止まらぬ イノシシ感染 ジビエ施設 苦境に
2019年11月24日
イノシシ肉のストックを手に取る百田さん(長野県上松町で)
豚コレラ(CSF)に感染した野生イノシシが12県で1200頭以上に広がる中、野生鳥獣の肉(ジビエ)の加工施設が収入激減で苦境に立たされている。農水省は感染イノシシが見つかった半径10キロ圏内の流通自粛を呼び掛け、事実上出荷できない状況が続く。廃業の危機に立つ経営者は、支援の必要性を訴える。
長野県上松町では7月に豚コレラに感染した野生イノシシが見つかり、町のほぼ全域で流通と消費に自粛要請が出ている。「ジビエ工房木曽」を経営する狩猟歴32年の猟師、百田健二郎さん(72)は「狩猟で生計を立てている人もいる中、このままでは狩猟をやめる人も増えてくる」と憤る。
工房は売り上げの9割がイノシシ肉。今年は大手通販会社の要請で、11月からインターネット販売を始める予定だった。知り合いの狩猟者の肉も販売する計画だったが、白紙となった。損失額は約4000万円。「ベテラン猟師の経験を若者に伝えられなくなり、木曽の狩猟文化が消滅する」と危機感を募らす。
愛知県豊田市のジビエ加工施設「猪鹿工房 山恵」は、県内で豚コレラに感染した野生イノシシが見つかったことを考慮し、6月からイノシシの受け入れを中止した。売店責任者の鈴木良秋さん(68)は「このままの状態が続けば、もう営業できない。国が方針を決めてくれないと、現場も動けない」と苦悩する。
富山市のジビエ専門食肉処理施設「大長谷ハンターズジビエ」は毎年狩猟していたエリアのほぼ全てが、豚コレラに感染した野生イノシシ発生区域(半径10キロ圏内)に入った。代表の石黒木太郎さん(28)は「国主導でジビエを振興してきたのに、方向性が全く見えない。何も説明のないまま耐えるしかないのか。廃業しろということなのか」と語気を強める。感染原因が特定されないままでの半径10キロ圏内の定義も「曖昧だ」として、同省への不信感を募らす。
岐阜県郡上市で、若手猟師を中心にジビエの商品開発などに取り組む里山保全組織「猪鹿庁」の興膳健太さん(37)は「国はジビエの加工施設の設置を支援したのに、施設の被害は放置している。投資できる分野ではなくなり絶望的。発生圏内でジビエに携わる誰もが、泣き寝入りしている」と問題視する。
農水省は感染源拡大のリスク削減を目的に、野生イノシシ肉の流通を自粛するよう各自治体に要請する。豚コレラ被害に苦しむジビエで生計を立ててきた経営者らに具体的な支援策は講じていない。同省は「流通自粛で苦労している方がいることは認識してるが、解決法がない」と説明する。
自粛続き収入激減 「狩猟文化 廃れる」
長野県上松町では7月に豚コレラに感染した野生イノシシが見つかり、町のほぼ全域で流通と消費に自粛要請が出ている。「ジビエ工房木曽」を経営する狩猟歴32年の猟師、百田健二郎さん(72)は「狩猟で生計を立てている人もいる中、このままでは狩猟をやめる人も増えてくる」と憤る。
工房は売り上げの9割がイノシシ肉。今年は大手通販会社の要請で、11月からインターネット販売を始める予定だった。知り合いの狩猟者の肉も販売する計画だったが、白紙となった。損失額は約4000万円。「ベテラン猟師の経験を若者に伝えられなくなり、木曽の狩猟文化が消滅する」と危機感を募らす。
愛知県豊田市のジビエ加工施設「猪鹿工房 山恵」は、県内で豚コレラに感染した野生イノシシが見つかったことを考慮し、6月からイノシシの受け入れを中止した。売店責任者の鈴木良秋さん(68)は「このままの状態が続けば、もう営業できない。国が方針を決めてくれないと、現場も動けない」と苦悩する。
富山市のジビエ専門食肉処理施設「大長谷ハンターズジビエ」は毎年狩猟していたエリアのほぼ全てが、豚コレラに感染した野生イノシシ発生区域(半径10キロ圏内)に入った。代表の石黒木太郎さん(28)は「国主導でジビエを振興してきたのに、方向性が全く見えない。何も説明のないまま耐えるしかないのか。廃業しろということなのか」と語気を強める。感染原因が特定されないままでの半径10キロ圏内の定義も「曖昧だ」として、同省への不信感を募らす。
岐阜県郡上市で、若手猟師を中心にジビエの商品開発などに取り組む里山保全組織「猪鹿庁」の興膳健太さん(37)は「国はジビエの加工施設の設置を支援したのに、施設の被害は放置している。投資できる分野ではなくなり絶望的。発生圏内でジビエに携わる誰もが、泣き寝入りしている」と問題視する。
