ベビーカーに子どもを乗せて電車を利用していた母親が、他の乗客に文句を言われたりベビーカーを蹴られたりした、という情報をSNSで見かけることが時々あります。そして、そのような情報が拡散される過程で、公共交通機関など混雑する場所でのベビーカー使用をめぐる言い合い、いわゆる「ベビーカー論争」が起こるのも目にします。
KIDS LINE社が行った調査では、実に56.8%の母親がベビーカー利用時に嫌な思いをしたことがあると回答しています1。そして、嫌な思いをした場所は電車内がもっとも多く59.3%、次いで駅構内が50%となっています。
なぜ、電車や駅でベビーカーを利用している子連れの母親に敵意を向ける人がいるのでしょうか。混雑によってイライラしているからベビーカーを邪魔だと思う、ということは考えられるかもしれません。また、女性は一般的に身体的な力が弱く、しかも子連れであれば攻撃しても反撃されにくいからターゲットにされやすい、ということも考えられます。
これら2つの説明だと必ずしもベビーカーを押している女性が攻撃対象でなくてもよいことになります。一方で、社会心理学の理論である「存在脅威管理理論」2からは、「ベビーカーを利用している子連れの母親だからこそ」攻撃したくなるという解釈をすることができます。
端的に言えば、妊娠、出産や育児といった物事には「存在論的恐怖」を喚起する側面があり、子連れの女性はそれらを思い出す手掛かりになってしまうので忌避されるということです。