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ジョン
ボートを脱出艇に漕ぎ寄せる。
気まぐれな波が彼の船を揺らす。
彼は脱出艇の、ひび割れたタイルの外殻に這い登る。
ぐらつき…バランスを取り…見間違えようもないハッチへ移動する。
開けるためのノブやハンドルはないかと見回す。
ハッチのそば
黒と黄色のストライプが非常用であることを示している小さなパネル・ドアがある。ジョンがためらいながらもそのドアを開けると、輝く金属製のハンドルが現れる。ジョンはハンドルを見つめる…少しの間。
そして、すばやくハンドルを引き下ろす。
プシューッ!
外殻のドアが開く。
入口はぽっかり開いた黒い口だ。
ジョンは十字を切る。
ハッチの中へ足を踏み入れようとして…
ジョンは危うく船から後ろ向きに転げ落ちそうになる。後ろを振り返る…
他の修道士たち
急いでこちらへやってくる。
カイルが激しい身ぶりで
ジョンはまたハッチの方を向く。
エアコンが循環させている空気が吹いてくる。
彼はそれを顔の肌で感じる。涼しい。
涼しくて、そして人工的だ。それが彼を行動させる。
彼は中へ足を踏み入れる。暗闇に飲み込まれて…
シューッ!ガチャン!
ドアが彼の背後で閉じる。
内景 スラコ 四号脱出艇 昼間
暗闇だ。複数の赤いランプがぼんやり点っている。ジョンはじっと立ち、眼が暗闇に慣れてくる。彼は見る。
ニュートの冷凍睡眠チューブ
ガラスと金属でできた棺桶だ…その基部の周りには何本もの送気パイプが絡み合っている。ガラス製の蓋は割れている。チューブの上部で小さな赤ランプが点滅している…自動車の「シートベルトを締めてください」という注意のような、柔らかな口調のアナウンスが聞こえる。
ジョンは気づかぬうちに冷凍睡眠チューブの方へ進んでいる…
壊れた蓋ごしに、見る。
冷凍睡眠チューブの中
無機的に白いチューブの内部に、飛び散った血の跡がある。古いもので、赤錆のような茶色に変色している。
ここで何が起きたにせよ、起きたのはかなり前のことだ。
錆色の水滴が床へ伝い落ちる…
床
引きずった跡がある。彼の眼はその跡を追い、コントロール・パネルの前に積まれた血まみれの服の山を見る。ジャンプ・スーツだ。引き裂かれている。子供のサイズだ。子供用の人形の頭があるが、胴体の方はどこにも見当たらない。
ジョン
ドアの方を振り返る。
彼の一部はさっさとここから逃げ出したいと願っている…だが彼は恐怖に抗う。彼は医師で…もしくはそうあろうとしている男で…ここにいる誰かが彼の助けを必要としているかもしれないのだ。彼は前へ進み、血まみれの服から無理に視線をそらし、ちかちか瞬き光る計器パネルと無数の表示灯を見上げる…
表示灯
圧力表示灯。データ表示灯。警告ランプ。何千ものランプ。空の星々のようだ。
彼がこんなテクノロジーを最後に見てからもう何十年も経っているし…これほど近くで見たこともない。彼は船の奥へ進んで行く。彼の恐怖は消え、今では魅了されたようになっている。彼はランプを追って、見る。
薄緑色のスクリーン
LEDの数字が変わっていく…7,291.01.05...06...07
「脱出艇切り離しからの経過時間」と表示されている。
彼は先へ進む…
ビデオ・モニター
走査線の砂嵐の向こうに映像が判別できる。
一人の女性と、彼女の前に立つ一人の少女。
女性の両腕は守ろうとするように、母親のように、少女を抱いている。
女性が話している。ジョンにはこれが何なのか全くわからないが、彼女のメッセージは自動的に繰り返し再生されている。
女性のメッセージの警告するような口調で、ジョンの恐怖がまたぶり返す。彼は点滅する機器類に従って、さらにためらいがちに船内を移動していく…
彼はあるボタンに触れてしまう。カチッ…
彼の肩に触手のような何かが落ちてくる!
ただの酸素マスクだ。
ジョンは自分の心臓が早鐘のように打っているのを感じる。彼はぶら下がったプラスチックのマスクを押しのけ、シャトルの中を移動していく。
彼の手がとあるセンサーに感知され、それに反応してランプが点灯し…
シューッ!
頭上のパイプからフレオン・ガスが吹き出し…
ジョンは大声を上げて後ずさり…
別の冷凍睡眠チューブにぶつかる!!
今では空になっている、ニュートのチューブの隣だ。
穏やかな低い音を立てている。まだ作動中なのだ。
ジョンは用心深く近づいていく。
蓋の上から中の人間が見える…
一人の女性
ビデオ・スクリーンに映っていた女性だ。彼女はリプリー。
冷凍睡眠中だ。白い木綿のタンクトップとボクサー・ショーツを身に着けている。
驚いたことに、彼女は美しく見える。
ジョンはリプリーからモニター上の彼女に視線を移し、また戻す。
彼はうやうやしくひざまづく。彼の恐怖が魅了に置き変わる。顔をチューブの蓋へ近づける。
彼女の顔へ近づける…
陽の光が差し込んでくる…
光の来る方へジョンの顔がさっと向けられる…
ドア
開いている。カイルと他の修道士たちがいる。
二人目の修道士がカイルを見る。
ジョンはリプリーを見下ろす。
チューブの上部にはキーパッドが取り付けられている。
「緊急用開扉」という赤いボタンがある。
その意味は明白だ。
彼はボタンを押す。
チューブは圧縮空気が吹き出す大きな音とともに開く。
ドアのところにいた修道士たちがその音に飛び退く。
カット替わって
外景 宇宙船 海の上 昼間
リプリーは大型の釣り船の上に降ろされている。ジョンが身体の前で彼女を抱えている。彼女は意識がない。
釣り船が波に揺れて、彼女の頭も揺れる。
修道士たちは急いで漕ぎ戻り始める。
彼はリプリーの額から前髪をどける。
ジョンの腕の中でリプリーが身をよじる。唸り声を上げる。
冷凍睡眠の前、逃げていた時のことを思い出し、彼女は暴れる…
まだ半分開かない眼で周囲を見回す…
彼女はカソックを着てオールを漕ぐ修道士たちに囲まれている。
修道士ですって?彼女は目を閉じる。
頭の中の空想を追い払おうとする。眼を開く。
修道士たちはまだそこにいる。
彼女は腰を抱えている血まみれの手を見下ろし…
自分が誰かの膝の上に座っているのだと悟る。
彼女は肩ごしに後ろを見る…
ジョンがいる。
彼はリプリーに微笑む。
親しげで、性的な雰囲気はない。
リプリー
彼女は首を振る。しゃべろうとする…
彼女の唇が言葉を形作るが、声は出ない。
彼女はもう一方の肩ごしに後ろを振り返り、見る…
宇宙船 リプリーの視点で
水面で揺れている。
修道士たちがオールを漕ぐたびに小さくなっていく。
リプリー
眉をしかめる。頭の中に張ったクモの巣を取り払おうとする。
宇宙船に意識を集中しようとして…
思い出す。
ジョンへ振り返り、しゃべろうとする…
彼女は意識を失う。
画面、暗転…
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