マルウェアを含む18ものiOSアプリは、いかにアップルの「App Store」に紛れ込んだのか

クリックをでっち上げて広告収入を水増しするアドフラウドのアプリが、アップルのApp Storeで18個も見つかった。これまで比較的安全とされてきたApp Storeも、こうした巧妙なアプリに対しては完璧ではないようだ。

<p class='caption'>NORA CAROL PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES</p>

NORA CAROL PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES

iPhoneは、いま購入できるデヴァイスのなかで最もセキュアな製品のひとつだ。悪質なウェブサイトから長期にわたりハッキングを受けるという大きな失策が明らかにされたものの、いまだに安全であることには変わりない。

この安全性には、アップルが承認したアプリのみダウンロードできるという「App Store」のエコシステムが大きく貢献している。ところが、見落とされることもある。App Storeには、アップルの監視の目をすり抜けた悪意あるアプリが18個も含まれていたのだ。

これらの悪意あるアプリのうち17個は、モバイルセキュリティ企業のワンデラ(Wandera)によって発見され、すべて同じデヴェロッパーによるものだった。残るひとつもアップルが同様の手法を使って発見した。現在、これらはすべてApp Storeから削除されている(電卓からヨガポーズ集のアプリまで幅広いアプリが含まれていた)。

これらのアプリは、最近取り沙汰されている別のiOSの欠陥のように、被害者のデヴァイスからデータを盗んだり、デヴァイスをコントロールしたりすることはなかった。その代わりに、デヴァイスのバックグラウンドで見えない広告を流して広告収入を水増しするために、広告がクリックされたようにでっち上げていたのだ。

ちょっとしたきっかけで発覚

こうしたアドウェアは、Androidではよくみられる。これはAndroidプラットフォームのアプリストアに悪意をもったデヴェロッパーが数多くいることが一因だ。では、iOSはどうだろうかといえば、Androidほどではない。

アドウェアによってユーザーが被る最悪の影響は、バッテリーが早くなくなってしまうことと、データ使用料の請求が高額になってしまうことだろう。一方、iOSのマルウェアの最新事情で注目すべき点は、マルウェアが何をするのかではなく、どのように侵入してきたのかである。

これらのマルウェアは、ちょっとしたきっかけで見つかった。あるときワンデラのセキュリティソフトウェアが、顧客のiPhoneで発生した異常なアクティヴィティにフラグを立てた。ある速度計アプリが、コマンド&コントロール(C&C)サーヴァーと予期せぬ通信を行ったのだ。

このC&Cサーヴァーは、別のAndroid向けのキャンペーンにおいてアドフラウド(広告不正)を実施するマルウェアに指令を出しているとされたことがあった。要するに、このiOSアプリは不正な動作を行っていたのだ。

単純だが“スマート”な手口

ワンデラはそこから逆向きにたどっていった。このアプリのデヴェロッパーがインドのAppAspect Technologiesであることを突き止め、さらなるテストのために同社が提供する多数のアプリをiPhoneにインストールした。まず実施したのは静的解析だ。コードにじっくりと目を通し、悪意のある部分がないかを確認する。次は動的解析によって、遠く離れたサーヴァーへ悪意をもって外部接続していないかを探す。

「普通だと、ここで怪しいアクティヴィティが見つかります」と、ワンデラの製品担当ヴァイスプレジデントのマイケル・コヴィントンは語る。「しかし今回、この段階では怪しいアクティヴィティは見つかりませんでした」

まったく何もだ。ヒントすら見つからなかった。しかしワンデラは調査を進めた。同社の標準的なテストセットアップでは、Wi-Fiに接続した数台のiPhoneを使っていた。大量のダウンロードが行われるので、結局のところ、そのデータすべてを使用する必要はない。しかし分析で行き詰ったあと、調査員たちはSIMカードを挿入すると何が起きるのかを見ることに決めた。

そして待った。数日後になって、17個のアプリが同じアドウェアサーヴァーにつながり始めたのである。

「これらのアプリはただ数日待つだけでなく、デヴェロッパーが意図したほかのコンテキストが揃うまで実際に待つような“知性”ももち合わせていました」とコヴィントンは語る。今回のケースでSIMカードの利用は、そのスマートフォンが実際のユーザーの所有物であることを示していた。つまり、セキュリティの調査員や、App Storeの承認のためにアプリのスクリーニングを行う人の目をかいくぐろうとしていたのだ。

単純だが賢い手口だ。そしてさらに重要なのは、今回のケースでこの手口が有効だったということだろう。こうしたアプリのひとつをダウンロードした場合、そのアプリはあなたが調査員などではなく実際のユーザーであることを確信できるまで、完全に普通のアプリであるかのように振る舞う。そして、ユーザーだと判断する段階まで来たときに、このアプリのボス、つまりC&Cサーヴァーに接続し、見えないクリックを生成するように指示を受けるのだ。

コードに潜む悪意

AppAspect Technologiesは質問に対して、この問題を認識していなかったとメールで反論した。アップルがアプリを削除したあとで初めてこの問題に気づいたのであり、現在はコンプライアンスの基本に立ち戻って取り組んでいるという。

