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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第一章:少年はすべてを思い出し回復術士になる

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第十六話:回復術士は商売をする

 貧民区に俺たちは入る。

 街並みががらりと変わった。匂いまで変わり腐臭が鼻につく。


 俺たちが目指すのは、違法商品を扱っている店だ。違法商品は、貧民区で扱われる。

 そこなら、この貧民街でも金を持っている人間や、金持ち相手に違法商品を届ける仲介人ブローカーを見つけることができる。


「フレイア、ここではいつ襲われても不思議じゃない。気をつけておけよ。ここでは、おまえは魅力的な商品だと見られる。人間の奴隷は違法だが、それでも構わないと考えるのがこの街の人間だ」


 フレイアはとびきりの美少女だ。

 実用性のみを考えた旅装束に身を包んでいるとはいえ、その美貌は隠しきれない。

 俺はさきほどから常に腰に下げた剣を意識している。

 ここを歩くときのマナーだ。


「はい、ケアルガ様。このフレイア、一般人に遅れはとりません」


 フレイアは胸をポンと叩き、自信ありげに笑った。

 彼女のレベルならよほどの相手でない限り問題にはならないだろう。相手が正々堂々真正面から来るのであれば。


 忠告が終わったので、目的地に向かって足を進める。

 俺は突然足を止め、鞘ごと剣を腰の留め具から引き抜くと、フレイアの顔面めがけて突きを放つ。


「ひっ」


 目前に迫った剣の鞘を見て、フレイアが悲鳴をあげる。

 俺の突きはフレイアの顔面ぎりぎりを通過し、やせっぽちな男の眉間に吸い込まれた。


「ギャアアア、いてええ、いえええええよ」


 彼は手に布をもっており、その布からは薬物の匂いがした。

 やりたいことは明白だ。


「フレイア、次からはもっと気をつけよう。今度、近接戦の訓練をする。魔術士だから技能は得られないだろうが、技術はもっておいたほうがいい。後衛でも、距離を詰められたときに、前衛がフォローに来るまでの時間稼ぎぐらいはできないと困るから」

「……そうですね。こんな、簡単に、後ろをとられるなんて。ケアルガ様、私に近接戦の技術を教えてください」


 今回の相手はかなり手馴れていたプロだ。

 魔術以外は素人同然の彼女が気配を察知できなくても仕方ない。

 きっと、怖い者見たさで違法商品を買いにきた金持ちのぼんぼんを攫う連中だろう。

 フレイアは怖くなったのか、俺の袖をつかむ。

 少し邪魔だが今日ぐらいはいいだろう。俺は彼女に微笑みかけて歩きだした。


 ◇


 目的地についた俺とフレイアは、シートなどを広げずに、ただ行きかう人々を見る。


 さきほどから俺は【翡翠眼】を使っている。

 ちょうどいいカモを見つけるために。


 その最中、フレイアにちょっかいを出すものを追い払ったりしながら、耳を澄ませていた。

 どうやら、奇病のことは貧民区でも話題になっているらしい。


 これなら、商売がしやすいだろう。

 そして、ついにカモが来た。


 俺の目の前にあるとある違法な商品を扱う店に入っていく。


 護衛付きで羽振りが良さそうな商人だ。

 商人には独特の雰囲気があり、商人かどうかは見分けがつく。


 それに、彼のつけている香水は、富裕層で流行っている高価なものだ。富裕層での活動がメインでなければ、こんな香水はつけない。そんな商人が違法な商品を買いにくるとすれば、それを富裕層に売り渡す仲介人ブローカーだということが推測できる。


 そして、商人も彼の護衛も軽度の病を発症している。

 まさか、こんなにもはやく、条件に会う人間を見つけられるとは思わなかった。

 やはり、俺は運がいい。


 ◇


 フレイアと商談のための打ち合わせを終わらせたころ、商人たちが店から出てきた。

 フレイアが彼らの前に立ち、事前に話していた台詞を告げた。


「そこの立派なおじ様。いいお話がありますの」


 護衛と商人が足を止める。

 彼らはフレイアの美貌に見とれていた。


 フレイアに話をさせたのはこのためだ。俺が話しかけたところで足を止めてもらえず、商談そのものが成立しない。しかし、美少女のフレイアなら、相手が男であれば絶対に足を止めて話を聞く。


