瀬戸の花嫁 君よ貴方よ   作:kairaku

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覚悟しいや  その2

ムーンデザート・チバ カジノ

 

先の一件からしばらく経ち。

永澄達はムーンデザート・チバで一番賑わっているカジノにいた。

もちろん遊びに来たわけではない。今から始まるのは真剣勝負。組と組とのお話合いなのだ。

 

「マジこええ……」

 

永澄は蔑称そのままボーフラのようにソファーの上で縮こまっていた。

豪華な部屋、いわゆるVIPルームに案内された永澄達一行はドリンクや豪華な水菓子を振る舞われながらも気は休まらない。

 

いや。実際は永澄以外は結構普段通りではあるが、それはその方が異常なのだ。

部屋の壁にズラッと並んだ強面ヤクザ。それに取り囲まれ冷静でいられる人間は普通ではないのだ。

 

永澄は涼しい顔で紅茶を嗜んでいる銀を横目で見てカジノに来る前の事を思い出す。

 

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「『平組(たいらぐみ)』? それがさっきの奴ら……」

 

「はい、この街を裏で支配していた極道です。瀬戸内組や江戸前組ほど大きくはありませんが、なかなか厄介な連中です」

 

ここムーンデザート・チバは表向き魚人貴族側の管理で治められていてはいるのだが……実際のところ、この平組という極道に管理を丸投げしていたらしい。

元々あまり繁盛してないこの土地を、現在のようなリゾート地まで仕立てたのはほとんど平組の実績なのだそうだ。

 

「そんな平組からしたら育てた魚を横取りされたようなもんです。当然平組は激怒、してるでしょうね」

 

「むぐぐ……」

 

「平組の組長『平魚盛(たいらのうおもり)』はこの街にあるカジノを根城としています。まずは会って話されるのがいいと思いますが?」

 

「ま、マジかよ……」

 

「ははは。大丈夫です我々も御供しますので」

 

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

銀、明乃と戦力的なメンバーが加わったものの永澄の不安は消えない。

というよりあまりよろしくない展開ではないかと無い頭を絞って考える。

 

(さっきの広場の件。不知火さんが魚人貴族の印籠使って治めたけど、あれってマズイんじゃないか?)

 

当然ながら永澄はまだ魚人貴族ではない。一週間後の天羅譜負御務(テラフォウム)の授賞式を受けるまではまだ永澄はただの中坊だ。

 

(なんか確実に既成事実というか、逃げられないように仕組まれたような気が……)

 

銀の立場を考えれば銀は完全な永澄の味方ではない。

では銀の同行を断れるかと言えば、ただでさえ右も左も魚人だらけのこの街でその選択は今度こそ命に係わる。

 

(不知火さんはどうなんだろう……)

 

もう一人の同行者、修練剣士不知火明乃。立場でいえば完全な魚人貴族側である。

だが永澄にとっては燦ちゃん救出の件、学校での付き合いといい、心の内では大事な友人。仲間だと信じている。

 

(ぐおおお燦ちゃん!! 俺はどうすればあああああああ)

 

悩む中坊。とりあえずとった行動は――

 

「お、お手洗いはどこですか?」

 

現☆実☆逃☆避☆

 

超が付くほど豪華なトイレで用を足す永澄さん。この瞬間だけは全てを忘れさせてくれる。

手を洗い、鏡を見ると再び現実が目の前にある。

 

「平組か……どんな組長が出て来るんだろう……燦ちゃんのお義父さんみたいな魚人だったら」

 

脳内でボコボコにされる永澄さん。

 

「それとも瑠奈ちゃんちタイプ……」

 

脳内でハチの巣になる永澄さん。なぜかセーラー服状態のルナパパにおぞましさ倍増である。

 

「うわああああああ怖ええええええええええ」

 

「――大丈夫だ。私が守護(まも)る」

 

「へ? わ、わああああああああ!? し、不知火さん!?」

 

