内景/外景 ヒューイ1
パリューシンの親指が火器管制スイッチを押す。
ものすごい轟音が空を満たす。ミニガンの回転式の銃身が霞んで見えるほどの高速で回転し、オレンジ色の火の柱が発射される。
ベトナム戦争で使用された対人用兵器の中で最も恐ろしい物の一つであるジェネラル・エレクトリック製M-134ミニガンは、1分間に6千発の7.62ミリ弾を発射する。弾丸は5発ごとに曳光弾になっており、射撃時にはヘリと地上の間にずっと炎の柱が立っているように見える。
発射音は機関銃のそれではなく、雷鳴の音がずっと続いているように聞こえる…まるで神が長々とげっぷをしているようだ。ミニガンに付けられたニックネームの一つは「パフ・ザ・マジックドラゴン」だ。
(正しくは「パフ・ザ・マジックドラゴン」は、ミニガンを複数搭載して高空から地上掃射を行うAC-130ガンシップに付けられた愛称だそうです。)
外景 遺跡
ミニガンの地上に対する破壊力は信じられないほどだ。木々はばらばらになって吹き飛ぶ。木の葉が粉々になり、霧のように空中に吹き上がる。
曳光弾がオレンジ色のカーテンのように地表を打って岩を粉砕し、岩の破片がジャングルを白く染める雲となって舞い上がる。
ランボーとコーは岩の下の窪みで折り重なって耳をふさいでいる。
2人の周りで岩の欠片や木の破片が飛び回っている。
だしぬけに轟音が止む。
ランボーが転がり出てくる。彼は慎重に狙いをつけ、後退するヒューイに向かってAK-47を連射する。
内景 ヒューイ1
パリューシンはヘリの下腹で弾丸が跳ねる音を聞く。彼はパイロットに向かって穏やかに引き返せと命令する。
外景 遺跡 窪み
ランボーは窪みの入口に屈み込んで、ヘリが戻って来るのを見ている。
コー
(怯えて)
あれは何だったの?
ランボー
ミニガンだ。来るんだ。移動しよう。奴は盾がない方から来る。
2人は全力疾走で中庭を横断し、再びミニガンが吠える。2人は走り、破壊のカーテンが彼らの方へ迫って来る。2人はなんとか片方の像の陰に入る。同時に死の雨が仏像の表面を撃って通り過ぎる。銃弾は穏やかな仏像の顔から古い岩の表面を吹き飛ばす。
ランボーの背後、木々の上に突然2機目のヒューイが現れ、通常型の搭載機関銃であるM60を撃ってくる。
ランボーは撃ち返す。
彼の周囲に曳光弾が飛んでいる。彼はマガジンを交換して、また撃つ。
コーが悲鳴を上げる。彼女は石垣に叩きつけられる。2機目のヒューイは旋回して去って行く。ランボーはぐったり倒れたコーのそばに屈み込む。
内景 ヒューイ1
パリューシンは操縦士に振り返る。
パリューシン
(字幕付きのヴェトナム語で)
基地に戻るんだ。弾薬が切れた。
外景 遺跡
ランボーはコーを両手で抱きかかえる。彼女のブラウスは血で濡れている。ランボーはどうすることもできずに彼女を抱き、その手に彼女の血が流れていく。
彼女の肌はジャングルの蘭のように白くなっている。彼女の眼がゆっくりとランボーを見る。
コー
(ほとんど聞き取れない声で)
ディンキー・ドゥのランボー。
ランボーはコーの中から生命が消えぬようにと願いながら彼女を優しく揺すってやる。
彼の表情は苦しみに満ちている。
ランボー
ジョンだ。俺の名前はジョンだ。
コー
(ひどく弱々しく)
痛くないの。どうして痛くないのかしら?
内景 ヒューイ1
パリューシンが航空作戦の調整をしている。
パリューシン
(字幕付きのヴェトナム語で)
ヘリ2号機へ、地上制圧パターンで旋回しろ。
(字幕付きのロシア語で)
3号機へ、位置についたか?
