軍事情報を日韓で共有する協定の失効が、土壇場で凍結された。北東アジアの安保情勢の混乱が、とりあえず避けられた。今回の決定で生まれた時間と教訓を生かして着実に歩み寄ってほしい。
日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)は、日韓が米国を通さず迅速に情報を共有し、意思疎通を図るものだ。
近年、北朝鮮の弾道ミサイルは性能を上げており、発射地点や方角などを短時間で把握する必要がある。日韓は得意分野を生かし、情報を補完し合っていた。
失効した場合、日米韓の連携に乱れが生じ、北東アジアの情勢が不安定になる危険性もあった。
ただ、問題が解決したわけではなく、先送りされただけだ。指導者同士の相互不信と意思疎通の貧弱さは変わっておらず、関係改善の道は容易ではない。
「失効の原因は日本にある」というのが文在寅(ムンジェイン)大統領の主張だった。韓国への不信感から輸出管理を強化した日本とは、機微な軍事情報を共有できないとしていた。
しかし、安倍晋三首相は、日本企業への賠償を命じる昨年十月の韓国大法院(最高裁)判決が関係悪化の原因だとして、輸出管理の見直しに応じなかった。
かみ合わない両国に対し、米国は危機感を抱いていた。GSOMIAは、中国の軍事的台頭を牽制(けんせい)するため米国が力を入れる「インド太平洋戦略」の重要な柱だ。
このため米国は、国防部門の責任者を総動員して韓国の説得に当たった。米議会も協定の重要性を訴える決議案を可決した。
米国は同時期に、在韓米軍の駐留費の大幅引き上げを韓国側に要求した。その反発から、韓国の世論調査では協定破棄を求める声が過半数だった。それでも失効凍結を選択した文大統領の判断は、妥当だったといえる。
韓国は、輸出管理強化をめぐる世界貿易機関(WTO)への提訴手続きを中断するとも表明した。日本政府も、輸出管理の見直しを積極的に行うべきだ。
日韓間では、元徴用工問題も未解決のままだ。差し押さえられた日本企業の資産が売却されれば日本側が報復し、取り返しのつかない事態になりかねない。
日韓関係悪化のため、十月の訪日韓国人観光客数は前年同月から65・5%も減った。日本製品の不買運動も続いている。
対立のツケを国民に回してはならない。日韓の指導者に、さらなる歩み寄りを促したい。
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