DevOps 文化: Westrum の組織類型

DevOps Research and Assessment(DORA)の調査によれば、強い信頼関係と情報の流れを重視する組織文化は、ソフトウェア配信のパフォーマンスとテクノロジにおいても良いパフォーマンスを残しています。情報の流れを重視する文化が良い結果を残すという考えは新しいものではありません。これは、社会学者の Ron Westrum 博士による研究に基づいています。Westrum 博士の研究では、特に航空業界や医療分野で発生した事故で、システムの安全性に人的要因がどのように関係していたのかが調査されました。

リスクが高い、非常に複雑な業界で行った調査により、Westrum 博士は情報の流れが組織に影響を及ぼすことを指摘しました。Westrum 博士は、優れた情報の特性として次の 3 点を挙げています。

  1. 回答が必要な質問に対して、受信者がすぐに回答を提供している。
  2. タイムリーである。
  3. 受信者が効果的に使用できる方法で提供されている。

研究の結果、Westrum 博士は組織文化を次のような型に分類しました。

不健全な組織 官僚的な組織 創造的な組織
権力志向 ルール指向 パフォーマンス指向
協力的でない 積極的な協力ではない 積極的に協力
情報を遮断 情報を軽視 情報を積極的に活用
無責任 責任範囲を限定 リスクを共有
仲介を阻止 仲介を許容 仲介を奨励
失敗を責任転嫁 失敗は制裁 失敗を調査
新規性を否定 新規性を問題視 新規性を積極的に受け入れる

表 1: Westrum 博士による組織類型モデル: 組織における情報の活用方法(出典: Ron Westrum, "A typology of organisation culture)," BMJ Quality & Safety 13, no. 2 (2004), doi:10.1136/qshc.2003.009522.)

Westrum 博士の調査結果と同様に、DORA の調査では、強い信頼関係と情報の流れを重視する組織文化がソフトウェア配信とテクノロジにおいても良い結果につながることが示されています。

組織文化の実装方法

DORA の調査結果は、人の働き方を変えると文化が変わることを示しています。John Shook 氏は技術、リーン、製品管理の現場を調査し、文化の変革における自身の経験について「文化の変革は人の考え方だけでなく、人の行動様式も変わる」と述べています。

情報の流れと信頼を促進する創造的な文化を形成する上で、Westrum 博士の組織文化モデルは非常に有益です。特に、創造的な組織として挙げられた次の 6 つの側面について調べてみましょう。

  • 積極的に協力
  • 情報を積極的に活用
  • リスクを共有
  • 仲介を奨励
  • 失敗を調査
  • 新規性を積極的に受け入れる

これらの側面に基づいて、文化を改善するために実装できる方法を考えてみましょう。

  • 積極的に協力する。ソフトウェア配信プロセスの各機能領域(ビジネス アナリスト、デベロッパー、品質エンジニア、運用担当者、セキュリティなど)の代表者を含む機能横断型のチームを作ります。これにより、すべての人が製品の構築、デプロイ、保守の責任を共有できます。また、チーム内で良好な協力関係を築くことも重要です。
  • 情報を積極的に活用する。悪いニュースが隠されるようでは物事を改善できません。責任転嫁を行わず、事後分析を行います。非難を排除することで恐怖心がなくなります。恐怖心がなくなることで、問題を表面化し、より効果的に解決できるようになります。また、誰もが心配なく問題を明らかにできるように、正しいリスクを取れる環境を作り上げます。
  • リスクを共有する。責任の共有も奨励しましょう。品質、可用性、信頼性、セキュリティは担当者だけの問題ではありません。サービス品質を向上させる 1 つの手段として、デベロッパーが本番環境でコードを保守する責任を共有する方法があります。責任の共有から生じるコラボレーションの改善は、本質的にリスクを軽減します。ソフトウェア配信プロセスに目を向けるほど、プロセスや計画段階でのエラーを回避できます。また、自動化によりリスクが軽減され、適切なツールの選択により、コラボレーションを推進できます。
  • 仲介を奨励する。サイロは破壊しなければなりません。機能横断型チームの形成だけでなく、開発チームと共同作業を行うこともサイロを解体につながります。ソフトウェア配信ライフサイクル全体わたるオペレーションを計画することや、ChatOps の実装も有効な手段となります。また、組織内で仕事を理解していない人や不満を持っている人をコーヒーやランチに誘ってみるのも一つの手段です。非公式の会話はコミュニケーションの向上に役立ち、相手をよく理解できるかもしれません。また、創造的な解決策が見つかる可能性もあります。
  • 失敗を調査する。繰り返しますが、責任転嫁のない事後分析を行いましょう。失敗への対応は組織文化の形成に影響します。個人に責任を押し付けていると、否定的な文化が形成されます。代わりに、障害の原因と再発防止策について質問するようになれば、技術システム、プロセス、文化が向上します。
  • 新規性を積極的に受け入れる。実験を奨励しましょう。新しいアイデアを自由に探求することは大きな成果につながります。実験を行う時間を毎週エンジニアに与えている企業もあります。また、アイデアを共有して共同作業を行うために社内で会議を開催する人もいます。多くの新機能と新製品がこの方法から生まれています。メンバーを習慣的な繰り返し作業から解放することで、組織にとって大きな価値が生まれる可能性があります。また、新規性は新しい製品や機能に限定されるものではありません。コラボレーションの促進に役立つプロセスとアイデアの改善を奨励しましょう。

組織文化の一般的な問題

情報量の多い組織文化で陥りやすい問題点として、次のようなものがあります。

  • 文化的要素の重要性を無視し、技術的な課題とプロセスの課題を議論する。
  • 自分のチームの文化のみを重視し、他のチームを理解しようとしない。このため、より広い組織文化を形成できない。
  • 文化の変革に必要なサポートがリーダーやマネージャーから得られない。
  • 悪いニュースを無視するか、そのような報告を歓迎しない。複雑なシステムでは障害は避けられないことを理解し、それを改善および学習する機会として捉える方がよいでしょう。
  • 新規性を奨励しない。コンピュータ サイエンスの先駆者であり、コンパイラの発明者であるグレース ホッパー提督は、最も危険なフレーズとして「私たちは常にこの方法でうまくやってきた」と挙げています。実験を奨励し、新しいものに挑戦することで、組織を改善していくことができます。

Westrum 博士の組織類型の 6 つの側面に焦点を当てることにより、チームと組織は、文化の改善に向けて効果的に行動することが可能になります。

組織文化の測定方法

組織文化は知覚的尺度であるため、アンケートが最も効果的な調査方法です。以下に示す Westrum 博士の調査項目は、統計的に非常に有効で信頼性があります。

  • 自分のチームでは、積極的に情報を求めている。
  • 失敗のニュースや悪い報告をしても処罰されることはない。
  • 自分のチームでは責任が共有されている。
  • 自分のチームでは、機能横断的なコラボレーションが奨励されている。
  • 自分のチームでは、失敗を調査している。
  • 自分のチームでは、新しいアイデアを歓迎している。

これらの質問項目をラベル / タイトルなしで送付し、「まったくそうは思わない(1)」、「どちらともいえない(4)」、「非常にそう思う(7)」の範囲で回答してもらいます。この結果のスコアから平均値をとり、Westrum 博士の組織測定スコアに当てはめます。質問項目の変更も可能ですが、統計的特性を維持するため、最小限の変更に留めることをおすすめします。

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