オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー

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44 ラストダンジョンへ

 

 悟たちとツアーは法国のすぐ傍で合流した。てっきりツアーは遠隔操作の鎧の方で来ると思っていたが、竜の本体の方が来るとは予想していなかった。

 

「いいのか?一国の偉い立場なんだろ?」

「いいのさ。法国はボクの友の理念を六百年の間になくしてしまった。それにこの世界は人間のものではない。異業種も生きている。それを言うならボクも異業種だし、それを抜いても今回の件はダメだろう?自分たちが興した国でも、不要と思ったら滅ぼすなんて。そこに生きている人たちの意志はどこに行ったんだい?」

「ごもっともだ。今回はその娘たちが害された。俺たちの大事な娘たちの意志が、だ」

「良かった。君たちはこの世界に馴染めたんだね。君たちが君たちで居て良いと言ってくれる人たちが傍にいるんだね」

 

 そう言われて気付く。エンリもネムも悟やパンドラが本当の姿を見せても拒絶しなかった。最初の出会いからそういう姿を見せているのに、今もこうして交流をしてくれている。

 ブレインも本能的に人間ではないことに気付いているだろう。でもそれを言わずにカルネ村に住み込んで冒険者パーティーを組んだまま。彼の場合剣の道を究めるという思考が頭を占領しているからかもしれないが。

 ラナーは種族までも看破しているだろうと悟は予測していた。彼女は本質を知るのが上手い。ちょっとした会話で全てを悟ってしまう。幻術なんて簡単に見破っているだろうと思い込んでいた。

 ちょっと考えただけでそれだけ大切な人ができている。それだけこの世界に順応したとも言える。

 もう前の世界のことを思い出と言えるぐらいに、想いは昇華していた。いつからか帰りたいと思うこともなくなっていた。未練がないと言われたら言い切ることはできないだろうが、この世界を見捨ててでも帰りたいかと聞かれたら、見捨てることはできないと答えるだろう。

 

「……だからこそ、今回は特に許せなかったんだ。パンドラ、ぬーぼーに変化して敵情視察だ。国を動かしているのは神官連中だろう。神殿のみを攻め落とす。そのあと国の支えを失ったからと言って運営できなくなったらそこまでだった。それでいいだろう。本当にこの国が嫌いなら国から出ているだろうからな」

「はっ。しばしお待ちを」

 

 たっち・みーの姿から変化させて敵勢力の把握をさせる。こうしているとアインズ・ウール・ゴウンのメンバーでダンジョン探索をする前の気持ちをふと思い起こさせたが、そうでもしないと怒りを抑えられなかったというのもあるだろう。

 できれば超位魔法を使ってでも一発で国を終わらせたかった。怒りをぶつける先を探していた。だが、そうやって国を堕としたら奴らと同じだ。だったら首脳部のみ落とす。今の在り方を決定づけた者たちのみを排除する。そのためなら宝物庫にあるもの全てを用いてでもやろうと思っていた。

 

「彼はそういう種族だったんだね。初めて見るよ」

「ツアーでもドッペルゲンガーは見たことないのか?」

「ないねえ。この大陸にはいないんじゃないかな?」

 

 ツアーが知らないとなると、本当に珍しい種族なのだろう。プレイヤーもいくらか知っているはずだが、いままでプレイヤーにしろNPCにしろ、ドッペルゲンガーなんて制約の多い種族を選ぶ者はいなかったということか。

 

「そうそうツアー。ワールドアイテムは知っているか?」

「もちろん。ぎるど武器に次ぐほどの強力なアイテムだろう?」

「その解釈は正しくないな。ギルド武器でワールドアイテムを超えた性能の物はほぼない。ワールドアイテムの効果も様々だが、それでも規格外の効果ばかりだ。奴らが持つアイテムの詳細はわかっている。だからこれを貸し出そうと思ってな」

 

 悟が出したのはワールドアイテムの一つであるヒュギエイアの杯だった。

 

「ワールドアイテムにはワールドアイテムだ。これがあれば相手のワールドアイテムの効果を受け付けない。きちんと万全な状態で返せよ?貸すだけだからな」

「これは……ああ、これがワールドアイテムか。何故かボクたちに詳しく教えてくれないなと思ってたら、これ始原の魔法を防ぐ効果があるんだ」

「真なる竜王が使える魔法を?」

「そうそう。わかったよ。これはありがたく借りよう。きちんと返すよ。これらは全部君たちが前の世界で必死に手に入れた宝だろう?竜たるもの、宝は大事にするものさ」

 

