話の区切りごとにサブタイトルは変える感じです。
9/17 ちょっと加筆しました。
週末。ゆとりある土曜日。
「あ、これ可愛い!」
「うん、可愛い」
魚を咥えてご満悦な猫の表情が付いたストラップを手に取りはしゃぐ巡。
それに同調するいいちょ。
「そうか・・・・・・食われてしもうたか・・・・・・」
儚げな燦。巡の持ったストラップに何故か哀愁を感じている。
「え、どうしたの燦ちゃん!?」
「いやええんじゃ。猫からしたらウチらはしょせん餌じゃきん」
(瀬戸さん、たまにおかしなスイッチ入るなぁ・・・・・・)
珍しく部活が休みだった巡に連れられ、よくある大型デパートで健全なショッピングを楽しんでる燦、巡、いいんちょ。
女子中学生らしいはしゃぎっぷりで楽しげな雰囲気。とても平和な埼玉だ。
昼時になりデパート内のフードコートでハンバーガーとポテトをつまみながらワイワイと喋る三人。
さっき買った可愛い小物。最近見たテレビ。勉強。部活。
普通のありふれたお喋りだったが、ふと男子の話になり燦の顔が曇る。
「・・・・・・はぁ」
「あれ? 燦ちゃん元気ないぞ?」
「どうしたの?」
相談に乗るよと巡。いいちょも燦を伺う。
「・・・・・・最近永澄さんの様子がちょっとおかしいんよ」
「永澄君はいつもオカシイよ?」
「そ、そんなことないよ巡!?」
巡の軽口も燦には上の空でなにやら思い悩んでいる。
「なんとなくな、無理してるゆーか、気ぃ張ってるように見えてな」
「ん~~いつもと変わらないように思えたけど……」
「そうだね・・・・・・」
「・・・・・・私の気のせいなんかなぁ」
夫婦。とまではいかないが互いに気持ちが通じ合い、特に最近はいい雰囲気で過ごせてきたのに。
この間、永澄が遅くに帰って来てからどうも様子が変わった気がしてならない。
もちろん永澄の事は信頼してる燦であったが、それでも妙な胸騒ぎがする。
「もしかしたら不知火さんなら何か知ってるかも」
「え?」
「なんでいいんちょ?」
「たまたま帰り道の公園で不知火さんを見かけたの……最近不知火さん学校休んでたでしょ? 私クラス委員だから気になって話しかけようとしたの」
うんうんと話を促す巡。
「そしたらちょうど永澄君が現れたの」
「え!? なによなによ!! それってもしかして!!??」
学校の帰り道。夕暮れの公園。若い男女。
興奮するむっつり巡。燦は真剣に聞いてる。
一人盛り上がる巡に引きながらいいちょは否定するように首を振るう。
「違うと思うよ、そんな感じじゃなかったし。ちょっと話が聞こえたけど、なんか――『井戸』の話してたし」
「いど? いどってあの井戸? ・・・・・・なんで?」
「わ、わかんない。私もなんでだろって考えてたら二人ともいなくなってたの・・・・・・」
「ふーーん。――って、いいんちょ! さっき私に引いてたけどいいんちょも隠れて盗み聞きしてたわね!?」
「えっ!? ち、違うよ、たまたま! たまたま何となーーく二人の会話が耳に入ってただけ! 二人の関係が気になってアマゾネスみたいに木によじ登って盗み聞きなんてしてないよ!」
「ええ~~怪しいなぁ~~。 おりゃおりゃ! 正直に言わないと逮捕よ!」
「きゃぁ!? 巡こんなとこで――!?」
巡のオジサンモードに抵抗するいいちょ。
永澄達がガッツポーズしそうな乙女な風景にも燦は微動だにせず一人思考を巡らせていた。
(明乃っちが関わってるんならウチら(魚人)絡みのこと? けどお父ちゃんもお母ちゃんも何も言ってくれんし・・・・・・)
なんでなん、と途方に暮れる燦。が、ふと考え方を変える。
(魚人関係やないとしたら? 明乃っちと永澄さんだけの話やとしたら……)
バシャーーン!!と雷が燦の背後に落ちる。デカデカと脳裏を巡る『浮気』の二文字!!
