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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第六話:回復術士は綺麗だったころに戻る

 持てる手札のほとんどを使い、なんとか剣聖クレハ・クライレットを打倒した。

 正真正銘の化け物……いや、化け物という言葉すら生ぬるい。

 敵に回れば厄介だが、うまく味方につければ頼もしい存在になりえる。


 気を失って倒れたクレハを見る。

 銀色の髪をした華奢で美しい少女だ。

 とても、俺を圧倒した化け物のような剣士とは思えない。


 ぐったりとしたクレハ・クライレットを担ぎ、俺のローブで包む。

 幸い、今は人目がない裏路地にいる。だが、大通りに出て、彼女を俺の宿に運び込むところを見られてはたまらない。クレハの容姿は目立つ。噂になればすぐに王国の兵士たちがなだれ込んでくるだろう。


 宿に連れ込んで、たっぷりと彼女を”説得”しよう。

 せっかく、『王国の非道スペシャル~亜人編~』を見せてやったんだ。揺らいだ心に付け込まないともったいない。

 何かに妄信する人間ほど、その信念は崩しやすいし付け込みやすい。


 フレイアのように頭を空っぽにして、洗脳すれば手っ取り早いだろう。だが、そうすれば彼女の輝きは失われる。心・技・体。すべてが揃ってはじめて剣士としての彼女は完成する。

 壊してしまうのはあまりにも惜しい。彼女ほどの人材なら手間をかけるだけの価値がある。慎重にことを進めるとしよう。


 俺はローブに包んだクレハをお姫様だっこをした。


「ケアルガ様」


 氷狼族の少女、セツナが声をかけてきた。

 顔を伏せて俺の裾を握る。


「どうしたんだ。セツナ」

「ケアルガ様と、その人の戦いすごかった。……すごすぎた。いつか、セツナがその領域に追いつけるのか不安になった」


 セツナには戦士としてのプライドがあった。

 レベル上限が低いという欠陥はあったとしても、技量では負けないという自信。

 だが、俺と剣聖クレハの戦いを見て、その自信が崩れたのだろう。

 人知を超越した技量の応酬。セツナから見て遥かかなたにある領域。

 俺は一度、クレハをおろしてセツナの頭に手を乗せて笑いかける。


「セツナなら届くさ。セツナには才能がある。俺や、その人に負けないぐらいのとびきりの才能がね。だから、戦いが始まる前に見て学べと言ったんだ。フレイアに近接戦闘を教えろと言ったのもセツナに期待しているからだ。人に教えると、今まで見えてなかったものが見える」


 セツナには天性の戦闘勘がある。

 技量やスキルと違い数字に表れない強さ。そこもきっちり評価していた。

 今回のように強敵との戦いで学んでいけば、いずれ俺たちのいる領域にたどり着く。


「ん。がんばる。がんばって、追いつく。でも、ケアルガ様、時間があるときでいいから、セツナに戦い方を教えて。氷狼族の格闘術だけじゃ足りない」

「もちろんだ。時間を見つけて俺の剣を教えよう」


 セツナの場合、氷の爪を主体とした戦闘術で、剣を使ったものとは別系統のスタイルで剣術を学ぶ意味は少ない、だが、彼女ならその剣に働いている理を見抜いて自らの戦い方を改めていくだろう。


 セツナの成長が楽しみだ。

 そんなことを考えながら、俺はローブに包んだクレハをお姫様だっこして歩き始めた。


 ◇


 宿の部屋を追加で借りて、そこでクレハを看病していた。

 彼女の服は、かなり息苦しいしっかりしたものだったので、宿で支給されるゆったりとした麻の寝間着に着替えさせた。


 地獄のような修練をつんだ彼女の体は、傷だらけでごつごつ……そんなものを想像したが、実際は白く滑らかな肌。柔軟で質のいい筋肉を薄い脂肪が包んで女性の柔らかさがある。端的にいうと美しく、エロい。


 なかなか、着替えさせるのに苦労した。

 まだ、媚薬の効果が続いており、意識を失ってもクレハの体は反応している。思わず襲いそうになったが堪える。これから、信頼関係を結ぼうという相手にそれはまずい。


「足もしばるべきか……まあいい、俺なら対処できるだろう」


 いきなり斬られてはかなわないので、両手は縛っているし、彼女の剣は別の部屋に保管していた。彼女は、俺が折った剣と予備の剣のほかに二本の短剣を隠し持っていた。それだけ予備の武器を用意してるのは単独行動が多いからだ。

