映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

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内景 修道院 リプリーの部屋 昼間

暗闇の中を光の筋が動いていく。
木の壁に光と影の模様が映っている。
ここには荘厳な静けさがあるが、壁の向こうからは修道院の遠くくぐもった音が聞こえてくる…
鋸で木を挽く音。金槌の音。
祈りを囁く声。
軽やかな歌声。

カメラは壁から下がって手作りの木製ベッドを写す。
リプリーが落ち着かなさげに眠っている。


外景 アルケオンの海 夕暮れ

夜が近づいて、水面は波が高くなっている。白い波頭の上を風が吹き、修道士たちを濡らしている。彼らは太い麻のロープで自分たちの船とリプリーの宇宙船をつないでいるところだ…
彼らは宇宙船を浜辺へと引き始める…


内景 リプリーの部屋 夜

リプリーは眠っている…だが何らかの見えざる敵と戦っている…彼女は身体を起こそうとする…だができない。頭を振って、冷凍睡眠で生態活動が止まっていた影響を振り払おうとし…まだ開き切らない両眼を上げる。

ジョン

彼女の近くに座っている。ほとんど眠りかけている。
両手には白い包帯が巻かれ、膝の上には本が置かれている。

リプリーはジョンの背後にいる人影を見定めようと目をすがめる…その肌は明滅するロウソクの小さな光を拾って反射し、その人影が動くと光が波打って見える…

エイリアンだ。

大きな、黒く光る滑らかな頭部がロウソクの光の中に突き出される。エイリアンは彼女の方へ…ワイヤーのような両腕が身体の側面から突き出し…その足でぎくしゃく歩いてくる。リプリーは身体を動かし悲鳴を上げようとするが、できない。

彼女に動かせるのはその両眼だけだ。彼女はジョンを見る。穏やかに眠っている。彼はエイリアンに気づかない…

エイリアンは近づいてくる。
彼女はエイリアンの吐息を感じる…彼女の額の汗がその吐息に吹かれて乾く…彼女の身体を悪寒が走るが、彼女はまだ動くことができない。

エイリアンが彼女のベッドの横に立つ。
六本指の手を伸ばして…
優しく彼女の腹に置く。
首を傾げて…何かの音を聞いているかのようだ。
その意味するところは明らかだ。

リプリーはやっと声を出せるようになる…

リプリー
あああああああああああああああああ!

彼女の両眼が見開かれる。
彼女はぱっと身を起こす。

彼女の額に手が伸びる。彼女の頭を優しく枕の上へ押し戻す。ジョンの手だ。

ジョン
君は助かったんだ。助かったんだよ…

リプリーはたじろぎ、両眼はエイリアンが現れた所から離れない。ジョンは彼女の視線の方向を見て、肩ごしに後ろを振り返る。
何もいない。
リプリーの視線が離れる。
彼女はしゃべろうとする…そこにいたのよ。
彼女の手は身体の横で拳に握られている…

ジョンの手が彼女の手を包む。
指の力を和らげ、もう一度指を開かせる。
彼女は手のひらに、粗い包帯の生地を感じる。

彼は静かに「聖アウグスティヌスの告白」を読み始める。彼の柔らかな声が浜辺に打ち寄せる波のように流れて、彼女はまたうとうとと眠り始める…


外景 アルケオンの地表 昼間

砂嵐が唸りを上げている。修道士たちは小さな円形レンズのゴーグルをはめて、顔にぼろ切れを巻いている。彼らは大がかりなブロックと滑車を組み合わせて作業をしている…

何百本ものロープがぴんと張りつめる。
材木がぎしぎし軋む。
彼らはリプリーの脱出艇を持ち上げ…正面の門へと運んでいく。


内景 リプリーの部屋 昼間

リプリーは目を閉じて横たわっている。
ドアの外からくぐもった声が聞こえる。

院長
ジョン、あの女性の具合は?

