2019年10月04日 (聞き手:工藤菜摘 鈴木マクシミリアン貴大 西澤沙奈)
「飛しょう体を発射」、「日本海に落下」。この夏も相次いだ北朝鮮のミサイル。そもそもなぜ、北朝鮮はミサイルを発射するの?アメリカとの協議はうまくいっているの?謎に満ちているイメージがあるけど、実際どういう国?さまざまな疑問を1から聞きました。
解説は「国際報道2019」(月~金 22:00~ BS1)の池畑修平キャスター。ジュネーブ支局を経て、2008年から3年間、中国総局で北朝鮮を担当。ソウル支局長も経験した朝鮮半島情勢のスペシャリストです。
学生
西澤
よろしくお願いします。けさもまた、ミサイル、飛ばしていましたよね(取材日 9月10日)。最近、多いなと思ってたんですけど。北朝鮮はなぜミサイルを発射するんですか?
理由はズバリこちら。
池畑
キャスター
80%が軍事力向上、20%が対外交渉=外国との駆け引き。
専門家によって色々考え方はあると思うんですけど。やっぱり北朝鮮の近代の歴史を見て思うのは、80%は単純に軍事力向上のため。高く撃つとか、遠くへ撃つとか・・・。
残りの20%は、外国との駆け引きという要素があるんだよね。
やっぱり最大の駆け引きの相手はアメリカなんだよ。
学生
工藤
アメリカと北朝鮮は確かに対立していますよね。その対立とミサイルとは、どう関係しているんですか?
実は今もなお、アメリカと北朝鮮は国交がないんです。
国交がない原因が1950年から53年まで続いた朝鮮戦争。国際法的にはいまだ正式に、戦争が終わっていない状態なんです。
朝鮮戦争・・・韓国と北朝鮮との間で生じた国際紛争。1950年6月に突如、北朝鮮が南北を分断する北緯38度線を超えて韓国に攻め入り勃発。アメリカを主体とする国連軍と、北朝鮮とそれを支援する中国軍が3年にわたり激しい攻防を繰り広げた。
学生
鈴木
休戦状態ということですか?
そうです。北朝鮮的なロジックでいうと、アメリカは北朝鮮を敵視している。北朝鮮は人口2000万人ちょっとの小さな国。
世界の軍事大国アメリカと、正式な国交もない、戦争も正式に終わってない・・・そうなると、北朝鮮を守るためには軍事力は必須であるというロジックなんだよね。
(北朝鮮にとって)ミサイルは防衛手段ということなんですね。
もうひとつ。ミサイルはただ単に飛ばすだけではそれほど脅威ではなくて、ミサイルの先に何をつけるかが問題なんです。
核兵器ですか?
そうです。北朝鮮はミサイルに核弾頭をつけることが自分たちの体制を守る切り札だと信じています。核を搭載したミサイルがアメリカに届くとすれば・・・。
アメリカにとっては脅威ですよね。
だから、ミサイルの発射実験と核実験はセットと思った方がいいです。ミサイルはあくまで核弾頭を運ぶ手段なんです。
それが、アメリカとの駆け引きに重要だと?
そうです。北朝鮮はミサイルの飛ぶ距離をどんどん伸ばし、おととしには「アメリカ本土に届くミサイルを開発した」と発表しました。
「いざとなればアメリカも狙えますよ」というカードを見せる。そうすることで、交渉の場にアメリカを引き出そうとしているんです。
北朝鮮はアメリカと何を交渉しようとしているのですか?