後ろを振り向くと明乃が立っていた。修練剣士の正装に身を包み肩に剣を担いだ明乃は正に女剣士といった風貌だ。

その表情もなんとなくいつもより気が溢れているというか、やる気のようなものを感じる。

 

「び、びっくりしたぁ。いきなりこんなところに……」

 

「今の私の任務はお前を守護する事だ。その身を守る為ならばどんな所にも付いていく」

 

明乃の言葉に引っかかる永澄。先程の明乃に対する疑問が再び湧き上がる。

彼女は永澄にとって味方になるのか。それとも――

 

「そ、それは俺が魚人貴族になる……から……?」

 

多くを言葉にせず明乃の目を伺う永澄。

その視線にいざとなったらこちらに付いてくれるよね?的な懇願の感情を込める。

 

「ああ、そうだ。お前が魚人貴族になるからだ」

 

しかし明乃の眼は明確に任務、修練剣士としての立場を押し通すという強い感情が表れていた。

 

「――――」

 

思わず言葉を失ってしまう。先の燦ちゃんの一件以来味方と信じてた不知火明乃は魚人貴族側に立つという。

当然といえば当然かと永澄は思う。彼女はそれが仕事でそういう立場で生きてきたのだ。

 

(そもそもだって不知火さんは俺と燦ちゃんを別れさす為に来たんだ……そう、だよな……)

 

それでも。それでも悔しいと悲しいと思うのはやはり本当に大事な仲間と心から思っていて。

 

(あれ……俺、こんなにも不知火さんのこと……)

 

「……そんなに魚人貴族になるのが嫌か?」

 

震える永澄に何を思ったのか明乃が永澄に問いかける。

視線を外し、横を向いた明乃の表情はよく分からない。

 

「私は……お前が天帝に認められ魚人貴族に選ばれたのを聞いたとき――嬉しかった」

 

「え?」

 

「これでお前は晴れて魚人の仲間入りだ。瀬戸燦とも結ばれ、私もお前を斬らずに済む。そして何より――」

 

明乃は視線を永澄に戻し、真っ直ぐに目を見つめる。

その熱い視線に思わず息を飲む永澄。

 

「そして何より――新たな魚人貴族の社会を築ける第一歩になると思ったのだ!!」

 

「………………は?」

 

ばばーんと効果音が付きそうな明乃の告白に呆然となる永澄さん。

 

「正直言おう。今の魚人貴族の社会は腐敗している!! 彼らと直に触れ行動を共にしてきた私にはそれがよく理解(わか)った」

 

「そ、それは俺も思うけど……それがなんで俺と繋がるの!?」

 

「何を言う? 魚人貴族となったお前と瀬戸燦、二人が魚人貴族の社会で成り上がれば! 貴族側の姿勢を正す事が出来るだろう!」

 

不知火明乃の唐突な野心告白にもドン引きであるが、どうやらそれに永澄達を巻き込む気マンマンなのが一番マズイ。

いやいやと手と頭を横に振るう永澄さん。さっきの仲間発言を取り消したい!!

 

「ならば聞こう! お前は魚人貴族になったら不正に税を徴収し、それを己の懐にいれるか?」

 

「す、するわけないだろ!」

 

「その妻の瀬戸燦が公的な資金を横領して高級ブランドやエステに通うか?」

 

「ぜえええええええったいにない!!!!」

 

心からその言葉に同調するかの如く明乃は強く永澄の両肩を掴んだ。

肩に背負った剣が落ち、音が室内に響く。

 

「だろう? 私もそう思う。しかし今の魚人社会ではそれがまかり通るのだ……悩ましいことにな……」

 

永澄の肩に手を置きながら顔を伏せる明乃。

捕まれた肩から明乃の無念の慚愧が伝わる。

 

「だからこそ私はお前達と共に魚人貴族の頂点に立ち! そのようなことが出来ぬよう健全な魚人社会を創りたいのだ!!」

 

「むむむむむむむむっ!!??」

 

明乃の気迫に押され少しだけ想像を膨らます。

 

(燦ちゃんと組を立ち上げたところで俺の魚人貴族の肩書は消えない。むしろ『あの一件』のように酷い邪魔をしてくるだろうな)

 

天羅譜負御務やら天帝やらに巻き込まれ、現に今も大変な事態になっている。

 

(そうか。逆に魚人貴族の立場を利用して義魚みたいなヤツを倒すことも出来る、の、か?)