「解決法がない」
農水省は感染源拡大のリスク削減を目的に、野生イノシシ肉の流通を自粛するよう各自治体に要請する。豚コレラ被害に苦しむジビエで生計を立ててきた経営者らに具体的な支援策は講じていない。同省は「流通自粛で苦労している方がいることは認識してるが、解決法がない」と説明する。
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塩レモン 広島・JA三原
広島県のJA三原が生産量全国一を誇る尾道市瀬戸田町産のレモンと、瀬戸内海で取れた塩を使った調味料。通常の味と黒こしょう入りの2種類がある。特別栽培農産物の認証を受け、皮ごと食べられる安全・安心な町産「エコレモン」を使う。
刺し身や焼き肉、焼き鳥、冷ややっこ、唐揚げの下味、サラダやマリネなどのオイルと混ぜてドレッシングとしても使える。レモンの香りや酸味でおいしくなり、素材の風味が味わえる逸品に仕上げた。
1瓶(130グラム)450円。問い合わせはJA三原せとだ直販センター、フリーダイヤル(0120)263051。
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2019年11月20日
全農TAC大会 生産拡大で未来開こう
JA全農が進める、地域農業の担い手に出向くJA担当者(愛称TAC=タック)は、JA自己改革の旗振り役として一段と重みが増す。新たな課題への積極的挑戦は持続可能な地域確立に結び付く。労働力支援、経営継承、先進技術を駆使した生産拡大で農業の未来を開きたい。
TAC全国大会で長澤豊全農会長は「活動は年を追うごとに広がり進化してきた。大会を機に全国の仲間と互いの知見を共有し地域の将来の姿を描いてほしい」と強調。今後の課題として労働力問題、事業継承、先進農業推進を挙げた。時代の変化に対応しながら食と農と地域をどう守るのか。役割は大きい。
大会で最高位の全農会長賞となった岩手県JA新いわて営農経済部の取り組みは、今後のTACの方向性を示す。年間農畜産物販売額500億円実現に向け、「農家手取り最大化プロジェクト」で、モデル経営体を選定し農業所得向上、コスト低減を実現した。支えたのは、ドローン(小型無人飛行機)を活用した水稲直播(ちょくは)や農薬散布、営農情報管理システムといった全農などが開発した先端技術だ。モデル経営体の成果を地域に広げ、産地全体を底上げするには「見える化」も大切だ。そこで新技術の実証成果はJA広報誌に掲載し、農業者と情報を共有した。
気象災害への対応もテーマとなった。2年前の九州北部豪雨で被災した福岡県JA筑前あさくらでは、TAC主導で営農再開と所得確保を目指し、新規作物にアスパラガスを提案した。営農を通じた災害復興は、TACの新たな役割とも言える。
TACはJA事業が「守り」から「攻め」に転じる中枢である。TACのキャッチコピー「とことん・会って・コミュニケーション」は、今の役割を端的に表す。地域農業振興の調整役を担い、元気な産地づくりへまい進したい。
現在、JAグループ挙げて自己改革を実践中だが、改革に終わりはない。政府による上からの改革ではなく、農業者・組合員目線の地域に根差した改革こそが問われる。自ら進める改革に「創造的」と付けた意味を再度かみ締める必要がある。
全農の新3カ年事業計画のスローガンは「全力結集で挑戦し、未来を創る」。キーワードは「結集」「挑戦」「未来」の三つ。組織の総合力を駆使して産地と消費者を結ぶ太いパイプとなる決意は、元気な地域を支えるTACの活躍と表裏一体でこそ実現する。
大会発表で兵庫県JAたじまは「各地の優良事例を学び全国大会を通じてネットワークをつくりたい」と強調した。事例に学ぶことは、全国を網羅したJAグループの強さであり伝統である。TAC主導の産地づくりと、さまざまな業種と連携する全農が力を合わせることで価値創造型のバリューチェーンづくりを目指す。ここに、国内農業再生への扉が開けるはずだ。
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2019年11月23日
日米交渉で米国公聴会 「米、乳製品さらに開放を」
