養殖サケ、ダイオキシンやPCBなどの高い汚染――調査報告

現在、食卓にのぼるサケの半分以上が養殖ものだが、最新の調査により、養殖サケには天然ものに比べて、ダイオキシンやPCBなどの汚染物質がずっと多く含まれていることがわかった。研究者たちは養殖用の餌が原因と考えており、1ヵ月に1食以上、養殖ものを食べるとガンになるリスクがわずかに高まるとしている。

AP通信 2004年01月13日

 ワシントン発――養殖サケには、ダイオキシンなど発ガン性の疑われている汚染物質が、天然ものに比べて歴然と多く含まれているとの報告が、『サイエンス』誌1月9日号に発表された。この結果は、世界各国で販売されている魚について、体内に含まれる汚染物質を測定した大がかりな調査によるものだ。

 調査の結果、北欧で養殖されたサケが、最も多く汚染物質を含んでいたという。次いで多かったのが北米とチリ産のものだ。養殖場で使われている餌が原因で、海の汚染物質が濃縮されてサケの体内に取り込まれていると研究者たちは考えている。

 1ヵ月に1食以上、養殖サケを摂取した場合、原産国にもよるが、のちにガンになるリスクがわずかに増える可能性があると研究者たちは結論付け、消費者には天然のサケを買うよう呼びかけるとともに、養殖業者には魚に与える餌を変えることを勧めている。

 だが、米食品医薬品局(FDA)は、サケから検出される汚染物質のレベルはごく低く、現実問題として懸念にはおよばないと主張しており、米国民に対して、今回の調査結果におびえて食生活を変えたりしないよう訴えている。

 この論議が消費者を困惑させるのは間違いない。これまでずっと、心臓病予防のため、少なくとも週に2度は魚を食べるようにと言われてきたのだ。中でもサケは推奨されている。心臓の健康によいオメガ3脂肪酸がとりわけ豊富な一方、海産物の有害物質として知られる水銀は含有率が低いためだ。

 そのうえ、米国で販売されている養殖サケの大半はチリ産で、その汚染レベルは一部の天然サケに比べてそれほど高くはなかった。

 今回の調査結果は「米国民に過度の警戒心を抱かせるものだ」と、ハーバード大学公衆衛生大学院のエリック・リム準教授(栄養学・疫学)は話す。「長期的に見て発ガン性があるかもしれないという、いくばくかの、それも現時点でははっきりと証明されていない危険性を警戒して、人々が魚を食べなくなることのほうが心配だ」

 今回の調査では、皮がついたままの生のサケを調べた。皮を剥いて焼けば、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、ダイオキシンその他の、魚の脂肪に蓄積された汚染物質を大幅に除去することができるとFDAは指摘している。

 養殖サケに含まれるダイオキシンの平均値は1.88ppb[10億分の1を示す濃度の単位]で、天然ものの0.17ppbに比べて11倍も高かった。PCBのレベルは、養殖サケの平均が36.6ppbで、天然ものは4.75ppbだった。

 米政府は、食品中に含まれていても安全とみなされるダイオキシンとPCBの基準値を設定していない。

 「もちろん、人々に魚を食べないようにと言っているわけではない……。養殖サケを食べるのを少なめにするようにと言っているのだ」と、今回の調査で世界中のサケ700匹を調査した、ニューヨーク州立大学アルバニー校のデビッド・カーペンター教授は話す。

 カーペンター教授は食生活に関するアドバイスとして、米環境保護局(EPA)のガイドラインを参考にすべきだと述べた。これはFDAが合法と定める基準よりはるかに厳しい。

 養殖サケは、わずか数種類の海洋魚から作った魚油と餌を大量に摂取するため、より濃縮された汚染物質を体内に取り込んでしまう。それに引き換え、天然のサケはもっと幅広い種類の魚を食べていると、カーペンター教授は言う。

 対するサケ養殖業界は、すべての汚染物質の検出レベルは、FDAが合法と定める範囲内に十分おさまっていると述べ、牛肉など、もっと頻繁に食卓にのぼる食品のほうが、より大きな汚染源になると主張している。

