「よく来てくれたパンドラズ・アクター。頭を上げよ。」
「ハイッ! アインズ様の御命令とあらば例え溶岩の中、氷雪の中! いかなる場所でも馳せ参じます!」
言葉はいつもの様にテンションが高い様な感じ(有り体に言えばウルサイ)だが、所作は片膝を付いたまま落ち着きを払っていた。
パンドラズ・アクターはアインズの雰囲気がこの世界で再開してから(アインズと名乗る様になってから)と異なる事に気がついていたからだ。
「シクスス、そして
普段であれば万が一という事で
そして、しばしの沈黙が室内を包んだ後、パンドラズ・アクターが口を開く。
「アインズ様……いえ、モモンガ様。
雰囲気が以前、ユグドラシルに居られた時の様に感じられます。
何か御在りになったのでしょうか?」
「そうか、お前は気がつくのか。」
「はい、私以外ですと……守護者統括殿くらいでしょうか。」
「そうか、アルベドもか……。」
アインズは不安が自身の体を蝕み、沈静化され、再度蝕む。
終わりの無いような不安感に捕らわれ、話すべきか迷うってしまう。
「今から話す事は、お前にとって気分のいいものでは無いかもしれない。
――――それでも聞くか?」
「はい。その御役目に選んで頂けた事、光栄にすら思います。」
どの道パンドラズ・アクターでもダメなら、ひっそりとナザリックから去ろう。
アインズはそこまで思いつめていたのだ。
もうここまで来たんだ、今更引き返せない。
そう自分に発破をかけて、アインズは今の自分の思いを吐露した。
「――――以上だ、パンドラズ・アクター。」
モモンガは話した。
自身が人間であった事、搾取される弱者であった事。
皆が思う様な叡智など無い凡庸な存在である事。
この世界に来てから自身の思考がおかしくなっていた事、今でも人を殺す事に忌避は無いから元に戻ったとは言い難いが。
そして、ナザリックの在り様とは異なる方向へ進もうとする自分をナザリックの皆は理解を示してくれるだろうかという事を。
「意見があれば忌憚無く言って欲しい。」
「それでは、いくつか質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
不興を買う覚悟は出来ている、気に障ったのなら首を刎ねてくれ。
パンドラズ・アクターの空洞の眼差しからその様な意思が伝わってくる。
「1つ、モモンガ様が至高の御方々と友好を育まれたのは、御方々が強者だからでしょうか?」
「違う。」
「それでは、自分より優れた才覚をお持ちだったからでしょうか?」
「違う。」
「それでは、利害が一致したからでしょうか?」
「違う。」
モモンガにとってアインス・ウール・ゴウンの友人達は、そんな打算的な関係で結ばれたものではない。
一緒に居ると楽しかった。それだけは無かったが、ここが自分の居場所だと自身を持って言える。
だから最後の日までこの場所を護って来れた。
この感情を言葉に出来るだけの語彙を持っていないが、パンドラズ・アクターが言った様な陳腐なものではない。
それは断言できる。
(……そうか。)
「その通りで御座います、モモンガ様。
私達がモモンガ様に御使えするのは、貴方が強者だからでは御座いません、神算鬼謀の知者だからでも御座いません。
ましてや、我々の望む事をさせてくれるからなどでは決して御座いません。」
「だが、私はお前たちに大した事はしていないぞ?」
「そう思われているのは、モモンガ様だけです。
ナザリックを我々を最後まで護って下さった優しい貴方だからこそ、私達はモモンガ様に御使えするのです。
貴方の成したい事のお手伝いをしたい。それだけです。
――――フフッ、やはり私達の望む事をさせて下さっているのかもしれませんね。」
パンドラズ・アクターの楕円の口が笑ったかのように歪む。
(勝手に不安に思って、失望されるのを恐れて主らしくあろうと気張って、独り善がりばかりだな。
皆が去って行くときもそうだった――――)
ホントは引退して欲しくない。でも、彼らにも生活があると自分の心に言い訳をした。
最後までモモンガはいい人だったと思って貰いたいと自分の心に言い聞かせた。
(もう時は戻らないけど、あの時自分の心に従ったら何か変わったのかな?
今回は自分の心をちゃんと打ち明けよう。
ダメだったら、その時考えればいいじゃないか。)
「ありがとうパンドラズ・アクター。お前と相談してよかったよ。」
「御力になれたのでしたら、何よりで御座います。」
「それではアルベドを始め、NPC全員を第6階層の闘技場に集めてくれ。」
「
パンドラズ・アクターは言葉と共に敬礼する。
「フフッ、ドイツ語は禁止したはずなのだがな」
そう言いつつもモモンガの表情は穏やかだった。
「ハイッ! モウシワケゴザイマセン!」
言葉とは裏腹にパンドラズ・アクターも笑っていた。
――――――――
―第6階層― 闘技場
闘技場にはアルベド達NPCが頭を垂れ、モモンガの到着を待っていた。
舞台袖からその光景を見たモモンガは【人化の指輪】を装備し、鈴木悟として壇上へと歩みを進めた。
神器級アイテムに身を包み、豪華な衣装に凡庸な顔、似合わないのは言わなくても分かる。
(だけど、これが今の俺だ)
壇上に立ち、皆の居る方に向き直る。
「皆の者、突然の招集にも拘らず集まってくれた事に感謝する――――」
なんかパンドラズ・アクターにはいい役回りをさせたくなるんですよね。
●人化の指輪
装備中に限り人間種になる指輪
装備中は異形種のスキルが使用不可能になる
人間種のみ進行出来るクエストを行うための救済処置としてユグドラシル終末期に実装された。
エルフ化の指輪、吸血鬼化の指輪など、様々な種類が存在する