出来れば水曜日も、今回は話が全然進んでないので投稿する事にしました。
―バハルス帝国― 帝国魔法省
フールーダ・パラダインは帝国魔法省の地下に捕えた
その表情には悔しさよりも、今回もダメだったかという落胆の色の方が強かった。
彼は周辺国家で最も優れたマジックキャスターであり、第6位階魔法を行使する逸脱者であった。
彼の魔法に対する執着心は尋常ではなく、魔法の深淵を覗くという夢のためなら皇帝ジルクニフを裏切る事さえ躊躇いは無い程に。
(もし、カルネ村を救った謎のマジックキャスターと話をする事が出来れば、新たな視点を得られるかも知れぬが……)
自身の探知魔法をレジストするだけの力を持つ謎のマジックキャスター。
まだ見ぬ自分と同等かそれ以上の存在に思いを馳せる。
もしかしたら自分を更なる高みに導いてくれるかもしれない存在に。
(何とかしてジルに動いて貰わねばな。)
バハルス皇帝ジルクニフも謎のマジックキャスターには興味を持っている。
彼は優秀な人材であれば出自や地位を気にしない実力主義を是としているためである。
もしカルネ村が帝国領であれば、皇帝自ら出向いて勧誘していただろう。
だがカルネ村は王国領。フールーダもジルクニフも歯痒い思いをしている。
そう考えているとき、部下の騎士から面会を望む者が居ると報告を受けた。
「フールーダ様。リ・エスディーゼ王国のアダマンタイト級冒険者【漆黒】のモモン様が面会を希望されております。」
(エ・ランテルを拠点に活動する最も新しいアダマンタイト級冒険者だったか。)
フールーダは戦士のモモンには全く興味が無かったが、カルネ村を救った謎のマジックキャスターについて欠片でも情報を持っているかもしれないという希望と、【美姫】と呼ばれる若く才溢れるマジックキャスターに興味を持ち面会をする事にした。
――――――――
―バハルス帝国― 帝国魔法省フールーダの執務室
「この度は突然の面会を受け入れて頂き有難う御座います。私はモモン、そしてこちらはナーベといいます。」
モモンという黒い全身鎧を纏う戦士は噂に聞くとおり紳士的な人物で、ナーベという人物も噂通りモモンとは正反対の愛想の無い女性だった。
そんな事よりも自身のタレントである相手の魔法力を探知する魔眼が、モモンとナーベの魔力を一切感知出来ない事に違和感を持った。
余程の無才でない限り大小あれど魔法力はあるものだ。だが、この二人は全く魔法力を感じられない。
モモンであれば戦士の才能に振り切っていると推察も出来ようが、ナーベから魔法力を感じられないのは異常としか言いようが無い。
そう推察しているとモモンが言葉を繋ぐ。
「ナーベに魔力が無くて驚かれましたか?
本日面会に伺ったのは、その魔力隠蔽のマジックアイテムについてです。」
モモンの言葉にフールーダは納得する。
タレントですら感知出来なくなるほどの性能を持ったマジックアイテムならば、自分の知識を頼りにするのも通りだと。
そして今まで聞いた事も無いマジックアイテムの存在にフールーダのテンションは急激に上昇した。
魔法に関するものであれば、マジックアイテムも当然興味の範疇に入るのだから。
「ふむ、では話を聞かせてくれるかね?」
――――――――
――モモンガ視点――
(よし! 何とか懐に入り込む事が出来たぞ!)
もちろん魔力隠蔽のマジックアイテムなんて面会するための切欠に過ぎない。
そしてマジックアイテムに反応して目の色が変った事から、魔法に関して執着心が非常に高いというデミウルゴスの調査の裏づけも取れた。
そう思い、モモンに変装したモモンガは心の中でガッツポーズをとる。
「そのマジックアイテムはこちらでして……」
デミウルゴスとアルベド、パンドラズ・アクターの情報が確かならば、フールーダは必ず俺の魔力量に食い付く。
目の前にエサをぶら下げて交渉を進めていく作戦だ。
(さて、どれくらい食い付いてくれるかな?)
人化している俺は漆黒の鎧の小手を外し、魔力隠蔽の指輪を外した。
そしてフールーダへと視線を向けると――――
彼は驚愕の顔を浮かべて時が止まった様に固まっていた。
何秒か待ってみてもフールーダは固まったまま動かない。
(う~ん、この反応は想定外だな。)
俺はどうやって話を進めようか迷っているとフールーダの表情が動き、目から大粒の涙が溢れ出す。
(えぇぇっ!? 何で泣くの!?)