「永澄さんに限ってそんな・・・・・・」
「燦ちゃん?」
心配する巡達を他所に首を振るう燦。
(何考えとるん! 妻のウチが夫を信じんで何が妻かっ!! そうじゃ永澄さんを信じて――)
「さーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!」
魚雷のようなスピードで一人の美少女が駆け寄る。
「瑠奈ちゃん? あれ今日は仕事で来れないって――」
「それどころじゃないわよ!! アンタ何のんびりしてんのよ!!??」
「? なにがあったん?」
「いいからこっちきなさい!!」
「――わっ!?」
瑠奈に引っ張られ強引に店から出される燦。そのままロケバスに乗せられ連れてかれる。
置いてけぼりの巡といいちょ。
「な、なんなの?」
「さぁ?」
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
車の中、瑠奈の話を聞く燦。
最初の方は瑠奈が何を言っているかよく分からなかった。
どこか違う世界の話でそれが自分に関係ある話なのかも理解出来なかった。
最後まで話を聞き、瑠奈に要約してもらい、ようやく今の現状を知れた。
「・・・・・・永澄さんが・・・・・・魚人貴族にな・・・・・・る・・・・・・」
「本当に知らなかったの?」
呆れると同時にうわっマズったと心の中で舌打ちする。
ライバルだなんだと言いつつも燦に甘い瑠奈である。
てっきり知ってるものと本人に喋ってしまったが・・・・・・。
(はぁ~~。燦に気を使ったんだろうけど・・・・・・下僕の馬鹿!)
燦の落ち込みようを見て瑠奈も後悔するが――だんだんとイライラし始める。
「だぁ~~~~もう!! 行くわよ燦!!」
「・・・・・・どこに?」
「アンタの旦那のとこよ!」
「うち・・・・・・永澄さんの居場所知らん・・・・・・」
「チッ! んも~~携帯に電話電話!!」
――プー。現在、電波の通じない所に――プチッ。
怒りのまま携帯を投げ捨てる瑠奈。
「ゲ、ボ、ク~~~~アイツこんな時に何処にっ!!??」
こうなったら江戸前組の力で~~と瑠奈の暴走が始まろうとする前に。
燦がぽつりと呟く。
「・・・・・・・・・・・・井戸」
「井戸?」
ムーンデザート・チバ
あたり一面の砂丘。
その中にようやく人間が生活できそうなオアシス(街)があった。
その街の中央には巨大な噴水広場があり、それこそ数えられない程『エラの張った』人が泳いでいた。
噴水広場を囲むように出店やレストランがあり。家族連れや酔っ払いが街を賑わしている。
その人通りからさらに奥。巨エラの看板が掲げられた如何わしい店がある通り。
ビールの空き瓶が散乱した小汚い路地裏で、業務用のダストボックスの陰に隠れ一人の男が息を潜めていた。
ボロボロのマントを顔まで被り。何かに怯えるように辺りを見回す。
まるでそれは野良猫に怯えるドブネズミのようであり、思わず目を背けたくなるような哀れな姿だった。
――そしてそれは永澄だった。
「ヒャッハーーーー!!!!」
「人間狩りじゃ~~~~!!!!」
大型バイクにまたがり、ご機嫌にアクセルを吹かし釘バットを振るうモヒカン。
サバイバルナイフでジャグリングするやんちゃなトゲ付き肩パット。
(なんでこんなことに――――!!!!)
井戸での転送中、永澄が思った事はやっぱり魚人のアイテムは人間が使ってはいけないという事だ。
井戸の中の流水に為すすべなく流される中、ただの人間の永澄は当然息が出来ず。
「あ、これは死んだな」と溺死を予感した二、三秒後にようやく水面に出れたのだ。
水から顔を出し、ぶはっと思いっきり空気を吸い込んだと同時に額に突き付けられる銃(チャカ)。
「へ?」
「なんじゃこのガキ?」
強面のお兄さんが額をピキピキさせながら今にもブっ放しそうな剣幕で問いかける。
虎の皮の絨毯に棚に飾られた日本刀。
ホワイトボードに描かれた債務者の文字。
その下には『何故か』複数のドクロマーク。
着いた場所は確かに『組』の事務所のようだ。
いかにも~~な方々がずらっと並び永澄にメンチ切っている。
土管から顔を出した途端、ハンマーブロスに囲まれたマリオのように再び土管に潜りたい永澄だったが。
今度また井戸に戻ったら間違いなく溺死する。
「ワレ、何しにきたんじゃ?」
「え~~~~と・・・・・・」
(『この街占めにきました』! なんて言った日には溺死するよりも早く天国にイっちまう!!)
そこでハッとなる永澄。
これはなにかの行き違いで、この人は瀬戸内組の人で勘違いしているだけなのでは? と思いつく。
そ・れ・だ!と思い永澄は自然に、しぜ~~んに振る舞う。
そう、新規顧客を狙う営業のサラリーマンのように!!
