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高層ビル街
壊れやすそうな外観の高層ビル群が、不自然なほど深い青の空に向かって伸びている。だしぬけに甲高い女性の悲鳴が空気を裂き、画面に巨大なトカゲが入ってきて、強力な爬虫類の爪でビルの一つを倒す。
好奇心の強そうなその爬虫類の顔がカメラに向かって突き出され、トカゲはさらに高層ビルを押し倒し、悲鳴は大きくなり、興奮したたくさんの声がそれに加わって…
内景 教室 昼間
興奮した中学生たちの一団が、箱の中に造られた都市のミニチュアの周囲に集まっている。その中の一人、ケビン・ダクストンが、ミニチュアの中からペットのトカゲのローバーを取り出そうとしている。
彼女はウェンディ・グリーンブラット。彼女こそミニチュアの街の作り手であり、さきほどのひどい悲鳴の発生源だ。ケビンは破壊された街からローバーを拾い上げ、怯えている自分のペットをなだめてやる。
そこへ教師のスィングル夫人がやって来る。
ケビンの後ろには下品そうな見た目をした悪ガキのスコットが立っていて、もう一人の悪ガキと一緒にケビンをせせら笑っている。
生徒たちは自分の席に戻る。皆が席へ歩いて行く中、気分の悪くなった女子が一人、ケビンの手の中の恐ろしい「生きもの」から離れていようと、友だちの後ろに隠れている。
ケビンは不機嫌そうにうなずき、リュックを取るために自分の机へ行く。スコットの席のそばを通るとき、いじめっ子が彼に向かって「オカマ野郎」と声を出さずに言う。ケビンはリュックを取ると席を離れる。
彼は気分の悪くなった女子の横を通りながら、トカゲのローバーを彼女に突きつける。彼女はまるでゲロの中に足を踏み入れたみたいに金切り声を上げる。ケビンは笑いをかみ殺して教室を出て行く。
内景 学校の廊下 昼間
ケビンが開いた自分のロッカーの前にいて、自分の持ち物を集めている。彼はサンフランシスコ・ジャイアンツの野球帽を取り出して被る。そしてロッカーをばたんと閉め、リュックのストラップを片方の肩にかける。彼の顔には翳りがある。
いやいやながら、ケビンはローバーを手渡す。相手はレスリー・アン・ダクストン。もっと若く見えるが30代半ばの美しい女性だ。彼女は「ヴォーグ」風のしゃれた服を着ている。彼女はローバーを差し上げ、トカゲと人間の女性の顔と顔とが近づく。
彼女はローバーを持ったままで歩き出す。ケビンはリュックの中を探りながら、彼女と並んで憂鬱そうに歩いて行く。
外景 エル・ディアブロ中学校 昼間 レスリーとケビンを追って
2人は駐輪場や建物、そして今日は早上がりの生徒たちの前を通り過ぎ、学校の駐車場へ向かう。ケビンは手品(消えるコイン、ハンカチ、目立つネタなら何でも)を見せ終える。
レスリーは手品に喝采を送り、ケビンにペットのトカゲを手渡す。バイクに乗ったタフそうな連中が数人、ケビンに変な顔をして見せながら通り過ぎる。ケビンは彼らを無視する。レスリーはそれを気に留める。
2人はレスリーの、スマートなホンダ・プレリュードのところに来る。ちょうどその時、終業のベルが鳴って、午後の太陽の下に大勢の生徒たちがあふれ出てくる。
彼女はドアを開ける。白いブラウスを着たかわいい女の子がケビンのそばを通りすぎる。彼女はケビンに微笑みかけ、ケビンはじっと見つめ返す。当たり前のように魅了されている。
外景 ゴールデンゲート・ブリッジ サン・フランシスコ 空撮 昼間
一台の車を追っていく。銀色のポルシェ924ターボだ。
内景 ダクストンの車 走行中 昼間
ダクストンが運転している。物思いに沈んで、心ここにあらずといった風だ。車はオート・クルーズで走っている。彼はフライトジャケットの襟を立てている。まるで実際の気温よりも寒いかのようだ。彼は煙草に火を点ける。この数日間のことが頭から離れない。
彼のポルシェはトンネルに入って行く。
外景 レッドウッド・ハイウェイ サウサリート上空からの空撮 昼間
上空から港を見下ろすと、エンジェル島とティブロンの周囲の海面に1ダースほどの船が小さく浮いているのが見える。青空の下、サウサリートの緑の丘には美しい家々が点在していて、人々が海辺に住みたがる理由がよくわかる。ダクストンの車がレッドウッド・ハイウェイ・トンネルから出てくる。
内景 車の中 ダクストンの車に戻って
ダクストンが運転している。やがて彼はバックミラーの中の何かに気づく。彼はいぶかしげに、残った片眼でミラーにじっと見入る。
ダクストンの視点 バックミラー
バックミラーの中には、恐ろしげな黒塗りのリムジンが2台、ポルシェの少し後を走っているのが写っている。
元のショットに戻って ダクストンが運転している
ダクストンは神経質にはなっていないが、明らかに彼らはリムジンが何ものか気づいている。彼は運転しながら前方を見て、何気ない風にちらりとバックミラーを見る。彼はウインカーを出し、そして、
外景 高速道路 ランプ
