ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この話は後日談であり、蛇足です。ネイア・バラハの聖地巡礼!本編を前提とした話しとなっておりますので、ご了承下さい。

・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。

・キャラ崩壊注意です。

・祝!蛇足30話目の本編越え!……蛇足とは何ぞや(哲学)

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【番外編】 ~魔導王陛下再臨~

 黒い後光に眼窩へ揺らめく赤い炎の様な瞳の輝き、その黒い後光はただ尊く美しく照る。

 

 ネイアは例える言葉が見つからない――否、例える言葉などこの世に存在していいはずが無い。この世で最も慈悲深き神、地上に顕現する正義、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下を稚拙な地上の事象で例えるなど、これほど恐れ多いことはない。

 

 耽美なる白磁のご尊顔、漆黒に中に幾多の宝石を飾ったローブ、だが優美に翻るローブでさえアインズ様の偉大さを装飾するものでしかない。アインズ様が両手を天に広げたあたりで、ネイアは見惚れて、平伏していなかった事実に至り、急いで地に伏す。

 

「顔を上げよ、ローブル聖王国の民達よ!わたしは帰ってきた!」

 

 王の中の王……人でもアンデッドでも無い、威厳に溢れた声は、正しく神の声だ。ネイアが見紛うはずもない、本物のアインズ様だ。夢では無いかと錯覚してしまう。ネイアはその威光に、顔を覆ったミラーシェードからもボロボロと雨の如く涙を流し、地面を濡らしていた。

 

 

 ●

 

 

 ナザリック第9階層執務室。アインズはひとつの報告書を見て、無い眼を点にさせていた。

 

「ルーンの認知度が急上昇しているな、合わせて既存のルーン武具の価格が異様に高騰していると……。」

 

 報告書によればルーン……アインズがドワーフの王国まで出向き、付加価値を見出したルーン武器がこれまでの数十・数百倍近い異様な価格高騰を見せており、転売を狙った輩まで-勿論市場を乱す程の愚か者は排除しているが-出てきているという。

 

「〝ナザリックラジオ〟において英雄譚、冒険活劇の中にルーン武器の宣伝を含ませたこと、ローブル聖王国におきましてはシズがあのネイア・バラハを通じてルーンの素晴らしさを説かせた成果に御座います。」

 

 アインズへ報告をしているデミウルゴスの内心はやや複雑だ。そもそもローブル聖王国でヤルダバオト襲来を行った際、主より賜ったルーンの宣伝を上手く出来なかった。今回エ・ランテルやバハルス帝国で〝ナザリックラジオ〟を使い挽回したが、ローブル聖王国における手柄はアインズ様のお造りになられた駒の成した結果。やはり自身の不甲斐なさを呪いたくなる。

 

「そうか、うむ……。」

 

(付加価値を付けた商品開発を独占することには成功した、ならば次は営業手腕だ。しかしここまで上手くいくとはな。)

 

「よくやったデミウルゴス。いずれ褒美を以ってその功績を称えよう、今は言葉による賛美で許して欲しい。」

 

「何を仰いますアインズ様!全てはアインズ様の御計画、我々が褒美を頂く訳にはいきません!」

 

「わたしの意図を汲み想像以上の成果を挙げたのだ、謙遜はするな。……さて、ネイア・バラハにも改めて褒美を渡すべきであろうな。何を適当とする?」

 

 ネイア・バラハの煽動手腕は7日の魔導国来訪で目にしたが、営業職として考えれば超一流の素質がある。もし元の世界で部下にこんなのが居たら鈴木悟の面目は丸つぶれだろう。だが今のアインズは経営のトップだ、優秀な人材には褒美を以って応えるべきだ。

 

(しかしあの殺し屋みたいな眼の少女、ナザリックではどの立ち位置に当てはめればいいんだ?貴重なシズの友人だから人間として優先度はかなり高いけれど、ローブル聖王国はバハルス帝国みたいに属国って訳でもないし……。俺に感謝を送る会の会長をしている位だし、他社ではないよな。かといって正式な子会社でもない。下請けといったところか?)