1つは国連の経済制裁の緩和です。この経済制裁はアメリカが主導して行っているので、緩和するよう求めています。
国連の北朝鮮への経済制裁・・・2006年の北朝鮮による初の核実験以降、国連安保理は北朝鮮への制裁を段階的に強化。武器の禁輸のほか、石炭や鉄鉱石などの輸出の禁止、個人・団体の資産の凍結など。
また、最終的には朝鮮戦争を正式に終わらせて、体制の保証を確約させることも交渉しようとしています。
北朝鮮の国営メディアを見ていると、「核兵器はわれわれの体制を守る宝剣(宝の剣)である」という表現がよく出てきます。
聞きなれない言葉ですね。
北朝鮮としては指導部、要するにキム・イルソン主席、キム・ジョンイル総書記、キム・ジョンウン委員長と続く“ロイヤルファミリー”が、韓国主導で統一された朝鮮半島において居場所はないとよく分かっているんです。
どういうことですか?
彼らはかつて東西冷戦時代のソ連の影響下にあった東ヨーロッパの国々で体制が崩壊して、独裁的な指導者が人民によって打倒された歴史を見ています。そういうふうになるのが怖いんです。
だから核開発に走って、それが自分たちの体制を守る切り札と信じたんです。
1990年代後半に物凄い食糧難が起きて何十万人が餓死した中でも、北朝鮮は核開発を捨てなかったですから。
絶対に手放せないんですね。
おととし、ロシアのプーチン大統領が「北朝鮮は、自分たちの体制が保証されないかぎりは、草や木を食べてでも核開発をやめない」と言ったんです。
それは非常に的を射ていて、とにかくいろんなものを犠牲にしてでも自分たちの体制を守るためには核開発を続けるだろうと。
実際、アメリカとの交渉でミサイルのカードはどれほど有効なのですか?
有効ですね。実際、キム委員長は、トランプ大統領とあわせて3回会談しました。交渉の場にアメリカを引き出すという目的は達成していますよね。
たしかに・・・
ただ、国連の制裁は緩和されていませんし、朝鮮戦争は正式に終わっていないので、交渉に満足している訳ではないと思います。
有効な交渉カードということですが、ミサイルはアメリカに届くんですか?
核が完成しているとして、それをアメリカ本土まで運ぶミサイルが完成しているかは疑問が残ります。
いろいろな専門家がアメリカに到達する前に大気圏で燃え尽きてしまうのではないかと分析しています。
米朝首脳会談を開いて、いろいろ交渉している最中なのに、ミサイル発射が相次いでいます。何発も発射する北朝鮮側の意図はなんですか?
ちょうど8月はアメリカ軍と韓国軍が合同で軍事演習をしていました。それに反発してミサイルを発射したとすれば、北朝鮮としても理屈が立つよね。
米韓演習への反発を大義名分に何度も飛ばして、ミサイル技術の向上を図ろうとしたんだと思います。
アメリカのトランプ大統領はどう思っているんですか?
発射したのはいずれも短距離ミサイルや高射砲だとみられています。トランプ大統領は「短距離ミサイルは問題視しない」と言っているんです。
短距離ミサイルはアメリカには届かないからですか?
もちろんそれもありますが、ほとんどの国は自分たちを守るために軍隊を持っていますよね。
だから防衛目的で短距離ミサイルを持つこと・発射することまでダメとは言えないという考えなんです。
そういう背景があったんですね。
北朝鮮から見ると「すごい機関銃を構えている軍事大国アメリカが、私たちに小さなピストルすら持たせないと言うんですか?それはあまりに不公平」というわけです。
なるほど。
アメリカとしては小さなピストルは怖くないから「まあいいんじゃないの」となってしまう。でも、アメリカよりピストルの近くにいる日本や韓国は怖いですよね。
実際、日本や韓国にミサイルは届くんですか?
届くミサイルはすでに開発されています。実際、北朝鮮のミサイルはすでに何回か日本列島を飛び越えています。
日本に向かって発射されたミサイルを届く前に撃ち落すのは技術的に非常に難しいといわれているので、脅威だと思ったほうがいいです。
怖いですね。日本はどう対応しているんですか?