米議会下院は20日(日本時間21日)、日米貿易協定に関する公聴会をワシントンで開いた。農業団体などの出席者や議員は、牛肉や豚肉で環太平洋連携協定(TPP)並みに関税を引き下げることを評価しつつ、米や乳製品の市場開放が不十分だと指摘。追加交渉の対象にするよう求める声が相次いだ。関税以外も含めた包括的な協定を求める意見も目立った。
下院歳入委員会の貿易小委員会が公聴会の場となり、農業、自動車の団体やシンクタンクなどの代表者らが出席。同委員会は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら交渉担当者にも出席を要請したが、応じなかった。
TPPでは、日本は米に米国向け輸入枠を、バター・脱脂粉乳は米国を含む加盟国全体向けの輸入枠(ワイド枠)をそれぞれ設けた。だが日米協定では、これらは設定しなかった。
一方、協定の合意に伴い、日米両首脳が9月に署名した共同声明では、協定の発効後、4カ月以内に予備協議を終え、追加交渉の範囲を決める方針を示した。
オバマ政権でTPP交渉のUSTR首席農業交渉官を務めたベッター氏は「協定は全ての農産品をカバーできていない」と指摘。米やバター、脱脂粉乳などの市場開放を改めて求めた。
米国最大の農業団体、ファーム・ビューロー幹部のボーニング氏も一層の市場開放への期待を表明。「(日米交渉で)米国が勝利したのは明らかだが、第2段階の交渉を追求すべきだ」と訴えた。
全米自動車連盟(UAW)の幹部は、日本産自動車の対米輸出に有利になる通貨安誘導を防ぐ為替条項が含まれなかったことに不満を表明。輸入台数制限にも言及した。
ライトハイザー代表らが出席しなかったことも踏まえ、交渉を巡る手続きについて議会との調整不足を批判する声も相次いだ。日米協定でトランプ政権は大統領の権限で可能な関税削減・撤廃にとどめ、議会承認を経ずに来年1月1日発効を目指している。
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2019年11月22日
おかずみそ「斜里岳山麓ビーフ(カレー味)」 北海道清里町
北海道清里町で畑作や和牛肥育を営む澤田農場が、製造・販売するおかずみそ。農場で生産した大豆で手作りしたみそを使用する。タマネギを入れることで、甘く仕上げるという。さらに、肥育した牛肉の粗びき、大豆、雄武町産の昆布などを使って完成させた。農場で食品加工・販売を担当する澤田久美子さん(67)は「ご飯のおかずや酒のさかなとして味わってほしい」と勧める。
1瓶(110グラム)で600円。清里町の道の駅「パパスランドさっつる」や北広島市の「ホクレンくるるの杜」などで販売する。問い合わせは同農場、(電)0152(25)3698。
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2019年11月19日
[東京・JA東京グループ移動編集局] JA東京アグリパーク 都心から食農発信
JA東京アグリパークが農産物のPRや販売拠点として役割を発揮している。2017年4月のオープン以来、都内のJAが都農業をPRするだけでなく、全国各地のJAや農業法人などが活用。JR新宿駅から徒歩4分の好立地を生かし、農業の情報発信拠点に育っている。
19日はJA共済連東京が特殊な装置を使い、ユニークな写真が撮影できるイベントを行った。都会で農業や自然に親しんでもらおうと、3次元画像や合成画像を用意。ブロッコリーやカボチャ、米などと写真が撮れ、観光客らが楽しんだ。
横浜市の会社員、林明日美さん(28)は「野菜と一体になれた気がして楽しかった」と喜んだ。撮影後はホウレンソウや東京産牛乳などで作った「みどりのスムージー」などを提供、農産物をアピールした。
同パークは、10月まで89団体(JA東京中央会や自治体開催分を除く)がフェアや就農相談会を開いた。1日平均で約1000人が訪れ、4~10月で累計12万人を超える来場者があった。
JA東京中央会広報農政部の西澤希芳部長は「今後はJAに加え、食品メーカーなどとも協力して、食にまつわるイベントなどを開いていきたい」と期待する。
全国のJAや市区町村、食品・農業関係企業に利用を呼び掛けている。利用料(約115平方メートル)は、火~土曜日の5日間で他県JAが22万円、企業は55万円に設定している。