内景/外景 ミルMI-24ヘリコプター
機体下部にある半球型のウエポン・ベイを見下ろす広々としたコクピットの中。ポドフスクがロシア人のパイロットと共に座っている。
パイロット
(字幕付きのロシア語で)
準備よし。
パリューシン(声のみ)
(字幕付きのロシア語で)
攻撃を開始しろ。
パイロットはポドフスクに振り返る。
パイロット
(字幕付きのロシア語で)
地上には何人敵がいるんですか?
ポドフスク
(冷やかに)
1人だ。
パイロットはいぶかしげにポドフスクを見る。巨大な攻撃ヘリコプターは鼻面を下げながら、轟音を上げてジャングルの上空を横切って行く。
外景 遺跡
ランボーのクローズアップ。彼の身体がやさしく揺れている。
ランボー
…君はあそこが気に入るよ。すごくいい所だ。俺たちは何でも好きなことができる…君と俺で…浜辺へ行って…ングエンも連れて…彼が波に乗るのを見るんだ…
コーの眼はぼんやりして、わずかに開いている。彼女はもう死んでいる。
ランボーはすすり泣く。この悲劇のためなのか、周囲のすべてが青白く見える。
ランボー
(続けて)
ああ、神さま…
彼は彼女の口に激しくキスをする。彼女を生き返らせようとして、彼女の冷たくなっていく身体に自分の愛を注ぎこもうとして。
内景 ミルMI-24
パイロット
(字幕付きのロシア語で)
あと500メートル。最終航程に入る。
外景 遺跡
ランボーはコーを石仏の膝の上に優しく寝かせる。石仏の膝には手の平を上にしてわずかに開いた片方の手があり、ミニガンが吹き飛ばした木の葉が載っている。
その手の中いっぱいに、コーは横たわっている。
時おり、ランボーを狙った銃弾が彼の近くに飛んでくる。
彼は気づかない。
ランボーは彼女の首から仏教徒の祈りのメダルを取り、身に付ける。彼女の服を直してやる。堂々たる仏像の表情を顔を見上げる。
その表情はいつものように謎に満ちている。
攻撃ヘリコプターがまっすぐ彼の方へ突っ込んでくる。彼は振り返る。
2個の長い金属の円筒が短い翼から切り離されて落下し、あの特徴的な回転を始める。
ランボー
(驚嘆して)
ナパームだ。
彼は背を向け、ライフルを置いたまま走り出す。
外景 熱帯雨林
ランボーは狂ったようにジャングルの中を突っ切り全力で走る。
彼の背後で、ナパーム弾の円筒が遺跡の端の地面に落ちる。
巨大な火の玉がジャングルを貫いて噴き上がる。ナパーム弾は慣性で転がって行き、弧を描いて20メートルの長さに炎をまき散らす。逃げるランボーの小さな姿が背後から照らされて浮かび上がる。
炎が彼のところに達すると同時に、ランボーは必死で堤防を跳び越える。彼は流れの激しい幅5メートルの川に飛び込む。
水中の場面
ランボーは川底まで潜る。くぐもった轟音とともに、太陽のように明るい炎の屋根が水面を覆う。
川は深さが2メートルほどしかないうえ、流れが速い。水面のナパームの炎が、日光のかわりに川底をオレンジ色に照らす。ランボーは炎の渦に囚われてしまったように見える。
カメラはランボーを追って移動して、まるで奇妙の遊園地の乗物のように目もくらむスピードで曲がりくねった川床を越えていく。
ランボーは川底の滑らかな丸石の間を転がって行く。
彼は必死で息を止めている。頭上の炎の勢いが弱まって行く。
そして炎は消える。彼は助かったのだ。
突然、川底の岩が消え、川の流れが落ち込む。
外景 峡谷 滝
ランボーは流れ落ちる水から放り出され、前に登場した滝の表面を落ちていく。
彼は大きな水飛沫を上げて、滝壺に落ちる。
