瀬戸の花嫁 君よ貴方よ   作:kairaku

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惚れたら地獄 その1

「――騒がしいのぅ」

 

蝋燭の明かりだけで照らされた薄暗い和室。金や銀に彩られた屏風を背に一人の老人が煙管を手に取る。

火を付けようと伸ばす手は鱗がびっしりと生えており、蝋燭の明かりで襖に映る影は明らかに人間離れした異形の姿であった。

 

「魚人貴族の一人が幽閉されれば……そうでしょうな」

 

襖の奥で何やら大声を上げ誰かが騒ぎ立ててる。普段は厳粛なこの海底御所は今はある騒動の渦中にある。

老人の前で伏しているコートを着た男はここ最近の騒動に思い返す。

 

事の始まりはは魚人貴族『源義魚(みなもとのよしうお)』の行き過ぎた『おいた』だ。

瀬戸内魚類連合『瀬戸内組』。その組長の娘に惚れた義魚はあろうことか娘を拉致し、関係を迫った。

しかし寸前の所で婚約者が乗り込み、義魚は乗り込んできた婚約者、瀬戸内組、その関係者に成敗されたのだった。

 

「まこと愚かの極みよ……」

 

老人は重々しく紫煙を吐き出す。

この大スキャンダルはすぐさま日本の海中に響き渡った。

 

魚人貴族は魚人界の不可侵領域(アンタッチャブル)。無礼があれば即手打ちがこの海での鉄則。

その力は黒でさえも白くする。絶対の権力だ。

 

が、今回の件はその権力もむやみに振れない。相手は瀬戸内の裏を仕切る瀬戸内組である。

正式な報告によればそれだけでなく東のマフィア『江戸前組』、中京の財閥の子息まで関わっている。

そして至極当然ながらこちら側が悪い。やり過ぎにも程がある。

 

ここで無理にでも力を振ればその反発は日本の海を血で汚しかねない。現状、魚人貴族対瀬戸内組の内にどうにかして手を打たなければ、魚人の世界の秩序がひっくり返る可能性もあり、魚人貴族の住むこの海底御所は夜通し会議が行われてる。

 

今のところ義魚の幽閉が決定し、手打ち金やら瀬戸内組への商売の融通等あらゆる案が出されたが、相手側がそれを飲むか不明である。

然るに、瀬戸内組の組長は一人娘を溺愛しており、事件後は単身この海底御所に乗り込もうとし寸前で奥方に止められたという報告も受けている。

この事件の決着が簡単に行くとは誰一人思っていない。この目の前の御仁を覗いて――

 

「どうするおつもりですか……大御所様」

 

大御所と呼ばれる魚人は数居れど、魚人貴族で大御所と呼ばれる人物はこの魚人をおいて他にはいない。

 

「ふ、千代八千代(ちよやちよ)に続く魚人貴族の歴史からみれば些細なことよ」

 

老魚人は煙管を灰皿に叩くとしゃがれた声を少し弾ませ口元の長いナマズ髭を伸ばした。

 

「歴史に習い解決しようとも。過去の、そして今の繁栄も災禍と共に産まれたのじゃからのぅ」

 

 

 

 

「さ~~んちゃん♪ がっこ行こ!!」

 

満潮家の玄関前、猿飛秀吉が声を上げる。

 

「おはよー猿」

 

「おはよう猿さん」

 

玄関から気だるげに現れる主人公満潮永澄、その妻(仮)瀬戸燦が現れる。

 

「おはよう燦ちゃん~♪」

 

「俺は!?」

 

普段通りの朝のやり取りと雑談、昨日見たバラエティ番組等の話をしながら登校する。

いつもの教室を開けると巡と委員長が雑談していた。

 

「よ、巡、委員長」

 

「おはよ。あれ瑠奈ちゃんは? 仕事?」

 

「うん。ドラマの撮影だって」

 

「瑠奈ちゃん忙しいきん」

 

(やっぱこの間のシワ寄せかな)ごにょごにょ

(忙しい中来てくれたんやね。やっぱ持つべきものは友達じゃね)ごにょごにょ

 

今日の瑠奈の仕事での欠席や家から呼び出しを食らった三河等、燦ちゃん監禁事件は解決後も各所に未だ大きな影響を与えている。

しかしその影響は必ずしも悪いだけでなく……。

 

「コラそこの二人! なに二人でこそこそ話てんの!?」

 

「え!? や、別に、瑠奈ちゃん大変だな~~って燦ちゃんと話してただけだって。ねー燦ちゃん♪」

 

「うん。永澄さん♪」

 

「ぐぬぬ……」

「仲良いなぁ……」

 

永澄と燦の仲は今最高に盛り上がっていた。あの出来事は図らずともお互いの絆を深いものにしてくれたようで、形だけの関係でなく中身の伴ったおしどり夫婦の雰囲気を醸し出している。

 

(あぁホント、今、俺、イケて~~~~る!!)

