リーク報道で注目されていた「Yahoo! Japan」を運営するヤフーと、「LINE」を運営するLINE社の経営統合ですが、2019年11月18日に両社の統合が正式に発表され、現実のものとなりました。さまざまな手続きを経る必要があることから正式な経営統合は約1年後の予定だそうですが、日本を代表するインターネット企業同士の統合となるだけに、当面両社の動向には注目が集まることとなりそうです。
▲「Yahoo! Japan」のヤフーを傘下に持つZホールディングスと、「LINE」のLINE社は2019年11月18日に経営統合を正式に発表した
両社の経営統合に関しては既にさまざまな報道がなされていますが、その中で多く見られるのが、両社が「スーパーアプリ」を目指すのではないかということです。しかしながら日本語版のWikipediaで「スーパーアプリ」を検索すると、日本の同名企業に関する記事が出てくるくらいの状況。スーパーアプリは多くの人にとって、それほど馴染みのある言葉ではないように見えます。
では一体、スーパーアプリとは何のことかと言いますと、要は「何でもできるアプリ」ということになるでしょうか。スマートフォンのアプリといえば、基本的にはSNSやEコマース、交通、決済......などといったようにサービス毎にアプリが分かれており、SNSであればSNS、決済であれば決済のアプリを起動してそれぞれのサービスを利用するというのが一般的です。
ですがスーパーアプリは、1つのアプリの中に、SNSやEコマース、決済などのサービスを実現する「ミニアプリ」が揃っており、アプリから離れることなく生活に関するあらゆるサービスが利用することができます。1つのアプリ上で展開されている、プラットフォームというべき存在がスーパーアプリなのです。
そしてスーパーアプリがもたらす大きなメリットとなるのは、認証や決済に必要なIDやパスワード、クレジットカード情報などの登録を全てのミニアプリで共有でき、サービス毎にそれらの情報を登録し直す必要がなくなること。ユーザーからしてみれば少ない手間であらゆるサービスを利用できることから、非常に利便性が高い存在となっている訳です。
スーパーアプリが多く使われているのはアジア圏であり、有名な所ではインドネシアの「GO-JEK」やシンガポールの「Grab」、中国の「Alipay」「WeChat」などが挙げられるでしょう。元々、前者の2つは配車アプリ、他は決済アプリ、コミュニケーションアプリと特定の用途で人気が出たアプリなのですが、その人気で獲得した顧客基盤を活用するべくプラットフォーム化を推し進めたことで、スーパーアプリへと進化したといえるでしょう。
▲東南アジアで配車アプリとして人気の「Grab」も、決済やフードデリバリーなどサービスの拡大によってスーパーアプリ化を推し進めている
ですがよくよく考えてみると、こうした発想はWebにおけるポータルサイトと大きく変わらないように見えます。実際、Yahoo! Japanも「Yahoo! ID」と「Yahoo!かんたん決済」を登録しておけば、それらを用いてメールやエンタテインメント、ショッピングなどに至るまで、Yahoo! Japan上で提供されているさまざまなサービスの利用が可能です。
▲Yahoo! Japanは1つのIDで非常に多くのサービスを利用できるポータルサイトであり、Webサービスとしての存在感は大きいが、スマートフォンアプリでは出遅れにより大きな成功を収めるに至っていない
では一体、ポータルサイトとスーパーアプリは何が違うのか?といえば、Webかアプリかの違いということになるでしょう。そしてなぜ、Webではダメでアプリでなくてはいけないのか?といえば、ユーザーがスマートフォンからインターネットサービスを利用する上では、そちらの方が便利になっているからです。
パソコンの時代は、インターネットサービスを利用するにはWebブラウザを経由するのが一般的でしたが、スマートフォンではアイコンをタップするだけで起動できる手軽さから、その利用がアプリへと移っているのです。そうしたことからスマートフォンでポータルサイトの存在感が低下した一方、アプリでその需要をうまく獲得したスーパーアプリが人気を博すに至ったといえるのではないでしょうか。
