグル自治区から中国国内の別の地域の大学や、海外留学などに出ている学生が、休暇期間に自宅に帰り、家族の誰かが強制収容所に収容されていることに気づくというエピソードから始まる。

そして、そのような「残された家族」たちからの怒りの問いかけに、同地区政府がどのように対応すべきかについて、マニュアルが存在することが記される。

さらにはそのマニュアルが、北京政府が過去3年間に同地区に設けてきた「職業訓練所」と称する強制収容所や、北京政府が唱える「対テロ作戦」の実態を暴く、中国共産党の歴史でも外部に漏洩することが非常に稀な内部文書の一部であることが明らかにされるのだ。

記事では、内部文書が暴露した「衝撃の事実」として、4つの項目が挙げられている。

(1)習近平は、2014年に政情不安にあった新疆ウイグル自治区を訪問して以降、「容赦ない」統治方針に転換したこと。

(2)外国でのテロ事件の頻発や、米国のアフガニスタンからの兵力撤退によって、北京の指導層がイスラム教徒の脅威を懸念し、徹底弾圧に踏み切ったこと。

(3)国際的にもニュースになっている同地区の強制収容所の建設は、2016年8月に同地区のトップとなった陳全国(Chen Quanguo)が、習近平が内部向けに行った演説を背景として正当化することにより、急激に進められたこと。

(4)ところがこの弾圧は、ウイグル人と漢族の民族対立の激化や、同地区の経済成長の鈍化を恐れた現地の共産党幹部たちから抵抗に遭っており、中には収容所から「囚人」を7000人も逃したことが発覚して処罰された者もいたこと。

いずれも注目すべきことであるが、私は以下の5つの論点が国際的な戦略状況に大きな示唆や影響をもっていると感じる。それぞれ順に説明していこう。

「むしろ共産党に感謝せよ」

この文書においてまず注目すべきは、ウイグル人などイスラム系少数民族に対する弾圧の、あからさまかつ具体的な手段が紹介されていることだ。

収容されたあとに残された家族への対応マニュアルについては、すでに触れた通りだが、その理由を問いかけてくる家族に対しては、

「あなたの家族は収容されたが、いずれあなたも政府のこの措置に賛成し、支持するようになるはずだ」

「その家族本人だけでなく、あなた自身にも良い結果をもたらすものだ」

「あなたの家族は無料で高等教育を受けているのだ。むしろ共産党に感謝せよ」

といった、自由主義社会の価値基準では信じられないような受け答えが、「模範解答」として示されている。

新疆ウイグル自治区最大の都市ウルムチ(Photo by gettyimages)

また、新疆ウイグル自治区の住民の中でも特に頭脳明晰で優秀な若者は、伝統的に共産党の指示によって中国国内の別の大学などに送られ、後に「ウイグル人のエリート」として同自治区の共産党に忠実な公務員や教員になることを期待されていることや、こうしたエリートたちが、近年はSNSなどを含めて厳しい監視対象下に置かれていることが文書から判明している。

たとえば、彼らエリートが「WeChatやWeiboをはじめとするSNSに間違った意見を書き込むこと」については、彼らの中国国内における社会的つながりの広さゆえに「その意見をつぶすことが難しくなる」と北京政府が危惧していることが記されている。

家族を人質にとる

さらに、ウイグル人に対する想定問答の中には、

「あなたの行動が模範的なものであれば、(訓練施設に入っている)親族の評価も高まるが、その逆の場合には悪影響が出る」

というあからさまな脅しと、背景にいわゆる「信用スコア」による評価システムがあることを匂わせるようなものも含まれているという。

このような「親族を人質にとる」という方法は、やや形は違うが、反北京的な民主化運動を展開したり、それを支持するような意見をSNS上に書きこんだ、海外留学中の漢族の学生たちに対しても(そしてもちろん、その他の少数民族出身の中国人にも)行われている。

これは俗に「タコ理論」(Kite Theory)と呼ばれるものである。オーストラリアにおける北京の浸透工作を暴き、同国でベストセラーとなった『サイレント・インベージョン』の著者であるチャールズスタート大学のクライブ・ハミルトン教授によれば、