 網いけすでサケを飼育する養殖業は、20年ほど前に始まったばかりだが、サケの人気増大に貢献し、サケを季節ものから年中手に入る日常的な食材へと変えた。現在、世界で出回っているサケの半分以上が養殖ものだ。養殖サケは1ポンド(約450グラム)当たり4ドル〜5ドルなのに対して、天然サケは15ドルすると、業界団体『米国サケ協会』のアレックス・トレント氏は言う。

 「養殖サケが、汚染されないようにする方法はある」と語るのは、『エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ』(EWG)のジェイン・ホーリハン氏。それには、サケ養殖場が使用する餌を切り替えるべきだとEWGは主張している。

 トレント氏によると、米国、カナダ、チリの養殖業者は汚染物質への対策として、サケの餌に使っていた魚油の一部を、大豆油やカノーラ油へ徐々に切り換えつつあるという。

 「PCBレベルは1年に10〜20%下がっている。状況は年々、改善している」とトレント氏は述べた。

 『ピュー慈善信託』から資金を受けて行なわれた今回の調査によって、養殖のサケは、産業廃棄物を燃やしたときに排出されるダイオキシンなど、13種類の汚染物質の濃度が非常に高いことがわかった。また、かつては絶縁材料として広く使われていたPCBのレベルも高いという。

 生物はこれらの汚染物質を環境を通じて体内に吸収し、脂肪に蓄積し、それを人間が食べる。体内の汚染物質のレベルが高いと、特定のガンになるリスクが高まると考えられている。また妊娠中、授乳中の女性の場合、発達中の胎児や乳児の脳に害をもたらすとされている。

 米国人の2人に1人は心臓血管の病気で亡くなっており、こちらのほうがガンよりはるかに大きなリスクだと、タフツ大学にある人間栄養学加齢研究センターの栄養学者、アリス・リキテンスタイン氏は言う。

 だがそれでも、もっと懸念すべき問題に注意を喚起したという意味で、「これは素晴らしい調査だ」とリキテンスタイン氏は評価した。「要するにこの調査が訴えているのは、魚はこれからも食べ続けるべきだが、もっとさまざまな種類の魚を摂ったほうがいいということだ」

[日本語版:湯田賢司/高橋朋子]

WIRED NEWS 原文(English)

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家電進出をもくろむインテル、CESで統合AV機器など新製品を発表

米インテル社は『国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー』(CES)で、一体型のエンターテインメント機器や大画面TVなど、一連の家庭向け製品に関する構想を発表した。


Katie Dean 2004年01月13日

 ラスベガス発――『国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー』(CES)では、米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長兼最高ソフトウェア開発責任者(CSA)によるパソコンをホームメディアの中心に位置付けるという講演(日本語版記事)に続いて、米インテル社の社長兼最高業務責任者(COO)のポール・オッテリーニ氏が8日(米国時間)、家庭のデジタル化に関する構想を発表した。

 この日の講演でオッテリーニ氏は『エンターテインメントPC』を紹介した。この多機能一体型の機器では、音楽や映画、テレビ番組、ゲーム、高品位ビデオを保存・整理し、他の機器とコンテンツをワイヤレスで共有できる。

 エンターテインメントPCはテレビに接続し、キーボードではなくリモコンを使う。外観はパソコンというよりAV機器のようだ。実際、ステレオセットやDVDプレーヤー、デジタル・ビデオレコーダーなど、テレビに接続されるおなじみの機器一揃いに取って代わるべく開発された。

 現状では「これらの機器を一度に使おうとしたら混乱をきたす」と、オッテリーニ氏は述べた。「消費者の望みは、シンプルにしたいということだ」

 オッテリーニ氏は、このテクノロジーがどのようにして家庭のあらゆる場所にメディアを配信するか――パソコンから別の部屋のテレビにテレビ番組を中継したり、音楽をワイヤレスでカーラジオに中継したり――を実演してみせた。