 

永澄が幸せを噛みしめてる理由はもうひとつある。

キーンコーンとチャイムが鳴り、ガラガラと教室の扉が開くが出てきたのは厳ついヤクザの組長ではなく普通の中年の教師だ。

 

「ええ、瀬戸先生は今日もお休みです。皆さん席に着いて――」

 

今学校に瀬戸内組の人達はいない。この間の事件以降『本業』が忙しい為、皆瀬戸内に帰っているのだ。

 

(あのお目付役の巻もいない! そうこれだ!! これが俺が求めいた『日常』だ!!)

 

心の中で何度もガッツポーズする永澄。目には涙も浮かぶ。

 

(俺はこの日常(チャンス)を無駄にはしないぞ! 今日は――)

 

ポケットから映画のチケットを取り出す。チケットはリーサル任侠ラスト・デイの前売り券、ポップコーンと文太さんフィギュアが付いたお得なチケットである。

 

(巻やお義父さんがいない今こそ、燦ちゃんと放課後デートじゃああ!! そしてあわよくばその後公園に行って、て、手を握ったりなんかして。その後は――その後は――)

 

異常にイルミネーションされた噴水をバックに燦ちゃんの唇に迫る永澄の唇――。

 

ノートに涎を垂らしながら気持ち悪い顔で妄想する中坊・永澄。

しかし中坊の思春期の妄想は束の間の平和と共に唐突に終わりが告げられた。

 

ガラ――。

 

授業中の教室の扉が開けられる。教師も生徒も突如開いた扉の方を見た。

そこには――――不知火明乃が立っていた。

巡の笛の音が響く。

 

「こら―! 不知火さん超遅刻よ! 巡が社会のルール教えてあげようか!!――?」

 

明乃は巡の意に返さずいつもと違った雰囲気で永澄の前まで歩いていく。

 

「し、不知火さん?」

 

明乃は永澄をじっと見つめるとあろうことかその場に片足を着き頭を下げた。

 

「お迎えに上がりました。満潮永澄……様」

 

「「ええええええええええーーーー!!!!??」」

 

永澄を含め教室中が騒ぎ出す。

 

「不知火さんが永澄君を様付け!?」

 

「あの番長が永澄に従っている!?」

 

「女の子にあんなポーズさせるなんて永澄クンサイテー!!」

 

驚きと永澄に対する罵詈雑言が教室を駆け巡り、ついには物を投げられる永澄。

 

「いた、いたっ!? ななななっ、何ですかいきなりーー!!??」

 

一番驚いているのは永澄本人、思わず敬語になる。しかし永澄の混乱を無視し腕を掴み連れて行こうとする明乃。

 

「待って明乃っち!」

 

ずいっと前へ出る燦。花吹雪一歩手前である。

 

「瀬戸燦……」

 

「燦ちゃん!」

 

「なんで永澄さんを連れてこうとするん!?」

 

明乃は燦に近付くと耳打ちする。

 

「任務だ。この件は瀬戸豪三郎も知っている」

 

「お父ちゃんが!?」

 

固まる燦。明乃はそのまま永澄をずるずる引きずって行く。

 

「って俺を無視するなーー!!説明しろせ痛っ――!!??」

 

誰が投げたのか。暴徒化した生徒の投げた花瓶が頭に命中し永澄はそこで意識を失った。

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「ハッ――!? 知らない天井?」

 

気付くと永澄は布団で寝かされていた。体を起こし周りを見ると部屋は割りと豪華な和室で、床の間には高そうな壺に掛け軸が飾ってある。

 

「マジでどこなんだここは?」

 

思い当たる場所はない。永澄が思考を巡らせていると襖が開き、現れたのは永澄がよく知る人物だった。

 

「お義母さん!? 政さんも!?」

 

「ごめんなさいねぇ、急で。こっちも突然決まった事で驚いてるんよ」

 

「ここで話すのも何なんで大広間へ。おやっさんも待ってますんで」

 

(ろくでもない予感!!)