ジョン
まだ意識がはっきりしていないようです。

そのジョンの声を聞いて、眠っているリプリーの唇にほんのわずかな笑みが浮かぶ。

ジョン
ですが、もう少しです。

二人は話を続け、リプリーは目を覚ます。彼女は眼を開く。
ベッドの上で横向きになる…
彼女のベッドのそばには窓がある。
彼女は肘をついて身体を起こし、外を見る。

彼女の視点から

庭園は地球のようなすばらしさだ…
すばらしく美しい青空の下、修道士たちが働いている…
リンゴを収穫し、小さな湖の水面で釣りをしている。
小さな木製の小屋で金槌と鋸を使って作業をしている。詩的な光景だ。
彼女は気分が良くなる。彼女はこの風景を眺めていく…

何百フィートも上へ伸びる木製の梯子の周りで、羊が草を食んでいる…リプリーはよく見る…

足場で働く人々

端に粗末な刷毛のついた棒を持っている…空を青く塗っているのだ。
修道院も、小屋も、彼女の窓の外の田園も同一の平面上にあるのだ。この星の内側に。

青空のように塗られたアーチ型の天井には大きなガラスの「窓」があり、日光が差し込むようになっている。この天井は実際には、この小惑星の外殻の裏側なのだ。

リプリーはまた地上の修道士たちに視線を戻す。彼らは小屋を修理するのではなく解体して、材木を手押し車に積み上げている…

リプリー
どうなってるの…?

突然…
スラコの脱出艇が彼女の前に姿を現す。
ロープに吊られて彼女の窓の前を通り過ぎる。
そして上へ吊り上げられていき、視界から消える。
リプリーは自分の脈を確かめてみる。

リプリー
これは夢に決まってる。イヤな夢だわ。

彼女はまたベッドに横たわる。
天井をじっと見上げる。

彼女の真上 修道院の屋根

修道士たちが脱出艇の周りを忙しく走り回っている。脱出艇は図書館の真上の屋根の、平坦な一角へと降ろされていく。
重々しいどすんという音を響かせて、脱出艇が屋根に載せられる。

リプリー

その音を聞き、そしてまた別の音がして…彼女の部屋のドアが開く。
彼女は振り返って、院長とジョンが戸口に立っているのを見る。
ジョンは戸口で待ち、院長はベッドのそばの椅子に近づいて、腰を下ろす。

リプリー
あなたは誰です?

院長
私は院長だ。このコロニーの指導者だよ。
君は?

彼は微笑む。あけっぴろげで、親しげに。

リプリー
リプリーといいます。私はどうやってここへ?

院長
君の乗り物が墜落したんだよ。
(ジョンを指して)
ブラザー・ジョンが君を見つけ、ここへ連れてきたんだ。

リプリー
ここはどこです?

院長
ここは人工の衛星アルケオンの中にある修道院だよ。
リプリー
通信機を使わせてはいただけ…

院長
ここに通信機はない。私たちはすべての近代科学を断った修道士なんだ。私たちは昔ながらの生き方で暮らしている。清浄な生き方でね。

彼女は首を振る。

リプリー
うう、私は…まだ万全だという感じがしないんです。私を冷凍睡眠チューブから出したのが誰であれ、解凍プログラムを完全に終わらせなかったのね…ニュートはどこです?

院長はぽかんとした顔でリプリーを見る。

リプリー
私と一緒に小さな女の子がいたんです…

院長
君は一人だったよ。

リプリー
いいえ。彼女は一緒だったわ。私が彼女を冷凍睡眠チューブに入れて…脱出艇を発進させて…

院長
あの船で生きていたのは君だけだよ。

恐ろしい現実が彼女を打ちのめし、院長はリプリーをじっと見つめる。

リプリー
(のろのろと)
ああ、なんてこと。ニュート。

彼女は身動きを止める…あの悪寒が背骨を這い上がってくる…
彼女は自分がエイリアンを持ち込んだに違いないと悟る。

リプリー
あれは私たちと一緒に来たんだわ。

院長が身を乗り出す。

院長
何が君と一緒に来たのです?

