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【社会】

教皇 若者に託す平和 被爆地から世界へ警鐘

24日、広島市の平和記念公園で演説するローマ教皇フランシスコ

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 ローマ教皇(法王)フランシスコが被爆地から核廃絶を訴えた。原爆被害の実相を知る人が減り続ける中、かねて「広島と長崎の被爆者の声が次世代への警告となるように」と訴えてきた教皇。20代から思いをはせ続けた地で世界に警鐘を鳴らし、平和への思いを若者たちに託した。だが唯一の戦争被爆国である日本を含め、国際社会の動きは鈍い。各国指導者へ教皇の願いは届くのか。

 ▼決断の一枚

 「ここは核攻撃が人道上の破滅的な結末をもたらすことの証人である町です」。二十四日、降りしきる雨の中、長崎の原爆落下中心地碑の前で演説した教皇。傍らに原爆投下後の長崎で撮影された「焼き場に立つ少年」の大きなパネル写真が置かれた。若き日に宣教師として日本に赴くことを熱望したものの健康上の理由で果たせず、被爆地訪問は「(二〇一三年の)就任以来温めてきた夢」(周辺)だった。その教皇に訪問を最終決断させたのがこの一枚の写真だ。

 教皇は昨年一月、南米チリに外遊へ向かう機中、同行記者団全員に写真を印刷したカードを一枚一枚渡し「戦争がもたらすもの」との言葉を添えて世界に広めるよう呼び掛けた。

 この写真を教皇に送ったイエズス会修道士のアントニオ・ガルシアさん(90)は二十四日、教皇と抱き合い、頬にキスを受けて再会を喜んだ。「核兵器の悲惨さについて世界の人々に考えてもらう大きなチャンス」。十三億人超の信者を抱えるカトリック教会トップの訪問の意義をこう強調した。

 ▼込めた祈り

 日本の厚生労働省によると今年三月時点で被爆者健康手帳を持つ人の数は、ピークだった一九八〇年度の約三十七万二千人の約四割に当たる十四万五千八百四十四人になった。平均年齢は八二・六五歳。語り部は確実に減っている。

 だが教皇の思いは若い世代にしっかりと伝わっている。この日、中心地碑のある爆心地公園に集った参加者約八百四十人のうち四百三十人超が小中高生や青少年団体のメンバーだ。碑前に置かれたロウソクにともす火を教皇に渡したのは、国内外で活動する長崎の「高校生平和大使」の内山洸士郎さん(16)。「この火が平和な世界への第一歩となりますように」。こう祈りを込めた。

 二人は今年六月にもバチカンで面会。その際に教皇から「活動を続けなさい」と激励され、核兵器廃絶の署名運動に取り組んできた。今回は言葉を交わす機会はなかったが「『自分の責務を全うしなさい』というメッセージを受け取った。核はなくさないといけない」と力強く語った。

 ▼「非現実的」

 だが米国の「核の傘」に依存する日本政府は核廃絶で後退していると批判されている。国連総会で今月、政府が毎年提出している核兵器廃絶決議案が採択されたが、核使用の壊滅的結末について昨年まで記載した「深い懸念」は「認識する」との表現に弱められた。

 安倍晋三首相は国連で採択された核兵器禁止条約は「安全保障の現実を踏まえず作成された」と述べ、条約参加の意思は見せない。トランプ米政権も昨年二月に公表した新たな核戦略指針で核兵器の使用条件を緩和する意向を示し、条約は「非現実的な期待に基づいている」と切り捨てた。

 教皇は広島で悲壮な決意で訴えた。再び戦争で核を使えば「次の世代の人々が私たちの失態を裁く裁判官として立ち上がるだろう」。

「焼き場に立つ少年」のパネル写真を傍らに置き、演説で核廃絶の必要性を訴える=24日、長崎市の爆心地公園で

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