 

永澄は部屋を出て驚いた。出てすぐにある廊下から見えた景色は庭でも空でもなく海、というより海中の風景だった。

 

「ここって海の中!? って事は……魚人の世界?」

 

「永澄さん、ここは魚人貴族が管理する千葉近海の海底御所です」

 

「なっ、魚人貴族の!? まさかまた!?」

 

思わず拳を握る永澄。それを静止する瀬戸蓮。

 

「落着きなんし。大丈夫、そういうことにはならんきん。……まぁ話の方向によっては分からんけどね」

 

「???」

 

永澄達が大広間に入ると座敷の上座に厳ついヤクザ。燦の父にして瀬戸内組組長、瀬戸豪三郎がどっしりと胡坐をかいて座っていた。

 

「はん、ようやく起きたかボーフラが! この瀬戸豪三郎を待たせよってからに!!」

 

(うっ、久々に見る燦ちゃんのお父さんはキツイぜ……。ん、あれは……)

 

豪三郎の上座から見て右の席で座っている藤代、巻は相変わらずだが、その対面。

左の席に何故か明乃、そして見慣れぬ白い帽子に白いコート姿の中年の男が鎮座していた。

蓮が豪三郎の横に座り、政が藤代の横に座る。

 

「まぁ座って下せぇ」

 

と政に促されたものの、明らかにこの会議の真ん中というかまるで取り囲まれてるような位置に座らせられる。

 

(うう……何が起こってるんだ……心なしか巻、藤代さん、政さんですらいつもと雰囲気が違うというか……これが『本業』モードなのか!?)

 

「揃いましたな、始めてもよろしいので?」

 

コートを着た男が発言する。強面揃いの中であっても余裕を感じさせる不思議な男だ。

 

「チッ、好きにせい」

 

「それでは。――始めさせていただきます」

 

拍手も何もなくただ重苦しい雰囲気のまま始まった会議に永澄はただオロオロしていた。

 

(これってもしかしてこの間の事件のケジメを着ける会議なんじゃ……)

 

「自分の自己紹介はもう皆さんには済んでおりますが」

 

ここでコートを着た男は永澄へ向くと恭しく頭を下げた。

 

「永澄様は初対面でしたね。自分は魚人貴族近衛・修練剣士長『(ぎん)』という者です。以後宜しくお願いします」

 

「へっ!? あ、満潮永澄です!……修練剣士長さん?」

 

「ふ、銀でいいですよ。まぁ明乃の上司、と覚えておいて下さい」

 

銀は再び瀬戸内組へと向き直る。

 

「早速で失礼かと思いますが、前回の話し合いでそちらに伝えた手打ちの案。その返事を頂きたいのですが」

 

豪三郎が顎をしゃくると政がへいと短く返事をし傍に置いてあったファイルをめくる。

 

「そちらの用意した手打ち案ですが、とりあえずこちらが飲んだ案件から。

――『源義魚のオホーツク海底御所への蟄居』を認める」

 

「えっ!?」

 

思わず声を上げる永澄。政に向き合う。

 

「オホーツクって北海道の海ですよね……蟄居って?」

 

「まぁ……左遷して自宅謹慎ってとこですかね」

 

いえいえと剣士長が口を挟む。

 

「表向きはそうですが、こちらでしっかり監視しますので実質幽閉と思って下さい」

 

「…………なんだよそれ」

 

思わず立ち上がり銀達を見る。

 

「燦ちゃんにあれだけの事しといてそれだけって! オホーツクだかなんだか知らないけど! あんなヤツ刑務所にブチ込んでおくのが一番――」

 

「黙れボーフラ!!」

 

豪三郎の一喝にぐっと黙る永澄。しかし一喝した豪三郎もよく見れば義魚のケジメに納得してないのだろう、両膝をがっちり掴み額に青筋を浮かべている。

 

「永澄さんの怒りはごもっともです。しかし警察(サツ)が絡むのはこちらとしてもややこしいんでさぁ・・・・・・」

 

ハッとなる永澄。よくよく考えばこっちもこっちで瀬戸内組、生粋の極道である。当然の事ながら見られたくない『傷』も多い。

 