俺が戸惑っている間にフールーダは俺の目の前に平伏す。
「魔法の深遠に到達せし偉大なる御方!
貴方様出会えた事、我が一生の中でこれ程歓喜に満ち溢れた事は御座いません!!」
フールーダは俺を神が降臨したかと勘違いしているかの様に涙を流しつつ、歓喜の表情を浮かべている。
(ここまでの反応は想定外だけど、作戦は進められそうだし、いいか。)
そんな風に思っていると、ナーベ事、ナーベラルが口を開いた。
「人間風情にしては物事の分別が付くようね。モモン――――さ――――ん、とお会いになってその反応は正しいわ。」
(ナーベラルゥ!? 何で行き成り上から目線なの!?
いやまぁ、
「ははぁっ!! 有り難き幸せ! モモン様のご威光を拝見する事ができ、これ以上の幸せこの世には御座いません!!」
フールーダは額を床に擦りつけて完全に謙っている。
その様子を見たナーベラルは満更でもない様子だった。
「人間如き力不足とは思ったけど、お前ならモモン――――さ――――ん、の為に働くことを許してあげるわ」
ナーベラルは「様」と「さん」の使い分けに苦労している上に「モモンガ」と「モモン」の使い分けが合わさって、今までよりも更に変な言い回しになってしまっていた。
「光栄に存じます! ――――私を人間と御呼びになる貴方様方は、やはり【神】で在らせられるのでしょうか?」
(ナーベラルは上手く要求を飲ますために作戦を考えてきてくれたのかな?)
盛大に勘違いをするフールーダに対してナーベラルはどのようなアクションを取るのだろうと楽しみいしていると――――
しまった!!という顔をナーベラルが取る。
(えっ?)
ナーベラルは途端にオロオロとしだし、困ったような、縋るような顔で俺を見る。
その顔には【ど、どうしましょう……モモンガ様】とデカデカと書いてあった。
(え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛――――!!!
そこまで尊大にしておいてノープラン!?
俺、今人間になってるから精神鎮静化しないんだぞ!?
と、ともかく何とか誤魔化さないと……)
ナーベラル……お前のそういうとこだぞ。と思いつつも何て返答しようか考えていると、
ナーベラルが何かを閃いた様だ。その顔には【私にいい考えがあります】と……
大丈夫かなと不安になりながらも、ナーベラルに任せる事にした。
「モモンさ――――んは神の如き力を持った御方。有象無象の人間と一緒にして貰っては困るわ」
なるほど、そこら凡人とは格が違うというニュアンスに持っていったのか。
「ははぁー!! まさしくその通りに御座います!
魔法極めし御方が私如きと同じ存在であるはずが御座いません!!」
(よし、フールーダもまともな判断が出来ていない。上手く誤魔化せたようだ)
ナーベラルも安堵して【私、頑張りました!】という顔を俺に向ける。
元々ナーベラルが播いた種ではあるが、ナーベラルが自分のケツを拭けるようになったのは嬉しい事だ。
俺はナーベラルの頭を撫でてあげると、ナーベラルは嬉しそうに目を細め俺の為すがままを撫でられていた。
「さて、話が脱線してしまったようだが、本題に入らせて貰ってもいいでしょうか?
まず、私がここに来たのは魔力隠蔽のマジックアイテムについてではありません。
フールーダ殿、貴方にお願いがあるのです」
「何なりと御命じ下さい。私の全身全霊を持って果たして見せます!」
(フールーダからの圧が凄いけど、作戦自体はこなしてくれそうだな……)
そこでまたナーベラルが口を挟む
「老いぼれにしては殊勝な心がけね。」
(言い方ぁ――――ッ!!)
俺はナーベラルに喋らせてはイケナイと判断し、喋らせないための行動を取る。
さっきナーベラルの頭を撫でていた時は借りてきた猫の様に大人しかった。
だから、話が終るまで撫でていればずっと黙っていてくれるはずだと。
ナーベラルの頭を俺の太ももに乗せて膝枕をさせた後、ナーベラルの頭を優しく撫で続けた。
横になったナーベラルは身体を丸めて、幸せそうに目を細め、大人しくしていてくれた。
俺はナーベラルの言葉を聞かなかった事にして話を続ける
「頼みたい事は1つ。いや、3つですかね――――」
ナーベラルのポンコツ化が著しいのは仕様です。