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2019年11月20日
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2019年11月24日
起業家の卵いらっしゃい 人脈、資金、困り事… 地域で夢応援
農山村に、起業家をあの手この手で誘致する取り組みが活発だ。起業家になる人を発掘したり、求める人材を逆指名して募ったりし、家、農地、資金などを、地域住民がチームを組んで支える事例もある。移住から自立できるまで“起業家の卵”に寄り添った支援が広がっている。
育成チームが移住者と“伴走” 富山県南砺市井波地区
富山県南砺市の井波地区では、今秋から地域を担う人材を育成する事業「三四郎プロジェクト」が始まった。林業など1次産業に携わる住民や、移住しホテルを経営する若者、東京から井波を応援する人、地元のエンジニアらがチーム「ジソウラボ」を結成。市外から移住する起業家を募集して応援する。
募集する起業の分野はパン作りや地域交通、地域伝統の井波彫刻の関連産業、クラフトビールの醸造など。農業をはじめ自分の夢を複数の分野で実現したい起業家も対象となる。起業家の夢を、ジソウラボが“伴走”してサポートする。
ジソウラボの支援は、「よそ者」の起業家と井波地区とのつながりをつくる他、地域内外のアドバイザーが毎月、起業家の事業の自立を助言する。最初の顧客やメディア戦略、事業資金確保など、創業期を支えてくれるキーパーソンとの出会いの場も提供する。
林業家の島田優平さん(42)は「外部の人の発想や新たな交流が地域の起爆剤になる。地場の人間と一緒に地域を育てていく起業家に来てもらいワクワクする井波を目指したい」と強調する。建築家として海外で実績を残し、同地区で宿を経営する山川智嗣さん(37)は「制度での支援だけでなく、起業家の考えに合ったやり方を応援していく」と話す。
費用補助や無料講習会 秋田県横手市
秋田県横手市は、経営支援の専門家による無料相談窓口や起業家の掘り起こし、起業時の費用補助、市営のレンタルオフィスの提供など、総合的なサポートで起業家を支える。特にユニークな取り組みが、市が2016年度から始めた「起業家発掘事業」だ。
市内や周辺地域で、起業に関心がある人向けに毎月1回無料のセミナーを開き、起業の基礎からアイデアづくり、資金繰りなどレベル別で幅広い内容を伝える。この他、起業のノウハウを教える塾や、初期投資の一部を補助する制度もある。
市は「起業は勇気がいることだが、発掘から創業後までサポートすることで起業家の不安解消につなげたい」と話す。これまで地域の農作物を活用したカフェや居酒屋などがオープンしている。
創業後にも指導員巡回 兵庫県丹波市
兵庫県丹波市では、市が新規起業者を補助金で支援する「新規起業者支援事業」の他、商工会が市からの委託で5月に開設した「Bizステーションたんば」で起業家をサポートする。
起業する際の経営安定や事業拡大に向けた販路開拓、商品開発などを応援。専門のアドバイザーが相談に乗り、起業計画書作成や開業・法人設立に関わる手続きなどを支える。
16年度からの起業数は、飲食業、製造業、農産物生産販売など100件を超す(19年3月時点)。Bizステーションのサービスではさらに無料で、起業後も経営指導員が巡回して相談を受けたり、課題ごとに弁護士・税理士ら専門家を派遣したりしてフォロー体制を充実させた。関係機関と連携し、新規就農希望者の挑戦も応援する。
商工会は「農業は作物を作れても販路が見いだせなかったり、飲食店は開業5年以内の廃業率が高かったりする。相談に来てもらえば、起業経験者や農家につなぎ、チャレンジを後押しできる」と説明している。
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2019年11月23日
三方良し 収穫籠ひも「布肩引き」国産化 和歌山
果樹農家…使いやすく丈夫 商店…評判上々販拡へ 福祉…障害者の仕事に
和歌山県紀の川市の資材卸、おかい商店は、ミカンなどの収穫籠に付ける肩ひも「布肩引き」を商品化し、農家から好評だ。県内の障害者就労支援事業所と連携し、全て手作業で製造する。外国製や農家の自作にはない品質の良さを実現し、障害者の仕事の創出にもつなげている。(藤田一樹)
