映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

全体表示

[ リスト ]

 
ジョン
(声のみ)
君のせいじゃない、わかっているだろう。


内景 横木の空間 いくつかの連続ショット

リプリーたちは広大な空間を渡っていく…アンソニーが数歩先を歩いている。彼らが持つロウソクの光は数ヤード先を見るのがやっとだ。広大な空間を風が吹き抜け、足元の板は古い家の長いベンチのように軋む。

リプリー
何が?

ジョン
前に君が言っていたことさ…

リプリーは自分の「告白」を思い出す。

ジョン
心理学の本で読んだことがある。大切な相手より長く生きてしまった人が、その相手の死に対して罪悪感を抱いてしまうことがあるんだ。

リプリー
そんな話は地球にいるときに心理学者から腹いっぱい聞かされたわ。ええ、「サバイバーズ・ギルト(訳注 生存者が抱く罪悪感)症候群」とかそういうことをね。でも私が考えていたのはそういうことじゃない。私が考えていたのは、上にいる私の「ともだち」のことよ。

彼女は上を見上げる。

リプリー
彼は脱出艇に乗っていた。彼は私でなくニュートを殺した。どうして私じゃなかったの?まるで私をもて遊んでいるみたい。彼らには「種の記憶」みたいなものがあるのかもしれない。彼は私が彼の「母親」にしたことを知っているのかもしれない。それが私を殺さなかった理由なんだわ。私を殺すのは簡単すぎる。彼は私を苦しめようとしているに違いないわ。

ジョン
まるであれが人間みたいに聞こえるね。

リプリー
まさかね。あれが何なのかわたしにはわからないわ。

ジョンは無意識に自分の本に触れる。

ジョン
私にはわかるよ。


内景 縦穴の梯子 牢獄の階層 夜

この空間の端には、四階上の他の監房区の廊下へ通じる作りの粗い木製の梯子がある。何年も湿っぽい空気にさらされて梯子はねじれている。リプリーが松明を左手に先頭に立つ。三人は登っていく…。


内景 牢獄の廊下 四階 夜

暗い。リプリーが最初に上がってくる。
彼女は松明を掲げて廊下を一人で歩いて行く。
ここの牢獄にはドアがない。
彼女は松明を一方に向ける。
古い骸骨が一体、静かにうずくまって瞑想している。

梯子

ジョンはちょうど登り切ったところで、アンソニーがすぐ後に続いている。アンソニーは息を切らしている。彼は手を貸してくれと手を伸ばす。ジョンは振り返って、リプリーが一人で先へ進むのを見る。それからアンソニーへ手を伸ばす。
二人の手が組み合って…

アンソニー、「幻覚」を見る

見たところ、彼は一人で開けた野原に立っているようだ。彼のそばで羊がおとなしく草を食んでいる。
出し抜けに、彼は中世の悪魔の大群に襲われる。

魚の顔の悪魔。人の顔をした鳥の悪魔。
悪魔たちは彼の頭上を飛び回り、彼の手足につかみかかる。
彼のそばにいた羊が口を開けてずらりと並んだカミソリのような牙を見せ、彼の足首に深々と突き立てる…

アンソニーは悲鳴を上げる!

リプリー

廊下を歩いていてその悲鳴を聞き、振り返って…アンソニーがジョンの手から逃れようと暴れているのを見る。

アンソニー

現実世界では梯子の最上段で危なっかしくバランスをとっている。彼のアンドロイドの精神の中では悪魔どもと戦っている。
彼がのけぞる…
悪魔の羊が噛み付くのから逃れようと、彼は左足を引く。
梯子を踏み外す…彼の下には四十フィートの奈落が待ち構えている…

ジョン

アンソニーの手を離すまいと必死になっている。
アンソニーが背中から縦坑へ落ちていくのを防いでいるのは、彼の手だけなのだ。

ジョン
ちくしょう。リプリイイイ!