 ツアーは口の中に杯を仕舞う。唾液だらけにならないかとちょっと心配したが、それはまああとで洗って返してくれるだろう。

 口の中で装備扱いになるのかと疑問に思ってツアーのステータスを調べたが、ちゃんとステータスに「ワールド」のバフがついていた。口の中で良いのか。

 

「モモン様。お伝えしたいことが」

「全部調べ終わったのか?」

「いえ、まだ途中なのですがンフィーレア少年を見つけました。例のアイテムをつけています」

「やっぱり法国の仕業だったか……。ツアー。少し救わないといけない人物がいる。まずはその人物を助けてから本丸を落とす」

「わかったよ。詳細は君たちが決めてくれ。ボクはその通りに動こう」

 

 それからも色々調べていく。襲うべき神殿は六か所。その内の光の神殿にはレベル60台一人とレベル90台が一人いた。そして囚われている女の子たちやエルフたちも。それらも救うと決め、行動を起こす。

 

「じゃあ、行くか。オーバーロードとして、最後の行動だ。今だけは、人間としての感情を捨てよう」

 

 そう言って悟は幻術を解いて、偽っていた姿をやめてアンデッドとしての姿で君臨する。これからも魔法などは使っていくだろうが、オーバーロードとして活動することはおそらく最後だろう。

 その制約も込めて、そう宣言していた。

 やったことは、正面突破。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 法国の上層部は混乱しただろう。なにせ正門からの侵入者が現れたという、今までになかった出来事だからだ。しかもただ法国に仇名す異業種が攻めてきたというのなら追っ払えという一言で済んだが、その存在の報告を聞いて腰を抜かした者もたくさんいた。

 

「白金の竜王です!それと一緒にアンデッドとイジャニーヤのような格好をした者も同伴しております!」

「バカな!?あの図体だぞ、接近した時点で気付かないのか!風花聖典は何をしていた!?」

「それが泡のようにいきなり現れたようで……!向かった者たちはみな殺されています!」

「ただの一般兵で敵うわけがなかろう!まさか転移魔法か!……アンデッド?その隣にいるのは鳥人間ではなくてか?」

「はっ。どう見ても人間のようだと……」

「ではぷれいやーの方ではない……?それがツアーと一緒だと?クソ、どうなっている……」

 

 数々来る報告から頭を抱えたくなる。六色聖典もここにいる分は向かわせているが、漆黒聖典はエルフの国との戦争に向けた視察に出している。竜王を除けばあのエルフ王が厄介だというのはわかりきっていた。

 王国が滅ぶ今、人類の脅威はだんだんと減っていっているというのに。ここに来てこんな大きな案件が来るとは思わなかった。

 

「……そのアンデッドとイジャニーヤの実力は?」

「未知数です。なにせ竜王が火を噴くだけでみな殺されておりますので……」

「何故このタイミングなのだ……。竜王の配下ということか?わからないことだらけだ……」

「風の神殿が落ちました!次は水の神殿に向かっている模様!」

「落とす場所が情報部からとは、わかっているな……。もしや内通者がいた?何故こうも的確なのだ……」

「水の神殿を守ろうとした陽光聖典、全滅!火滅聖典も向かっていますが大半がやられています!」

「……番外席次を投入する。彼女ならその三体を相手にしても勝てるだろう」

 

 法国の最終兵器。真なる竜王を相手にするために隠していた切り札。その真なる竜王が攻めてきたのだからここで切るしかないだろう。神の遺した至宝もある。

 それを考えると漆黒聖典がいないことが痛手か。竜王はともかく、他二体はどうにかできたかもしれないのに。

 だが、逆を言えば漆黒聖典でも真なる竜王には敵わない。神の遺した至宝をもってしてかろうじて、だ。その至宝も今や片方しかない。

 

「カイレの用意も急げ。範囲ギリギリから真なる竜王をこちらのものとする。そうすればこちらの勝利だ。番外席次には時間稼ぎと陽動をしてもらおう」

「それを彼女が認めるでしょうか……?」

「なに。詳細を伝えずに暴れてもらえばいい。彼女は戦う場を求めていたからな。相手が強大と知れば喜ぶだろう」

 

 

 


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