シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる 作:須達龍也
書くのが大変になってた頃に、0点評価とか付けられて、完全に心が折れました。
ただ、この作品が未完になるのは、ここでも未完かよと、シャルティアに申し訳ないなと、完結まで頑張りました。
「…逃げられた…か」
実は割りと近くにいますがね。
彼女のつぶやきに答えるように、そう心の中でつぶやく。
しばらく辺りを警戒しながらも、私の存在を感知することができなかったようで、緊張を解くように一息ついた。
無論、だからと言って襲い掛かるような真似はしない。
今のところ私に気付かないのは、私の気配がほとんど無いからだ。そこで殺気を出せば、あっという間にこちらに気付くだろう。
「…さて」
彼女はそうつぶやくと、ひらりと屋根から飛び降りた。
下での闘争は、悪魔達の敗北で終わっていた。残念ながら逃げることはできず、滅ぼされてしまったようだ。
申し訳ございません、デミウルゴス様。
心中にて、謝罪の言葉を述べる。
「そちらも終わりましたか」
漆黒聖典の隊長らしき、長髪の男が少女に確認と思しき質問をしてきた。
「んー、まんまと逃げられた」
その質問に、少女が肩をすくめてそう答えた。
「あなたが…ですか?」
隊長は素直に驚きを表情に表した。
「強さのわりに…いえ、強いからこそか…気配が異常に薄いし、回避能力の高さが半端なかった。すごく強いイジャニーヤは、戦いにくいわね。…あと、つまんない」
「それが感想ですか」
隊長の方も、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「それとあのイジャニーヤ、”ケイ・セケ・コゥク”を狙ってたっぽい」
「えっ!?」
「例の吸血鬼と知り合いっぽいわね」
「恐るべき情報じゃないですか」
少女と隊長で、深刻さが大きく違うのは、実力差によるものだろうか。
「あれは今?」
「厳重に保管はしていますが…」
「あのイジャニーヤが本気で盗りに来て、守れるの?」
「……」
沈黙こそ、その答えだろう。
「私が持っておこうか?」
「おおっ、装備してくれますか」
「違う。持っているだけ。装備はしない」
かたくなに拒否しているが、装備できないのではなく、しないということは、この少女は”傾城傾国”の装備条件を満たしているということですな。
ただ、他に装備できるものがいなく、この少女も装備するつもりがないとなると、当初の予定であった”傾城傾国”を使用させるというのは難しいですね。
とりあえず、この少女がどこで暮らしているかを突き止めてから、アインズ様に傭兵モンスターの忍者タイプをお借りしましょうか。
何人かはやられてしまうでしょうが、何、ワールドアイテムと比べれば安いものですよね。
そう、少女の影の中で考える。
「ただいま戻りましたでありんす」
「…お、お邪魔します」
ナザリックの地表部分からわずかに離れた場所に設営されていた、漆黒用のテントにすばやく入り込んでから、声をかける。
いらっしゃらないとわかってはいても、アインズ様がおられるかもしれない場所に了承もなく入るのは申し訳ないが、入るのにもたもたして他の者に見られるリスクを避けよと命じられている以上、しょうがない。
「お帰りなさいませ、シャルティア様」
ナーベラルが頭を下げながら、そう応じてくれた。
「…やっぱり繋がっているんだ…」
アルシェがぼそりとそんなことを呟いている。
「この子達を第六階層に置いてから、すぐにアインズ様のところに帰還のあいさつに向かいんす。だから、ゆ、指輪を…」
緊張から、思わず噛んでしまった。
「伺っております。こちらを」
こちらの緊張などおかまいなしに、ナーベラルが指輪を手渡してくれた。
できれば、アインズ様から直接、左手の薬指にはめて頂きたいところではあったが、まあ仕方ない。
「ありがとう、ナーベラル」
左手の薬指に自らはめると、手をかざして仰ぎ見る。
「…くふっ」
わずかな間であるとはわかっているが、アインズ様やペロロンチーノ様がつけてらした指輪をつけられるのは、とても嬉しい。
「それじゃあ、行くでありんす、アルシェ」
「ふうっ」
疲労は感じないはずだが、精神的疲労は人間だったころの残滓なのか、なくなることはなかった。
ナーベラルからの<伝言>で、打ち合わせがあるとやらで上に行ってきてのつまらない猿芝居をしてきたところだった。パンドラズ・アクターがいない以上、仕方がない。
「…その間にシャルティアが戻ってくるかもと思ったが、それよりは早く済んだようだな」
誰に言うでもなく…少し離れた所には今日の部屋付きメイドのフォアイルがいるが…彼女に向かって言ったわけでも、天井にいる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)に言ったわけでも、もちろんない。
コンコン…
「ん?」
ノックの音に反応して、フォアイルが確認に行く。
「…シャルティア様が、ご帰還のご挨拶に参りました」
丁度考えていたシャルティアが戻ってきたようだ。
「わかった。入室を許そう」
許可を得て入ってきたシャルティアが、跪いて首を垂れる。
「シャルティア・ブラッドフォールン、ただいま戻りましたでありんす」
「ご苦労、特に問題はなかったか?」
「はい。問題はないでありんす」
「ふむ、わかった。下がっていいぞ」
帰還のあいさつは終わった。だが、シャルティアに退室しようという様子がなかった。
「…あ、あの…」
「ん?」
「…少しだけ、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「ふむ、いいぞ。なんだ?」
「…で、できましたら、し、寝室の方で…二人だけで…お願いします」
場所を寝室に移動し、フォアイルには外してはもらったが、八肢刀の暗殺蟲だけは無理だった。まあ、こないだのアルベドの件もある、しょうがない。
「…で、なんだ?」
シャルティアは静かに手に持っていた箱を開いた。その箱から、聞いたことがあるような曲が流れる。
「オルゴールか」
「はい。アルシェの家で見つけまして、懐かしくて、もらいました」
「…ふむ?」
懐かしい?
「…舞踏会で流れていた曲です。アインズ様とダンスをした時の…」
「…そうなのか?」
懐かしそうな表情をしているシャルティアには悪いが、その思い出を共有することはできなかった。
シャルティアは開いたままのオルゴールをサイドテーブルに置くと、こちらをまっすぐに見上げて言った。
「…アインズ様、踊っていただけませんか…」
その瞳に、答えがつまる。
「…私にダンス技能はないぞ」
「…わたしがお教えいたします」
「……わかった」
最終回は、明日の朝9時に予約投稿しましたので、最後までお付き合い下さい。