 

仮にその道に行ったとしても組長コースと同じ。茨の道になるのは想像だにし易い。

しかし貴族と極道。どちらか選べと言われれば貴族の方がマシな気もしないでもない。

 

「――すまない、熱くなりすぎたな。……忘れろ」

 

押し黙る永澄に我に返った明乃が肩から手を離し一歩後ろに引いた。

剣を拾い肩に担ぐと背を向ける。

 

「しかしだ。もしお前にその気があるなら、私は全身全霊を賭けてお前に尽くすつもりだ」

 

「ぜ、全身で尽くす……」

 

その言葉にすこりと反応してしまう中坊永澄。劇画タッチの作画になりゴクリと唾を飲む。

 

「ああ。身体、命、全てだ」

 

真面目に語る明乃とは裏腹に『女剣士のこの身を尽くす発言』というシチュエーションの方が脳内で勝ってしまうエロ澄さん。心の中でガウンを着た貴族永澄がワインを片手にニヤリと笑う。

 

そうとは知れず話は済んだとトイレから出る明乃。残される永澄。

 

「…………どうしよう」

 

「面白いことになってきたのぅ」

 

「うおおおおっ巻!!?? い、いたのかよ!!」

 

襟元からひょっこり顔出した巻にめちゃめちゃビビる永澄。まったく気付かなかった。

 

「貴族連中しばこうなんざ、いけ好かん役人の割りにたいした(タマ)じゃのぅ。んでフナムシどうすんのじゃ?」

 

「急にそんなこと言われても、まだ魚人貴族になってもいないのに」

 

「いっそのことさっきの話つこうて好き放題すればええ、ええ下僕になるぞ~~」

 

「そんな! それじゃ義魚連中と変わらない! ただのクズだ!!」

 

ほ~~んといった感じで永澄を見る巻。圧倒的疑いの眼差し。

対してさっきまでの下種な妄想を棚に上げカッコつける魚人貴族(予定)永澄。

 

「(後で燦さまに報告じゃ)まぁええわ。兎にも角にも平組シめんことには事は始まらん。覚悟せいよ」

 

巻の心の声を無視し、分かってるよと悪態つきながら永澄はトイレを後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

再びVIPルーム

 

 

「こちらの準備が揃いました。只今組長が参ります」

 

そう組員が告げると奥の扉が開いた。

いよいよ平組組長と対面だ。ゴクリと息を飲む永澄。

 

扉からは先に手下のようなスーツ姿の男達が現れると横に列をなし頭を下げる。

すると奥から妙齢の美人が豪奢なカクテルドレスで現れた。

 

(あ、あれが平組の組長!? 男だと思ってた!)

 

女性は対面のソファーに腰掛けると口に咥えた煙管に火を入れた。

 

「アタシが平組組長、平魚盛(たいらのうおもり)だ。よろしく満潮君」

 

「せ、瀬戸内組の使いで来た満潮組組長(一応)。満潮永澄です」

 

思わず首を垂れそうになったが何とか留まる。それほどまでに圧倒的な女王様オーラを放っている。

瑠奈ちゃんなんて目じゃない。これは(れん)さん(燦ちゃんのお母さん)級のオーラだ。

 

「まぁまずはよく来たと言っておこうか。わざわざ埼玉からこの土地に着て……何をしに来たかは知らないけど」

 

「知らない?」

 

「ああ知らないね。いったいアンタら何しに来たんだい?」

 

早速の挨拶にたじろく永澄。平組から瀬戸内組に縄張り(シマ)の所有権を移された件を知らないわけがない。

そして自分達が瀬戸内組の鉄砲玉、もとい交渉に来たことだって分かってるはずだ。

 