 だからこそ、都合がいい。もし、彼女が複数人で行動していればこうもうまくいかなかった。


「フレイア、これからおまえをフレアと呼ぶ。打ち合わせの設定を忘れるなよ」


 フレイアの顔はフレアのものに一時的に戻している。

 今からクレハを”説得”するためだ。

 そのためには、【癒】の勇者ケアルと王女にして【術】の勇者フレアとして振る舞ったほうが都合がいい。


 俺の顔がケアルガのままなのは、演出のためだ。

 起きていきなり、ケアルの顔があればクレハも驚くだろう。しかるべきタイミングでケアルの顔に戻る。


「はい! それにしても見た目を変える魔法なんて初めてみました。ケアルガ様はこんなこともできるんですね」

「回復魔術を極めればこれぐらいはできる。だけど、回復魔術が使えることは秘密にしておいてほしい。超一流の回復魔術士は狙われやすい。命を扱う商売は金になるからな」

「わかりました。このフレイア、絶対に口外しません!」


 フレイアが力強くうなずく。

 クレハとの決闘で、フレイアとセツナに隠していた【回復ヒール】を使わざるをえなかった。右腕の再生を見せた以上、隠していた回復魔術のことを教えるしかない。


 クレハのまぶたが動く、そろそろ起きるか。


「じゃあ、フレイア……いや、王女フレア。俺が呼ぶまで隣の部屋で待機していてくれ。呼んでからは話を合わせてもらえると助かる」

「かしこまりました。ケアルガ様……いえ、【癒】の勇者ケアル様!」


 フレイア……いや、王女フレアが去っていく。

 そして、しばらくしてからクレハが目を覚まして、飛び上がる。


「いやああああああああ、やめてええええええ、そんなのだめええええええ」


 起きるなり狂乱して叫び頭を振り乱す。

 ああ、俺がさきほど植え付けた記憶がフラッシュバックしているのか。

 ちょっと、処女にはショッキングな映像がたっぷりだ。トラウマになってもおかしくない。


 あれに比べると、俺がフレイアへの復讐の際に、ち〇こと焼けた鉄棒どっちがいい? なんてやったのが、おままごとに見える。参考にしようと思ったが、あそこまでいくと逆に萎えるので却下した。


「落ち着いてくれ。大丈夫、それはおまえの記憶じゃない」


 肩をしっかり掴んで、眼をまっすぐに見つめる。

 そして、落ち着け、落ち着けと繰り返す。

 しばらくして、ようやくクレハが落ち着きを取り戻す。


「えっ、あれ、ここはどこ、あなたはさっきの男!?」


 キョトンとした表情をクレハは浮かべる。

 そして、自分の両腕が縛られていることに気付いて表情を硬くした。

 次の瞬間、肩をぶつけて俺を引きはがす。

 けっこう痛い。この状態でもきつい一撃を放つのはさすがだ。


 弱まっているとはいえ媚薬に蝕まれている状態でよくやる。まだクレハは顔が赤く、息が荒い。


「……覚えていないか。クレハ・クライレット。おまえは負けたんだ。俺が気絶したおまえを宿に運んだ」

「っ!? 思い出したわ。あなたが私の頭を掴んだ瞬間……そう、私はあれで気絶したのね。剣士で、強化魔法の使い手、回復術士で、幻術まで。あなたはいったい何なの」


 そう言いながらもクレハは素早く周囲の状況を確認し、脱出の方策を考えている。

 不安や恐怖を押し殺して、適切な行動をとる。さすがだ。


「二点、訂正したいことがある。一つ目だけど。俺は幻術なんて使っていない。ただ王国兵の記憶を見せただけだ。王国が行った残虐な行為は、すべて実際に行われたことだ」

「嘘よ。ジオラル王国は、魔族から人類を守るための盾で剣。あんな、あんなひどいことをするわけがないわ」


 ジオラル王国は魔族に支配された土地と人間が支配する土地の境界線上にある。

 魔族から人間を守る盾であり剣というのは正しい。ジオラル王国が魔族たちに喧嘩を売って始まった盛大な自作自演という点に目をつむれば。


「たしかに、”一応”、人類を守る盾で剣ではあるな。だが、亜人は守るべき人類に含まれないんだよ。ジオラル王国は、人間のために亜人を利用している。あんただって、王国で日常的に亜人の奴隷を見かけているだろ。あいつらはどこから来たと思う? 人間に村を襲われて攫われて、売られているんだ」