(たまに忘れるんだよな……この人達が極道って)

 

今でこそ本業モードでキリリとしてるが学校や家でのバカ騒ぎ振りを見るにあっちが本性だと思わないでもない。

 

「永澄君、悪いけどもうこれは決まった事なんよ。堪忍してな」

 

「そんなお義母さんが謝ることじゃ……」

 

「はーーーーん!!!! 気に入らん!! 政ぁっええから次読め!!」

 

「へい。で次は飲めない案件なんですがね――――(イカ)壊れてんですかねぇ」

「……はい?」

 

話の意図が掴めず聞き直す修練剣士長。政はファイルを揺らしながら淡々と語る。

 

「そちらの算盤。足りない手打ち金の代わりで譲渡しようっていう縄張り(シマ)での収益、間違いだらけでさぁ」

 

「それは……」

 

「こっちで調べて算盤弾いてみりゃあアンタ。渡された書類の数字の半分は出鱈目と来たもんだ……ウチの生徒だってこんな間違いしねぇ」

 

「それは失礼しました。恐らく貴方の言う通りこちらの会計士がミスを――ッ!!」

 

ゾワリとした悪寒を永澄のアンテナがキャッチした。明乃が飛び出し、剣士長の銀は身構える。

しかしそれだけである。何も起きてない。あるのは見えない真剣(ヤッパ)、政の鋭い殺気であった。

 

「ならよぉく伝えておくんなすってぇ……相手してんのは生粋の極道『瀬戸内組』。――恐っかねぇ連中だってな」

 

政が見えない真剣を収めると場の空気が弛緩した。立ち上がった明乃は座り直し、剣士長は額の汗を拭う。

 

「……分かりました。しっかり伝えておきます」

 

剣士長の表情に少しだけ機嫌が良くなる豪三郎。邪悪だ、と思う永澄。

 

「…………アンタ、ヤクザやる前何してたんだい?」

 

剣士長の突然の質問にビクリとする豪三郎と永澄。

 

「……物心付いた時からこの道でさぁ」

 

「……そうか」

 

それ以上詮索しない剣士長にホッとする豪三郎と永澄。

 

 

 

「話が逸れやしたね。でこれが最後、まだどちらも決まってない案件。というより今日の話し合いの一番の肝!!」

 

(な、なんだ政さんだけじゃない、皆そわそわしだしたぞ!?)

 

「永澄さんに与えられた『天帝(てんてい)』お墨付き認め状!『天羅譜負御務(テラフォウム)』の件!!」

 

「てらふぉうむ???」

 

政の興奮とは裏腹に事態を全く飲み込めない永澄、なんだそれと辺りを見る。巻は心底驚いており、蓮は目を閉じじっとしている。あの豪三郎でさえムゥ…と呻っていた。藤代だけは変わらずお腹を鳴らしている。

 

「えっと……何ですか天羅譜負御務って?」

 

「私がご説明しましょう」

 

剣士長は先ほどの自己紹介の時のように恭しく頭を下げた。

 

天羅譜負御務(テラフォウム)とは魚人族の頂点、いや人類の頂点、天帝からその活躍を認められたものが戴けるという大変名誉な勲章でございます。人間でこの勲章を貰えた者は片手で数えられるほどにしかおりません」

 

「なんか滅茶苦茶凄い賞なんだな」

 

「凄いなんてもんじゃないわボケッ!!」

 

巻が吠える。すっごい形相である。

 

「天帝から認められるちゅーんはお前! 魚人貴族の仲間になったちゅーことやぞ!!」

 

「はあああああああああああああああ!!!!!!??」

 

愕然とする永澄。いつもとんでもない魚人の掟に巻き込まれてきた永澄だが今回もぶっ飛んでいる事態に大混乱する。

 

「いやまぁ永澄様は魚人ではありませんので少々扱いは違いますが、我々一般魚人からすればほとんどそのようなものですね」

 

「そ、そんな……」

 

(俺が義魚と同じ魚人貴族だって!?)