「この土地の所有権の話……です。魚人貴族側から明け渡すように言われたはず……です」

 

おっかなびっくり発言する永澄。めちゃくちゃ怖いがここで引いてはられない、これも燦ちゃんとの未来の為だ。

 

「あ~~そのことかい。それは勘違いだ」

 

「勘違い!?」

 

「そう、この土地が魚人貴族の土地だという魚人貴族側の勘違い。そうでないのに譲渡された瀬戸内組の勘違い。みんな勘違いさ」

 

「それは聞き捨てなりませんね」

 

永澄のソファーの後ろで立っていた銀が前に出る。役人というより仕置人というような剣呑な雰囲気を纏わせ魚盛を見つめる。

 

「あなた方はあくまで『我々』に依頼され管理を任された組織にすぎません。文面でも契約でも残されてる以上つまらない冗談は止めて頂きたいものですね」

 

「冗談ね……。アンタ方こそつまらない冗談言いなさんな。もともとここはアタシ達の土地さ。後付けで間に入って来たコバンザメが偉そうに言うじゃないか」

 

「あなた方の先祖を悪くいうつもりはありませんが、それが盛者必衰というものです。今更それは覆りません」

 

「ほう、一介の役人風情がウチの家を語るってか!?」

 

熱が上がってきた部屋に置いてけぼりの永澄。

譲らない魚盛に対し事情を良く知っていそうな修練剣士長銀はベテラン検事のように鋭く追及する。

 

(このまま銀さんに任せて何とかなれば……でなければ俺と燦ちゃんとの未来……)

 

ハッとする。どういう覚悟でここに来たのかと。

 

燦ちゃんと結婚する為に、燦ちゃんと一緒になるために。

その為には魚人貴族の肩書に負けない力を手に入れなければならない。

 

ここで銀の力に頼るという事はさっきの二の舞。

それは権力に屈したことになる!!

 

 

(そうじゃない!! 俺自身がそれに負けない強い漢にならなきゃ駄目なんだ!!)

 

 

そうここで――――『誰かに任せてどうする』!!!!!

 

 

「待った!!!!」

 

「なんだ坊主お呼びじゃないよ」

 

「さっきから勘違いしてんのはアンタだ」

 

「あ?」

 

「それと銀さんもだ!!」

 

「む?」

 

ぐっと拳を握る永澄。魚盛と銀。両方の視線が刺さる。

正直怖い。大人の本気の視線は中坊にはキツ過ぎる。

 

(でも!!!!)

 

燦ちゃんのお父さんや瑠奈ちゃんのお父さんの殺気に比べたら!!!!!

 

「これは平組と魚人貴族の話じゃない! 『平組と満潮組』の話だ!!」

 

「ガキが何言ってんだか分かってのかい!?」

 

殺気!! 頭の危険察知(センサー)がビクビクと反応する。

それでも立ち上がり堂々と言い放つ。

 

「分かっている!!」

 

「永澄殿、こういった事は私に任せてもらえれば――」

 

「銀さん! 俺はまだ魚人貴族じゃない。俺は瀬戸内組から看板貰った満潮組の組長、満潮永澄としてここにいる!」

 

「確かにそうですが……『その道』は大変ですよ? 無謀の極みだ」

 

こちらの事情を知ってか知らずか銀は言う。

 

 

ガキもガキ 張った張れない中坊永澄

 

魚人貴族であるならば 人任せにすむならば この話 容易くケリは着くだろう

 

だがしかし! されどしかし!!

 

(それじゃ駄目なんだ! これから先、燦ちゃんの夫として生きるなら背負わないと――責任も覚悟も!!)

 

 

「アンタらと魚人貴族の話は関係ない! それはそっちで決着(ケリ)を付ければいい。こっちはこっちで頂くモノもらわないと埼玉には帰れないんだ!!」

 

「アタシらと戦争()るつもりか……」

 

(例え自分が名ばかりの組長でも、相手がマジの極道でも。きっと燦ちゃんはこう言うんだ)

 

 

ケジメとして差し出されたものを後から無しにされ、ここでイモ引いて帰ったら瀬戸内任侠の名を折れじゃきん!!