 クレハが言葉に詰まる。

 言われてみれば当然のことだが、意識しないと気付かない。


「で、その村を襲っている連中の中に王国兵がいても不思議じゃない。俺の言葉を信じられないなら、ジオラル王国に戻って確認すればいい。クレハが幻術だと思っている記憶、その裏を探ればあっさりと真相が見つかるさ」

「あなた、私を逃がすつもりなの?」

「もちろんだ。殺すつもりなら、とっくにそうしているさ。俺はクレハを殺したりしない。ただ、話がしたい。王国の真実を。剣聖としてのクレハを尊敬している。そんなクレハが王国に騙されているのが耐えられないんだ!」


 俺は、真剣な表情を作る。ああ、駄目だ笑いをこられるのに苦労しそうだ。


「……聞くだけは聞いてあげるわ。どうせ、話を聞くまで逃がすつもりはないのよね」

「すまない。できれば、こんな乱暴なことはしたくないんだが、そうでもないと話を聞いてくれないだろう。さっき、二つ指摘したいことがあると言った二つ目だけど。俺は、たった一つの能力しか使っていない。俺にできるのは【回復ヒール】だけ。俺はただの回復術士だ」

「嘘よ。だって、あれだけの力」


 信じないのも無理はない。

 だから、この場でもう一枚カードを切ろう。


「【改良ヒール】」


 ケアルの名を捨て、ケアルガと名乗ると決めたとき、一緒に捨てた顔を取り戻す。

 俺の顔を見て、クレハは目を見開いた。なんだ、ちゃんと覚えていてくれていたのか。


「クレハ、この顔を見てまだ思い出さないか。俺は【癒】の勇者ケアルだ。勇者は、既存のクラスの力をさらに発展させる。俺の場合は、【回復ヒール】した相手の技能と経験、記憶を得る。俺がクライレットの剣技を使えるのは、クレハを【回復ヒール】したからだ」

「……身体能力を向上させたのも、私に幻術を見せたのも、そして、顔を変えたのも勇者の【回復ヒール】というわけね」

「そうだ。そして、さきほども言ったが、俺が見せたのは幻術じゃない。その正体は、俺が王国の兵士たちを【回復ヒール】したときに得た記憶なんだ。王国は裏の顔をもっている」


 クレハが息を飲んだ。

 さすがに【癒】の勇者の言葉なら信じてくれると期待したいが……。


「あなたが【癒】の勇者なら、なおさら信じられないわね! あんなにやさしくてみんなから愛されていた王女様を殺して逃げた狂人! 絶対に許さないわ!」


 俺が王女を殺して逃げたことはきっちり、共有されているのか。

 これも、想定の範囲内。

 用意した脚本通り話を進めていこう。


「やはり、そう思われていたか。俺はフレアを殺していないんだ。むしろ逆だ。俺はフレアを助けた。俺は【回復ヒール】をして王国の兵士の記憶を得て、この国の異常さに気付いたんだ。そして、そのことを王女フレアに相談した。それが原因でフレアは王国の闇を探り、殺されそうになった。だから、俺は彼女を守るために、死んだと偽装して連れ出した。来てくれフレア」


 さて、もう一人の役者の登場だ。隣の部屋から王女フレアがやってくる。クレハは、さきほど以上に驚いている。死んだはずの当人が現れたのだ。


「お久しぶりです。剣聖クレハ・クライレット。ケアルから話は聞いているようですね。なら、ここから先は私が話しましょう。王国の闇と、ケアルが私を救って城から連れ出してくれた話、そしてそれからのことを」


 さあ、俺が作り上げた物語は次の段階に入る。

 王国の闇を知った、【術】と【癒】の勇者の脱走劇と世界を救う旅の話を。

 十分後には、クレハはジオラル王国を悪だと糾弾し、俺を真の勇者だと認めるだろう。


 話していてわかった。クレハ・クライレット。この子はひどくだましやすい。

 王国を守るという信念が折れた心の隙に入り込んでやる。

 便利な手駒にしてて、復讐に役立てさせてもらおう。



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六巻ではジオラル王討伐。そして、今回の書き下ろしは会心の出来! 運営様が怖くてなろうではできないほど、やばくてエロくて、すかっとする復讐シーンを大増量で書いてます。まじで読んで欲しいです! お陰様でシリーズ六十五万部突破!
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