 

「形あるものでしたら、ネイア・バラハはシズ・デルタを通じ様々な知識を得ております。中でも部隊運用や軍事知識は大変有効な成果を挙げているため、正式に教典として作製させ、幾つかの写本をお渡しすることが褒美になるかと。また、計画段階で確定事項では御座いましたが、ローブル聖王国併呑の暁には一定の地位へ叙勲という話を出せば、あの少女はさぞ喜ばれるかと愚考致します。」

 

(叙勲!?他国の王がいいのか?……いや、デミウルゴスが良いというなら大丈夫だろうな、国際情勢なんてサッパリ解らないし!でもリ・エスティーゼ王国の王女にも似たような褒美をゆくゆくはって話だったよな。ドエライ評価されてるなあの少女。)

 

「ほう、彼女は、王国の黄金姫と同列であると……。」

 

「……!大変失礼致しました!己の欲望でナザリックと橋頭堡を築いている人間と、アインズ様の御手で造られたる駒を同列に扱うなど!」

 

 何故か急に焦りだしたデミウルゴスを見て、アインズは内心首を傾げる。アインズ的には【仲間の娘(シズ)の友人】なのだから、必然的に優先度は高くなるが、ナザリックの利益(世界征服)を最優先するデミウルゴスが、最も高く評価していた人間である黄金姫より、あの少女を上にするというのがよく解らない。

 

 かといって藪蛇を突くつもりもないので、そのまま意見を待つことにする。デミウルゴスにしては珍しいほど逡巡しており-それでも数秒だが-、やや悔しげに一瞬口にするのを躊躇った後、アインズへ意見を具申した。

 

「でしたらアインズ様、畏れながらネイア・バラハへアインズ様より魔導国国王の王賞状という形で表彰を行う……というのは如何でしょうか。」

 

「……ん!?」

 

 アインズはいきなり事が大きくなり内心が動転し、一瞬で沈静化される。思えば魔導国の王になってから誰かに爵位を与えたり、表彰したことがない。そしてアインズはそんな王らしい立ち振る舞いや儀式を行える自信が皆無である。ネイアを下請けと考えるなら、親会社が表彰し変わらない関係を築こうという所だろうか。

 

「うむ、助言を感謝する。しかしそれには及ばん、名誉という褒美はより魔導国が盤石になってからで遅くはないだろう。だがまぁ……直接労いの言葉を掛け、より一層の関係を強調するのは悪くない。」

 

「そんな!アインズ様御自ら!」

 

「わたしがローブル聖王国に赴くことで、今後に支障が出るか?」

 

 表彰の儀式なんて事になれば、アルベドやデミウルゴスがどんな無理難題を吹っ掛けて来るか解ったものではない。それくらいならば下請けに直接足を運んで〝元気にやってる?今後もよろしく!〟と挨拶した方がまだマシだ。

 

「いえ、流石に御座います。……アインズ様、至らぬわたくしへ、またも御自ら道を示して頂き幸甚の至りに御座います!」

 

 突然跪いたデミウルゴスを見て、アインズは何をどう間違われているのかもの凄く気になったが、何時もの手が使えない今、ただ鷹揚に頷くことしか出来なかった。

 

 

(いきなり行くのも迷惑だよなぁ。とりあえずシズに訪問の予定を伝えて貰うか。今ローブル聖王国を管轄しているのはカスポンド・ドッペルだから入国云々の手続きはいらないのが救いだな。……にしても叙勲や表彰か、今度ジルクニフがどんな立ち振る舞いをしているか見ておこう。)

 

 

 

 ●

 

 

 

「シ……ズ……せっ……今なんと?」

 

「…………アインズ様が明日ローブル聖王国に来る。わたしも同行する。」

 

 『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』総本部。ネイアは伝えられた言葉が余りにも衝撃的過ぎて、シズ先輩を思わずほぼ呼び捨てしてしまった。しかしシズ先輩も気にした様子は無く、一言一句同じ台詞を繰り返す。

 

「え!?先輩!どういうことですか!?どちらへ!?何を成すために!?え!?」

 

 ネイアの脳裏を感嘆符と疑問符が埋め尽くす。気がつけばシズ先輩の肩を掴んで詰め寄っていた。

 

「…………後輩。気持ちは解るけれど落ち着く。」

 

「あ、はい!失礼しました。ですが、アインズ様が聖王国へ……。カスポンド聖王と会談をされるのですか?」

 

 一国の王がわざわざ訪れるとすれば理由は国交しかない。しかしシズ先輩が同行するという言葉にネイアは引っかかりを覚えた。そしてシズは決定的な一言を告げる。

 

「…………ううん。ここに来る。ネイアが凄く頑張ってるって伝えたら会いたいって。」

 

 いよいよネイアは卒倒しそうになる。聖王陛下を差し置いてお逢いしてくれるというのは大変な名誉であるが、あと1日……準備も何も出来たものではない。

 

「先輩!どんな格好をすればいいか!どのようにお迎えすればよろしいのか!何をお見せすればいいのか!アドバイスを下さい!」

 