トランプ大統領に「アメリカに届く長距離ミサイルだけをダメと言わないでほしい。日本を置き去りにされては困る」と言って、短距離ミサイルについても米朝交渉で取り上げてほしいと一生懸命働きかけています。
歴代のアメリカ大統領の中では、トランプ大統領は北朝鮮に寛容な方ですか?
そうですね。トランプ大統領は「僕はキム委員長に恋をした」と言っているし、キム委員長も「トランプ大統領は素晴らしい人だ」と言っていて、2人の波長はあっているみたい。
アメリカと北朝鮮の間では少なくとも対話は続いているので、今のところ両国の関係は穏やかですね。
そうなると、トランプ大統領はキム委員長の要求を簡単にのんでしまいそうな気がしますが。
そうした予想に反してまさかの決裂となったのが、ことし2月にベトナムで行われた2回目の首脳会談です。
このとき北朝鮮は「核施設を少しだけ無くしますので、国連の経済制裁を大幅に緩和してください」と言って、トランプ大統領が好きなディール(交渉)を仕掛けました。
しかし、トランプ大統領の参謀たちが「完全に核兵器を捨てたという保証がないかぎり、制裁を解除してはダメです」と止めて、会談は決裂しました。
こういうこともあって、北朝鮮は手にした果実はまだ何もないんです。
さっきの話に戻っちゃうんですけど、休戦状態の朝鮮戦争がまた勃発するってありえるんですか?
空軍力やミサイルの能力でいうと、アメリカと韓国の連合軍が圧倒的に上なので、かつてと同じような戦争はちょっと考えにくい。
ただ、北朝鮮がミサイル実験を重ねて精度を高めている中で、まかり間違って北朝鮮がミサイルを撃って、日本や韓国に着弾する可能性がゼロかと言われるとゼロではない。そうなったら北朝鮮はもう終わりなんだけど。
怖いですね。
リスクはあるわけだから、日本としても北朝鮮と今、まったく交渉のない状態というのはあまりよくない。
ちゃんと交渉してパイプを持って、北朝鮮を抑えるというのもひとつの安全保障だと思います。
韓国はミサイル問題をどう見ているのですか?
意外と日常生活ではそこまで気にしていません。というのも、首都ソウルは軍事境界線から40キロぐらいしか離れていなくて、昔からミサイルよりもレベルの低い「ロケット砲」という大砲の射程圏内に入っている。
緊張が高まるとすぐに北朝鮮は「ソウルを火の海にする」などと脅すんだけどそれは本当で、撃とうと思えばソウルまで届いちゃうんだ。
だから、今さらミサイルの飛ぶ距離が伸びたからといってあまり関係ないというのが正直なところかな。
リスクがある中で、韓国は難しい対応が求められますね。
韓国も北朝鮮も「いつか統一だ」と言いますが、実はほとんどの関係国にとっては、今の現状維持が一番いいんですよ。
そうなんですか?
誰も無理やり統一して混乱が起きることを望んでないというか。
よく朝鮮半島の統一ではドイツの例が引きあいに出されます。西ドイツは東ドイツを吸収合併する形で統一しました、だから韓国もそれを目指しましょうと。
西ドイツと東ドイツの人口の違いが大体「西ドイツが4で東ドイツが1」。つまり4人の西ドイツ人で、1人の資本主義経済を全く分かってなく、生活が苦しかった東ドイツ人の面倒を見ればよかった。
韓国と北朝鮮では?
韓国と北朝鮮の人口は大体2対1。韓国人2人で、北朝鮮の人1人の面倒を見るのは相当きついですよね。
それを分かっているので、韓国は年代が下がってくるほどあんまり統一に関心ないんです。
編集:水上貴裕
<こちらからご覧ください>
●1からわかる!「北朝鮮とミサイル」【中】南北の分断から始まった
●1からわかる!「北朝鮮とミサイル」【下】問題解決のカギは?
<近日公開予定>
解決への道は?
●1からわかる!「北朝鮮ってどんな国?」
池畑キャスターが出演する「国際報道2019」のサイトはこちらから