公平な立場から言えば、「アプリがこのような動作をしていることを知らなかった」という言い分はもっともだと言えるだろう。デヴェロッパーは、サードパーティーや無認可の製造元のコードをアプリの開発に組み込むことがある。このため誤ったコードを組み込んでしまった場合、簡単に、そして図らずもアプリを悪意あるものにしてしまう。

アップルは、今回より大きな規模の問題を経験したことがある。2015年には、一部のデヴェロッパーフォーラムがホストしたXcodeソフトウェアツールに、データを盗み出すコードが追加されていたのだ。その結果、多数の感染したアプリがデヴァイスに忍び込むことになった。

アドウェアは、それに比べれば深刻な問題ではない。そして再三になるが、iOSよりもAndroidに蔓延した問題だ。セキュリティ企業のESETはこのほど、「Google Play ストア」でアドウェアに感染したアプリを42個発見したと発表した。アプリのダウンロード数は数百万件にもなる。こうした事例はiOSでも前代未聞ではないが、特にこれほどの件数を出すようなケースは、Androidの場合よりもずっとまれだ。

「よく今回のマルウェアを見つけたと思います」とSudo Security Groupの創業者で、iOS向けGuardian Firewallアプリの開発者であるウィル・ストラファックは言う。

これらは「マルウェア」ではない?

この事実は、アップルのApp Storeのスクリーニング手順が思っているほど堅牢ではないということも示している。アドウェアに関しては特にだ。「アドフラウドはユーザーにとって実際に害のあるアクティヴィティとは関係ないので、アップルによる取り締まりの優先度はあまり高くないようです」とストラファックは話す。

「アドウェアはアップルによるチェックの対象外でした。アドウェアが発見されたことによって、アップルがチェックする内容が少し変わったのではないかと思います」と、ワンデラのコヴィントンは話す。

この点において、アップルは同社の規定に違反しているアプリを削除したこと、および今後このような禁止アクティヴィティをもっと検出できるようにスクリーニングツールをアップデートしたことを認めている。

しかし同時に、これらを「マルウェア」と呼ぶことについては異議を唱えている。アドフラウドはスマートフォンの使用体験を直接妨害したり、スマートフォンからデータを盗んだりするものではないからだ。つまり、権威主義国家がもしかしたら実施しているかもしれない大規模な監視行為とは、わけが違うということだ。

より大きな問題

マルウェアの定義はさておき、おそらくiPhoneの所有者のほとんどは、App Storeでアプリを探す際に、クリックをでっちあげるようなアプリが見つからないことを望むだろう。しかし今回の問題は、そうしたことが起こりうるもので、実際に起こったという教訓になる。

「このようなアプリを取り締まったり、防止したりするのは本当に難しいと思っています」と、サイバーセキュリティ企業マルウェアバイツ(Malwarebytes)でMacおよびモバイルリサーチディレクターを務めるトーマス・リードは語る。

「こうしたことが起きたというのは、そこまで大きな問題ではありません。元来は避けられないことですから。それより問題なのは、人々が非現実的なレヴェルの信頼をアップルのApp Storeに寄せてしまっていることです。まるでかつて多くの人が『Macはウイルスに感染しない』と信じ込んでいたように」

RELATED

SHARE

テスラ「Cybertruck」の奇妙な見た目には、合理的な理由がある? 工業デザインの専門家たちの視点

テスラが発表した電動ピックアップトラック「Cybertruck」は、そのデザインが世間に衝撃を与えた。まるでゲームや映画の世界から飛び出してきたコンセプトカーのような見た目は、工業デザインの専門家たちの目にはどう映ったのか。

TEXT BY AARIAN MARSHALL

WIRED(US)

Cybertruck

IMAGE BY TESLA

テスラの電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」の写真がチャットで送られてきたとき、ラファエル・ザミットの最初の反応は“戦慄”そのものだったという。

「それはもう、『なんてこった!いったいテスラは何をやらかしたんだ?』という感じでしたね」と、ザミットは言う。「いったいどういうことなんでしょう?」

ザミットは、単なる中立的な立場からの傍観者ではない。デトロイトにあるカレッジ・フォー・クリエイティヴ・スタディーズの准教授として交通機関のデザインに関するMFA(美術学修士)プログラムを率いており、しかも四半世紀にわたって自動車デザインに携わってきた人物なのだ。そんなザミットにとって、Cybertruckは「行き過ぎ」なのだという。

「(Cybertruckは)わたしたちが学生に教えるルールを、文字通りすべて破っています」と、ザミットは言う。「してはいけないと教えていることすべてをです」。だが、これはデザイナーのためにつくられたピックアップトラックではない。

例えば、Cybertruckの上部がどれだけ薄いのかを見てほしい。屋根を支えている繊細で細くて大きく傾斜したDピラーもそうだ。これらの三角形を基にしたデザインから、トラックの上部が強度不足だと信じる理由はない。薄さがそう見せているだけである。