〈中国は収監したいと思う人間を強制送還するための独自の手段を持っている。そして「自発的」に帰国するよう促すための方策があるのだ……逃亡犯は凧のようなものであり、身体は海外にいても、その糸は中国国内とつながっている。[中国警察]は家族や友人を通じて常に彼らを発見することができる〉(p.51)

というのだ。これは親族を拘束したり、その身の危険を匂わせることによる「自発的な引き戻し」の例に関する指摘だが、似たようなケースはカナダやアメリカでもニュースになっている。

より監視の厳しい国内で、北京が同じようなことをやっていないと考えるのは難しいだろう。

習近平が直接指示していた

2つ目の論点は、習近平が新疆ウイグル自治区の現状についてかなりの知識を持って語り、自ら弾圧政策を決定して指示を出していたことが、今回の報道で明白になった点だ。

報じられた文書の中身は、習近平が非公開の場で行った内部向けの「秘密演説」の内容がほぼ200ページと、全体のおよそ半分を占めている。しかも、公的には絶対に言えないような、かなり生々しい指示を現地政府の職員や官僚たちに対して伝えていたことが見てとれる。

Photo by gettyimages

たとえばここで興味深いのは、2014年に行われた、初めてにして唯一の習近平の「現地入り」の様子が示されていることだ。

文書によると、習近平は2014年の4月に3泊4日のスケジュールで新疆ウイグル自治区を訪れているのだが、その滞在の最終日である30日には、ウルムチ郊外の駅でウイグル人の武闘派2人が自爆テロを起こして80人の負傷者と1人の死者が出ている。

また、その約1ヵ月後にはウルムチの野菜市場で爆弾テロが起こっており、94人の負傷者と少なくとも39人の死者が出ているのだ。

習近平は、このような同地区で頻発するテロと治安状態の悪化を踏まえて、メディアには取り上げられなかった「非公開スピーチ」を数多く行っていたことが文書の中から見てとれる。

その中には、今回の記事で話題になった「徹底的に無慈悲に抑え込め」という言葉もあり、「独裁のツールを使って、新疆ウイグル自治区のイスラム教過激派を根絶せよ」と指示していたという記述もある。

スピーチの内容からは、習近平自身がウイグルの独立派の動きやその歴史について(北京政府の公式見解そのものであるが)かなり詳しい知識をもっていることがうかがえる。

ここから言えるのは、収容所を次々と建てた現地担当者こそ2016年8月にチベットから移ってきた陳全国(Chen Quanguo)ではあるが、方針転換を指示したのは、習近平本人であったということだ。

後世において、この恐ろしい人権侵害の実態が非難されることになるとすれば、その責任を負っているのはまさに習近平その人であることが、今回の報道によって証明されるだろう。

「ソ連の統治は生ぬるかった」

3つ目の論点は、イスラム教過激主義を弾圧するための手段として、習近平が新疆ウイグル自治区の経済成長を諦めたという点だ。

たとえば、この文書に収録されている演説によると、習近平は「ソ連崩壊」を自らの統治の教訓としており、一言でいえば、

「ソ連の統治はイデオロギー的に甘く、リーダーたちも生ぬるかった」

と見ているという。

そのため、習近平は中国共産党の支配に対するあらゆる挑戦を排除することに集中しており、いわゆる「人権派」を積極的に逮捕し、新疆ウイグル自治区では民心掌握の基礎である「経済発展」さえも民族分離主義を助長するおそれがあるとして、経済発展よりも現地人の再教育・監視強化に動いたという。

文書からは、これに対して現地政府官僚たちから「経済発展を必要としている現地の実情を見ていない」と相当の不満が表明されたことがうかがえる。

反発した共産党幹部の中には、強制収容所から7000人もの囚人を逃す者も現れたことは、すでに述べた通りである。

ただ、こうした反対派の動機も日本の価値観からは微妙に離れており、強制収容所に若者が収容されてしまうと(実際は老人も多く収容されているらしいのだが)労働人口が減り、経済活動が制限される結果、自分たち幹部が賄賂を受け取ることができなくなり、党における出世が遅れてしまう、という懸念が大きいのだという。

