今日はナショナルジオグラフィックです。


日本語版 もありますが、まずはこちらを。


http://news.nationalgeographic.com/news/2010/09/photogalleries/100921-new-species-science-armored-wood-eating-catfish-amazon-pictures/#/wood-eating-armored-catfish-log_26196_600x450.jpg



写真を見てみましょう。5枚ありますが、最初はホワイトテールアカリ。フィラメントが残っているのと


周りのわざとらしい水没生木の枝などから見ると、そこそこの大きさですが、2枚目の写真よりは


小さいと思います。2枚目と3枚目は同じ人の写真クレジットが入っていますから、恐らく同一個体。


歯の数が、このサイズの巨大パナクエにしては少ないです。私見では1枚目から3枚目まで、


ホワイトテールアカリだと思います。4枚目はホワイトテールアカリの名付け親、ナサンの


CTスキャン。種は彼に聞かないと分かりません。5枚目は恐らくホワイトテールパナクエ。



これで最近のモヤモヤが少しすっきりしたように思われます。


しかしこの9月21日の記事、日本語版では全ての写真や文は翻訳されていないようですが・・・。


 

問題はここではなくて、木を食べるナマズの解説をジャーマン君がしていることです。


彼とは直接話をした事がありませんが、パナクエを「木を食べるが消化はしない」と結論付けており、


木に付いているバクテリアなどを食べていると主張しています。しかし、彼はそれを確かめては


いません。他の木を食べれる動物と比較し、木を食べる動物としてパナクエは不十分であると


言うことを論文で書いています。いぜん、ではなぜ木を食べるのかについてはまだ誰も


解明しきっていない段階でです。バクテリアを食べている云々であれば、海産草食魚系と


同じ結論であるから、まあ誰も文句は言わない安全圏です。私も、それも有りかなと思います。


しかし、パナクエはアマゾン水系に十数種は居ます。たった一種、しかもまだ誰も他に


調べていない種で実験をしてそこまで結論付けしてしまうのはどうかと思います。そんな


結果しか出ていませんから、もっとこの先の広がりを素直に楽しみたいと、私は思います。


ちなみに彼が言う「木は4時間も経たずに消化器官を通り抜ける」とは、水槽の中での実験。


水槽内ではこの魚、あまり木を齧らないのは事実です。この事には、とても多くの理由が


あるように私は思います。



すこし方向性がぶれましたが、ここからは木を食べるこの魚の意味や可能性に付いて


書いてみたいと思います。ナショナルジオグラフィックの記事では何か、もうそこで研究が


完結されているような内容で、あまりにも一方的な終わり方だからです。


さて、アマゾンの雨季には当然大量な朽木が魚の目の前に現れます。


ロイヤルプレコを採取した事のある人なら分かると思いますが、木は中が食べられ、


ウロになっているものが良くあります。あの部分を専門的に誰よりも早く食べるのが


パナクエです。腐って柔らかい、木の芯の部分を食べ、乾季はその残骸にいつまでも


引っ付いている魚です。私はアラグアイア水系のゴールドラインロイヤルを使って


実験をしました。雨季と乾季で食べているものが違うのかを知りたかったからです。


結果は、生涯通じて単一食であろうということが分かりました。先のジャーマンの研究結果と


あわせると、マイナーだと思っていた点が、実は大きな意味があるのではないかということに


気が付きます。論文にも書きましたが、この魚の耳石中の安定炭素同位体値が異様に


低いのです。草食性の魚は肉食魚よりもこの値が低いのですが、それにしても低かったのです。


私は仮説を書きました。腹の中でメタン発酵が行われているとすれば、この低さは


理解できるのではないか?と。これは、腸内細菌の中にメタンを生成する微小生物が居る


と想定することです。ここでこの魚が木を食べる意味を考えます。この魚は通性嫌気性菌や


菌糸類に、餌である木の削りかすを与え、腹の中で育った腸内細菌そのものを消化して


成長しているのか?と最近考えるようになりました。硝酸塩の(そして亜硝酸塩も)多い


水槽環境下では木を削らず、餌を待つようになるのも、この辺りが鍵になっている


気がしています。更に面白いのは、ブラジルのシングーやタパジョスのロイヤルでは、


歯が薄く、数の多いものが居ます。私は本当にこの2つの個体群が、沈んだ木のみを


頼りに生活しているのか疑問に思っています。彼らの生息地が他の個体群の生息地よりも


水の透明度が高いわけですが、より急流に適した大きな口も、摂餌にとって重要な意味がある


気がしてなりません。


この先、恐らく12月頃にNYのダン・スチュワート(私の恩師の一人)と、TXのナサンから、ペルーの


大型パナクエの論文が出ると思います。そしてイギリスのワットと、うちの研究所のシュワイアー


は、ロイヤル・パナクエから窒素固定できる菌類を見つけて研究中です。この先も必ず何か、


面白いことが出てくると思います。