彼は全力で引っぱる…

アンソニー

恐ろしい鳥の悪魔がくちばしで彼の手に噛みつくのを見る…
彼の手首に深く食い込んでいく。彼は棍棒を宙で振り回す…
彼は悪魔の頭に狙いを定めて…
ガツン!
ジョンの手を棍棒で殴りつける。

ジョンは痛みに大声を上げて、手を放してしまう…。

アンソニーは両腕を空中で振り回しながら、片足で後ろへぐらつく。

リプリーの手がすばやく突き出され…
アンソニーのカソックをつかんで…
彼が落ちるのを食い止める。

新しい恐怖の光景にアンソニーの両眼が大きく見開かれる…
彼のカソックをつかんでいる、恐ろしく、濡れた、ワイヤーのような腕をした怪物だ…長くて光沢のある頭をしている。
リプリーがエイリアンに変わっているのだ。

ガツン!
アンソニーが棍棒で怪物を殴りつける…
リプリーの頭を殴っている。
ガツン!
もう一撃。今度は顔だ。

ジョンはアンソニーの棍棒を持った手をつかもうとする…
ガツン!
棍棒が風を切って彼の側頭部を打ち、彼は後ろへ倒れる。
リプリーは足を踏ん張ってアンソニーのカソックを引っ張る…
彼女は口を開け…苦しげな声を漏らす…

アンソニーは恐ろしいエイリアンが噛み付こうと大きな口を開けるのを見る。
ガツン!
彼の棍棒がリプリーの鼻筋を打つ。
彼女は頭の中で星が散るのを見る…足元がぐらつく…
前によろめいて、アンソニーと一緒に落ちそうになり…

ジョンが二人を捕まえる!

もみ合う二人を両腕で抱え込み、スモウ・レスラーのように持ち上げて後ろへ倒れる。三人は廊下へ…ドサッ!

三人は折り重なって床に倒れる。
アンソニーはまだ棍棒を振り回している…

リプリーとジョンはアンソニーを二人の間の床に押さえ付ける。
アンソニーの幻覚がやっと消える。
彼は意識を失う。

ジョン

荒い息をしている…両眼を開ける…

彼はリプリーの顔を正面から見つめている。
一インチも離れていない。
彼はリプリーの上に横たわっているのだ。
彼女もまた荒い息をしている。
長く、居心地の悪い時間が流れる。

リプリー
ありがとう。

ジョン
どういたしまして。

二人は互いに転がって離れる。
彼女の手が鼻に伸びる。
血が付いている。

リプリー
私は大丈夫。

ジョンは自分の袋に手を入れ、小さな木綿の袋を取り出す。

ジョン
これを鼻に当てておくんだ。血が止まるだろう。

彼女は尋ねるような眼つきで彼を見る。

ジョン
私は医者なんだ。

彼女は小さな袋を鼻に押し当てる。鼻血は止まっている。
二人はアンソニーのところへ行き、手を貸して彼を立たせようとする。
彼はそれを振り払う。

アンソニー
だめだ…頼む。座らせててくれ。ちょっとだけ。

彼はこめかみを擦る。白い、ミルクのような汗が彼の頬を流れ落ちる。

アンソニー
ちくしょう。

リプリー
あれは何だったの?

アンソニー
僕が牢獄にいる理由だよ。

ジョンが自分の両眼を指さす。

ジョン
幻覚さ。

アンソニー
夢だよ。

リプリー
人造人間に夢は見れないわ。

アンソニー
僕を作ったとき、僕を作った人間はそう思ったろうね。だが僕の脳は電子有機体で、人間の脳をモデルに作られている。人間の脳と同じように機能するんだ。目覚めている間に映像や感覚を無作為に蓄積するが、眠っている間にそれらを放出する人間の脳とは違っていて…

リプリー
人造人間は眠らないわ。

アンソニー
そのとおり。もっと新型のモデルではこの点は修正されているかもしれないが、僕はちがう。眠ることができないと人間の脳に何が起きるか知っているかい?目覚めている間に夢を放出するんだ。幻覚としてね。僕も同じさ。二十年の間、僕はこの小惑星でデータを吸収してきた。地球との連絡が途絶えてしばらくして、この幻覚が始まった。彼らは僕を狂人だと思った。僕は自分がアンドロイドだからだと説明しなければならなかった。彼らはそっちの方が気に入らなかったけどね。

リプリー
あなたは何を見たの?