つまり、ウイグル人を助けた動機は人道的なものではなく、あくまでも自分の出世のためであるという点は特筆すべきだろう。

「経済発展させてもロクなことがない」

習近平の方針転換は、前任者の温家宝、さらには自身の父である習仲勲がとってきた、少数民族自治区に対する経済発展を通じた融和・発展政策から、大きな転換を図ったものとして注目すべきであろう。

このような「権力基盤を固めるためには経済発展を捨て、警察力を増強して監視体制を強化すればよい」という政策の歴史的先例として有名なのが、中南米のハイチで独裁体制を敷き、親子そろって30年以上統治してきたデュヴァリエ大統領(在任1957-71年)だ。

彼は政権につくと、すぐに開発政策をゼロにして国民の大半が貧困にとどまるようにしただけでなく、私設の警察組織である「トントン・マクート(現地語で「麻袋おじさん」の意)」を使って政敵を追い落とし、国民を強い監視下に置くことによって長期政権を実現した。

このような「経済発展よりも監視強化」という独裁者の技術については、習近平も実によく理解しているようで、文書の中には「冷戦で最初にソ連圏から離れた国々は、経済的に豊かであった」との記述もある。

その実例として、習近平はベルリンの壁を最初に崩壊させた東ドイツやバルト三国、そして比較的豊かだったが分裂して後に内戦に至った、ユーゴスラビアなどの例を挙げている。

つまりこの文書の内容が正しければ、習近平は「ウイグル人を経済的に発展させてもロクな結果にはつながらない。今後は経済的に締め付け、監視を強化すべきだ」と考えているということになる。

ただし、ニューヨーク・タイムズ紙の記事のコメント欄を見ると、「現実に、中国はいまだに新疆ウイグル自治区を含む西部への投資を続けている」とする意見があり、この点をもって「この記事はフェイクニュースだ!」という指摘も出ていることは念のため明記しておくべきかもしれない。

イスラム教を「病気」扱い

4つ目に触れておくべき論点は、北京政府がイスラム教に触れ過激化した人間を「病気」として扱っており、それを「治療」できると考えている点である。

宗教や思想を「病気」(原文では「病毒」)として扱うことは(建前であっても)多文化主義を奉じる西洋諸国においては信じがたい、受け入れられない考え方であるが、習近平を筆頭とする中国共産党体制では、この考え方はマニュアルのレベルまで落とし込まれ徹底されている。

新疆ウイグル自治区の街カシュガルにあるモスク(Photo by gettyimages)

もちろん、このような強制収容所での「再教育」がどこまで効果のあるものなのかは誰にもわからない。だが少なくとも中国共産党には「信仰を教育(洗脳)によって是正できる」という考え方が実際にあり、かつそれは十分正当化できるものだと考えられているようだ。

「アメリカと同じことをしているだけ」

5つ目の論点は、新疆ウイグル自治区の統治に関して、習近平やその周辺がアメリカをモデルとしている点だ。

とりわけ注目すべきは、習近平が演説において、2001年に発生したいわゆる「9・11連続テロ事件」と、その後のアメリカ側の対応を参考にしたと言及していること、さらにはアメリカのアフガニスタン駐留や、シリアにおけるIS掃討作戦を非常に気にかけているということである。

日本人にとって中東は物理的・心理的な距離感があるが、国内に一定数のイスラム教徒を抱え、イスラム教国と国境を接している北京上層部にとっては、アフガニスタンやシリアの問題は、新疆ウイグル自治区の治安問題と直結した身近なものとして感じられることが、習近平の発言からもよくわかる。

しかも驚くのは、「アメリカがアフガニスタンで展開している兵力を撤退させると、その地域のイスラム過激派が勢力をつけ、そこに参加して過激主義に染まったウイグル人が出身地域に戻り、分離・独立運動を焚きつけるのではないか」という懸念を習近平自身が抱いていたという点である。