「あ、すみません瀬戸内組の方ですよね? 自分瀬戸漣さんの紹介で来た満潮永澄と言います。もしかしてまだ連絡来てませんか? いやだなぁもう瀬戸内組の人は。ハハハハ。いや別に悪口とかそういうのじゃありませんよ、決して。ただまぁあれだな~。そのチャカどけてもらえません☆」
パ――ン☆
永澄の頭頂部の髪の毛が少し焦げた。
「来い野郎共!! 瀬戸内組のカチコミじゃああああああああ!!!!!!!!」
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
事務所の高さも知らず窓を割り外に出る。たまたま下に積まれていた段ボールがなかったら恐らく死んでいた高さだった。
後は無我夢中。ただ街の通りを走って逃げた。
現在に至る。
「話が違えぇじゃん!! 瀬戸内組の事務所だって言ったじゃん!! 死んじゃうじゃん!!」
色んな。ただただ色んな事に対してキレる永澄。
理不尽が重なり、もしかして皆が自分の敵なのでは?と疑心暗鬼になる。
肩に乗っている巻を見てうわああと声を上げ払う。
「やめろ!! やめっ――や、やめて下さい・・・・・・」土下座
「さ、錯乱しとるのう……」
「燦ちゃんに会いたい燦ちゃんに会いたい燦ちゃんに会いたい燦ちゃんに会いたい」ブツブツ
あまりに哀れなので時間を置く。
~~三十分後~~
巻のチョコ菓子を小動物のように齧りながらようやく落ち着いてきた永澄。
「燦さまは?」
「可愛い」
「燦さまは?」
「暖かい」
何か精神医学めいたチェックを行い。理性を回復させる永澄さん。
「よしよし。まぁ、よー聞けフナムシ。今回ワシはお前の警護を任されとる。気の進まん任務じゃが、姉さんに頭下げられた手前半端はせん」
顔を上げる永澄。少しほっとした表情を見せる。
「さっきの件もじゃ。ワシもヤツが瀬戸内組のもんと思うとったが・・・・・・確かにあの事務所で間違いないはずじゃが」
どうやら巻でさえ予想しえない不測の事態らしい。
「何が起きてるんだ・・・・・・」
「分からん。本当にただの行き違いかもしれんが・・・・・・あるいは――ッ!!」
突然飛び出てきた小さい影が巻を襲う。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
「な、なんだ!?――って猫かよ」
「ええから助けろフナムシ!!」
にゃ~~んと猫に覆いかぶされペロペロされる巻。
「こいつ~~ダ・メ・だ・ぞ♪」
猫を掴むとウリウリと可愛がる永澄。にゃ~~んと可愛らしく鳴く猫。
さっきまでの殺伐とした空気から一転。猫の癒しパワーに現実を忘れる永澄。
(うんよし帰ろう。帰って燦ちゃんとデートだ。あの井戸は山奥にでも捨てようハハハハ)
「「見つけた!!」」
「ちくしょ~~~~~~~~~~!!!!」
「待てぇえええええええ!!!!!」
巻と猫を抱え逃げる永澄。追うチンピラ。
懸命に逃げるが、細い路地を抜け大通りに出てしまう。
「くっ!?」
最初からここに追い込むつもりだったのだろう。
大通りには追ってきたチンピラの仲間が大勢待ち構えていた。
「マジでヤバい!! おい巻! ボディガードならあいつら何とかしろよ!」
「だめじゃ~~猫に~~舐められ~~力が~~でん~~」
「肝心なときにぃーー!!」
ハッとする永澄。へっへっへと物騒な顔で近付く輩。
「一か八かっ! 『猫・バリア』ーーーー!!!!」
小動物を盾にした人して恥ずかしい戦法――だが。
どよめくチンピラ。心の中でガッツポーズする永澄。
思った通り全員魚人のようだ。
(よし! 魚人は猫が苦手! ・・・・・・だけどいつまで持つか)
「ぶるぁああ!! てめぇなんて、こ、怖くなんてね、ねーぞぉ!!」
大型バイクに乗ったモヒカンが血走った眼で永澄の抱えた猫を睨む。
(完全に目がイッてらっしゃる!?)
「やべぇモヒーの奴、暴走してっぞ!!」
「アイツ猫見るとナニすっかわかんねーぞ!!」
騒ぐモブチンピラ。モヒカンから離れる。
涎を垂らしながらブンブンと大音量でアクセルを吹かすモヒカン。
何となく察する永澄。
「――まさかだろ!?」
大型バイクが永澄めがけて突っ込んできた!!