 ネイアの魂からの叫びに対し、シズ先輩は無言で頷き、親指をビシっと立てた。

 

 

 

 ●

 

 

 

(うわぁ……。)

 

 シズを連れ転移した草原には、数える気にもならない人間たちが一斉に平伏し、嗚咽の声があちらこちらから聞こえてくる。これほど異様な光景を目にしたのは、クアゴア族を配下に入れる際、シャルティアとアウラが一斉に平伏させていた時くらいだろうか。その時より数も多い。

 

 だが怯えと恐怖から萎縮していたクアゴア達と違い、全員が心からアインズに平伏している様に、思わず来たことを後悔しそうになる。先頭に居る目的のネイア・バラハからして、意味不明な理由から号泣している様子だ。しかし何度も練習した支配者然とした立ち振る舞いを思い出し、一番最適であろうポーズをとり宣言する。

 

「顔を上げよ、ローブル聖王国の民達よ!わたしは帰ってきた!」

 

 正確にはまだ魔導国に組み込まれていないので反感を買いそうだが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)越しに見た熱狂具合から多分これくらい言っても問題ないだろうと判断する。そして嗚咽の声は益々強くなっていった。ゆっくりと上がる顔は皆涙でぐしゃぐしゃになっている。ネイア・バラハが率いている団体は20万以上と聞いているが、みんなこんな感じなのだろうか?

 

「さて、出迎えに感謝する。カスポンド殿に入国の許可を貰い、ローブル聖王国の現状と貴君らの活動を見せて貰いに来た。」

 

 本当はネイア・バラハに軽く会ってアインズに感謝を送る会とやらの活動を軽く視察し、褒美として持ってきた部隊運用や軍事教典の写本を渡して帰る予定だったのだが、直接本部に転移で乗り込むのも味が無いので出迎えを頼んだらこの有様である。

 

「アインズ様。この度は御自ら我が国へ足を運んで頂き感謝に言葉も御座いません。粗末ながら馬車をご用意させて頂いております、そして僭越ながら従者としてわたくしが勤仕させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 ネイアは涙声であり、ミラーシェード越しにも解るほど鼻息を荒くしてアインズへ問う。元々の目的はネイア1人なので、むしろ好都合だ。

 

「うむ。ではよろしく頼む。」

 

「ありがとうございます!同志の皆さん!アインズ様とシズ先輩へ馬車の用意を!」

 

 現れた馬車は以前ヤルダバオト騒動で乗り合わせたモノよりも数段格上のものであり、車輪や転輪に魔法を付与しており、馬車馬も黒い艶を持つ一級の品だ。外装や内装も普段アインズが乗るものとは比べものにならないが、悪くはない。

 

(ナザリックから馬車くらい準備しようかと思ったけれど、今回は大人しく歓迎されてみよう。)

 

 そうしてアインズは上座に座り、次いでシズ、そして最後にネイアが乗り、馬車は出発した。2万の人間は騎馬でアインズ達の馬車を護衛しており、その様は中々壮観だ。……そして、対面に座るシズとネイアだがシズは解らないとして、ネイアはガチガチに緊張している様子である。だが以前と違い、話題には事欠かないのがアインズにとって救いだ。

 

「ネイアよ、いずれまた会おうと約束していたが、立派になったものだな。ローブル聖王国の復興についてシズから報告も受けている。貴君の成した偉業は、友好国の王として嬉しい限りだ。」

 

「ありがとうございます!アインズ様!これも全てアインズ様がヤルダバオトを撃退し、わたくしにお言葉を下さったお陰に御座います!」

 

「そ、そうか。うむ。シズから見て、ネイアの団体はどうかな?」

 

「…………ネイアと一緒に凄く頑張ってます。」

 

「ふむ。では楽しみにさせていただこう。」

 

 

 

 

 アインズ達を乗せた馬車は、ローブル聖王国首都ホバンスにある『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』の総本部へ到着する。正門まで魔導国の国旗が掲揚され、一糸乱れぬ王の通り道となっている様は、ナザリック・オールド・ガーダーを用いた演出を彷彿とさせ、教育が行き届いていることに感心する。

 

「アインズ様、こちらが我々の本拠地となります。アインズ様の名を冠しておりながら、粗末な屋敷に御座いますが、どうぞ御赦し下さい。」

 

「以前も言ったが謙遜することは無い。母国を復興させ、自らの牙を研ぎ、あまつさえわたし如きに感謝を送ってくれる団体だ。」

 

「アインズ様!〝如き〟などと冗談でも仰らないで下さい!」

 

「あ、ああ。貴君らの好意にまで泥を塗る発言だったな、すまない。」

 

(いやいや、ローブル聖王国の帰りに見た数千人も大分イッてたけれど、それが20万!?ちょっと怖いぞこれ。ってか、なんで俺の造った空気清浄機が祭壇に祀られてんだ?ああ、ビンゴの景品でルプスレギナに渡したやつだ!思い出した!)