「なんと、美しい女性ひとだ。その肌のツヤ、その優雅な物腰、名のある貴族のご令嬢ですかな?」


 俺は少し驚いた。さすがは商人。こんな格好をしているのにフレイアの素性を見破っている。

 フレイアはにっこりと笑い肯定も否定もしない。


「私はおじさまにすばらしい儲け話を持ってきたのです」

「それは興味深いな。火遊びに来た子供が、遊ぶお金を貸してくれとでもと言うと思っていたが、……商談とはね。話を聞かせてくれるかな?」


 商人は生暖かい目で俺とフレイアを見ている。彼は子供のおままごとだろう。だが、貴族令嬢の可能性が高いため無下にはできない。そう考えている。


「ここでは目立つので場所を移動しましょう」

「はは、本格的だね。いいでしょう。いきつけの店がある。そこで話を聞きましょう」


 そうして四人で移動する。

 商人の案内してくれた店は、外側は貧民区画相応だが、店内は清潔に保たれた店だった。


 彼は、自分の奢りと言って紅茶を人数分注文してくれた。

 フレイアは、俺の方を見る。

 彼女のおかげで、商談の席はできた。

 あとは、俺の出番だ。

 しょっぱなからぶちかまそう。


「私どもの儲け話というのは、この街に蔓延している奇病の特効薬を”あなただけ”に売るというものです。その意味はあなたほどの商人ならわかりますよね」


 その一言を聞いた瞬間、商人の顔色が変わる。

 しかし、すぐに失笑に変わった。


「ほう、それはすごい。街中の薬師や回復術士が集められ、研究しているにもかかわらず、まだなんの成果も出ていない奇病の特効薬を君たちみたいな子供が持っているなんて、まるで悪い冗談みたいだ」


 俺もフレイアも14歳になったばかり、彼らから見たらまだまだ子供だろう。

 予想通りの反応だ。


「疑うのも無理はありませんが、本当です。私たちは西方の出身です。そこでは、こちらと違った手法での薬学が発展していましてね。作れてしまうんですよ。特効薬が」


 俺はポーチに入っていた、小分けした特効薬を並べる。


「ふむ、それが特効薬か。だけど、それが本物だという証拠は」

「ご自身で飲んでみればどうでしょう? あなたも、護衛のかたも軽度ですがすでに発病しておりますよ。そう遠くないうちに、高熱で倒れ、全身の痛みにのたうち回るでしょうね」


 なんでもないことのように、さらっと言いつつ、微笑みかける。

 商人の顔が引きつった。


「私は、病になど」

「かかっています。実際、心当たりはあるでしょう? 妙に体がだるい。足の小指に時折痛みが走る。右半身だけ冷える。これらはすべて奇病の初期症状です。倒れるまえの人間はみな、こういう症状が出ていた。商人であり、耳がいいあなたなら知っているはずだ」


 彼は言葉に詰まる。

 自覚がないわけがない。ただ、認めたくなかっただけだ。


「それが本物ならいくらでも金を出すがね。あくまで参考までに聞こう。いくらかね?」


 俺のことを信じたわけではない。

 だが、藁にでもすがりたい気分なのだろう。

 この奇病の末期症状は悲惨だ。一度でも実物を見ていれば、ああはなりたくないと考える。


「気が早いですね。料金の交渉は後にしましょう。まずは二本、お互いの信頼を構築するために差し上げます。お試しを」


 俺は二本のポーションを渡す。

 商人は生唾を飲んだ。


 二本の意味は、まずは護衛に使えということ。

 怪しい人間が出した薬をいきなり自分が飲むなんてことは、この商人にとってありえない。

 彼に効果を確かめてもらうためには護衛の分も必要だ。


 商人は俺の意図に気付き、護衛に薬を飲ませた。

 どこか、青ざめた顔に生気が戻っていく。

 護衛の男は数分、放心状態になり、驚いた声をあげる。


「体が軽い。だるさが吹き飛んだ。こんなに爽快な気分は何日ぶりだ!?」


 魔術付与エンチャントされたポーションはかなり即効性が高い。

 加えて、少々工夫してあった。

 劇的な効果を演出するために高揚剤としての効果も持たせている。それにより急激に体が良くなったと錯覚する。


 護衛の様子を見た商人は自分も薬をあおる。

 しばらく上を見上げ、目をつぶる。

 薬の効果が出たころ、目と口を開いた。


「ほう、なるほど、たしかにこの薬は本物だ。我々は初期症状段階だった。この薬は完全に発病したものにも利く薬なのかね」

「ええ、保証します。……さて、薬の効果を確認していただいたことですし、最初の話に戻しましょう。この薬を”あなただけ”に売ってもいいと我々は考えています」


”あなただけ”を強調する。


 商人がごくりと唾をのむ。

 今頃、彼の頭の中ではすさまじい速度で、手に入ってくる金、そして売る相手と交渉次第では得られる権力の青写真が出来上がっている。


「薬もいいが、そのレシピを売ってくれないか」


 まあ、そう来るだろうな。そっちのほうがおいしい。


「それはできません。我が一族に伝わる秘伝の製法ですので。加えて、この薬は高度で専門的かつ、繊細な魔術技能を要しますし、材料もこの国では手に入らない。レシピを買ったところで再現できません」


