「迷走電流」火災の原因に 3人死亡の倉庫出火

社会・くらし
2019/11/25 21:00

東京都大田区のマルハニチロ子会社の物流倉庫で2月に3人が死亡した火災で、警視庁捜査1課は25日、溶接機の電流が予期しない経路を流れる「迷走電流」が火災の原因だったと特定し、溶接作業担当の男性(64)を業務上過失致死などの疑いで書類送検した。同庁によると、迷走電流が原因の火災について業務上過失致死罪で立件するのは全国で初めてという。

火災は2月12日午後1時半ごろ、大田区城南島の5階建ての倉庫で起き、5階部分の約700平方メートルが燃えた。倉庫では食品を保管する冷凍機の入れ替え作業に伴い、屋上で配管の溶接工事などが行われていた。倉庫には当時約60人がいた。

作業員の書類送検容疑は屋上で作業中、アースなどで適切な電気回路を確保することを怠って火災を発生させ、5階にいた40~50代の男性3人を死亡させた疑い。

捜査1課によると、屋上で配管の「TIG(ティグ)溶接」の作業中に突然、約20メートル離れた5階の壁から出火した。TIG溶接はタングステンの棒に電流を流し、ガスを吹き付けながら高熱で材料同士をつなげる。

作業の際はアースや「渡り」と呼ばれる金属棒を使って溶接機の電流を安全な経路に流す必要があったが、作業員は「(火災当時は)渡りを置き忘れた可能性がある」と説明したという。

火災で煙が上がる倉庫(2月、東京都大田区)

火災で煙が上がる倉庫(2月、東京都大田区)

捜査1課は、電流が予期しない経路に流れた「迷走電流」が火災の原因の可能性があるとみて捜査。当時の状況を再現実験したところ、溶接機から迷走電流が起きた場合、離れた場所の電気ケーブルが過熱する状況を確認した。

同課は今回の火災の原因について迷走電流により電気ケーブルのチューブが過熱し、周辺のウレタンに引火したと断定、溶接担当の作業員の過失を立件した。

迷走電流が発生した場合、作業中のエリアから離れた場所で出火することがあり、危険性は大きい。都内の建設会社の担当者は「迷走電流によるヒヤリハット事例は多い」と指摘する。

川崎市川崎区の事業所では2014年12月、溶接作業中に溶接機から約3.5メートル離れた電線をまとめるチューブが突然燃えた。作業員が消し止めけが人はなかった。

チューブ周辺に火の気はなく、川崎市消防局が原因の研究を進めた。再現実験によると、溶接機から流れた電流が迷走してチューブを通過し、チューブが過熱して開始から約80秒後に出火した。

チューブの表面温度は最高で495度になった。この火災では作業員が溶接機のアースの取り付け位置を誤ったことが原因と判明し、事業者が再発防止策を講じた。

公益財団法人「市民防災研究所」(東京)の坂口隆夫理事は「迷走電流をはじめとして電気を使う作業には発火リスクがつきまとい、状況によっては大規模火災につながる恐れもある。多くの作業員が出入りする工事現場では下請けを含め、安全な作業手順の確認徹底が欠かせない」と話している。

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