手作りで品質向上
布肩引きには布製の肩当てが付き、肩に食い込みにくく荷重による農家の負担を減らせる。国内製造はほとんどなく、同社も外国製を販売していた。だが、縫い目がほどけるなど品質に課題があり、農家からクレームもあったという。
そこで2016年から自社での開発を始め、17年9月から販売をスタート。製造では障害者就労支援事業所と連携することにした。製造を委託すれば手作業で品質が良い商品が作れ、障害者の仕事の創出にもなると考えたためだ。製造した布肩引きは同社が全量買い取る方式を取る。
県内の事業所に協力を呼び掛け、現在は和歌山市や岩出市など11事業所が製造を受け持つ。障害者らには独自に開発した製造の補助器具を使ってもらい、幅6センチ、長さ60センチの規格に仕上げやすくしている。
和歌山市にある就労支援事業所のピーチは、今年から製造を受託。利用者の女性は「最初は難しかったが、一度覚えると簡単。きれいに仕上がるとうれしい」と笑みを見せる。事業所を運営するプラムの矢野好生代表も「利用者が予想以上に作業をこなしてくれる」と喜んでいる。
19年8月には商品名を「収穫かごひも 肩楽!手編みDX」にした。県内の紀の里、紀北かわかみ、ながみねの3JAなどを通して販売する他、農業資材を扱う商社を通して福島県や長野県などでも販売する。メーカー希望小売価格は700円(税別)。
ミカンや柿などを栽培し、同社の布肩引きを使う紀の川市の林順二さん(72)は「以前は中国製を使っていたが、切れやすい上、よく繊維がほつれて首がちくちくした」という。「今使っている布肩引きは繊維がほつれることもなく頑丈」と、良さを実感する。
8月から10月までの販売本数は約1000本。年間で約3000本の販売が目標だ。おかい商店の岡井良樹社長は「県内に委託先を広げ、布肩引きといえば和歌山県だと思ってもらえるような商品にしていきたい」と話した。
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2019年11月16日
人手足らず作業遅れ 復興への道筋描けず 台風19号から1カ月 園地に今なお土砂 長野県中野市
広範囲に浸水被害をもたらした台風19号が上陸して12日で1カ月。記録的な大雨による河川の氾濫や堤防の決壊などで大量の土砂が園地に流れ込み、今も堆積したままだ。農家は膨大な量の土砂を前に、復興の道筋を描けずにいる。生産現場はきめ細かい国の支援策や人的支援の必要性を訴えている。(藤川千尋)
長野県では千曲川の氾濫で、県北部6市町の903ヘクタールの果樹園に土砂が堆積している。このうち中野市では11日時点で220ヘクタールに土砂が積もる。長野市の520ヘクタールに次ぐ規模だ。
「大量の土砂、どこから手を付けていいのやら……」。自宅が浸水し、1カ月ほど家の片付けなどに追われた中野市上今井地区で桃などを栽培する神田茂貞さん(52)は、園地を見て肩を落とす。桃やスモモの園地計65アールが被災。最大約50センチの泥が堆積する。園地までの道の一部の土砂をかき出したが、園地の奥や木の周りに堆積した土砂の搬出には手が回っていない。「リンゴより桃やスモモの木は弱い。根が張る木の周りの泥だけでも取り除きたい」と話す。
JAながのみゆきもも部会部会長の神田さんが危惧するのは泥の除去が遅れて木が枯れ、離農者が出ること。桃を改植した場合、出荷できるまで5、6年かかる。35戸の部会員のうち70歳以上が6割以上だ。神田さんは「改植する元気のある高齢農家は少ない。時間がたつほど木が弱り、離農リスクが高まる。雪が積もる12月までに何とかしたい」と気をもむ。
「(行政支援で)土砂を運び出すにしても、自己負担の程度や、集めた土砂の運搬先など、分からないことが多過ぎて困っている」と打ち明けるのは、JAみゆきりんご部会部会長の小林万伸さん(63)。リンゴ40アール、スモモなど35アールが水に漬かり、泥が流れこんだ。これまでは泥をかぶり出荷ができなくなったリンゴを木から落とす作業に追われた。農地につながる道は今も泥が積もる。「土砂を人力で運搬するのは限界。重機確保が重要で、行政支援がないと厳しい」と国のきめ細かい支援を訴える。