 

「そう言えば以前、渡した褒美に不備があったな、あれから問題は起こっていないかね?」

 

「はい!賜りました真なる神器は、正常に宿したる奇跡を発揮させて御座います。」

 

「そうか、ならば良かった。」

 

(思えばあの影武者騒動から、パンドラズ・アクターの様子もおかしいんだよなぁ。人間がまさかあいつの変化を見破るとは……。)

 

 アインズもあの事件は驚いた。もし見破った相手がネイアで無ければ、ナザリックに送り込んで様々な実験をしていただろう。未だ好奇心が無い後ろ髪を引っ張るが、折角出来たシズの友人をただの実験体とするのは流石のアインズでも許せない。

 

 その後大理石を用いた玉座に座り、弓手の鍛錬を見せて貰ったが、以前戦場の急造鍛錬所で見た時分よりも練度が格段に増しており、アインズは拍手を送る。すると皆感涙し、一斉に跪いた。……アインズの一挙手一投足に対し毎回こんな感じなので、段々疲れてくる。

 

(な、なんかずっとNPC達の前に居るみたいだ……。ローブル聖王国で俺の知らない間に何が起こったの!?)

 

「素晴らしい練度だ、余程の鍛錬を積んだ様だな。見事と言わせて貰おう。強くなった。」

 

「ありがとうございます。アインズ様!これもアインズ様より賜りました神器があってこそ、その慈悲深さに、我々同志一同を代表し、わたくしから改めて感謝を申し上げます。この鍛錬の後、同志達は主に真なる王城で拝見し、参考にさせて頂きました〝すぱ〟を利用しております。」

 

「ほう!風呂の設備まであるのか!?」

 

 アインズはここに来て初めてとも言える大きな興味を示した。一瞬ネイアが緊張した様子を見せたのは気のせいではないだろう。

 

「……もしよろしければ、視察して頂くことは叶いますでしょうか?」

 

「ああ、是非見せて欲しい。」

 

 

 

 

(おお。柑橘湯に木炭湯、それに焼き石に湯を打つスチームサウナか。シャワーは無いからかけ湯方式なんだな。うん、中々じゃないか。)

 

 掃除の行き届いた中々の出来映えであり、この世界で見た中では一番と言える。何事もナザリック基準で物事を考えては酷な事は解っているが、スライム風呂が無いのが残念なくらいだ。……逆に言えばアインズがナザリック基準で考えてしまえるくらいには立派といえる。

 

 横を見ればネイアは顔を真っ赤にして、シズに何かを促されている。

 

「あ、あ、アインズ……さま!もし、よろしければ!以前、従者でありながら、アインズ様に湯浴みを提案出来ぬご無礼を働いた、た、代償で、には御座いません。が、当施設の浴槽……を、を、お使われませんか!?」

 

「ふむぅ……。悪くない提案だ。」

 

 現地で浴びる風呂というのは初めてだ、こんな身体になっても好奇心は残っている。特にサウナはアインズも知らない方式だ。ちょっと面白そうだと思ってしまう。……その後従者や背を流す係をどうするかなど、シズやネイアが色々と言ってきたが、なんとか説き伏せ、護衛を立てるという形で、アインズは一人で現地での入浴を楽しんだ。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

「シズ先輩!本当に、本当にわたし達の造った浴槽へ、アインズ様がぁ!」

 

「…………うん。お背中を流せなかったのは残念。でも多分バレれば揉めたからある意味よし。」

 

「〝すぱ〟は信頼を置く親衛隊に護らせて頂いております。昨日から万が一を考え万全な準備をしておいて良かったです!!」

 

「…………後輩。約束は覚えている?」

 

「勿論です!アインズ様の御神体が浴びられました湯を下水に流すなどという不信心は致しません!そして7名分の御神水はシズ先輩へ渡す……でしたね!」

 

「…………そう。」

 

 後に〝御神水〟というアインズの残り湯は死霊系魔法の強力な媒体になることが判明するのだが、今は余計な話。

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 湯上がりでほっこりとしたアインズは、会議室だという部屋で用意された玉座に座り-鍛錬場にあったものと同じで、どうしたのか聞いたらわざわざ手動で運んで来たらしい-ネイアとシズの3人となる。

