ブラジルの労組間社会経済調査・統計所(Dieese)のレポートをたまたま目にする機会がありました。Dieeseは毎月、ブラジルの最低賃金や、必要最低限の生活費(※)を発表しています。
※「必要最低限の生活費」とは夫婦2人、子供2人の4人家族の生活費を満たすために最低限必要な金額(=ブラジル憲法が定める、住居、食料、教育、医療、余暇、被服、衛生、移動、社会保障の各費用)です。
そのレポートでは、今年2019年の分だけではなく、1994年からの最低賃金や必要最低限の生活費を見ることができます。
で、そのレポートを見て驚愕した事が。
ブラジルのインフレって、やっぱり凄いんだなーと。
下の表は、Dieeseが発表している法定最低賃金と必要最低限の生活費の各年(2000年~2019年)の平均をグラフにしたものです(2019年は10月分まで含まれています)
もう、一目でインフレだということがわかりますね。
2000年の必要最低限の生活費が967.07レアル(約29,000円)※1レアル30円で計算
今年2019年の必要最低限の生活費が4126.63レアル(約123,800円)
2000年に入ってから、既に4倍以上あがってます。
参考元DIEESE - análise cesta básica - Salário mínimo nominal e necessário - novembro/2019
私がブラジルへ移住したのが2011年なのですが、その年の必要最低限の生活費が2272.45レアル(約68,150円)だったので、それから比べても約2倍も上昇していることがわかります。
確かに、毎年毎年物の値段があがるなーとはおもっていたのですが、こう数字とグラフにしてみてみると、改めてインフレなんだなと痛感します。
それと同時に、不思議だなーと思っていたブラジル人たちの「金銭感覚」についても合点がいくところがありました。
今回は、そんなブラジル人たちの金銭感覚について最低賃金・生活費から考察してみました。
貨幣の価値に非常に感覚が鋭いブラジル人。ゼロ金利・デフレに慣れきった日本人も、考えるところがあるかもしれませんよ!
はじめに
ハイパーインフレを経験したブラジル人たち
まずブラジル人の金銭感覚を語る前に、ブラジルで起こったハイパーインフレについて説明します。
ブラジルでは1980年代後半から90年代前半にハイパーインフレが起こり、月間インフレが82%(!)に到達したときもありました。
私の主人は1982年生まれです。子供のころにハイパーインフレを経験しています。そのころ、パン屋へ行ってパンを買うのに、何十枚ものクルザード(当時のブラジル貨幣)を輪ゴムでとめて買いに行ってたそうです。
そのころは、物を長期の分割払いで買うと、当然最後のほうの支払いなんてハイパーインフレの影響でほぼタダ同然だったそうです。
1994年にレアル政策が導入されて、ハイパーインフレはなくなったものの、現在もインフレは続いています。
少なくとも現在の30代以上のブラジル人は、ハイパーインフレを経験しており、貨幣の現在価値は、未来の価値とは全く違うということが身に染みてわかってるんですね。
ブラジル人の金銭感覚
1)とにかく分割払い
下の写真は、ブラジルの家電量販店での洗濯機の値札表示です。一般的な値札表示です。
大きくR$219,00と書いてありますね。 R$219,00は日本円で約6,570円。
もちろん6,570円で冷蔵庫は買えません。その数字の前に書いてある「10x」が分割払いの回数ということです。219.00レアルの10回払いで受け付けますよということですね。
これは家電等の比較的高額なものから、45レアル程度の靴でもこのような表示にされていることが多いです。
総額がいくらかよりも、月々の支払いがいくらになるかという方がフォーカスされていますね。
上記は10回払いですが、仮に20回払いで月々108レアルと表記されていたら、総額は同じでも、そちらのほうを選ぶブラジル人の方が多い気がします。
(個人的な考えですが)これには
①月々の支払いを軽くしたい
②ハイパーインフレの名残
という2つが考えられます。
①に関しては、上の最低賃金と必要最低限の生活費の関係を見るとわかるとおり、ブラジルは賃金に比べて生活費が高いので、月々の負担額をとにかく小さくさせたい人が多いということですね。
日本では総額が同じなら、早く支払いを終わらせたがる人が多い気がします。
2)今、お金がなくても買う
クリスマス商戦の始まっているブラジル。
ブラジルの店頭でよくあるうたい文句が「支払いは来年の2月から!」というもの。商品は今購入できるけど、支払いはまだ先だよというものですね。
ブラジル人は、現在手元にお金がなくても、買い物をする人がかなりいます。
100レアルの収入が毎月見込まれるのであれば、1000レアルのものを10回払い(支払いは再来月から)で購入するのもかなり一般的。
お金の支払いは、遅ければ遅いほど良いようです。
主人曰くこれもハイパーインフレの名残らしいですが、個人的には、ただの見栄っ張りからくる過剰な購買意欲からきている気がしています(笑)
※ハイパーインフレ時は、とにかく分割払いで物を購入して、後でそれを売って換金するという事が行われていたそうです。
3)一括払いなら、割引を求める
先ほど分割払いが一般的という話をしましたが、一括払いももちろんあります。
一括払いの場合は、大きなお店では割引価格が既に設定されている店も多いですし、小さな商店であれば一括払いの場合は値引き交渉に応じてくれる事も多いです。
①インフレが考慮されて分割払いの値段が設定されている
②クレジットカードの手数料分を割り引いてくれる
というのが主な理由のようです。
日本だと値段交渉って、消費者レベルではあまりする事が無い気もしますが、ブラジルでは割と普通です。
ブラジル人と付き合う中で、やたらと交渉したがる(特にサンパウロ出身者!)と感じるかもしませんが、それにはこんな理由もあるかもしれませんね。
4)お金は消費か投資に
2でお金が無くても買い物をすると書きましたが、お金に余裕があっても基本貯金はせず、消費するか、投資するかです。そりゃそうですよね。これだけのインフレですから、そのままお金を持っていても、どうしようもないですもんね。
仮に銀行に預けるにしても、利息の高い運用口座(コンタ・ポウパンサ)等に入れて、資産価値の目減りを防がなくてはなりません。
貯蓄率の高い日本とは全然違いますね。
5)貰えるお金は出来るだけ早く貰いたい
ハイパーインフレの名残か、兎に角お金を早く貰いたがる人が多いです。
あとは、単にお金が無くて給料日まで待てない人も(笑)
上のグラフをみて分かるとおり、最低賃金と必要最低限の生活費のバランスがよくないです。生活が苦しい人が結構多いのです。
まとめ
貨幣の価値
ブラジルに来て直ぐの頃、何故ブラジル人がやたらと分割にしたがるのか、何故稼いだお金を全て消費に回すのかわからず、ブラジル人は浪費家だなーと思っていました。
ただ、生活になれ状況がわかってくると、こちらの方が(少なくともブラジルでは)理にかなっているな、と。
デフレやゼロ金利になれた日本人は、「貨幣の現在価値と未来の価値」の違いについての意識が薄いかもしれないですね。
とりあえず、日本では銀行に預けていてもたいして増えるわけではありませんし、安倍首相は2%のインフレ・ターゲットを掲げているわけで、まだ何も対策をとっていない人は、少しずつでも投資なりなんなりで、資産の目減りを減らす・資産を増やすことを考えたほうがいいかもしれませんね。