ザミットによると、彼やほかの自動車デザイナーは学生に対して、車両を安定して強く見せるために少し余分なものを付け加えるようにと教えている。たとえ工学的には、それほど強度を増さない場合であってもだ。

自動車のデザイン言語に一石

そう、これはまさに妥協のないクルマのデザインと言っていい。まるで終末後が舞台のヴィデオゲームで死体を運搬するためにつくられたように見えるからこそ、多くの人々が「えっ?」と目を疑うことになったのだろう。

それにデザインの傾向は、過去10年にわたるテスラ車から劇的に違う方向へと進んでいる。2年前に発表されて来年の生産開始が予定されている電動トラック「テスラ セミ」でさえ、エレガントで急降下する線によって構成されていた。

Cybertruck

IMAGE BY TESLA

それがCybertruck(マスク風に表記すると「CYBRTRCK」)において、これらのこだわりはすべて、ちょっとクモの巣が張ってしまった窓から放り出されてしまう。要するに、無視されてしまうのだ。

「ほかのメーカーは、自動車の基本的なデザイン言語を100年もかたくなに守り続けています」と、フィンランドのラハティ応用科学大学で教鞭をとる自動車デザイナーのリー・ウォルトンは言う。「(テスラの)歴史のこの時点において自動車のデザイン言語を大きく変更するようなことは、極めて異例のことです」

まるでコンセプトカーに見える理由

Cybertruckのデザインが奇妙に見える理由が、もうひとつある。それは、公道を走るうえで必要な要素がすべて揃っているようには見えない点だ。

まず、ステージで披露されたモデルには、米国で義務づけられているサイドミラーが付いていなかった(連邦政府は規則の変更を検討してはいる)。それに細長い形状のヘッドライトも、公道においては適法ではないだろう。

自動車工学の専門家は、前方からの衝突の際につぶれて衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンが明らかに存在しないことについて、懸念を抱いているという。Cybertruckのデザインが21年に生産開始する前に変わる可能性についてテスラに質問したところ、回答は得られなかった。

これらの理由からCybertruckはコンセプトカーであるように思えるのだと、ラハティ応用科学大学のウォルトンは指摘する。それと同時に「本当に興味深い」と彼は言う。「(ほかの自動車メーカーも)よくコンセプトカーを制作しますが、『いますぐ購入』のボタンをつけてウェブサイトには載せたりはしません」。だが、Cybertruckは100ドル(約10,900円)を払えば予約できる。

それでもなお、カレッジ・フォー・クリエイティヴ・スタディーズ准教授のザミットは、Cybertruckが素晴らしいのではないかと思っている。最初に戦慄を覚えたという印象は、その価格を聞いてある種の称賛に変わった。基本モデルが39,900ドル(約434万円)で、航続距離が300マイル(約480km)強でデュアルモーターを搭載した四輪駆動ヴァージョンは49,900ドル(約542万円)になるというのだ。

生産プロセスを合理化するアイデア?

この時点でザミットは、Cybertruckの独特の“美学”は生産プロセスを合理化するためのアイデアではないかと気づいた。映画で知られる「デロリアン DMC-12」と、デザインが不評だったことで有名なゼネラルモーターズ(GM)のSUV「ポンティアック アズテック」をかけ合わせたようなデザインには、意図があるというのだ。

「哲学的な意味で非常に純粋かつ機能的であることによって、テスラは伝統的な自動車生産の工程で必要だった部分の大半を完全になくしました」と、ザミットは指摘する。テスラがCybertruckのあらゆるデザイン要素をフラットで直線基調にしたことで奇妙な見た目になったが、結果的に高価な工具と金型のコストを削減できるかもしれないというのだ。「マスクは自動車史において、最も見事な変化のひとつをやってのけようとしているのかもしれません」

それでも、Cybertruckが成功するためには誰かが買わなければならない。従来のテスラ車からのデザイン面での乖離は混乱を呼ぶだろう。それにマスクとテスラは自らを「地球を破壊する気候変動に対する防波堤」と位置づけているが、Cybertruckにはそこまでの希望はもてなそうだ。

サンフランシスコにあるアカデミー・オブ・アート大学の工業デザイン学科長の俣野努は、あらゆる面において「人間中心主義に反している(anti-humanistic)」と指摘する(ただし実際に判断する前に公道でCybertruckを見たいとも話している)。ちなみに、マスクがCybertruckの設計においてインスピレーションを受けたという映画『ブレードランナー』は、過酷な奴隷労働に従事させるためにラボでつくられた人造人間が登場する物語である。

おそらくCybertruckは、「きみのブラスターを準備してくれ。こんなところからは逃げ出そう」なんて言うのだろう。ことによると、普通ならテスラのことを考えないような人々のためにトラックをつくるということが、マスクの天才的なところなのかもしれない。

でも、そんな人は存在するだろうか? 「その度胸をわたしは本当に賞賛しますね」と、ラハティ応用科学大学のウォルトンは言う。

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら

RELATED

SHARE