 

「ネイア・バラハよ。今回の主なる目的だが、ローブル聖王国の現状を知る事も勿論だが、貴君へ褒美を渡す為にやってきた。」

 

「ほ、褒美に御座いますか?」

 

「ああ。ルーンを大々的に広めてくれた事……、知っての通りルーン文字は現在我が魔導国が技術を発展させている事業だ。貴君の手腕は素晴らしい。そこで、改めて褒美を以ってこちらも応えるべきと判断した。受け取ってくれ。」

 

 アインズがフィンガースナップをすると、100冊近い本が現れた。全てシズが図書館の司書と共に選び古今東西の戦術や弓や剣などの武器にまつわる情報を記した品。……流石にぷにっと萌えさんの〝誰でも楽々PK術〟程詳しい戦術は書いていないが、この世界でも十分参考になるだろう。

 

「アインズ様!!重ね重ね、わたくし共にこれほどの御慈悲を頂き……!」

 

「なんてことはない、他国の王が贈れる品というのは、この程度が限界でな。」

 

(ん?よく考えたら他国の王が他国の民に戦術基盤の教本を贈るってマズくね?)

 

 渡してしまってから気がつき、何とも情けない話だが、デミウルゴスの案なので問題は……まぁ無いだろう。感涙しているネイアを前にすれば〝やっぱり無し〟とも言えない。

 

「ではネイア・バラハよ。わたしは魔導国へ戻るとする。歓迎はとても嬉しかったぞ。見送りの準備までしてくれていたならば申し訳無いが、ここから転移で聖王室へカスポンド殿のもとへ顔を出し、魔導国へ戻るつもりだ。」

 

 ネイアは一瞬驚きの表情を浮かべ、何かをいいたそうに淀み、静かに跪く。勿論聖王室に寄るのは嘘でそのまま帰る予定だ。とりあえずシズを置いていくので、大きな混乱にはならないだろう。

 

「……畏まりました。同志達にはわたくしからご説明をさせて頂きます。」

 

「うむ、ではネイア・バラハ。貴君の努力を見せて貰った。素晴らしいものだ。また会える日を楽しみにしている。」

 

 そのままアインズは転移でナザリックの自室へ帰還する。そしてぐったりとベッドへ伏した。

 

(いや……。え!?あれなに!?ヤルダバオト騒動の時はみんな雰囲気に酔ってあんな感じなのかと思ったけれど、もう独自の進化をしてるじゃん!エ・ランテルやバハルス帝国みたいに怖がられるのも困るけれど、崇拝されるのも結構困るぞ!?マジ、なんでこうも俺のやることなすこと全部極端になるんだ……。)

 

 絶対支配者は孤独な憂鬱を覚えながら、眼窩の炎を儚げに揺らめかせた。

 

 

 

 ●

 

 

 

「…………ネイア。泣き止む。」

 

「はい!シズ先輩!……でも、でも!」

 

「…………気持ちは解る。」

 

「ええ。アインズ様の御威光にまた触れられ、更にはわたし達の活動まで認めて頂けるなんて……。」

 

「…………結局名前のこと言えなかった。そこは残念。」

 

「いえ、アインズ様の深淵なるお考えに届くほど……我々の団体に名を下賜頂ける輝かしき日はまだ遠いという事です。わたくしから懇願するなどおこがましい事は出来ません。」

 

「…………非公認ファンクラブのまま。」

 

「何かいいました?」

 

「…………何でもない。アインズ様はネイアに期待している。先輩として誇らしい。」

 

「はい!同志達の話では、今ローブル聖王国の聖王室は南部と手を組むため、貴族に大きな権限を与えたと聞きます!酷い領主では農民の餓死も顧みない重税、過剰な徴兵、冤罪裁判とやりたい放題であると。魔導王陛下の慈悲深さに比べ、我が国の王や貴族はなんと愚かしいか……。」

 

「…………アインズ様は常に正しい。それを知っているネイアなら。出来る事がある。」

 

「そうですね!……正直、アインズ様に直接お仕え出来ないか期待していた自分が居ました。しかし、アインズ様は〝また会おう〟と仰った。わたしの使命はまだ終わっていないのです!」

 

「…………うん。先輩として応援している。」

 

 ネイアはシズに頭を優しく撫でられながら、激動するローブル聖王国で、自分の成すべき使命を再確認する。いずれ、アインズ様の慈悲深き御手が、母国を抱擁してくれる日を夢見て。


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