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内景 牢獄の階層 夜
暗く、湿っぽく、陰気な場所だ。
一本の釘が板に打ち込まれていく。そしてもう一本。
板は古く、ゆがんでいる。木目が浮き上がって、ひび割れている。
別の板が掲げられ、釘が構えられて…バン、バン、バン…きつく打ちこまれる。
二人の年老いた労働者
くすんで破れた灰色の服を着ている。
壁の開口部に、板を打ち付けていく。
几帳面に開口部をふさいでいく…
リプリー
彼らの作業を見つめている。
バン、バン、バン。
彼女は意思をくじかれている。
修道院の屋根(挿入カット)
十人ほどの修道士がスラコの脱出艇の周囲に必死で板を打ち付けている。木枠が組まれ…周囲に壁が立ち始める…
内景 牢獄の階層
二人の年取った労働者は大工仕事を続けている。
板が打ち付けられ、開口部はさらに狭くなっている。
バン、バン、バン。
リプリーの姿もさらに見えなくなる。
バン、バン、バン。
彼女はじっと見つめている。
修道院の屋根
脱出艇の周囲に板が打ち付けられていく。
脱出艇の姿はもう見えない。邪悪なものへと変わってしまった吉兆を閉じ込めているのだ。
図書館
開いた本の前にジョンとマティアスが座っている。
彼は本を読んでいない。彼はハンマーの叩く音を聞いている。
ハンマーの音はこの星全部に響いているように思える。
彼の頭の中にも響いている。
彼はそれがつらくて、両眼を閉じる。
リプリー
もう見えるのは彼女の顔だけだ。
別の板が打ち付けられる。
バン、バン、バン。
そして見えるのは彼女の眼だけになる。
最後の板が打ち付けられる寸前…
彼はそれを牢獄へ投げ込む。リプリーは受け取る。
見守るうち、最後の光も覆われてしまう。
バン、バン、バン。
彼女は今まで開いていた壁をじっと見つめ続けている。彼女の眼が暗闇に慣れてくる。板のすき間から漏れるわずかな光が強烈に感じられてきて、彼女はさっき受け取ったものを見れるようになる…
ニュートの人形の頭だ。
リプリーは自分の牢獄を見回す…ここは実際には他の牢獄の後ろにある狭い空間で、一方の壁は湾曲している…縁に向かってくさび形に切った一片の細いパイのようだ。
彼女は手に持った人形の頭を見る。
少しの間。
彼女は錯乱する…!
壁を殴る。蹴りつける。
壁に頭をぶつける。
もう一度。
彼女の鼻から血が流れ始める。
彼女の手が鼻に触れる。
彼女は闇の中で目を細める。
血が見える。
口の中に鉄くさい味を感じる。
死は再び彼女と共にある。
牢獄の「一番広い」箇所、真ん中辺りなら、彼女は座り込むことができる。彼女はそうする。
人形の頭を見る…
彼女は人形の頭を投げ捨てる…
頭は壁に跳ね返って転がり、正面を向いて止まる。リプリーの方をじっと見つめている。
少しの間。
リプリーは正面の壁の基部を見下ろす…
床との境目あたりの材木が腐っていて、穴が空いている。その中に、
男の顔
クルーカットの真っ白な髪の下に、目尻にしわの寄った明るい目がある。
彼はリプリーを見返す。
修道院の屋根 夜
修道士たちが壁を建て終わっていて、スラコの四号脱出艇は全く見えない。もう修道院の建物の一部も同然だ。
修道士たちが細い木の梯子を降りて行き、カメラもそれに続いて…彼らを追い越して…開いた窓まで来ると中へ入っていき…
内景 図書館 中世の区画 夜明け近く
ジョンがいる。マティアスが足元で眠っている。
テーブルも、ベンチも、床も、彼が本棚から出した数百冊の本で覆われている。本の鎖が絡み合っている。
どの本も開いたページは…
悪魔の絵だ。
さまざまな時代の、さまざまな邪悪なるものの絵…
ルシファー、シャイタン、アーリマン、アスモデウス…そしてサタン。
マスター・オブ・シュロス・リヒテンシュタインの描く「キリストの誘惑」。
「ベリー公のいとも豪華なる時祷書」の、巨大な焼き網に火をおこすサタン。
蛇のような悪魔。半人半獣の悪魔。
グルンウォルドの「聖アンソニーの誘惑」。
パッチャーの「聖ウォルフガングと悪魔」。
中世の怪物たちの毒気。
ジョンはこの混乱の中を慎重に進んでいく。彼は取り憑かれた男のように本から本へと頁をめくっていく。
大きなステンドグラスの窓ごしに、最初の陽光が差し込んでくる。ジョンは急いで目の前の大きな本をめくっていく。尻に顔のある姿で描かれたサタンの絵を過ぎ、さらにめくっていき…そして手が止まる。
これだ。
我々にはその絵が見えないが、ジョンの反応は見ることができる。
彼の両眼が皿のように見開かれる。その絵が襲ってくるとでもいうようにばたんと本を閉じる。彼はマティアスに何か言いたそうに振り返るが…眠っている犬を起こすまいと決める。
ジョンは本の鎖を手に巻き付け、片足を本棚に当てる。引っぱる…バチン!
古い鎖が切れる。
決意の表情で、彼は麻でできた医療品の袋を肩にかける。本を胸に抱き、眠っている犬をやさしく撫でて、図書館を出て行く…
内景 アボットの執務室の外の廊下 昼間
ジョンは決然とした様子で廊下を大股に歩いて行く。院長の部屋のドアが急にき、彼は立ち止まって壁にぴたりと身を寄せる…
あのヒステリックな修道士、ブラザー・グラハムがたくましい二人の修道士に部屋から連れ出され、廊下の奥へ引きずられていく。彼は猿ぐつわをされている。三人目のたくましい修道士が院長と戸口に出てくる。
三人目のたくましい修道士はうなずいて、歩いて行く。
院長は彼が行くのを見つめ、そして部屋へ戻ってドアを閉める。ジョンは閉じたドアをしばらく見つめ、そして決心する。彼は背を向けて廊下を歩いて行く。
内景 ガラス工房 昼間
朝の勤務番の修道士たちがぶらぶら入ってくる。
カイルもその中にいる。彼は壁の棚から自分の吹き竿を取り上げ、ガラス炉の方へ歩いて行く。他の修道士が二人、ガラス炉の火に薪をくべ始める。
ジョンが入ってくる。
工房の中を見回すが、見つからないので反狂乱になる…
カイルが。
カイルはガラス炉のところにいる。溶けたガラスに吹き竿を差し入れようとしているところだ。ジョンが彼のところへ走ってくる。
危うくカイルにぶつかって転ばせそうになり…
彼はジョンが取り乱しているのに気づいて…
他の修道士たちがこの騒ぎに気づき、何事か見ようと近づいてくる…
ジョンは落ち着こうとする。彼はでたらめな身振りをする。
カイルは自分の吹き竿を下に置く。
彼はジョンが拳が白くなるほど強くつかんでいる本に気づく。
カイルがジョンに近寄る。用心深く。
ジョンは他の修道士たちが周りに集まっているのを見る…
彼に近づいてきて、囁いている…
ジョンは修道士の一人が駆け出すのを見る…間違いなく院長へ知らせに行ったのだ。ジョンは友人であるカイルの顔をのぞき込む…そこには恐怖がある。
ジョンが説明できればよかったのだが…彼にはできない。
ジョンは本をぐいと引っ張り、くるりと背中を向け…人混みをかき分けて走っていく…
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