 前半は大嘘だが、後半は本当だ。

 俺の体で抗体を作ったが、魔物の毒に対する抗体など普通の人間には作れない。


 そして、錬金魔術は錬金術士という極めて希少なクラスだけのユニーク魔術。それなしに、このクラスのポーションは合成できない。


 彼は護衛に目をやる。

 まあ、そうなるだろうな。釘を刺そう。


「それはやめたほうがいいですよ。俺は彼より強い。商談をぶち壊すだけの結果になります。第一、俺も外に薬の材料を仕入れにいかなければ、薬は作れない」

「ははは、”それ”とは、いったいなんのことやら」


 商人が愛想笑いを浮かべ、白々しいことを言う。


「余計な心配であればうれしいですね。では、商談を続けましょう。まずは、28ほど、手持ちのポーションがあります」

「改めて値段を聞かせてもらってもいいかな」

「一つ、金貨一枚」


 金貨一枚というのは、日雇い労働者が一月かけて稼ぐ金額だ。

 ポーション一つに対しては高価である。

 しかし……


 商人はほんの一瞬、少しこちらを嘲る気配を出した。

 まあ、当然だ。

 このポーションに対してあまりにも安すぎる。適切な相手に売れば桁が一つや二つは高く売れる。


「いいでしょう。すべて買い上げましょう。ですが、これだけではぜんぜん足りない。もっと用意していただけませんか、用意していただいた全てを買い取りますよ。新たなポーションの制作にはどれほどの期間がかかりますか?」

「二日いただければ追加を用意しましょう。二日後の夕暮れ、この店でまた会うというのは?」

「それは楽しみだ。金貨をぎっしりと詰めた袋をもってこよう」


 商人はにっこりと笑う。

 では、最後に俺は大事なことを付け加えよう。


「ちなみに、今回は金貨一枚としましたが、次回はその値段ではお売りしません。一度目は信頼関係構築のための投資なので」


 商人の笑顔が引きつる。

 彼は二度目以降も金貨一枚で買えると思っていたのだろう。


「二度目は、いかほどで」

「その値段はあなたにお任せします。あなたが得ることができるであろう利益の半分の値付けを。あなたが不誠実な行いをするのであれば、私は二度と薬を売らない。別の方と商売をします」


 商人は、頭の中でさまざまな葛藤をしているだろう。

 虚偽の申告をして買い叩き、利益をあげるのは簡単だ、それがばれた場合、この確実に儲けられる話を棒に振るのはもったいない。もともと儲けが半分になろうが莫大な金が手に入るのだから……。


 そもそも、本当に目の前の男が他の商人に売らないのか。

 あるいは、二度目の商談のときに騙し打ちをして捕えたほうがいいのではないか?


「では、また会う機会を楽しみにしていますよ」


 俺は立ち上がる。これ以上話すことはない。

 商人は、さまざまな思惑を頭に描きながら、別れの挨拶を口にした。


 ◇


 商人と別れたあと、さきほどの店を目指していた。


「ケアルガ様、どうして自分でお薬を売らずにあの人に任せるんですか。自分で売ったほうが儲かりますよ?」


 不思議そうな顔でフレイアは問いかけ来る。


「俺たちは世界を救う旅をするんだ。店番なんてやっている暇はない。そういうのはプロの商人に任せたほうがいい」

「たしかに。さすがは、ケアルガ様です。本当に欲がないんですね!」


 俺は表向きの理由を告げた。

 それもあるが、一番は安全のためだ。

 俺が薬を作れることを知る相手が増えれば増えるほど危険度が増す。俺が薬を作れる相手が一人だけという今の状況が好ましい。

 あの商人は、薬を独占することで得られる利益のために俺の存在を隠そうとするだろう。


 そして、俺には安全に薬を売るための人脈やコネがない。

 数がない薬は、なるべく多額の報酬を払う人間に売りたいが、それにはコネクションがいる。

 違法な品物まで扱っている彼になら、裏のつながりがある。きっちりとしかるべき相手に高値で売りつけるだろう。

 それも、秘密を守り安全を確保しながらだ。

 それは俺には絶対に不可能な芸当だ。


 これらの手間を考えると、商人にリスクを丸投げするのが一番いい。


 もっとも、あの商人が欲にかられて俺を捕えようとする可能性もあるが、一商人が秘密を守るために、こっそりと集める兵力には限界がある。

 この街中の人間を相手にするよりよほど楽だ。


 とはいえ、面倒なことは避けたいので、二度目の交渉のとき、待ち合わせ場所に不穏な気配があれば待ち合わせをすっぽかす。


「さて、ようやくさっきの店についたな」

「あっ、そういえば、まだ何かを買うか聞いてませんでしたね。いったい何を買うんですか?」

「奴隷だよ」


 俺はにっこりと微笑みながら答える。

 俺の手元にはついさきほど稼いだ金貨。これは日雇い労働者の二年分の年収。

 奴隷の適正価格だ。

 さて、【翡翠眼】でこの店一番の奴隷を見抜いて購入しよう。俺が買うのは素質値が高い女だ。女であればレベル上限はどうにでもなる。

 俺は期待を胸に店に入った。


 

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