果樹は枝が低い位置にあるため、重機が農地に入ると枝が折れる恐れもある。JAみゆき営農センターの高橋幸人センター長は「重機が入れない農地は、人が土砂をかき出す必要があるが、人手が足りない」と外部からの人的支援を求める。
甚大な被害に市も対応に苦慮している。市は、国の災害復旧事業を活用して土砂を撤去する調査をしているが、「測量する人の不足や水分の量が多い園地に入るのが難しく時間がかかっている」と話す。国は激甚災害の指定で、国庫補助率を最大96%程度までかさ上げした。市は、農家に自己負担を求めるかどうかは決めていない。13日までに土砂の堆積状況を調べる予定だ。
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2019年11月13日
途絶えた人手、農地そのまま 復旧阻む泥とわら 台風19号 1カ月
収穫期を迎えた田畑を土砂や濁流が襲った台風19号から12日で1カ月。田畑に残る大量の泥や稲わらが営農再開を妨げ、農家の苦境は今も続く。台風19、21号と立て続けに被災した農家や、新規就農して「これから」という時に被害に遭った農家もいる中で、復旧に向けた人手不足も心配されている。(音道洋範、鵜澤朋未)
浸水立て続け…落胆 福島県相馬市
「1カ月たったが、一つのハードルも越えていない」と語るのは福島県相馬市の農家、武島竜太さん(55)だ。同市周辺では台風19号とその後の21号による大雨で付近の河川から水があふれ、市内の広い範囲で収穫前の水田に土砂や稲わらが流れ込んだ。
水田や用水路には深い所で土砂が30センチ、稲わらが1メートル近く堆積した他、農道も崩れて通行できなくなった。そのため現在も25ヘクタールの水田のうち8ヘクタールで収穫が困難となっている。「丹精して育てた米なので少しでも収穫したいが、砂やわらで機械が壊れてしまう。収穫は難しい」と話す。
営農再開は進まず、被災地周辺では11月半ばになっても稲が水田に残っている所が目立つ。浸水した住宅の片付けなどを優先したことで、収穫に取りかかれなかったためだ。なんとか刈り取っても刈り遅れによる品質低下で等外となる米も多く、農家収入の減少につながっている。
来年の作付けに向け、残った稲の処分が必要だが、人手不足が復旧に影を落としている。武島さんの集落の農家は4戸で、近隣の協力だけで稲わらを取り除くのは難しい。「実際にどんな組織で稲わらを取り除くのか、詳細が分からないと進めようがない」と話す。稲わらの集積場所なども決まっていない。
JAふくしま未来そうま地区の西幸夫本部長は「農家の不安を少しでもなくせるよう購買での支払い猶予などさまざまな手段を考えたい」と話す。県では被害の全体像が見えてきたとし、今後は農地の復旧を加速させ、来春の農作業シーズンに間に合わせたい考えだ。
実っても土取れず 茨城県常陸大宮市
「新規就農した際に国から借りた資金を2月に完済し、ようやくこれからという時だった」
茨城県常陸大宮市のイチゴ農家、都竹大輔さん(47)は1カ月たった今も堆積した泥と格闘している。都竹さんのハウスが並ぶのは那珂川の真横。300メートル上流の堤防が決壊し、辺り一面が湖のようになった。
20棟あったハウスは水没し、全5棟で建て直しが必要だ。4月に買ったばかりだったトラクターも1メートルほど高い場所に移動させておいたにもかかわらず、水没した。現在、土耕栽培するイチゴのマルチの中には3~5センチの泥が堆積したまま。動力噴霧器で何度も洗った葉やへたにも泥が白くこびり着く。出荷は通常10月から始めるが、泥が落ちないため、収穫しては廃棄している。
台風の直後は多くのボランティアが駆け付けたが、2週間を過ぎると途絶えたという。来シーズンの親苗を植えるために土壌消毒を済ませた場所は泥に埋もれ、流された育苗箱やコンテナなどこまごまとした備品を再び買いそろえるのも大きな負担となる。
都竹さんは「ハウスは今すぐ建て直す体力がない。経費を考えると、一度規模を縮小するしかない。備品購入もカバーできるような長期支援をお願いしたい」と切望する。
都竹さんは、同市と大子町の農家9人で構成する奥久慈いちご研究会の会長も務める。研究会は20、30代の農家が多く、そのほとんどが新規就農者だ。台風19号では、都竹さんを含む3人の農地が被害に遭った。