リプリー
聞いてください…ここに危険が迫っています。あれは私と一緒に来たんです。私はどのくらいここいるんですか?

院長
二日ほどだが…

リプリー
(計算して)
二日も過ぎてしまった。この星は一週間以内にやられてしまうかもしれません。

リプリーは院長のカソックをつかむ。

リプリー
いいですか、怪物がいるんです…
(院長が混乱しているのを見て)
異星の生物です。殺し屋。怪物。それが今ここにいるんです。

院長はサンタモニカと三番街の角で審判の日がどうとかブツブツ言っている狂人を見るような目つきでリプリーを見る。ズボンが膝までずり落ちているような男だ。

彼女は院長の目つきを見て、つかんでいた彼の服を放す。

リプリー
落ち着くのよリプリー。いいですか、私は惑星LV426へ向かう作戦で植民地海兵隊の一個小隊と一緒でした。私たちは六ヶ月前に地球を出発して…もしかしたら一年前かも…

院長
(さえぎって)
ちょっと待ってください…

院長は戸口に立っているジョンの存在が気になり始める。
彼はジョンに肩を向けて、

院長
私たちだけにしてくれ。

ジョンは少しの間そのまま待ち、そして背を向けてドアを閉める。

院長
続けて。

リプリー
私たちは巡洋艦スラコに乗って、ゲイトウェイ宇宙ステーションを出発して…

院長
ありえないことだ。

リプリー
どういう意味です?

院長
我々が地球を出発した七十年前、新しい暗黒時代が来ようとしていた。科学技術は地球の環境を破壊する寸前だった。コンピューター・ウイルスがあらゆる知識の記録を消し去ってしまう危険もあった。それを防ぐ方法があるとは思えなかった。我々が冷凍睡眠でここへ連れて来られてからほぼ四十年の間、ときおり来る補給船がもたらす情報は悪くなるばかりだった。ついには補給船も来なくなった。我々は最悪の事態が起きたことを、もはや地球は存在しないのだという事実を受け入れなければならなかったのだ。

今度はリプリーがさっきの目つきで院長を見る。

リプリー
(のろのろと)
ええと…わかりました…地球のことは置いておきましょう。ここには何人ぐらいいるんです?彼らのことを考えましょう。警告を出して…

アボットの顔に新しい表情が現れる。恐怖の表情だ。
今度は彼女が彼を怯えさせている…それとも彼女も怯えているのだろうか?
院長は急に立ち上がる。

院長
君は精神がどうかしている。もう少し休息が必要だ。

リプリー
休息など要りません。ここの人たちに会わなければ。会わせてください…エイリアンのことを教えないと…

彼はドアの方へ向かう。

院長
今はこれで十分だ。

リプリー
十分ですって?私の言ったことを聞いてなかったの?この星の全員がやられるかもしれないのよ。もう始まっているかもしれない…私がここに来てからおかしな死に方をした人はいませんでしたか?

院長はドアのところで立ち止まり、

院長
いないね。そしてこれからもいないだろう。

院長はドアをバタンと閉める。

リプリーの部屋の外の廊下 昼間

院長は二人のたくましい修道士を呼ぶ。ジョンが近くに立っている。

院長
閂をかけろ。

番人たちは閂をかけるためにドアの方へ行く。

ジョン
何が…どうかしたのですか?

院長
君の患者は危険な精神状態にある。私が命じるまで誰も出入りしてはならん。

ジョン
ですが私は…彼女に食事を…

院長
誰もだ。

ジョン
神父さま、私には理解できません…

院長は背を向け、廊下を歩いて行ってしまう。
ジョンは歩き去る院長から、二人の番人の修道士へ視線を移す。

 

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