それでは今回もよろしくお願いいたします。今回のお題は「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」(2014)ということでお願いいたします。押井監督がマーベルの映画をお題に出す、というのはちょっと意外な気がしますけど。
押井:僕はスターチャンネルの常連だから、マーベル、DC、X-MEN、あの辺はもれなく見る仕掛けになってるんですよ。その中に、時たま面白いのがあるんだよね。量産効果というか、シリーズものには時々変わったやつが出てくる。それはプログラムピクチャーの良さでもあるんだけど。
その1つがこの映画ということですね。
押井:だけど、この前作(「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」(11))はねえ……しょうもないヒーローものだった。
2作目は傑作で、前作はしょうもないと。珍しいケースですかね。
押井:主演(クリス・エヴァンス)はものすごい肉体の持ち主なんだけど、お話は、モヤシみたいな青年が改造されてヒーローになるわけ。だから、改造前のキャプテンはデジタル加工でヒョロヒョロになってる、あの技術は見事だった。だけど「ザ・ファースト・アベンジャー」は、僕的にはデジタル技術以外に何も評価するものはない。ナチと戦う単なるヒーローものだからね。
だから続編の「ウィンター・ソルジャー」にはさしたる期待もなく、家のテレビで見てたんだよ。だけど始まって3、4分で、「これはなんか違うぞ」って座り直した。
この映画はちゃんと見ようと思ったと。
押井:そうそう。あきらかに「なんかやらかそうとしている」んだよ。しばらく見てると、敵のヒドラという組織が、1作目は大戦中だからナチスのイメージだったんだけど、この「ウィンター・ソルジャー」ではソ連のイメージに変わってるわけだ。一番象徴的なのは、主人公のかつての親友だった男がサイボーグになって出てくる。その肩に赤い星が描いてある、あからさまに。その瞬間に「あっ」と思ったわけ。
この映画の「仕掛け」に気がついたんですね。
★以下、この映画についてのネタバレ、もしくはそれにつながる言及が出てきます。ご注意ください★
押井:アメリカ映画というのは、基本的にその時々の国内問題や外交問題といった、アメリカの置かれている状況と無関係ではないんだよ。それは文芸映画とか社会派の映画だけじゃなくて、エンターテインメントの大作でも同じ。そしてエンタメの場合はよく暗喩を使うんだよね。
直接的に言及するんじゃなくて、何かに例えて描いているわけですね。
戦後アメリカの最大の脅威は「洗脳」だ
押井:それで、戦後のアメリカの最大のテーマは何かというと、それはもちろん「冷戦」だよ。その冷戦期のアメリカの最大のテーマといえば、軍事的にはもちろん核の脅威なんだけど、内政的な意味での最大の脅威が何かというと「洗脳」なんだよ。
「ウィンター・ソルジャー」でも、組織の中に裏切り者が出てきますね。
押井:突然、隣人が共産党員であったことがわかる、とか、共産主義者が組織の中に入り込んでいた、とか。いわゆる「赤狩り」というやつだ。
前回の連載でも、ロバート・アルドリッチ監督の作品で赤狩りについて触れました(『仕事に必要なことはすべて映画で学べる』)。
押井:「ハリウッドには大量の共産党員がいる」って1950年代に(ジョセフ・)マッカーシーがぶち上げて、片っ端から監督や役者を喚問した。議会証言で嘘をついたら刑務所行きだからね。
そして、それ以前には「裏切り」を奨励してたんだよ。「仲間を吐けばお前は助けてやる」って。ハリウッドで共産党員だと示された瞬間、未来はなくなる。監督なら映画を撮れなくなるし、役者は映画に出られなくなる。それはものすごい恐怖だったんだよ。それで裏切りや密告が横行しまくった。その当時のことを伝える本や映画もたくさんある。
そんな情けない事態になってしまったのは。
押井:そう、赤狩りの恐怖というか、アメリカ人が内部に入り込んだ共産主義者、洗脳された人間をどれだけ恐れたか、だよね。それはハリウッド映画にいろんな影を落としてる。
そもそも「ウィンター・ソルジャー」っていうタイトル、何のことかわかる?
コメント8件
Representative
元々アメリカではコミック(cartoon)原作の映画は、観に行く社会的クラス自体が違うみたいな見方をされるので、それでも頑張ってコミック映画の中で社会的メッセージを送っている製作者に、昔から「所詮アニメだろ」的に映画界から蔑ろにされ続けた時
代を過ごした方はシンパシーを感じるのかもしれませんね。...続きを読む麒麟蹄跡
路傍の雑草
スカイクロラは押井守作品でも、私的に好きな方へ分類しておりますが、押井さんも上手く出来たとは思っていた、と分かって良かったです。
パトや攻殻に比べると、評価されていないなと思っていたもので。
YAS23
「そんな目でマーベル映画を観賞する人がいるとは」って、ちょっと評論とか読めばみんなそういうこと言ってますよ。
六天魔王
米国が内部に潜む洗脳者を恐れるのは、その効果が絶大であることを自らの経験で知っているからかも知れません。インドの判事のみならず戦勝国である英国のマウントバッテン卿の反対を尻目に、事後立法・遡及法に手を伸ばし戦敗国を罰し、戦後はフィリピン並み
の3流国に貶めよとの方針で臨んだ米国政府は、戦後HW映画を媒体に米国の価値観を敗戦国にあまねく広め、マスコミに資金を提供、世論を操作、国家のリーダー迄操り(公開された米公文書の内容)、素晴らしい成果を手に入れました。お見事です。...続きを読む蛇足ながら、在日の叔母様を動員、日本に一大韓流ブームを起こした電〇様の手さばきも卓越しており敬服しています。
フライヤ
そういや最近映画見にいってないな
見に行って感動しなくなったからかもしれない
良い映画に出会えてないのか、メタファーに気が付いてないだけなのか
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