JA常陸大宮営農経済センターによると、那珂川の他、久慈川が決壊した影響で野菜農家らが被災した。堀江金男センター長は「1カ月たっても泥の撤去が追い付かず農作業も遅れている。畑や水田にごみが残ったままの農地もあり、病害虫の発生や生育面での不安が残る」と話す。
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2019年11月13日
農福連携へサポーター 障害者雇用現場で支援 JAなど協力 高知県安芸市
JA高知県、安芸市、県、福祉機関でつくる安芸市農福連携研究会は、障害者や引きこもりの人の農業雇用を促進させようと、就農支援サポーター制度を導入した。サポーターは働く障害者らの心のケアや、安心して働ける職場づくりを生産者にアドバイス。農福の良好な関係づくりを担う。
研究会は2018年に発足し農福連携を進めてきたが、障害者らが働きだしてからの定着が課題だった。農業と福祉の現場でさらに理解が必要と考え、両者をつなぐ人材としてサポーターを19年9月に迎えた。
JA安芸地区管内での障害者らの農業雇用は19年5月末時点で38人。研究会では20年3月末までに、50人に増やす考えだ。サポーターは現在、1人を配置。JAが募集し、福祉に理解がある人を採用した。今後、1人を増員する予定だ。
サポーターを務めるJA職員の横山木実子さん(56)は、障害者らと一緒に農作業を行う。障害者に寄り添い相談に乗るとともに、生産者側のサポートも行う。障害者の特性に沿った作業内容か、危険がないか、雇用するに当たっての向き合い方などを助言する。
安芸市でナスを栽培する北村浩彦さん(52)は、障害者3人を雇用する。北村さんは「障害者は作業に集中してしまう。横山さんが休憩のタイミングなどを促してくれるので助かっている」と喜ぶ。研究会会長を務めるJA安芸地区営農企画課の小松淳課長は「今までは、JAや福祉機関など研究会メンバーが個別に対応してきた。サポーターが加わることによって、さらに支援を充実させたい」と期待する。
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2019年11月12日
[活写] 小さな郷愁… 農の今昔物語
長崎県大村市で昔の遊びなどを体験する施設「のだけ村」を営む野口敏幸さん(69)が手掛ける、農作業の素朴な竹細工が注目を集めている。
のこぎりで切った竹を組み合わせたもので、大きさは5センチから20センチほど。千歯こぎや牛が引くすきなどの農具も作り、農家が脱穀や田植えなど農作業に励む様子を表現している。
野口さんは農家出身で、機械化が進む前の農作業を形にして残そうと、2017年に竹細工を作り始めた。完成品は、実家で使っていた古い農具と一緒に展示している。
竹細工作りの講座も催し、休日には家族連れを中心に約200人以上が訪れる人気ぶりだ。野口さんは「かつて活躍した農具がどのように使われていたか、子どもたちに学んでほしい」と話す。(富永健太郎)
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2019年11月10日
交通寸断、被害多発… ボランティア足りぬ 冬本格化 募る不安 宮城・丸森町
台風19号の洪水被害で町の中心部一帯が浸水した宮城県丸森町で、ボランティア不足が深刻化している。鉄道の運休で交通が不便なことに加え、被害が複数県にまたがり広範囲のためボランティアが分散し、地域住民からの依頼に応えられていない。寒さの本格化で「ボランティアの足が遠のくのではないか」と現場は不安を募らせている。同町災害ボランティアセンターは今月から、最寄り駅から臨時のバスを走らせるなど環境を整備し、ボランティアの参加を呼び掛けている。(高内杏奈)
流入した泥水が渇き、砂ぼこりになって吹き荒れる。目が開けられず、車は一日で茶色に染まる。
現在も断水している同センターは、住民の依頼を受け付ける他、ホームページで全国からボランティアを募り、現場に派遣している。同センターは10月19日から受け付け、これまでに482件(5日時点)の依頼があった。しかし応えられたのは3割程度にとどまる。
ボランティアの主な仕事は住宅の家具の運び出しと泥かきで、1案件で3日~1週間かかる。毎日15件ほど依頼が増え続け、追い付かない。同センターの谷津俊幸代表は「なかなか集まらず、作業が進まない」と頭を抱える。
参加増へバス手配
