アイドル編<439>若く、かわいく
歌謡曲バー「スポットライト」の安東暢昭=福岡市=は、女性のアイドル歌謡史について大枠で5年ごとに区分している。
第1世代は1970年代前半の天地真理、南沙織、麻丘めぐみなど。第2世代は70年代後半の山口百恵、森昌子、桜田淳子など。第3世代は80年代前半の松田聖子、中森明菜など。
安東は70年代に入ってアイドル歌謡が誕生した背景の一つについて60年代後半の「GS(グループサウンズ)ブーム」を挙げる。 「GSによって若い世代がレコードを買うようになった。それまでレコードは大人が買うものと思っていた業界が若者をターゲットにするようになった。歌い手も受け手も若かった」
それと重なるように徐々にカラーテレビが普及していく。社会学者の太田省一は「アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで」(筑摩書房)の中で次のように書いている。
「テレビの存在を背景として、歌手が“聴かれる存在”であるよりも“視(み)られる”存在になっていった」 それまでの歌謡曲の基準だった歌唱、技術力よりも髪形やファッション、メークなどビジュアルが先行し、若さやかわいさなどが前面に出てきたのだ。アイドル歌手とはなにか。一言で説明することは難しい。抽象的ではあるが、この若さとかわいさは核心部分である。もちろん、アイドル歌手すべてを歌が下手と言っているわけではなく、歌の上手な人は数多くいた。
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この区分について象徴的な年は歌謡史の中でよく語られる80年だ。この年に山口百恵が引退し、入れ替わるように松田聖子がデビューした。これについて安東はこのように語る。
「第2世代は百恵さんのように『脱アイドル』を目指した部分があった。それはニューミュージックのシンガー・ソングライターの人気に影響を受けて引き寄せられた面があったと思います」
この「脱アイドル」の流れは容姿より歌唱力重視の方へ動きかけた。安東は言う。
「しかし、第3世代はその揺り戻しといえるように、ビジュアルを大事にした第1世代に似通っています。新しい世代にとってそれが新鮮なものに映った」
第3世代の代表格である松田の「聖子ちゃんカット」が流行したのはその象徴的な出来事だった。
=敬称略
(田代俊一郎)