「俺は猫なんて怖くねぇえええええええええええ」
「いや~~~~やめてぇ~~~~~!!!!」
逃げる永澄。しかしそれは虚しい逃走だった。
ガシャン!!という衝突音が大通りに響く。
砂塵が舞い。チンピラも野次馬も目を覆う。
砂塵が明け、目を開く。
次に映るのは血塗れのバイクと哀れな人間の柘榴。
のはずだった。
「ぶるああ!? なんでだ!! なんで進まねぇ!!??」
混乱するモヒカン。アクセルを回すがバイクは空転するだけ。
そうバイクの前輪は『持ち上げられていた』!!
「燦ちゃんのぉ、顔も見ずにぃ、死ねるかぁああ!!!!」
裂帛の気合が永澄から噴き出す。それは赤いオーラとなってゆらゆらと蠢く。
人間ではありえない力で車体を受け止め、バイクの馬力をものともせず持ち上げる!!
『自立型超戦士』
燦ちゃんの愛。そして燦ちゃんへの愛。
その二つが生んだ人間を超えた英雄の力の発現である。
にゃ~~んと肩に乗った猫が鳴く。
「うおおおお!! せいきまつーーーー!!!!」」
「はしゃあああああああああぁぁぁ」
バイクごと吹っ飛ばされるモヒー。
一回転して大通りの真ん中で爆発炎上。
「お前マジに人間離れしてきたのぅ」
「だ、誰の――ハァ、せいだ――ハァ」
巻のまるで他人事みたいな感想に、肩で息しながらも突っ込む永澄。
愛の力であると同時に瀬戸内組の暴力(理不尽)から身を守るために鍛えられた哀の力でもあるのだ。
「なんだアイツ・・・・・・」
「本当に人間か・・・・・・」
観衆がどよめく。チンピラ達も先程の衝撃映像を見て気後れしている。
(もう力が・・・・・・このまま引いてくれ・・・・・・)
この力はあくまで燦がいてこそ、その真の力が発揮される。永澄一人では先程の力でさえ奇跡に近い。
祈る永澄だったが、大人しく肩に乗っていた猫が飽きたように飛び跳ね、肩から降りる。
たったそれだけの反動で膝が折れ、がくりと地面に手を付いてしまう。
その光景を見てチンピラ達の目が光る。じりじりと近付く。
(ちくしょう・・・・・・やっぱり燦ちゃんが居てくれないと俺は――)
「おいフナムシ! しっかりしろ!! ――チッ!!」
巻貝を構える巻。チンピラ相手に遅れを取る巻ではないが動けない永澄を庇いながらの戦闘は厳しい。
(マジで・・・・・・ヤバい・・・・・・)
「そこまでだ!!」
斬光が煌き。チンピラが吹っ飛ばされる。
「なんだ、てめえ!?」
音叉剣『明星』を構え、一筋に束ねた黒髪を靡かせながら不知火明乃が永澄を守護るようにチンピラ達の前に立ち塞がった。
いつもの制服でなく、修練剣士の正装に身を包んだ明乃は正に『天帝の剣』そのものである。
「なっ、役人だと? しかもこいつは宮仕えだ!!」
なぜ役人が人間を庇うのかと魚人達が戸惑う中、「控えい!」と男の声が響き渡る。
明乃と同じく永澄を守るように立つ白スーツの男。
「あ、あなたは確か・・・・・・銀さん?」
「大丈夫でありますか永澄殿。いやぁ遅れてすみません――明乃」
はっと小さく返事すると永澄を起こし上げる不知火。
「もう安心です満潮永澄――様」
「え?」
銀は少し息を吸うと声を張り上げる。
「控えい! この紋所が目に入らぬか!」
銀の懐から出された印籠にチンピラ、その他魚人が目を見張る。
「太陽とそれを守護する竜の印・・・・・・『天帝の紋』!?」
「こちらにおわす御方を何方と心得る! この御方こそ我らが主君、天帝に認められし至上の忠臣。新たに魚人貴族にその名を連なれた雲上のお人!」
「『満潮永澄』様である!!!!」
ははーと一斉に周りの魚人達が膝をつく。どこかで見たような光景だがそれは間違いなく永澄の前で起きた。
「何が・・・・・・どうなって・・・・・・」
息つく暇もないくらい本人を置いて何かが起きている。
永澄の危機回避センサーは働かない。
もう既にどうしようもないくらい危機(それ)は起きていた。
燦ちゃんの言動難しい、次ははっちゃけるよ。
永澄さんは動かすの楽しすぎる。マジで話が進まない。
オバロの新刊次第じゃまた延びそうね。