時代劇の衰退と時代の変遷と

anond.hatelabo.jp

増田にこんな記事が上がっていた。
昔は子連れ狼銭形平次大江戸捜査網暴れん坊将軍桃太郎侍、必殺仕事人などなどかなり観ていた。
確かに、ここ数年を考えても特番や大河以外で時代劇を観ることは少なくなったように感じる。

増田によれば「多かった時代の方が異様」らしいが、確かにドラマや映画にさまざまなジャンルが増えた昨今だからあえて時代劇を観るまでもないとも言えるかも知れない。
だがテレビから時代劇が減った理由は、他にもいくつかあると愚考する、平日なので簡単な記事ですが(以下)



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善悪の彼岸

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歴史物ではないヒーローの登場する時代劇というのは基本的に勧善懲悪の物語構造が多い。
桃太郎侍にしろ、暴れん坊将軍にしろ。

悪事が行われる→庶民が泣く→ヒーローが登場し悪を倒す(殺す、おしらすに引き摺り出す)

ヒーロー時代劇は、この解決によってカタルシスが得られる構造になってる。
しかしこの解決法は法では裁けない悪事に対し

"悪い暴力に対して正義の暴力"

という明快だが安直なものになりがち。
(だからこそ必殺仕事人は闇の稼業としてそれを描く)
水戸黄門のように

公権力を示す→それでも歯向かう→手打ち

のような流れも「悪党の殺処分に対しての流れを作る方便」なのだろう。
死して屍拾うものなしであっても法の目を潜る悪に対して正義を行う→だから襲ってくる相手を殺しても良い、が成り立つ。

だが時代は変わり、「解決手段として殺すのは安易では?」という考えも出始める。
「悪は倒せば(殺せば)解決」というのはアニメや漫画の世界に推移。
法治国家において相手が人間であれば、殺害という安直な解決はなかなかあり得ない。

時代劇では勧善懲悪を決定づけるために「この悪党はこれだけ悪いことをやってるんだから殺されてもいいよね?」と視聴者に正義の暴力を納得させるための心情的理由が必要になる。
娘は犯すわ、一家は殺されるわ、目の前で子供が殺されるわ。

だが今やレーティングはとても厳しい。
昨今の殺伐としたSNSを見てもそうだが「悪党を殺してもいいと思えるくらい被害に遭う女性」を描けば「地上波で流しといて何がゾーニングか」「被害者の女性を見て私も傷つきました」と言い出すのは必至。
落語にしろそうだが女性蔑視が平然と行われていた時代を描くにも現代ではそれを考慮しなければならない。
潔癖な世界において、様々なそれらを考慮して苦肉の策でシナリオを作るのであれば、同時代的な感覚で描ける現代劇の方がよほどたやすい。

ザ・ハングマン DVD-BOX 1

悪党の悪巧みを自白させ、それを街頭テレビで流し、衆目に晒して勧善懲悪成功!なんて非殺の必殺仕事人ドラマ「ザ・ハングマン」なんて変わり種のドラマもあったが、今となってはDM画面のスクショをツイートするだけでレッツ・ハンギング。
誰もがハングマンになれてしまう時代。
法によらない必要以上の社会的制裁が加えられるのはご存知の通り。


時代劇が減った、というより厳密にいうなら完全オリジナルストーリーの時代劇が完全に減った、とも言えるかもしれない。
大河ドラマや年末年始の時代劇は過去から時代劇というより実際にあった事件や人物を描く歴史物であって、必殺仕事人や眠狂四郎桃太郎侍や隠密同心など。
現実を描くならそこには善も悪も勧善懲悪もない。
ただ歴史がある。
だから作られているとも言えるかも知れない。

スターの不在

昭和の時代劇映画、ドラマの主人公はスター俳優が務めた。
俳優の名前が看板となって作品を際立たせる。

最近の若手俳優を見ると中性的で細身が中心で、がっしりと力強い体刑の役者は少ない。
いわゆるトレンディドラマの時代に役者はイケメン俳優がもてはやされ、時代劇の主演を張るようなイメージは優先されなかった。
阿部寛ならそれなりに成立しそうだが三上博史陣内孝則が主演、となるとどうだろうか?
陣内氏には成田三樹夫の衣鉢を継いで欲しいところだが。

