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2019年11月22日 (金)

消費税は大企業と富裕層の優遇目的に導入されたのか?

 ツイッターでは消費税が法人税減税と所得税減税の穴埋めのために導入された、即ち大企業と富裕層の優遇のために使われた、ゆえに社会保障などには使われていないという主張がかなり見受けられる。

 法人税や所得税の減税は以前からのことだが、今頃になってこのような穴埋め論を主張して消費税廃止を叫ぶ人が増えたのは、「れいわ新選組」の山本太郎氏が街宣で声高にこのような主張を始めたことが大きく関わっている。さらに、日本共産党の志位委員長まで穴埋め論を主張しているので、これを信じている人は少なからずいる。

 では、本当に消費税は大企業や富裕層の優遇のために導入されたのだろうか? 日本の複雑な税制について分かりやすく解説している三木義一著「日本の税金 第3版」(岩波新書)から、関連部分を引用して検証してみたい。

 まず、三木氏は本書の序章(7ページ)で以下のように記している。

 戦後日本の税制改正は、自然増収を背景に、消費税騒動を除いては、基本的に減税の歴史であった。さらに、バブルがはじけたあとも、政権党は政権を維持するために減税を続行してきた。減税を維持するために国債を乱発し、未来の税収が先食いされてきた。そのため、市民が愛想を尽かして政権交代させたときには、新政権には新政策に使う資金が枯渇していた。政権交代の意義を失わせる財政状態になっていたのである。
 政治家も減税を主張するのが正義であるかのように振る舞った。本来、「減税」を要求するのは富裕層で、国に自分の財産は出さない、その代わり、国は何もしなくていい、という発想のはずである。これに対して、一般市民は増税による公的資金の確保で社会保障の充実を願うはずなのに、減税が正義の味方の主張としてまかり通ってきた。
 もちろん、これまでの増税論の多くが、高所得者の適正な負担を求めるものではなく、中低所得者層の負担増を意図したものであったことも影響していたが、こうした税制改革の結果、日本の税制はかなりやせ細っている。日本は、税の負担率は低く、公務員の人口比率も低い、小さな政府になっている。

 高度成長期は減税しても何とかなっていたが、バブルがはじけた後も自民党政権は国民の支持を得ることを目的に減税を続けてきたことをまず認識する必要がある。もちろん減税はこそこそと秘密裡に行われたわけではない。税負担を嫌う国民が減税政策を支持してきたということを多くの人が忘れてしまっている(あるいは知らない)のではなかろうか。要は、国民自身が「減税」という甘言に誘惑され「小さな政府」を支持してきたのだ。

 しかし、減税をすれば当然社会保障費は足りなくなるので国債を増やさざるを得ない。政権維持のために減税をして不足を賄うために国債を乱発した結果、日本の借金はダントツ世界一に膨れ上がった。その責任はもちろん政権政党にあるが、国民も増税を忌避して減税政策に乗ってしまったことは否めない。

 消費税が社会保障には使われていないという主張がある。しかし社会保障費を国債で賄ってきた以上、その返済に消費税を充てたからといって文句を言う筋合いではないと思うし、社会保障には使われていないという主張も正確ではない。

 民主党政権は公約を破って消費税増税に賛成したと盛んに批判されるが、三木氏の指摘するように民主党に政権交代したときには自民党の減税政策のために財源が枯渇し、借金の山になっていた。消費税増税という判断は、社会保障費の確保や財政の健全化のためにやむを得ない選択だったと言えるだろう。

 また、法人税の減税は日本に限ったことではなく世界的な流れだ。三木氏によると、法人税引き下げ競争の仕掛け人はアイルランドで、1988年には47%に達していた法人税率を12.5%にまで引き下げたとのこと。これによってグローバル企業がアイルランドに投資を始め、欧米各国が減税競争に引き込まれた。法人税についてはグローバルな視点でとらえる必要があり、国際的な競争を考えるなら日本だけが減税をしないということにもならない。

 とは言うものの、日本の法人は100の所得のうち課税対象になるのは31.9%で、世界的に見ると低い数値であり(アメリカ49.3%、イギリス63.4%、ドイツ48.9%、フランス47%)まだ増税の余地はあると言えるだろう。

 法人税減税は財界の望むところではあるにせよ、単に大企業を優遇するという目的だけで減税がなされてきたわけではない。

 では、消費税は所得税や法人税の穴埋めのために導入されたのだろうか? 消費税が導入された理由は、以下の3点だ。

1.税制全体の公平性の確保
2.個別間接税の問題点の解決
3.高齢化社会への対応

1は、いわゆるクロヨンと言われる所得税の把握率の問題だ。給与所得は源泉徴収によって9割は把握されているのに対し、事業所得は6割、農業所得は4割という把握率であり、納税者に不公平感があったため、格差を是正するために消費税が必要だとされた。

2は、消費税導入前には間接税として贅沢品に課税する物品税があったが、贅沢品とすべき物品の判断が困難になってきたことから、物品税を廃止して消費税にするということ。

3は、少子高齢化による社会保障の増大に充てるということ。

 ただし、1のクロヨン問題については消費税導入後にこの格差が縮まったというデータはないようだ。結局、消費税導入の最大の理由は3の少子高齢化への対応ということになると思う。少子高齢化により労働者人口が減る半面、高齢者が増えて年金や医療、介護などの費用が増加することは以前から分かっていたが、国債だけに頼りつづけると借金返済で財政が火の車になることは目に見えている。極端な少子高齢化への対応として消費税導入はやむを得ない選択だったと言えるのではなかろうか。

 消費税廃止派の人たちは、法人税や所得税を増税すればいいと言う。そのこと自体は私も賛同する。ただし、法人税を支払っている大企業はごくわずかであり、増税したところで大きな税収増は見込めないだろうし、あまり税率を高くすれば国外に逃れてしまうという事情もある。

 また所得税の累進的課税をすればいいという主張もあるが、富裕層は多くはない。所得税の累進化を強めることで消費税分を賄うというのは以下の記事で指摘されているように現実的ではない。

所得税の累進課税強化では財源確保できない(東洋経済)

 所得税の累進制を強化したり法人税を上げたとしても、消費税分を賄うことは無理だろう。もちろん米国の武器を爆買いなどの無駄の削減も必要だが、それだけでは十分な財源確保はできない。一方で社会保障費は右肩上がりに増え続けている。財政赤字も将来的には減らしていく必要もある。消費税をなくしてしまったらいったいどうやって財源を確保するのだろう?

 財源確保のための財源がどうしても消費税でなければならないとは言わないが、消費税が安定的な財源で大きな税収をもたらすことは間違いない。給付付き税額控除を取り入れることで消費税の逆進性の問題はほぼ解決できるし、消費税に限らず低所得者の税負担軽減効果が大きくなる。詳細については本書に譲りたい。

 所得税減税や法人税減税、そして消費税導入の経緯を振り返れば、決して「大企業と富裕層を優遇するための政府の謀略」などという陰謀論じみた話ではないことが分かると思うし、国民自身が減税を支持してきたという事実を忘れてはならない。

 いずれにしても国会議員や政党党首は単に消費税の賛否を主張するだけではなく、日本の税制についてしっかり学ぶ必要があるし、私たち国民も税金への理解を深める努力をしなければ、自分で自分の首を絞めることになると思う。少なくとも「減税」というのは「小さな政府=自己責任」の考え方であることを肝に銘じてほしい。

 

 

 

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