 

 

魚盛を正面に見据え、どこからともなく現れた桜吹雪を舞い散らしながら想い人を心で重ねて言い放つ。

 

「ケジメはきっちり着けさせてもらう。……アンタさっき何しに来たんだと言ったな?」

 

 

「『その為に来たんだよ!!!!』」

 

 

静まり返る部屋。緊張という風船がパンパンに膨らみ、中に詰まった殺気が今にも噴き出しそうになる。

永澄の今の発言は宣戦布告と変わらない。いつ殺し合いが始まってもおかしくないのだ。

 

その場にいる全ての魚人達がただ一人の人間に注目する。

 

 

「ふふ、うふふふふ、はーはっはっはっ!!!!」

 

 

清々しいほどの豪快な笑い声が部屋に響いた。

沈黙を破ったのは魚盛だった。先程の女王の表情もどこへやら、煙管で灰皿を叩き口を大きく開けて笑う。

 

「いや~~くくっ、なんだいなんだい! 蓮ちゃんとの話と大分違うじゃないか!!」

 

急に上機嫌になった魚盛。部屋の空気が緩みだす。

 

「れ、蓮ちゃん?」

 

「蓮ちゃんの話じゃナヨナヨしたもやしっ子って聞いたが、なるほどなるほど。源の坊主をぶっ飛ばすだけのことはあるよ! いや~~」

 

今だに笑う魚盛に困った永澄。銀さんもやれやれといった感じで、明乃もただぼうっと永澄を見つめるだけだ。

 

「巻、蓮ちゃんって……」

 

「まぁなんじゃ、姐さんのことじゃ」

 

巻がやれやれといった具合で答える。

瀬戸蓮。燦ちゃんのお母さん。今回の千葉遠征の発起人だ。

 

「ど、どういうことですか?」

 

当然の疑問を魚盛に投げかける。笑いも落ち着き再び煙管に火を入れる魚盛は永澄に向き直るとニヤリと笑った。

 

「さっきは知らんって言ったけど、あれ嘘。事前に蓮ちゃん……瀬戸内組の女将さんと話は付けてある。もちろんアンタの事も聞いてる」

 

驚く永澄に対しプカリと紫煙を漂わせ悪びれなく話を続ける魚盛。

喋り方が砕けた感じになり、さっきまであった女王という雰囲気は消え、今は気の良い(アネ)さんといった感じだ。

 

「アタシと蓮ちゃんの家は古くから付き合いもあってな。ガキの頃から幼馴染。正真正銘のマブダチよ」

 

物思いに耽る魚盛。懐かしいぜと言わんばかりにキラキラと漫画的な回想が背景に流れる。

燃える単車、飛び散る血液。どうみても夜露死苦な世界である。

 

「っといけねぇ、話を戻すとだ。今回のケジメ、縄張り(シマ)の譲渡の件だがもう話は付いてある」

 

「ええええええええええ!!??」

 

「詳しい利権の話は省くが、まぁほぼほぼアタシらがまた引き継ぐことで決着は着いた」

 

ほうと銀は軽く唸ったがそれだけだった。特に何も言わず話を聞いている。

 

「ふん。アンタらクソ貴族は平組(アタシら)と瀬戸内組の間に戦争起こそうとしたつもりだろうがツメが甘かったな!」

 

マジかよと銀を思わず見てしまった永澄だったが当の銀はどこ吹く風でまるで他人事のように肩をすくめた。

 

「私は一介の役人ですので『上』の命令に従うだけです。どのような思惑があったかは知りません。が、役人の目線で言わせてもらえばここは貴族側でも重宝している『水場』です。そこを取られるのは結構痛いでしょうな」

 

「ならいっそのこと壊れちまえってか? ホント気に食わないね!」

 

