第十三話:魔王様とアロロアの強さ
ちょうど明日が日曜できつね亭の営業日、明後日がダンジョンに潜る日だ。
そのため、日曜に接客テスト、月曜にパーティに加えるかのテストを行うことにした。
「えっと、テストをする前に待遇について説明します。きつね亭での接客業務は一日一万バルの日給制です。週に四回なので普通に暮らしていけると思います。希望するなら、住み込みで働いてもかまいません。住み込みの場合、食費と家賃を月二万バルいただきます」
パン一つが百~二百バル。一人用の賃貸物件が六万バルが相場、それなりに美味しい食事が一食千バルという感じの物価なので、月に十二万バルもあれば一人暮らしは十分にできる。
そして、部屋を二万バルで借りれるというのは破格。
良心的だ。
「それから、冒険者としての報酬についてです。稼いだ額を山分けします。装備とかは自分で揃えてください、怪我した場合も自己責任。もちろん、カンパしたり、お金を貸したりはしますが原則は自分でどうにかするつもりでいてください」
厳しいことを言っているように聞こえるが、それが常識だと俺も学んだ。
冒険者に給料の保証なんてない。成果がなければ収入はなく、怪我や病気などをすれば引退に追い込まれる。
その代わり、うまくやれば他の仕事よりずっと稼げる。
「了承。報酬にはこだわらない」
「では、明日と明後日のテストをがんばってください。あの、宿は取られているんですか?」
「否定。これから探す」
「なら、今日はここで夜を明かしてください。いろいろと聞きたいことがあるんです。試験中は特別にタダですよ」
「要望。私もキーアに確認したいことがある」
美少女二人が一つ屋根の下か。
ただ、素直に喜べない俺がいる。
アロロアはおそらくロロアと繋がっているし、キーアはキーアで昔の俺に興味津々でアロロアから色々と聞き出してしまうかもしれない。
「そういえば、アロロアはルシル商会の従業員じゃないのか?」
魔王軍を解散したあと、ロロアとライナはルシル商会の幹部になっていた。
多くの元魔王軍の面々はそこで働いているはずだ。
「否定。私はフリー。だから、ここに面接へ来た」
「そうか」
嘘をついているようには見えない。
ロロアと繋がっているというのは考えすぎか。
さすがにロロアやライナなんかの、規格外が一緒だと、普通の人として世界を楽しむという目的が果たせないから遠慮してもらうが、アロロアであればぎりぎり許容範囲内だろう。
◇
翌日、さっそくアロロアのテストが始まった。
まずは接客ができるかを見る。
きつね亭の制服に着替えていた。可愛らしい制服が美少女のアロロアにはよく似合っていた。
「思ったとおり、ぷりてぃです! サイズがぴったりで良かった」
「当然。これを着ると予測していた。そのため、倉庫に忍び込んで仕立て直してある」
「……あっ、あの、さらっととんでもないこと言ってませんか?」
キーアの笑顔がひきつった。
しかし、なんとか持ち直したようだ。
「とっ、とにかく、あと一時間もすれば開店です。それまでに接客の基礎を教えますね」
「不要。すでに学習済。キーアの動きをトレース可能。ただし尻尾は除く」
「えっ、うそ、いつの間に!? 信じられないですが、そういうのであれば好きにしてみてください!」
キーアはけっこう大雑把な性格をしている。
細かいことは気にしないのだ。
今日、俺は厨房ではなく、ホールで接客を行う。
キーアと二人で新人をフォローするためのシフトだ。
手早く開店準備をする。そこに、アロロアが追随してくる。
完璧な動きだ。何をするべきかわかっているし、けっして俺やキーアの邪魔をしない。
この時点で、さっきの言葉はただのでまかせじゃないとわかる。
そして、開店時間になった。
きつね亭の営業時間は11:30~14:30と17:00~22:00。昼は定食屋として、夜は酒場として需要があるのだ。
「いらっしゃいませ、きつね亭へ!」
キーアが元気よく扉を開けると客がなだれ込んできた。
きつね亭のランチタイムは戦場だ。
開店するなりすぐに満席となった。ひっきりなしに注文が飛び交う。
接客経験があるものでも、パニックになるほどの状況。
アロロアのほうを見る。
『キーアの動きをトレースするってのは、はったりじゃなかったようだな』
その動きは完全にキーアのそれだ。
接客の鬼が二人に増えたことで、これだけの客がいてもホールは安定している。
すごいのはトレースの範囲が基本動作だけじゃないこと。
イレギュラー対応までこなす。それもキーアらしいやり方で。
どうしてそんな真似ができるか、理屈はわからない。
だが、戦力になることはわかった。
これだけホールが安定しているなら、俺は厨房に行こう。
いつもならホールのほうが先にパンクするが、このままだと厨房のほうが追いつかなってしまうだろう。
◇
最後の客を見送った。
今日一日、アロロアは完璧であり続けた。
「アロロアちゃん、愛してます。一生、ここに居て下さい。採用決定です! きつね亭はあなたのような人材を待ってました!」
キーアがアロロアに抱きつく。
そして、頬ずりをして親愛の情を示す。
対するアロロアはいたって無表情。
ああ、なんかこの感じ、昔のライナとロロアを思い出すな。
「安堵。ただし、一生ここに居てほしいという要望は却下。私がここにいるのは、ルシル様が私を望み、ルシル様がここにいる間だけ」
「ルシルさん、ずっときつね亭に居てくださいね!」
「俺はアロロアのおまけか」
キーアの目が怖い。
きつね亭のオーナーとしてこれだけの戦力は手放したくないのだろう。