要するに、習近平やその周辺の指導部の中では「われわれのやっていることは、アメリカのやっていることと同じ」というロジックなのだ。

「自分たちは中国政府のような人権蹂躙はしていない」と考えたいアメリカ人にとって、このようなロジックが受け入れがたいことは、容易に想像がつく。

以上、今回の報道の「5つの特徴」を紹介してきたが、とくにこの第4・第5の論点は、西欧諸国、とりわけアメリカのリベラルな思想を持つ人々にとっては、身の毛のよだつほどの嫌悪感を引き起こすものであるということは重ねて指摘しておきたい。

それほどまでに、アメリカ社会と中国社会の「世界観」や「価値観」は異なるのだ。

「第二のホロコースト」という声も

ニューヨーク・タイムズ紙の記事については、日本ではまだ新聞各紙が簡潔に触れた程度で反応が薄いが、本国アメリカでは、当然ながら実に大きな反響を巻き起こしており、本稿を執筆している20日の時点で記事そのものに400件近いコメントが寄せられている。

また、ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙も、その2日後となる18日にはエリザベス・ウォーレン民主党大統領選候補や識者、さらには専門家たちが本件についてツイッター上に書き込んだものをまとめた記事を掲載している。

中にはこれを「第二のホロコーストだ」として、「世界の人権派よ立ち上がれ」と訴えるメッセージも見てとれる。

冒頭に述べたように、今回の記事は、対中政策ではそれまで中国に甘いと言われてきた米国のリベラル側メディアが、中国にかなり批判的になっていることを再び証明したものといえる。

ちなみに、ニューヨーク・タイムズ紙は2012年に胡錦濤の一族の蓄財ネットワークについての調査記事を書いて北京政府に嫌われており、同社の記者の入国ビザ発給を拒否されるなど、北京とは犬猿の仲であり、これが結果的に今回のリーク記事の発表につながったことは容易に想像がつく。

もちろんニューヨーク・タイムズ紙自身は、トランプ大統領からロシア疑惑の報道について「フェイク・ニュース」と何度も決めつけられているわけだが、とりわけ「対北京」という点においては、トランプ政権と歩調をあわせた動きを見せている点は留意しておくべきだ。

非難された側である北京の反応としては、日本の外務省にあたる外交部の報道官が、記者からこの記事に関する質問を受けて「フェイク・ニュースだ」と断定し、その時の様子を国営メディアである「環球時報」(Global Times)が英語記事の中で引用している。

日本は何をすべきか?

今後の展望についてであるが、文書の中にもあるとおり、習近平は2014年から始めた今回の弾圧について「海外の批判を無視せよ」と命じている。残念ながら、「ウイグル問題は国内問題である」として、引き続き厳しい締付けを行っていくと思われる。

さらに、北京政府は現在継続している香港の民主化デモに関しても、香港警察を使って厳しい締付けを行っている。北京においては、この2つの案件は「分離独立派の鎮圧」や「対テロ対策」という意味合いにおいてつながっているという認識が持たれている可能性もある。

その点において、香港のデモに参加している学生たちが今回のものを含むウイグルに関する一連の報道を受け、「ウイグルのように弾圧されて世界から忘れ去られたくない」と発言しているのは興味深いと言えよう。

では、これらを踏まえて日本はどうすべきか。

ウイグル人への弾圧は、世界的にみても歴史に残る人権弾圧・人権侵害であるとして、日本政府が声を上げるべきであることは間違いない。

ところが安倍総理率いる日本政府は、習近平の国賓待遇での訪日が来年に控えていることもあり、今回の記事から推測されるような中国の人権侵害については「中国の国内問題である」として、何か特別に発言をするとは思えない。

西側諸国の社会の一員である日本が、倫理的・道義的な観点からできることはただ一つ──日本のメディアがこの問題をさらに報じ、取り上げ続けることだ。

日本の世論の中で、この隣国の「恐るべき人権侵害」の実態が広く知られるようになれば、たとえば将来日本のトップが中国側と何らかの交渉をする時に、

「うちの国民(とメディア)が、あなたの国の人権問題で騒ぎますので」

と一言述べることによって、相手に圧力をかけるための「外交カード」の一枚となり得るからだ。