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今やジャニーズでそれなりに名が知れ、顔も知れた東山紀之TOKIO松岡、岡田准一が主演を演じるようになったのも面白い。
三匹が斬る!に出演していた近藤真彦には多少の違和感があったが東山の仕事人は違和感もない。
端正な顔立ちにカツラが似合うのかも知れない(主水と違いクールなキャラも合ってる)。
舞台の経験があり、体力があるから重さのある殺陣やクレバーな立ち回りもこなせ、主演としても申し分ない。

バブル

増田に

1980年代。時代劇の定番ネタがすっかり出揃って飽きられはじめた。

とあったが、このくだりは眉唾に思える。

天と地と

天と地と

1980年代は時代劇の当たり作品がかなり多い。
例えばCMが一番見どころだった角川の大作映画「天と地と」や大河ドラマ独眼竜政宗、必殺仕事人もシリーズ化。
劇場版必殺!も毎年のように作られた。
こんなヒットを飛ばしたのも1980年代半ばのこと。

だが時代はバブル景気。
かつてはテレビが一家に一台。
チャンネル権は父親母親、祖父母のもの。
好景気からテレビの普及率も上がり一人一台、一部屋一台となり、チャンネル権を持ち始めた若者に対してのドラマ制作が盛んになる。
いわゆるトレンディドラマの時代が来る。

時代劇と違って制作費が抑えられる恋愛ドラマ。
シナリオより役者、イケメン俳優と女優を大映し、くっつけて離してすれば視聴率が稼げてしまう。
「数字を持ってる」などとイケメン役者と視聴率が並べて語られるようになったのもこの時代じゃないだろうか。
景気が良い時に悲惨な話、貧乏くさい話なんて見ない。
世の中は軽薄なホイチョイ全盛期、時代劇だって衰退するのは必然とも言える。

刑事ドラマ

はぐれ刑事純情派 [DVD]

1985年。
必殺仕事人Vで京本正樹らの加入によって主婦層の人気を取り込むも、それ以降は方向転換に失敗。
シリアス、コメディと大振りし、必殺剣劇人を持って定番化していた必殺シリーズは最後となる。
中村主水が当たり役だった藤田まこと安浦刑事へとシフト。

かくて時代劇は減り、刑事ドラマが増えた。
平日夕方のドラマ再放送枠を見ても時代劇から刑事物へとバトンタッチされたのがよくわかる。
自分が幼いころは大江戸捜査網をやってたもんですが...死して屍拾うものなし。

今や当たり役は水谷豊の杉下右京沢口靖子科捜研の女。刑事ドラマはシリーズ化がたやすい。
時代劇より予算も安く、安定したファンを獲得できる。

テレ朝としては相棒に変わる新しいシリーズが欲しいようにも見えるがその辺はなかなか難しいらしい。
刑事黒薔薇でいいんじゃないですかね...貫地谷しほりはまだ33歳。
仮にシリーズが続いても全然やっていけそうな。
和泉聖治の方が厳しいかも知れないが。

引継ぎ

地獄楽 7 (ジャンプコミックスDIGITAL)

大人向けだった時代劇も衰退。
だが今や殺陣を見られるのが戦隊もの仮面ライダーになのもなかなか面白い。
前述した、

悪事が行われる→庶民が泣く→ヒーローが登場し悪を倒す(殺す、おしらすに引き摺り出す)

これは戦隊モノ、ライダー作品と一致する構造。
怪物、怪人、ハッキングされたヒューマギアだから殺して(壊して)事件の解決になる。
人間と違い刑事罰を与える必要がない。
刀を振り回せる時代だからこそマンガにも使いやすく「鬼滅の刃」や「地獄楽」など今連載されている作品にも(背景にしている)時代ものは多い。


時代劇というジャンルは衰退しても、同じ物語構造は他の作品に引き継がれている。

この辺、興味のある方は是非、春日太一「時代劇はなぜ滅びるのか」とか、中川右介「月9 101のラブストーリー」なんてのもあります。
ジャンルの栄枯盛衰がよくわかる。

なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)

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