実際ヤフーもポータルサイトでの成功体験が大きかったことからスマートフォンでの展開が遅れ、アプリでは大きな存在感を発揮できていません。そうしたことからヤフーはスーパーアプリに向けた新しいアクションを起こすべく、その基盤となるスマートフォン決済の「PayPay」に注力するに至ったと考えられます。
PayPayはヤフーとその親会社のソフトバンク、さらにはその親会社となるソフトバンクグループも巻き込む形で、大規模キャンペーンと積極的なプロモーションによって顧客基盤強化を積極化。順調に会員を獲得しその基盤が出来上がってきたことから、最近はPayPayのアプリを軸とした、スーパーアプリ化戦略を明確に打ち出すようになっていました。
▲ヤフーとソフトバンクは「PayPay」のスーパーアプリ化を目指しており、今後は金融サービスの提供も視野に入れていた
一方、国内でスマートフォンアプリで成功し、スーパーアプリ化を進めようとしていたのがLINEです。LINEはメッセンジャーアプリとして国内外で多くのユーザー獲得に成功したことを受け、2012年にプラットフォーム化を宣言したのですが、当初はLINEを軸として、「LINE NEWS」や「LINE MALL」など、LINE関連アプリのダウンロードに誘導するというのがプラットフォーム戦略の軸となっていました。
ですがスマートフォンにアプリをダウンロードするには時間と手間が発生し、その手間をユーザーが敬遠するようになっていきました。そこでLINEは戦略を転換し、LINEのアプリから移動することなくさまざまなサービスが利用できるよう、公式アカウントを軸としたサービス提供を重視するようになったのです。
その動きを象徴しているのが、2015年にLINEのアカウントを通じたニュース配信機能を外部の企業にも開放する「LINEアカウントメディア プラットフォーム」を提供したこと。この頃からLINEは、「LINEデリマ」「LINEショッピング」など生活系サービスを中心として、を公式アカウントによるサービス提供に力を注ぐようになっていきました。
▲LINEは2015年末より、LINE NEWSの配信機能をメディア企業に提供する「LINEアカウントメディア プラットフォーム」を提供しているが、その頃からLINE上で利用できる、公式アカウントを活用したサービスの提供に注力していった
しかしながらそのポテンシャルを、特に収益面で大きな成果に結び付けられていなかったことから、結果的にヤフーを傘下に収めるZホールディングスの経営統合に至ったといえるでしょう。そうしたことから両社が統合を発表した今後は、共にスーパーアプリ化を目指していたPayPayとLINEの整合性をどのように取っていくかが注目される所です。
ですが日本でスーパーアプリを目指しているのは、両社だけではないようにも見えます。アプリの中でミニアプリを提供してプラットフォーム化し、サービスの拡大とユーザーの利便性向上を図るという動きは、NTTドコモの「d払い」などでも見られるものですし、KDDIも「au WALLET」アプリに金融・決済系のサービス集約を進めていることから、今後スーパーアプリ化を推し進める可能性が考えられます。
▲NTTドコモの「d払い」もミニアプリに対応し、アカウント登録不要でさまざまな企業のサービスの利用や決済ができるようになった
さらに言うならば、既に豊富なインターネットサービスを持つ楽天や、メルペイの提供でサービスの幅を広げつつあるメルカリなど、国内インターネット大手が今後スーパーアプリ化を推し進める可能性もないとは言い切れません。それだけに今後、国内でのスーパーアプリを巡る争いは急速に激しくなってくるといえそうです。
ただスーパーアプリの動向を見ると、ユーザーの利便性追求のため特定の国の環境に特化する傾向が強く、成功したスーパーアプリをそのまま他の国へ進出するのは難しい傾向にあるようにも見えます。そうした壁を乗り越えて世界的に成功できるスーパーアプリが出てくるのかというのも、今後注目されるポイントといえるのではないでしょうか。