アンソニー
いつも見ているものさ。怪物の映像だ。悪魔とか。

ジョン
それは前兆だよ。これからやってくる邪悪なものを象徴しているんだ。

アンソニー
僕が古い本から吸収して、頭から消すことのできない単なる映像だよ。

リプリー
あなたの牢獄の中を見たわ。

アンソニー
(肩をすくめて)
僕の頭はああいうものでいっぱいなんだ。なんとか頭から追い出そうとしているのさ。

彼のまぶたが落ちてくる。

ジョン
君は睡眠が必要だな。

アンソニー
わかっているよ。休息させてもらう。

彼は目を閉じる。リプリーは松明を拾ってくる。

リプリー
彼のそばにいてね。

リプリーは立とうとする…ジョンは彼女の腕をとって引き起こしてやる。

ジョン
だめだ。私たちはみんな休息が必要だ。特に君はね。

リプリーは彼の言ったことを考える。

ジョン
お医者さまの命令だ。

彼女は微笑んで、腰を下ろす。

ジョン
だいいち、君一人が先に行ったら何が起きるか君はわかっているだろう。私たちは一緒にいるべきだ。

リプリー
わかったわ。彼はどうせ上にいるんだし。

ジョン
どういう意味だい?

リプリー
私は今まで、この悪魔と二回対面したことがある。私はあいつに対する感覚が鋭くなっているらしいわ…
(少しの間)
あなた、本当に医者なの?

ジョンはカンバス地の袋をポンと叩く。

ジョン
私の鞄が見えるだろう?

リプリー
その本は何?

ジョン
ただの本さ。

リプリー
図書館を置いてこの星から逃げるわけにはいかない、と言う人から「ただの本だ」と言われても信じられないわね。
ジョン
これはただの…必要になるかもしれない医学の本さ。

リプリー
その中に食べ物は持っていないんでしょう?

ジョン
君が包帯を食べられるのなら、あるよ。

リプリーは腹をさする。

リプリー
二、三時間後には美味しそうに聞こえてきそう。生態活動を停止して、復活して…まったく、私はたぶん丸一年も食べてないわ。

アンソニー
(目を開けずに)
君はあのパンを食べておくべきだったんだ。

リプリーとジョン
休んで!

リプリーは頭を壁にもたれさせる。
目を閉じる。時間がすぎる。
彼女が眉をひそめる。
ジョンはそれを見る。

ジョン
大丈夫かい?

リプリー
絶好調よ。

ジョン
私が君の上に倒れたとき、怪我しなかったかい?
肋を痛めなかった?

彼は腕を伸ばし、リプリーのカソックの下に手を入れる。
彼女の腹に触れる。彼の手は温かい。

リプリー
あなた、本当に医者なの?

彼は手を引っ込める。

ジョン
みたいなものだ。私の父は私たちがここに着いた時に亡くなった。修道院の医師だったアンセルム神父が私を引き取ってくれて…彼が実際に私を育ててくれた…
(少しの間)
亡くなるまで、彼は自分のできることを私に教えてくれた。彼は地球で教育を受けていたんだ。

リプリー
そうなの、私はただお腹が空いているだけよ。

ジョン
私が君を冷凍睡眠チューブから出してから、君は何も食べてないからね。

リプリー
あなたが出してくれたの…

彼女は手を伸ばし、彼の両手を握る。その両手をひっくり返す。

リプリー
脱出艇で火傷をしたのね。

自分の手に置かれた彼女の手に、ジョンは…居心地の悪さを感じる。

リプリー
あなたのおかげらしいいわね。

二人は互いの目を見つめ合い…

アンソニーの声
君はあのパンを食べておくべきだったんだ。

リプリーは決まり悪くて、ジョンの手を放す。
アンソニーを見る。彼は立ち上がろうとしている。

アンソニー
十分に休んだよ。まだちっこい奴らはいるけどね。

三人は歩き出す…

 

.
ヘボ訳者
ヘボ訳者
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

標準グループ

登録されていません

開​設日​: ​20​13​/5​/1​9(​日)​

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事