会話が大人すぎてついてけない永澄。それでも頑張って頭の中で話をまとめる。

 

「ええっと……魚人貴族の策略で面倒な土地を押し付けられたけど、実はそこを仕切ってる平組の組長と燦ちゃんのお母さんは仲良しで、本来なら組同士の抗争が始まるはずだったけど、そうなる前に解決したと」

 

「まぁそんな感じじゃな」

 

はぁ~~~~と気が抜ける永澄。あんな啖呵切った手前、ただじゃ済まないと覚悟していたがとんだ茶番だったわけだ。

 

「巻、お前知ってたのか?」

 

「知っとった……と言いたいとこじゃが聞かされておらんかった。フン、まぁクソ役人の口から平組が出てきてからはなんとなしに感じとっちゃがのう」

 

事前に知らされなかったことに拗ねる巻を横目で見て永澄は一息つく。

一時はどうなるかと思ったけど、これで全て解決――

 

「じゃないんだなこれが」

 

魚盛が意地悪く笑う。

 

「まだ肝心なのが残ってるだろう?」

 

「肝心な事?」

 

「満潮君のパワーアップ。魚人貴族に負けない力が欲しいんだろ?」

 

「あ。……はい」

 

「正直言うとな、ちょっと前までケツに木刀ぶち込んで埼玉に突き返そうと思ってたんだ満潮君のこと」

 

髪を弄りながらめちゃめちゃ物騒なことをおっしゃる女王様。

思わず背筋がピンとなる永澄。

 

「広場での喧嘩。あろうことか天帝の印籠出して喧嘩止めたって聞いてな。マジクソ野郎だと思ったよ。例え蓮ちゃんのお願いでも断ろうってな」

 

魚盛はそこで言葉を切ると真っ直ぐ永澄を見た。

マジ美人な魚盛の視線に顔を赤くするエロ澄さん。明乃にコズかれる。

 

「けどな、さっきの啖呵聞いて分かったよ。あれはそこのクソ役人の仕業だってな」

 

ハハハと笑う銀さん。さっきからボロカスに言われてるが笑顔を崩さない。大人だ。

 

「あれは口だけじゃねぇ、本当の覚悟を感じたよ。その歳でなかなか漢っぷりだ」

 

「いやあ~~~~♪」

 

「心構えは良い。後はそれをかたちにする力だ。アタシが時間かけて鍛えてやりゃあ、まぁ人間の中じゃ最強にしてやれる……筋肉で」

 

マジかよと期待と恐怖を感じる。それって何すんの。

鎖に繋がれ軍用ヘリでウエイトトレーニングする自分を想像する。

 

「だが人間の満潮君に魚人貴族に対抗する力を身に付けるってのはめちゃめちゃ難しい。時間もないなら更にな」

 

「え、俺一応義魚倒しましたよ筋肉的なパワーで」

 

「あれは相手が馬鹿過ぎたんだ。本来ならそうなる前に終わっているよ。魚人貴族が暴力で何とかなるなら豪ちゃんが天下取っちゃうでしょ?」

 

「な、なるほど(豪ちゃん……)。じゃあどうしたら(豪ちゃん)……」

 

「大丈夫、手段はあるよ一応。多分漣ちゃんもそれを期待してるんだろうけど――」

 

そこで話が止まる。なぜなら突然扉が開きモヒカン頭の魚人が入って来たからだ。

 

「た、大変です!!」

 

(あ、こいつ広場で俺を挽き殺そうとしたヤツじゃん)

 

「なんだい今大事な話を――」

 

「ぽ、ポン刀持った女の子がいきなり現れて事務所で暴れてます~~~~!!!!」

 

モヒカンの言葉にピクリと反応する永澄。

一瞬頭に過ぎった想像は予知に似た確信を感じる。

 

――――でもなんでポン刀?

 

「さ、燦ちゃん?」

 

 

続く!!




もういいかなと思っていても書いてしまう瀬戸花SS。
いやほんと今更ですね。すみません

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