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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第十八話:回復術士は正義を執行する

 いよいよ、処刑の日になった。

 今は昼過ぎ。処刑が行われるコロシアムにすでに忍び込んでおり一般人の中に紛れ込んでいる。


 フレイア、セツナとは別行動だ。

 フレイアには重要な仕事を任せてあり、セツナはその護衛としてそばについてもらっている。


 セツナのレベルは二十八まであがっていた。

 俺やフレイアに比べるとまだまだ低いが常人と比べれば高いほうだし、戦いのセンスがある。それに素質値が圧倒的に高い。


 上級騎士相手でも、対等以上に戦えるだろう。

 剣聖のクレハも協力を申し出てくれているが、丁重に断った。


 情報提供はしてもらっているが、武力としてはカウントしない。

 その理由はいくつかある。


 まず、今回の作戦は俺一人で十分だということ。

 剣聖クレハや勇者たちのような特級戦力が出てこない限り、有象無象が集まろうが俺なら対処できる。

 何人か、今回の作戦に従事する兵士をとらえて【回復ヒール】することでそういった存在が現れないことは確認している。


 もう一つは、まだクレハが王国にいてくれるほうが都合がいいということだ。

 クレハに期待する役割はスパイ。中からでしか手に入らない情報というのは多い。


 理想を言えば、剣聖クレハが俺たちと本格的に行動するようになるとしても、その前に、フレアの妹姫を殺してからだ。


 あの女の守りは堅い。極度の人間不信の完璧主義者だ。隙をなかなか見せてくれない。あれを殺すには内側からでないと不可能。


 王よりもあれのほうがよっぽど性質が悪い。

 未だに諸悪の根源とも呼べる王を放置しているのは、王を殺してしまえば、あの妹姫が今まで以上に自由に動けるようになるからだ。あれに王の権限を渡してはいけない。

 こっちの世界で俺に対してやらかしてくれれば、すぐに全力で殺しに行くのだが……しばらくは放置するしかない。


「緊張してきたな」


 思わず独り言を漏らす。

 今回は救出だ。せん滅ではなく救出となると作戦の難易度は一気に跳ね上がる。いろいろと救出にはせん滅にはない難しさがある。


 まず、村人たちを守りながらの戦いとなること。

 次に、そいつらを連れて逃げるというリスク。

 最後に逃げた後の生活を守ってやらないといけない。


 今回処刑されるのは四十人近い……逆に言えば、もう四十人しか残っていない。残りは全員殺されている。


 いろいろと手を打ってはいる。

 金さえあればたいていのことはなんとかなるし、権力者の弱みを握っていればいろいろと無理もできる。


 俺と奇病の治療で手を組んだ商人をコマとして使った。

 あいつは俺の想像通り、俺からレシピを奪ったものの、奇病のポーションを再現できず、なおかつ奇病自体が収まったことで破滅寸前だった。奴を利用しようとしてた黒幕に始末されそうになったところをわざと”問題がある方法”で助け、同時に弱みを握り今回の件に協力させている。

 やつに、村人が逃げたあとの生活を保護させる。


「まあ、手は打ったがきっと無駄になるだろうな」


 そんな確信があった。

 考え事をしている間にリングを囲む観客席に流されてきた。


 人が多い、観客席は満員だ。

 王女殺しを生み出した邪教の村に住む人々の処刑。見世物としては悪くない。人気があるのも頷ける。


 リングに村人たちが連れてこられた。

 次々に磔にされていく。抵抗する気力もないのか村人たちの眼がうつろだ。


 女も子供もいた。

 観客席からは殺せ殺せというコールが発せられる。

 改めて実感する。人間は残虐な生き物だ。

 なんて醜いのだろう。


 磔にし終わると、騎士たちが整列し、ひと際派手な服を纏った中年の男が一段高いステージに上る。おそらく今回の作戦の責任者なのだろう。俺が殺したレナードの後任である可能性が高い。


 キーンっと甲高い音がした。

 拡声魔法特有の現象だ。リングには拡声魔法を使うために設備が用意されており、専用の宝石に向かって話しかけると拡大された声が観客席に響く。


「これより、邪教の村に住む背徳者たちの処刑を行う。この村は神の教えに背き悪魔の囁きを信奉し、さらにその歪んだ教えは勇者すら邪悪に堕とし、聖女フレア様の悲劇の死を招いてしまった」


