Newspicks記事「【ドキュメント】日本のiPS細胞は、なぜガラパゴス化したのか?」の内容は、厳しいが現実なのだろう。

 

https://newspicks.com/news/4406530/body/?ref=index

 

 

・文部科学省とともにつくったiPS研の「主力事業」であるはずの、iPS細胞バンク(現iPS細胞ストック事業)への公的支援を、突如打ち切る、というのだ。

 

・その深層に迫っていくと、イメージとは180度異なる景色が見えてくる。本当は山中は、支援がここにきて打ち切りになる理由を、よく分かっていたのではないだろうか。

 

・「iPSバンクの細胞は品質が安定せず、治療にはまだ到底使えない」

専門家たちはそう評価を下す。そうした評価の内容は当然、山中の耳にも届いているはずだ。そして、世界市場を見ている医療産業界は、このバンクの使用を敬遠している。

 

・あまり知られていないことだが、iPS細胞をつくる際に使う遺伝子など6つの因子のうち、当初は一部の特許がアメリカ製だったという。これをメード・イン・ジャパンにせよという政府の号令がかかり、1因子を日本製の別のものに変更している。

これにより作製の効率が悪化していったというのが実態だという。莫大な資金投入が無駄になる可能性が見えているし、この国のiPS細胞は、いつの間にかガラパゴスと化していたのだ。

 

20131月、政府は再生医療に10年で約1100億円もの研究支援を決定。そのほとんどが、iPS細胞の再生医療と周辺事業に注ぎ込まれたとみられる。iPSバンクだけでも2018年度までの6年間で、少なくとも94.7億円が使われている。

ところがこの23年、その看板事業の不都合な真実に、国も山中も薄々と気付き始めていたに違いない。

 

・「iPS細胞は、安定した樹立方法すらまだ確立されていない」

「製品化には何十種類ものiPS細胞に都度、臨床試験が必要なため、製造コストが見合わない」

こうした専門家や関係者たちの指摘を整理すると、つまりこういうことだ。

まだ基礎研究もおぼつかない段階で、製品として売り出すiPS細胞の備蓄に莫大なカネを投じる必要が、そもそもあったのか──

だが、安倍政権の「肝いり」で投資してきた事業だ。少なからぬ恩恵や支援を受けてきた再生医療関係者の中から、今さら「失敗」だったと声を大にして言う勇気のある者は出てこない。

 

・「日本は、当初から無理筋だったiPS細胞ストック事業に時間とお金を使った。戦略を見直すには、時間が経ちすぎました。あとは誰がどうクローズするか、残るのは撤退戦だと思います」

200814年まで京大に在籍し、iPS細胞の大量生産技術の開発に長らく関わってきた、仙石慎太郎・東京工業大学准教授はそう指摘する。

 

・政府にしてみれば、粛々と段階的に予算を縮小していく他ない。それに、ノーベル賞受賞を機に、これまで山中を散々担ぎ上げてきた罪悪感も、少しはあったのかもしれない。

こうしてバンク事業は2020年度以降、京大から切り離し、公益財団にすることが決まる。ほそぼそと支援を続けることで、代表理事になる山中に国として花道を用意しようというわけだ。

 

・気付けば世界の再生医療は、iPS細胞ではなく、もう1つの万能細胞「ES細胞」や、元々体の中に存在する「体性幹細胞」による治療が主流となっている。

 

・日本では「iPSで世界初」とうたわれた目の難病や脊髄損傷などを対象とした臨床試験は、アメリカや中国、イギリス、カナダ、韓国などにおいては、とっくにES細胞で29件が実施され(上表参照)、大きく先行している。

つまり、iPS細胞で起死回生を図り、世界トップクラスを目指して多額の投資をしてきたはずの再生医療で、日本は全く勝っていないのだ。なぜ、このような事態に陥ったのか。

NewsPicks取材班は、こうした国家戦略の「失敗」の真因を掘り下げることを試みた。そもそものボタンの「掛け違い」の始まりは、おそらく2007年にまでさかのぼる。

 

iPS細胞には、ほぼ性質が同じ先輩のような細胞が存在する。それがES細胞だ。米ウィスコンシン大学のジェームス・トムソン教授がヒトES細胞の樹立に成功したのは、1998年のことだった。

 

・ところが日本では、ES細胞には「倫理的に問題がある」ことが強調され、厳しい規制が課されたために、iPS細胞誕生前から研究が遅れてきた経緯がある。

というのも、ES細胞は受精卵を元につくられるため、新たな生命の機会を奪っている、とされたからだ。

実際には、体外受精の際、余って廃棄されるものが、合意の下に利用されている。日本でも廃棄の際に供養されるものではなく、そこに倫理的なプロセスは存在しないのが実態だったはずだ。

 

・事実、アメリカのカトリック教徒でも、他の医療行為と比べても遜色ない67割が利用を問題視しておらず、諸外国では適切なコンプライアンスの下で産業・研究応用されてきた。

カトリックが大多数を占めるフランスですら、早くも2013年にはES細胞でつくった細胞を、重症心不全患者に移植する臨床試験を行っているほどだ。

 

・世界では、再生医療といえば「遺伝子治療」にシフトしていることがうかがえる。

・臨床応用の初期に、予期せぬがんが発症し、一度は頓挫。しかし遺伝子導入技術のブレイクスルーを経て、数年前からアメリカなどでは細胞治療よりも脚光を浴びている。

遺伝子治療で治療可能な疾患なら、iPS細胞のように、わざわざ品質が不安定な細胞移植を選ぶ理由はない。

 

iPS細胞について分かってきたのは、当初思われていた以上に細胞ごとに性質が異なり、不安定ということだ。

また、現行の臨床研究や治験は、まだまだ安全性を確認する最初のフェーズであり、再生医療として一般的な治療となるには道は遠い。

むしろ再生医療よりも筋がいいのは、「病気の原因究明」への応用だろう。

 

IT起業研究所ITInvC代表 小松仁