「アロロア、教えてくれ。今日の動きは完璧にキーアのそれだった。どうやって、あれだけの動きをものにした」
「回答。ここで働きたいと考えてから、戦力になるよう店内の様子を外からずっと伺っていた。そして、データが十分に集まり、学習。接客業務が可能であると判断してここへ来た」
「遠くから見ただけで、私の動きをマスターしたんですか!?」
「肯定。データが集まれば再現は可能」
「すごいです。ものすごく飲み込みが早いってことですよね」
すごく飲み込みが早い。
それは正しいが、間違っている。アロロアの動きはそんなレベルじゃない。
基本的に人の動きには独特のくせや呼吸がある。なにせ、人間の動きのほとんどは無意識に寄って行われている。
たとえば、歩くという動作一つとっても、右足を蹴り出し、膝を曲げないようにして歩幅を確保、着地は踵からゆっくり衝撃を殺しながら行う。今度は左足を……っと様々な筋肉を適切なタイミングで動かすことによって可能になるのだが、そんなもの一々、思考しながらやっている奴はいない。
無意識の動きだからこそ特有の癖が含まれる。
だが、アロロアは違う。そういう無意識での行動が一つとしてなく、動きの全てがキーアの再現だった。
アロロア自身の癖が存在しない。
常人にできることじゃない。体のすべてを意識してマニュアルで制御しているとしか考えられない。
それの意味することは一つ。肉体のスペックが許すのであれば、見ただけですべての技を使用可能ということだ。癖、思い込みが存在しないというのはある意味で究極の才能。汎用性の化け物とも呼べる圧倒的な力。
……さすがはホムンクルスと人工知能の組み合わせだ。
「とにかく、よくやってくれた」
「ということは、合格ってことですよね!」
「ああ、アロロアを不採用にする理由が見つからない」
「良かったですね。アロロアちゃん」
「歓喜。とてもうれしい」
きつね亭はこれからますます流行るだろうな。
今日は過去最高に売上だった。アロロアの働きのおかげで店がよく回ったというのもあるが、看板娘が一人増えたことも大きい。
キーアとは違うタイプの美少女が現れたと噂になっていると、常連の一人がこぼしていた。
「では、次の試験はダンジョンでの実技です。そっちのテストは明日です」
「了承。準備をしておく」
俺は苦笑する。
試験なんて要らないだろう。
なにせ、アロロアは接客試験の際、もっともきつね亭で接客するのに適した教材としてキーアを選び、その動きを完璧にトレースしてみせた。
であるなら、ダンジョンで彼女がやることは決まっている。
◇
朝からダンジョン内で活動する。
アロロアを観察しているが、純粋な身体能力はキーアとほぼ互角なように見える。
ように見えるというのは、アロロアにどこか余裕があるというか、力を出してない感じがするからだ。
いつものように肉を狩るため、イノシシの魔物を探す。
そして、イノシシの魔物を探しつつ、ロロアフォンⅦのマップに示されている、次の階層への渦を目指していた。
ロロアフォンⅦのマッピング機能は便利だ。
次の階層への道筋がわかっているだけで大幅な時間の節約ができる。
そして、そこを目指しているのは今日からいきなり、深い階層を目指すことも考慮しているからだ。
キーアの耳がぴくぴくと動く。
五感の鋭い彼女は、いつも真っ先に敵を見つける。
「見つけました。では、アロロアちゃんに敵のひきつけ方を教えますね」
「不要。敵の方角を指示してほしい」
「えっと、じゃあ、あっちのほうです」
キーアが北東を指差す。
アロロアがこくりと頷いて詠唱を始めた。
アロロアから放たれた魔族が周囲の風に溶け込む、そして疾走。
……あの魔術、エンシェント・エルフのマウラが得意とする、風を使った探索魔術を模したものか。
規模は数千分の一だが方向を絞れば数百メートルは探索できる。
深い草むらに隠れていても一発で獲物を見つけられるだろう。
そして、アロロアの走りにはライナのものだ。一切の無駄がない柔らかい走り、故に音がない。
一方的に敵の位置を掴み、音もなく忍び寄っていく。
……アロロアはダンジョンで何をアピールするべきかよくわかっている。
ああいうことができるのは、ただ強いだけの戦士より、ずっと魅力的な力だ。
基本的に、魔物相手に行うのは戦いではなく、狩り。いかに獲物を見つけ、いかに仕留めるかこそが重要。先手をとって奇襲は理想形だ。
俺は魔力を眼に集めて、動きを負う。
アロロアが腰にぶら下げているミスリルの片刃剣を抜刀し、そのまま振り上げる。
イノシシの首が舞う。
見事な太刀筋だ。達人のそれと比べても遜色がない。
そして、その太刀筋も知っている。黒死竜のドルクスが竜人形態で使う剣術。
接客ではお手本がキーアだった。
だが、戦闘のお手本は魔王軍にいくらでもいる。
「あれ、合格ですよね」
「そうだな、文句のつけようがない」
おそらく、彼女の引き出しには、他にも無数の技がある。
そして、これからも学習し続けていくだろう。
彼女は俺たちに必要な人材だ。
「キーアちゃん、合格です。これからは仲間です。お店に、ダンジョン、両方がんばりましょう!」
「肯定。私は私の能力を証明し続ける」
接客試験のときにもやったようにキーアがアロロアに抱き着き頬ずりをする。アロロアは無表情だが、ほんの少しうれしそうなのが可愛い。
彼女という人材が手に入った以上、二人では無理だったより深い階層へと進めるようになった。
ならば、キーアの母親を救う薬を手に入れるため、どんどん潜っていくとしよう。
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