 魔法により拡大された中年の男の声は観客席すべてに響き渡る。

 観客席からすすり泣きが聞こえてきた。

 王女フレアは聖女としてみんなに愛されていた。


「その悲劇を繰り返さぬよう、今この場ですべての元凶を絶つ」


 磔にされた村人の周りにいる兵士たちが槍を構えた。


「……と言いたいところだが。邪教の悪魔は今、【癒】の勇者ケアルの体に宿っている。すべての悪意はたった一人に凝縮しているのだ。【癒】の勇者ケアルよ。もし、私の声が聞こえているなら名乗り出てくれないだろうか? すべての悪意を飲み込んだ君が死ねば、悪魔は地獄に戻り村人たちは解放される。さあ、もし君にまだ人間の心があるならここに来い。死ぬことで君自身も救われる!」


 笑いがもれそうになった。

 なんて無理やりなこじつけだ。

 きっと、俺をおびき出したいのだが、俺をおびき出すには村人の命という餌が必要になる。


 だが、邪教に染まったとレッテルを張った以上、処刑せずに見逃すにはそれなりの理由がいる。

 だから、全部俺が悪いということにしたのだ。

 それでいて、俺の名誉というのも餌にしたいらしい。ここで名乗りでれば俺は悪魔に支配されていながら、最後の最後に抗い人と死ねるので一応の名誉は守られる。


 なかなか、面白い考えだ。

 だが、バカだ。こんな餌で本当におびき出せると思っているのだろうか?


 とはいえ、ここで出ないと村人たちは殺されるだろう。癪だが出ていかないといけない。

 観客席に潜んでいた俺は立ち上がり、観客席の間を走り、跳ぶ。リングに着地。今まさに村人たちが処刑される寸前、兵士と騎士たちが待ち構える死の舞台に躍り出る。


 回りの注目が集まる。

 そんな中、ローブを脱ぎ捨てた。

 観客席が押し黙る。


 俺の今の姿は【癒】の勇者ケアルの姿。

 これ以上ふさわしい姿はないだろう。

 中年の男、この場にいる騎士と兵士たちの統率者が笑う。それは嘲笑。


「来たかあああああ、王女殺しの大罪人、悪魔に魅入られし堕ちた勇者。【癒】の勇者ケアルぅぅぅ!」


 観客席が湧き始める。

 大観衆からの殺せコール。狂気と熱気が周囲を包む。


 ふむ、ここまでくると逆に楽しいな。

 全身に殺意と敵意を浴びる。だめだ。勃起しそうだ。


「さあああああ、首を差し出せ。おまえが死ねば村人たちは助かる。さあ、最後の良心で悪魔を押さえつけろ。我々は慈悲深い。人間として埋葬してやるから、安心しろおおおおお」


 慈悲深い。

 たしかにそうだな。

 なにせ、殺してくれるのだから。


 王女を殺し、無数の兵士を殺した大罪人。それをあっさりと殺してくれるなんて優しすぎて涙が出そうだ。普通なら死を懇願するぐらいの責め苦を与える。


【翡翠眼】を使いながら、彼我の戦力差を確認する。

 敵の数は、兵士と騎士を合わせて四十三。特級戦力は居ない。

 ああ、なんだ。その数は? なんだその質は? 

 その程度で俺を殺せるなんて思ったのか。不愉快だ。


 兵士たちが殺到してくる。

 一度に六人。取り押さえるつもりだろう。剣を構えてすらない。

 ますます不快だ。


「本気で俺を捕らえる気がないだろう。もし、本気でこの程度なら俺への侮辱だ」


 短く告げて、全員の手をすり抜ける。

 ただ、すり抜けるだけじゃない。全員の背中を叩いた。

 兵士たちが、呆けた顔で振り向く。


「【改悪ヒール】」


 必殺の魔法名を告げる。

 兵士たちが崩れ落ちた。


 人を殺すのに巨大な爆発も、真っ二つにする剛剣もいらない。

 ただ、心臓から血液が出ていく出口を塞ぐだけ。

 それだけで人は死ぬ。俺の【改悪ヒール】ならそれができる。


 ただ手で触れればいい。剣聖からコピーした【見切り】と極限の集中力を得る【明鏡止水】。その二つがあればこれぐらいの芸当はできる。


「貴様あああああああああ、まだ罪を重ねるか」


 この場のリーダーである中年の男が叫んでいる。


「罪? 何を言っている。罪っていうのは悪いことだろ。俺は正しいことをやっている。かわいそうな村人を救いに来た俺が正義だ。つまりこれは正義執行なんだよ。悪はおまえたちのほうだろう?」