 

 

「こ、断る!!!!」

 

 

「フナ虫!!??」

 

立ち上がり胸を張り、顔を決める永澄。辺りに何故か桜が舞い散る。

 

「天帝がどんなに偉いかは知らないけど! 燦ちゃんをあんな目に合わせた連中の仲間になんか俺は絶対にならないっ!!」

 

「ムゥ……」「永澄君……」「永澄さん……」「ぐ~~~~(腹の音)」

 

盛り上がる永澄を尻目に剣士長の銀は眼付きを尖らせる。明乃が傍に置く剣を握った。

 

「ほぅ……天帝からの褒章を断ると……」

 

「――ちょっと待ちなんし!」

 

「お義母さん!?」

 

待ったをかけたのは意外にも瀬戸蓮であった。

 

「これはそう簡単な問題やないんよ」

 

「えっ……」

 

政がサングラスを掛け直し、先ほどのような真剣な表情で話し出す。

 

「仮にこの天羅譜負御務を永澄さんが断った場合、永澄さんは天帝に逆らったって事で『国賊』扱いになりやす。そこの役人に即御用、一生ムショん中でさぁ」

 

「マジで!?」

 

「大マジじゃボケ!!」

 

巻のツッコミに盛大に仰け反る永澄。勝手に表彰され勝手に貴族にされ、断ったら即国賊!義魚でなく自分が刑務所行きである。

 

「理不尽すぎる!! っていうかそんな凄い賞をどうして俺なんかにっ!?」

 

「此度の一件、人間の永澄様はピンと来てないのかも知れませんが、魚人の世界ではかなり大きな事件としてこの日本の海に広まってます。そしてこの海に置いて天帝の知らない事などありません。……天帝は連れ去られた花嫁を取り戻し悪徳貴族義魚討伐をした人間、満潮永澄様を大変天晴(あっぱれ)と評しており此度の件に花を添えられたそうです」

 

ぐぬぬと固くした拳とは裏腹に表情はまんざらでもない永澄。

 

(しょ、正直嬉しい! 思えば俺、偉い人に賞状みたいなもの貰った事無かったなぁ……。それに魚人とはいえ貴族!貴族永澄!!)

 

デカい椅子に座り複数の美女に扇で煽られ高級果実を味わう妄想の中のエロ澄さん。これ、悪くない!!

 

「本当にそれだけですかい?」

 

「……何がですか?」

 

「この件。永澄さんが断った場合、その責は永澄さんだけじゃねぇ。その『身内』にだって責が飛ぶ、今度は瀬戸内組が悪者だ」

 

政の指摘に豪三郎が吠える。

 

「だあああれが身内じゃボケぇ!! だが気に食わん!!なしてあないなボーフラ野郎が天帝から褒められるんじゃ!!」

 

豪三郎から獣のような眼光を受けながら剣士長は被っていた帽子のつばを傾け豪三郎を見返す。

 

「おや、『瀬戸内組の一人娘』を助けた人間が天帝に褒められるのがそんなにおかしい事ですかねぇ?」

 

「てめぇ……」

 

「よしな!! アンタもそれ以上言うたら命無いよ」

 

蓮の本気の怒気が場を包む。その怖さにビビる永澄であったが同時にさっきのやり取りに疑問を抱く。

 

(燦ちゃんを助けたから俺は天帝に褒められた……のか?)

 

「とりあえずアンタら役人は下がってな。ちょっと身内で相談するから」

 

「了解しました、また来ます。明乃、行くぞ」

 

「……はい」

 

大広間から出て行く剣士長と明乃。明乃は永澄とは一度も目を合わせなかった。

 

 

「さて、どうしやすかね」

 

「ふん! 簡単な事じゃ!! とっととこのボーフラ追い出しゃ万事解決よ!!」

 

「いやおやっさんそれは……」

 

「あんたぁ――」

 

先ほどの怒気を引きづってか燦ちゃんのお母さんの鋭い睨みがチクチクと豪三郎の体に刺さる。

 

「命張って燦助けてくれた恩人にそないな扱いしたら瀬戸内任侠の名折れじゃよ!」

 

「ぐぐぐ!!? だが蓮! わしは反対じゃ!! こないなチンピラ坊主に任すなんぞ……」

 

(な、なんだ? 猛烈に嫌な予感!!?)

 

「永澄君」

 

「は、はい!!」

 

姿勢を正ししっかりと永澄を見る瀬戸蓮。

 

「アンタ…………組長やってみいひん♪」

 

「えっ?――えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!?????」

 

 

 

瀬戸を離れて夕浪小浪、命救われ中坊・永澄。

笑ってやって下せぇ。新たな門出の始まりでございます。

 

 

つづく!!


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