参加者が集まらない理由の一つに、谷津代表は交通の便の悪さを挙げる。仙台市から同町への移動で不可欠な鉄道・阿武隈急行は、ホームの流失などで運転を見合わせている。
JRが連絡する槻木駅から丸森駅までは臨時バスが走るが、本数に限りがある。さらに丸森駅から同センターまでは3キロ以上と、徒歩40分はかかる。
同センターは1日から丸森駅からマイクロバスを運行し、送迎している。谷津代表は「道路整備とともに、山間部の依頼が今後増える見通し。できるだけ来てもらえる環境を整え、早期復旧を目指したい」と語る。
「避難所でも新たな問題が出てきた」と話すのは、同町で水稲50ヘクタールを手掛け、避難所生活を送る大内喜博さん(36)。自宅が浸水し、10月13日から避難している。「寒さが本格化してきた。特に朝が冷え込み、手が冷たくなる」と訴える。
同町近くの蔵王山では5日、初雪が観測された。同町の7日朝の気温は3・1度と冷え込み、避難者の体力を奪った。大内さんが生活する避難所には約20人がいる。エアコン、ストーブがあるが、隙間風が容赦なく入り込む。毛布を4枚重ねにしても体温が奪われるという。「防寒着や布団の上に掛けるものがほしい」と要望する。
全国の避難者(8日時点)は2802人で、宮城県は449人。同町は193人で43%を占める。
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2019年11月09日
獣の捕獲 裾野広げる 会員募り狩猟支援 埼玉県横瀬町のベンチャー
埼玉県横瀬町のベンチャー企業のカリラボは、猟期の始まりに合わせて15日、巻き狩りに参加したい猟師と地元猟師を結び付けるサービス「カリナビ」をスタートする。全国で初めての取り組みという。併せて、共同でわなを利用するサービス「ワナシェア」も展開する。野生鳥獣による農産物被害の軽減と、鳥獣被害や狩猟の実態を広く知ってもらうのが目的。狩猟免許を持たなくても参加できるイベントも開く。今年度は、町内で活動を実施し、今後は活動範囲を広げていくという。
地域の巻き狩りを支援する「カリナビ」は、狩猟免許所有者に狩りの開催を案内するサービスだ。ベテラン猟師と一緒に狩猟でき、初心者も参加しやすい。無線機付きナビシステムなど、必要な機材を同社が貸し出す。地域外からも参加可能で、高齢化が進む地域では人手の確保につながる。免許がない人向けに、狩りの見学も受け入れる。
共同でわなを利用する事業「ワナシェア」は、会員から出資を募ってわなを購入し、被害に悩む地域で利用するもの。わなや獲物の状況は、インターネット交流サイト(SNS)を利用し、写真や動画を共有する。わなの見回りは同社が担当するため、農家の負担は少ない。
農家の他、野生鳥獣の肉(ジビエ)の消費者、狩猟に興味がある人も会員になれる。同社は「離れた場所でも捕獲を体験できる」とし、SNS上でわなを見学するウェブ会員と、捕獲した鳥獣の解体に同席できる正会員を設ける。同社は「体験で、消費者の狩猟に対するハードルを下げていく。地域の鳥獣害対策や町おこしに貢献したい」と話す。
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2019年11月08日
[アグリ×アート](5) まるで名画、まるで人
農家らが手掛けた創作かかしも、アートの域に迫る。奈良県安堵町では、19世紀のフランスの画家、ミレーの名作「落穂拾い」を再現したかかしが地域のシンボルになっている。
作者は同町で布団工場を営む森中茂さん(69)。廃材の骨組みに綿を巻いて古着を着せ、ミレーが描いた人物に近いポーズで固定。近くに立てた枠越しに見れば、絵画のように鑑賞できる。
森中さんは元農家。2010年に所有する水田で、昔の農作業などを模したかかしを作り始めた。16年からは、「麦一粒を大切にする姿が、子どもの頃に稲刈りを手伝った記憶と重なる」と感じた「落穂拾い」の再現に挑戦。完成後「農村で名画が見られる」と大勢のギャラリーが集まった。
今では地元農家らも、かかし作りに加わり、「落穂拾い」の周りに約40体が並ぶようになった。森中さんは「驚くようなかかしを作り続けたい」とアイデアを練る。(おわり)
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2019年11月06日