 今の言葉がよほど気に喰わないのか、目の前の騎士と兵士たちの殺意が一気に膨れ上がる。

 人間が一番怒るのは、図星をつかれたときだ。


 きっと、自分たちが悪だと認識しているのだろう。

 正義の味方の俺は速やかに悪である奴らを駆逐する義務がある。


「【癒】の勇者ケアル! 動くな。それ以上動けばおまえの村の人々がどうなるかわかっているのか」


 村人たちの周囲にいる兵士が槍を村人に突き付ける。

 俺は微笑み、一番近くにいる兵士を【改悪ヒール】した。


 兵士の体が一気に膨れ上がり破裂した。

 全身の細胞を無理やり成長させればこうなる。


 あまりにもむごい死に、俺以外の全員が顔を真っ青にする。

 心臓の血管一本塞ぐことに比べて、魔力の消費が激しい殺し方だ。

 だが、これは威嚇だ。できるだけ残虐に殺す必要がある。無駄ではなく必要なコストだ。


「教えてくれ、どうなるんだ?」

「殺せえええええ、まずは五人だあああああああ!」


 中年の男の命令によって、四人の村人たちが死んだ。

 やつらは五人殺すつもりだったが一人は助かっている。俺が死体から回収した剣を投げつけ、その剣が首筋に刺さり、処刑を行おうとした兵士が死んだからだ。


「ははははは、貴様のせいで四人も死んだぞ。貴様のせいだ!」

「俺のせい? いったい何を言っているんだ?」


 意味がわからない。なぜ俺のせいなのか。


「貴様が言うことを聞かないから村人たちが死んだ!」

「それは関係ない。おまえたちが殺した。おまえたちのせいだ。俺は大好きな人たちを殺された被害者だ。ひどいな。悲しんでいる俺に言いがかりをつけるなんて。むしろ一人救った。なんだ、やっぱり俺が正義だ。なにせ、お前たちは四人殺して、俺は一人救ったのだから」


 まったく、人に罪を擦り付けるなんて最低のクズだ。

 俺も可哀そうだが、もっと可哀そうなのは殺された村人たちだ。

 彼らが安らかに眠るためには、やつらを殺して恨みを晴らしてやらないといけない。

 さっそく、供養のために何人か殺すか。


「待て、待てええええ、わからないのか、おまえが抵抗すれば、抵抗するほど、村人たちが」

「大丈夫だよ。殺されても、ちゃんと敵は討つから」


 俺は復讐が大好きだ。村人のためにも俺のためにもしっかりとやることはやる。

 殺されたら、しっかりと復讐してやる。

 狂乱状態の兵士がまた三人の村人たちを殺す。

 こいつらに人としての良心はないのだろうか?

 一刻もはやく殺さないといけない。そうすれば助かる村人の数が増える。死んだ村人たちの無念も晴れて一石二鳥だ。


「こいつ、壊れてる、おかしい、なんなんだよ」


 まるで人を異常者みたいに。ひどいだけでなく失礼なやつだ。もう死んでもらうしかない。


 俺は走り出す。目的はリーダーらしい中年の男。

 俺を食い止めようと、剣を構えた男が立ちふさがる。

 一つ、二つ、三つ。

 今度は兵士ではなく、三人の騎士が俺の【改悪ヒール】で絶命する。

 MPに素質値を割り振っていて良かった。

 俺が剣技を使えることを隠すために、【改悪ヒール】と体術だけで戦っているが、なかなかきついな。

 面倒だから、剣を使いたくなってきた。


「結界だあああああああ! 結界を使えええええええ!」


 中年の男が叫んだ。

 あーあ、やっちゃった。

 それだけは駄目なのに。


 さて、俺が仕込んだ結界……もとい血界が発動する。

 本来は彼らを守る切り札。

 だが、それは歪に歪んでいる。

 血界は惨劇を引き起こすだろう。

 さあ、たっぷり俺の演出したステージを楽しんでもらおうか。

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