水面をとらえたアングルで
激しく泡立つ滝壺。ランボーが喘ぎながら水面に浮き上がる。
彼は弱々しく水面に浮かび、水の流れが彼を運んでいく。
頭上の斜面ではナパームの炎が荒れ狂い、ジャングルを照らしている。
あの石仏は炎の只中にあり、ヴェトナム戦争に抗議して焼身自殺した僧侶を思い出させる。コーの火葬は壮大なものだった。
外景 黒い水の河口
あの滝壺はカ川の近くの沼地に続いている。徐々に遅くなる水の流れに運ばれるままになっていたランボーは、見覚えのある物を見つける。放棄された、川の海賊たちのサンパンだ。まだ大木の根っこに舫われたままになっている。
外景 沼地 サンパン
ランボーはサンパンに乗り込み、船室に入って行く。
木箱の中にはまだRPG-7ロケットランチャーと、携行用の袋に入った数発のロケット弾頭がある。ランボーはすばやく弾頭の袋を背負い、ランチャーを手に取る。彼は船尾へ向かう。薄汚れた船外モーターの始動用ロープを強く引く。
(PPG-7ロケットランチャーとロケット弾頭の携行キャリアー)
河口の向こうから、ヒューイの1機が森を越えて接近してくる。三度目にロープを引くと、船外モーターが作動する。
内景/外景 ヒューイ2
ヴェトナム人のパイロットは旋回して、ドア・ガンナーに手振りで指示する。彼らの眼下ではサンパンがバタバタとエンジン音を立てながら河口を渡っている。
パイロットが機体を降下させ、ドア・ガンナーが機関銃を撃ち始める。30口径の機関銃がサンパンを穴だらけにし、木の破片を飛び散らせる。
サンパンが爆発し、積まれていた信じられない量のガラクタも燃えながら沼に飛び散る。
ヒューイはさらに高度を下げ、ローターの風で水面が白く湧き返る。
ヘリのパイロットたちは飛び散った破片を調べ、死体が一つ浮いているのを見つける。
水面近くからのアングルで
死体がゆっくりと裏返る。イカれた海賊の首領、キンだ。
外景 近くの沼地
水面近くからのアングル。40メートル向こうでホバリングしているヒューイが、こちらを向き始める。
前景で、もつれた木の根の間から泡の浮いた水面を破って何かが立ち上がる。
水と泥と沼の水草を垂らした、たくましいその姿。
ランボーだ。
肩にはロケットランチャーを担いでいる。
カメラ反転して、ランボーのクローズ・アップ
彼は眼から泥水を拭い、再びスコープ式の照準器をのぞき込む。まばたきして、慎重に狙いをつける。
画面引いて
ヒューイのM-60機関銃が撃ち始め、銃弾は水面に水飛沫を上げながら彼に近づいていく。
ランボーが撃つ。
猛烈な後方噴射とともにロケットが火のついた矢のように飛び出し、ヒューイの風防の真ん中に命中する。
閃光!爆発!ヒューイは沼に墜落し、ローターがねじれ、ちぎれ飛ぶ。燃料タンクが爆発する。
ランボーはくるりと向き直って新しい弾頭を装填する。彼は狙いをつけてもう一度撃つ。ロケットはジャングルの中へ飛んでいき、その爆発で接近してくる兵士たちはちりぢりになって逃げ出す。
彼はロケットを再装填する。ロケットの発射煙にたじろぎながら、もう一度発射する。彼の表情は冷たく、その行動は冷静だ。
彼はまたくるりと向きを変え、撃つ。
彼の周囲に弾丸が命中し始める。彼は後退しない。
またロケットを装填する。
撃つ。
木々の向こう、川沿いの道の外れに数台の兵員輸送トラックが停まっている。そのそばにヘリコプターのための給油トラックが停まっている。
ランボーの撃ったロケットがそのトラックを直撃する。