 エンターテインメントPCは今年メーカー各社から発売され、価格は800ドル以下になる見込みだという。

 オッテリーニ氏はまた、家電機器への『インテル・シリコン』アーキテクチャーの普及を図るインテル社の取り組みを発表した。同社はすでに、この目標に注力する『コンシューマー・エレクトロニクス・グループ』という部門を新設している。

 さらにオッテリーニ氏は、インテル社の家電進出の目玉となる新たな大画面テレビについても説明した。

 このテレビは『リキッド・クリスタル・オン・シリコン』(LCOS)テクノロジー(写真)により、現在販売されているハイビジョンテレビよりも鮮明な画像を実現しつつ、より低価格で提供される。

 新たなLCOSディスプレーは、「映画なみの高品位テレビ(HDTV)体験を手ごろな価格で」一般ユーザーに提供する、とオッテリーニ氏は述べた。同氏の予想では、2005年までに50インチのHDTVが1800ドル以下で買えるようになるという。

 「これによって大画面テレビ市場が大きく変わるだろう」とオッテリーニ氏。

 一方でオッテリーニ氏は、シンガポールのクリエイティブ・テクノロジー社、韓国のアイリバー(iRiver)社やサムスン電子社から発売される、インテル社のテクノロジーを使ったポータブル・メディアプレーヤー(写真)も紹介した。

 家電との結びつきを強める目的で、インテル社は家電機器用のハードウェアやソフトウェアを開発する企業に投資するベンチャーキャピタルとして、2億ドルの『インテル・デジタル・ホーム基金』を創設している。

 インテル社では家庭の複数機器でのコンテンツ共有を実現しつつ、不正使用を防ぐために『デジタル・トランスミッション・コンテント・プロテクション』(DTCP)技術を採用している[日立、インテル社、松下電器産業、ソニー、東芝の5社が共同で開発]。米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社、米ミュージックマッチ社、米ウォルト・ディズニー社、英EMI社、カナダのライオンズ・ゲート・エンターテインメント社などのコンテンツ提供企業各社が、この技術を支持している。

 ベテラン俳優のモーガン・フリーマン氏もゲストとして登場した。フリーマン氏は、インテル社の計画はアーティスト、消費者、業界のいずれにとっても前向きな一歩だと述べた。

 米レバレーションズ・エンターテインメント社の経営も手がけているフリーマン氏は、2005年までには映画館とインターネットで同時に公開される映画が出てくるだろうと予想している。「それは実現に向かっている」

 そして、万が一インテル社製品が消費者の生活全体をシンプルにするというメッセージが伝わらなかった場合に備えて、『デジタル・アイ・フォー・ジ・アナログ・ガイ』(Digital Eye for the Analog Guy)という、気のきいたビデオも上映された。これは人気テレビ番組『クィアー・アイ・フォー・ザ・ストレート・ガイ』[ゲイの男性5人組が、垢抜けないゲイでない男性を変身させる番組]のパロディーで、デジタル専門家チームが救いようもないほど時代遅れの家庭を変身させる――からまったケーブルや機械を片づけて、代わりに新しいテクノロジーであるエンターテインメントPCとLCOSテレビを据え付ける――という内容だ。

 オッテリーニ氏の講演を「とても説得力のある構想だ」と評したアナリストもいる。

 米ガートナー社の『ガートナーG2部門』のアナリスト、バン・ベイカー氏は、「彼が描いた構想は、われわれが向かっている場所であることは間違いない」と述べている。「消費者はあらゆるコンテンツについて、いつでもどこででも見たいと思っており、それは結局のところオッテリーニ氏が説明した構想そのものだ」

 だがベイカー氏は、ネットワークや標準の問題など、この構想に立ちはだかる障害は多く残っていると指摘する。

 「大半の消費者は、自分の家のネットワーク管理者になんかなりたくないと思っている」とベイカー氏。

 「競合する音声や映像のコーデック[信号やデータを符号化/復号化する回路や装置、ソフトウェア]がある限り、問題はなくならない。これについても消費者は考えたくないのだ」とベイカー氏は語った。

[日本語版:高橋達男/高森郁哉]

WIRED NEWS 原文(English)

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