「B2B SaaSエンジニアが語るマネジメント論」米元 智氏×郷田 祥史氏×渋谷 亮氏×戸本 裕太郎氏×曽根田 侑也氏×堀 譲治氏

2019年10月29日、スマートキャンプ株式会社の主催により、「B2B SaaSエンジニアMeetup – Sharing Issues #1 マネジメント」と題するイベントが開催された。B2B業界で働くエンジニアが直面する課題や解決方法などを共有することにフォーカスを当てた本イベント。今回は、その概要を講演レポートとしてお届けする。

写真撮影:多田圭佑

本イベントの目的について(井上 翔太朗氏)

井上:皆さん、本日は宜しくお願い致します。スマートキャンプ株式会社の井上翔太朗と申します。社内では、「師匠」と呼ばれています。ちなみに、弊社では、各メンバーに「あだ名」をつけるという「文化」がありまして、基本的には、その「あだ名」を命名するに至った経緯が存在するのですが、私の場合は、なぜか特に意味もなく「師匠」と呼ばれております。

さて、私の経歴ですが、スマートキャンプで新規事業の立ち上げを二回経験し、現在は、インセプションデッキやカスタマージャーニーマップなどの企画・進行を担当しています。イベントを開始する前に、軽く弊社の宣伝をさせて頂ければと思います。弊社では、「大きなビジネスをするのに、ヒト、モノ、カネの数や大きさは関係ない。少人数のチームでも、世の中をもっとよくできる、社会を動かせることを証明したい」という考えのもと、「Small Company, Big Business.」というビジョンを掲げています。その上で、「テクノロジーで社会の非効率をなくす」というミッションを定めており、主に以下の4つのサービスを提供しています。

上から順に、B2Bマーケティングプラットフォーム「BOXIL SaaS」、ビジネスパーソンのライフスタイルを支援するテクノロジーと人をつなぐビジネスメディア「Beyond」、BPOやコンサルティングサービス「BALES」、営業活動を最適化するインサイドセールスマネジメントSaaS「Biscuet」。これらを展開しています。また、会社関連の情報については、出来るだけ外部に発信することを意識しています。具体的には、「スマートキャンプ 会社説明資料」をspeakerdeckに掲載しているほか、PRメディア「.▲.tent.」や技術ブログ「SMARTCAMP Engineer Blog」を運営しています。

それでは、本イベントの趣旨について述べさせて頂ければと思います。まず、大前提として、皆さんが在籍している「B2B SaaS業界」というのは、その性質上、一般には理解されづらい特有の課題が生まれやすい傾向があると考えています。そして、それにもかかわらず、そういった情報が十分にシェアされていない点に課題意識を持っていまして、そのような経緯で、私とイベントチームで本イベントを立ち上げるに至ったという形です。

上記を踏まえ、このイベントの役割としては、これまでに発生した課題をシェアして、相談して、解決して、蓄積していく場所となることを目指しています。なので、今後も皆さんには積極的に登壇して頂きたいと考えています。そして、「こんな課題あったよ」「こんな課題解決したよ」ということをシェアして頂いて、新たに 「B2B SaaS業界」にいらっしゃった方々にとって、有益と思われる知見を蓄積していく場になることが出来ればと考えております。それでは、まず、弊社の米元から始めさせて頂きます。

B2B領域における開発組織作り 〜採用編〜(米元 智氏)

登壇資料:B2B領域における開発組織作り 〜採用編〜

米元:スマートキャンプ株式会社の米元と申します。最初に軽く自己紹介をさせて頂ければと思います。私は2018年2月にスマートキャンプ株式会社に入社しました。その後、BOXILとBiscuet(の前身となるプロダクト)の開発を経て、2018年10月からはエンジニア組織を統括するマネジメント業務に携わっています。また、昨年、子供が生まれ、絶賛子育て中の身でもあります。

本日は、 「B2B領域の開発組織作り」というテーマでお話させて頂ければと思います。先程、井上からお話があったように、弊社では、 B2Bマーケティング領域をはじめとして、いくつかの事業を展開しています。それらの事業を支える開発組織の体制については、エンジニアが(私を含めて)11名在籍しており、デザイナー業務を兼務している者が2名おります。あとは、業務委託でお手伝い頂いている方やアジャイルコーチ、さらにはアドバイザーの方がいらっしゃいます。詳細については、以下のスライド資料をご覧ください。

ちなみに、これは私が掲げている個人的な目標の一つなのですが、「自己組織化」したチームを再現性をもって作りたいと考えています。この場合の「自己組織化」というのは、管理者がいなくても自分たちで課題を発見・解決できる組織のことを指します。

さて、本日、お話させて頂く内容ですが、半年ほど遡って、2019年5月頃のお話をさせて頂きたいと思います。当時、チーム内には数多くの課題があったのですが、その中でも、採用面で特に大きな課題がありました。どういうことかと言うと、2018年10月以降、エンジニアの採用実績が0名でした。つまり、私がマネージャーになってから、エンジニアを1人も採用することができていなかったんです。

こちらはHRMOSのデータです。これらのデータを踏まえ、「そもそも採用したい人と出会えていないのではないか」と考えていました。

ちなみに、当時、我々が求めていた人物像についてですが、技術面に関しては、「弊社の既存メンバーと同等もしくはそれ以上であること」「フルスタックまたはどこかの領域に尖った技術力があること」「若手の場合はこれらのポテンシャルがあること」を掲げていました。また、人柄・マインド面については、「技術よりもプロダクトを成長させることにコミットする志向性があること」「課題解決が好きであること」「弊社の行動指針にマッチすること」を求めていました。