ポルシェ・ターボは「サウサリート-マリン・シティ方面」の標識の下で右折する。当然のように2台のリムジンもウインカーを出して右折する。もう言うまでもないが、我らが主人公はいわゆる「尾行」をされているのだ。
内景 ダクストンの車 走行中 昼間
彼は制限速度いっぱいで走り続け、バックミラーを確認して黒いリムジンが着いてきていることを確認する。
外景 橋に通じる道路 昼間
ダクストンは車をターンさせてハウスボート(住居として使用する建屋のついた小型の船)の係留所へ乗り入れる。黒いリムジンは後方からまだ追ってきている。
外景 カッパン・マリーナ 駐車場 昼間
ポルシェはハウスボート係留所の駐車場に入ってくる。ダクストンは車を降り、立って見つめている。
駐車場の入口
二台のリムジンが駐車場に入ってくる。係員が物珍しそうに見ている。
ダクストンに戻って
彼は口にくわえていた煙草を取り、地面に捨てる。そしてハウスボートを係留している桟橋へ向かう。
外景 カッパン・マリーナ 駐車場 いくつかの連続ショット
2台のリムジンは砂利の上でタイヤを鳴らして停車する。車のドアが開く。三つ揃いのダークスーツや頑丈そうな靴がちらりと見える。
外景 ハウスボートの桟橋
ダクストンは桟橋へ向かう。気にしている様子はなく、とても冷静だ。彼はあるボートへ近づいていく…八角形の窓のある、美しい天然木のボートだ。彼はボートのカギを取り出す。
外景 桟橋のクレーン いくつかのショット 工作員たち
まだ彼らの顔は見えない。彼らのごつい靴が木張りのドックをコツン、コツンと踏んで行くだけだ…。
外景 ハウスボートのフロント・ドア ダクストン
まだもたもたしながら鍵を取り出そうとしている。そして彼は鍵を落としてしまう。
外景 桟橋 工作員たちの靴
近づいてくる。そして…
ダクストンに戻って
正しい鍵を見つけ、錠に差し込む。すぐに中に入って、ばたんとドアを閉める。
工作員たち
ボートの外で散開する。彼らの指揮官が部下の何人かに手振りで、側面へ回れと指示する。
内景 ハウスボート
ダクストンがジャケットの前を開け、ショルダー・ホルスターの端がちらりと見える。彼は手を差し入れて、ベレッタの自動拳銃を抜き出し、弾倉を差し入れる…カチャッ!
外景 ドアの錠のクローズ・アップ
細いピッキング・ツールが錠前に差し込まれている。
外景 ハウスボートの前甲板
工作員の何人かがバルコニーを跳び越え、目的ありげにスライド式のガラス・ドアへ向かう。一方で…
内景 ハウスボート 昼間
ダクストンはバルコニーから物のこすれる音を聞き、銃を構えてカーテンのかかったガラス・ドアに向かう。彼がカーテンに近づくと、物がこすれる音はしなくなり、すべてが全く静かになる。
ダクストンはベレッタの撃鉄を起こす。張りつめた静寂の一瞬…そして…ダクストンがドアを引き開ける。同時に工作員の一人が彼の手から銃を叩き落とし、合気道式にその手を背中にねじりあげる。ダクストンはぐるりと回されて…
ちょうどフロント・ドアから入ってきた3人の工作員と向き合う。彼らは我々が予想したロシア人工作員ではないが、やはり汚れ仕事をやる連中に見える。ガラス・ドアからさらに2人の工作員が入ってくる。
2人が背後からダクストンの腕を持って、彼をがっちり捕まえる。工作員の指揮官、チャーリーが長銃身の44マグナムの撃鉄を起こし、まっすぐダクストンの顔に向ける。
工作員たちがダクストンのまくれあがった袖を直して、彼を放してやる。全員が笑顔になり、そして笑い出す。チャーリーが握手の手を差し出し、ダクストンはその手をしっかり握り返す。
外景 カッパン・マリーナ 駐車場 フロントガラスごしの主観で
桟橋のクレーンの近くに停車した黒いリムジンに近づいていく。
外景 駐車場 昼間
レスリーのホンダが停車する。ケビンは自分のリュックに手を伸ばし、レスリーはリムジンをじっと見つめている。彼女は明らかに、この車が意味するものに対して動揺している。
レスリーは視線をリムジンからケビンへ移し、作り笑いを浮かべてみせる。
彼は車を降り、ドアを閉める。レスリーを見る。
ケビンは手を振って、桟橋の方へ歩いて行く。レスリーはハンドルを握ったまま眼を閉じる。
内景 ハウスボートの船室 昼間
ダクストンが政府の工作員と立っている。
ドア・ベルが鳴る。そばに立っていたダクストンがドアを開ける。ケビンとローバーがいる。
彼は息子の横を通って駆け出す。ケビンは政府の工作員たちを見る。政府の工作員たちもケビンを見る。ケビンはドアの方を指さす。
外景 駐車場 昼間
ダクストンが必死に手を振りながら駐車場まで走ってくる。レスリーのホンダが走り去って行き、見えなくなる。
無駄なことだと悟って彼は腕を下ろし、どうしようもなく立ちつくしている。他のハウスボートの住人たちが何ごとかとその様子を見つめている…
ディゾルブ
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