ジャングルを満たすほどの火の玉が湧き起こる。
内景 ヒューイ1
パリューシンがミニガンの弾薬補給を終えて戻って来る。彼は前方の大虐殺の場から煙が立ち登るのを目にする。
彼はパイロットに手で合図して、半ば水没したヒューイ2の残骸の上でヘリをホバリングさせる。
外景 沼地
ランボーをすばやいパンでとらえる。彼は倒木の水平になった幹の上を走る。
倒木の端で彼は跳ぶ。
彼は片手でヒューイ1の着陸用スキッドにつかまる。
パリューシン機のドア・ガンナーはスリングで吊るされたM-60機関銃を向けようとする。間に合わない。
ランボーの手がさっと伸びて彼を捕まえ、ヘリの外へ放り出す。
(マウントで床に固定するのではなく、このように天井からスリングでM60機関銃を吊っているようです。)
内景 ヒューイ
パイロットは重量バランスが変わったのを感じ、後方を見て、ランボーがスキッドにつかまっているのに気づく。彼はピッチ・レバーを強く引く。ヒューイは急上昇し、激しく方向を変える。
外景 ヒューイ
ランボーは滑り、振り回される。
彼は森の樹幹部の枝に激しくぶつかる。ヒューイが高度を上げ急角度で旋回する。
ぶら下がったランボーの脚の下でジャングルが回る。
彼は身体を引き上げる。
内景 ヒューイ
パリューシンはよろけながら操縦席を出る。
彼は振り返って、汚れ、血まみれで恐ろしい姿のランボーが貨物室のドアから入って来るのを見る。
彼はランボーに突進して蹴りを出すが、ランボーは身を屈め、ドアに設置されたM-60をぐるりと回してロシア人の攻撃を防ぐ。
2人はにらみ合い、天井の低い貨物室で腰を落として格闘の構えをとる。
パイロットは振り返り、その様子を見て驚愕し、ヘリを横滑りさせてしまう。
ヘリが激しく傾き、パリューシンが突進する。ランボーはそれを少林拳の動きで受け流し、逆にパリューシンの顔に強烈なパンチを打ちこむ。
2人は激しく打撃と防御を繰り返し、最後にレスラーのように組み合う。
2人は一緒になってミニガンの弾薬缶のそばの隔壁に激突する。ヒューイはかた揺れし、また体勢を立て直す。2人は揺れるフロアの上で必死にバランスを取りながらドアの近くで組み合い、開いたドアからは轟音が流れ込んでくる。
パリューシンはドアから落ちかけるが必死にしがみつき、また中に戻る。
彼はランボーに体当たりし、冷酷に彼を弾き飛ばす。強烈な蹴りを喰らってランボーは腰を落とす。ブラック・ベレーはランボーの髪をつかみ、両手で彼をドアへ投げ飛ばす。
ランボーはドアに取り付けられたM-60の銃把に必死でつかまり、空中に放り出されずに済む。スリングで吊るされたM-60は彼の重さでぐるりと回り、銃口がヘリの中に向く。
ランボーは完全に身体がヘリの外に出た状態で、片手で銃把につかまっている。彼はもう一方の手で機関銃の装填ハンドルを引く。
そして至近距離からパリューシンに長い連射を撃ち込む。パリューシンは血しぶきをまき散らして反対側のドアから吹っ飛ぶ。
ランボーはパイロットに近づく。パイロットは怯えた顔で振り返る。ランボーは気楽な様子で、コレクティブ・スティック(ローターの角度やエンジンの回転数を操作するレバー)にそっと手をかける。
ランボーは反対側に手を伸ばしてパイロット側のドアを開ける。そしてパイロットを放り出す!
外景 沼地
低空飛行のヘリコプターから人影がひとつ転げ落ち、河口の水面に水飛沫が上がる。ヒューイはすこし上下し、そして安定を取り戻して飛び去る。パイロットが喘ぎながら水面に顔を出す。
カット替わって