この時の私の「脳内」ですが、正直言って、まったく採用できる気がしなくて、「弊社が求める人材ってそもそも転職市場に存在するのか」「弊社ってエンジニアに対する知名度が全然無いな」等と考えていました。また、B2Bの業界は、ある意味では、「地味」な部分もあり、「事業内容を訴求しづらいな」とも思っていました。「そもそも今の採用のやり方自体が正しいのか」ということも考えていました。

しかし、会社の将来を考えた時、採用の土台についてはつくっておくべきですし、人が増えなければ、会社や事業の成長にも当然ながら影響がある。そして、会社が成長しなければ、私自身が目標として掲げている「自己組織化」した組織を作る意味もありません。上記の考えをもとに、私自身のリソースを採用に注ぎ込むことが組織にとって最も「レバレッジ」が効くことであると判断し、採用にフルコミットすることを決心しました。そして、今期で成果を出せなければ、マネージャーを辞めようと思っていました。

さて、あらためて、 B2B領域でのエンジニア採用についてお話したいのですが、採用に関して「そもそも今のやり方が本当に正しいのか」を確認するため、有識者の方に相談させて頂きました。具体的には、弊社の代表経由で、他社のCTOや技術顧問の方々にコンタクトを取り、アドバイスを頂きました。また、いつもお世話になっている転職エージェントの方々に対してヒアリングを実施し、現状の課題の改善点を探りました。さらに、採用コンサルの方にも相談させて頂きました。

その結果、今までの弊社の取り組みの方向性自体はそこまで間違ってはいないことが判明しました。そして、やはり「銀の弾丸」みたいなものはないんだなということを再認識しました。重要なことは、「やるべきことを愚直にやりきる」ということですね。

ちなみに、弊社はマーケティングが得意領域なので、その知見を採用戦略にも生かす形で、「リードジェネレーションから始めて、フェーズ毎にやるべきことを洗い出して、実行する」というやり方で進めていきました。また、採用条件の見直しや会社説明資料の作成に加えて、プロダクト毎の説明資料を作成しました。そして、会社やプロダクトについて説明する際に、誰が説明しても同じクオリティになるように工夫していきました。

さらに、今年の頭からは、弊社のエンジニア文化を知ってもらうべく、エンジニアブログに取り組んでいます。先日は、「150社のTechブログを分析して見えた、エンジニアが今転職するべき企業ランキング」という記事の中で、Techブログスコアランキングで第4位に選んで頂きました。

あとは、メンバーの強み・弱みを知ってもらうということで、各メンバーのストレングス・ファインダーを候補者の方に共有しています。ストレングス・ファインダーについては、取り組んだことがある方もいらっしゃるかもしれないですが、簡単に言えば、いくつかの設問にオンライン上で回答することで、自分自身の強みや弱みを明らかにすることができるテストです。このテストや他の性格診断の結果を利用し、候補者の方とチームメンバーの強み・弱みをお互いに確認しながら弊社に対する理解を深めて頂きました。

また、弊社に対する理解を深めて頂くという狙いで、「1日体験入社」のプログラムを策定し、選考中の候補者の方に来て頂きました。さらに、一緒にモブプロをしたり、お互いの価値観を知るカードゲームにも取り組みました。

加えて、外部の方を招いた勉強会に候補者の方に来て頂いたり、ピザパの日に来て頂いて、他部署の人間とも交流して頂いています。

選考の後半になるにつれて、入社後の流れやキャリアイメージ、期待していることなどを候補者の方に伝え、どのような活躍をして頂きたいかをできるだけ視覚的にわかるように共有しています。これについては、候補者の方ごとに作成し、なるべく入社後のミスマッチが発生しないようにしています。

最後に、オンボーディングですが、会社全体で制度やツールに関する説明資料を作成しています。また、スムーズに業務に入って頂くために、B2B領域のマーケティングやセールスに関する用語集を作成して、業務で使う用語を即座に理解できるようにすることにも取り組んでいます。さらに、入社前からSlack に入って頂いて、情報共有を行った上で、必要な技術やビジネス知識を共有しています。

色々と取り組んだ結果、無事、3ヶ月で2名のエンジニアを採用することができました。下記はSlackでのやり取りですが、非常に盛り上がっていますね。ちなみに、叫んだりしているのは、弊社の代表やCOOです。

ポイントとしては、自社の採用面における「中から見た強み」と「外から見た弱み」を正確に理解して、言語化した上で、対応策を考えることが大切かと思います。特に、弊社の場合は、エンジニアチームで言えば、技術だけではなくて、売上や事業を伸ばすことに意識が強いメンバーが多い。あとは、他部署のメンバーがすごく協力的で、エンジニアに対する理解がある。全体的に言えば、賢くて性格が良い人が多い。このような「外からは見えにくい良さ」が存在していて、この「強み」が候補者の方に伝われば、弊社のことを気に入って頂ける自信があったので、そこを伝える努力をしていきました。また、「弱み」の部分に記載した「B2Bマーケティング領域がエンジニアからするとわかりにくい」点については、会社説明資料を作成することによって、ある程度はカバーしています。ちょっとまだやりきれていないところもあるのですが、このような方向性で取り組んでいます。

もう一つ重要なのが、チームや会社を巻き込んで、全員で採用活動に取り組むことです。「どういう人を採用するのか」といったペルソナ設計にチーム全体で取り組んだり、振り返りを行ったり、他部署のメンバーに協力してもらって、ワークをしたりすることも必要なことかなと思います。

最後ですが、今後、取り組むべきこととしては、再現性のある採用フローとそれを実行できる組織作りを掲げています。また、より多くのエンジニアの方々にB2B領域でエンジニアリングを行う「魅力」を伝えていければと思っておりまして、まさに、このイベントからスタートしていければと考えています。私からは以上です。