平成の大合併しなかった自治体 元気 隣接旧町村と比較 日弁連調査
2019年11月22日
日本弁護士連合会(日弁連)は11月、人口4000人未満の「平成の大合併」で合併しなかった自治体と合併した自治体を比較し、人口減少率が低いなど非合併自治体が“元気”であるとの調査結果を公表した。高齢化率の進捗(しんちょく)も抑えられ、財政の健全化も進んでいた。日弁連は「非合併の小規模自治体では公務員数が激減せず、農業など産業面でも個性を生かした地域づくりを展開している」と分析する。
日弁連の弁護士らは、地方自治制度などを研究し昨年春から20人の弁護士らが「空き家、地域再生プロジェクトチーム」を結成して農山村を調査。「合併しなければ小さな自治体は立ち行かなくなる」として進められてきた、平成の大合併の効果や弊害などを検証した。
調査では、2000年時点で4000人未満の小規模な町村と、産業構造が似ていて隣接する合併旧町村の組み合わせを47組作り、原則05年から15年にかけた人口変化や高齢化の進捗(しんちょく)などを比較した。例えば、北海道新篠津村、岡山県西粟倉村、高知県大川村と、合併した近隣自治体を比べた。
その結果、非合併町村は合併旧町村に比べ、人口減少率は47組中43組、高齢化の進捗率は47組中41組で低かった。また、47の非合併町村の財政指標を調査。05年度に合計518億円だった積立金は15年度に2倍近い1010億円に増え、実質収支比率も41町村で上昇するなど、財政の健全化が図られていた。
日弁連は、非合併町村では役場機能が保たれ、公務員数が大きく減っていないことが背景にあると指摘。「非合併自治体は地域住民と役場職員の顔が見える関係が築かれ、地域の個性が発揮しやすい」と分析している。
日弁連は全国各地の現場調査もした。合併しなかった長野県生坂村の農業公社代表、岩間陽子さん(68)は「合併しなかったことで住民の声が予算に反映させやすい面はあった」と指摘。「住民と行政が“協働のむらづくり”をしてきて、村ぐるみで(農水省の)多面的機能支払交付事業で共同作業をし、集落営農も活発になっている」と話す。不安はあるが、合併しないという選択で地域住民に自主性が芽生えたと感じているという。
一方、合併した町の元助役で現自治会会長(73)は「当時は国から地方交付税を減らすと言われて、危機感が強かった。今になってみると合併してよかったと言う町民はいない。ただ、他の地域との比較で一喜一憂するのではなく、自分たちの地域づくりを頑張るしかない」と話す。
「空き家、地域再生プロジェクトチーム」リーダーの小島延夫弁護士の話
今回の調査は比較により小規模自治体同士に優劣を付けることが目的ではない。ただ、調査結果からは、合併しなかった自治体で、当初予想されたような地域の衰退は見られないことが浮き彫りになった。
総務省は昨年、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政とする構想を発表しているが、そうした構想を打ち出す前に、平成の大合併の検証が求められる。
地域の枠組みを考えるとき、地域の文化や歴史、農業などの産業といった個性を尊重した上で検討しなければならない。「合併しなければ生き残れない」といった強引に危機感をあおる手法は、地域の誇りを奪うものだ。
高齢化抑え財政健全に
日弁連の弁護士らは、地方自治制度などを研究し昨年春から20人の弁護士らが「空き家、地域再生プロジェクトチーム」を結成して農山村を調査。「合併しなければ小さな自治体は立ち行かなくなる」として進められてきた、平成の大合併の効果や弊害などを検証した。
調査では、2000年時点で4000人未満の小規模な町村と、産業構造が似ていて隣接する合併旧町村の組み合わせを47組作り、原則05年から15年にかけた人口変化や高齢化の進捗(しんちょく)などを比較した。例えば、北海道新篠津村、岡山県西粟倉村、高知県大川村と、合併した近隣自治体を比べた。
その結果、非合併町村は合併旧町村に比べ、人口減少率は47組中43組、高齢化の進捗率は47組中41組で低かった。また、47の非合併町村の財政指標を調査。05年度に合計518億円だった積立金は15年度に2倍近い1010億円に増え、実質収支比率も41町村で上昇するなど、財政の健全化が図られていた。
日弁連は、非合併町村では役場機能が保たれ、公務員数が大きく減っていないことが背景にあると指摘。「非合併自治体は地域住民と役場職員の顔が見える関係が築かれ、地域の個性が発揮しやすい」と分析している。
住民と行政が連携
日弁連は全国各地の現場調査もした。合併しなかった長野県生坂村の農業公社代表、岩間陽子さん(68)は「合併しなかったことで住民の声が予算に反映させやすい面はあった」と指摘。「住民と行政が“協働のむらづくり”をしてきて、村ぐるみで(農水省の)多面的機能支払交付事業で共同作業をし、集落営農も活発になっている」と話す。不安はあるが、合併しないという選択で地域住民に自主性が芽生えたと感じているという。
一方、合併した町の元助役で現自治会会長(73)は「当時は国から地方交付税を減らすと言われて、危機感が強かった。今になってみると合併してよかったと言う町民はいない。ただ、他の地域との比較で一喜一憂するのではなく、自分たちの地域づくりを頑張るしかない」と話す。
地域の個性 尊重を
「空き家、地域再生プロジェクトチーム」リーダーの小島延夫弁護士の話
今回の調査は比較により小規模自治体同士に優劣を付けることが目的ではない。ただ、調査結果からは、合併しなかった自治体で、当初予想されたような地域の衰退は見られないことが浮き彫りになった。
総務省は昨年、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政とする構想を発表しているが、そうした構想を打ち出す前に、平成の大合併の検証が求められる。
地域の枠組みを考えるとき、地域の文化や歴史、農業などの産業といった個性を尊重した上で検討しなければならない。「合併しなければ生き残れない」といった強引に危機感をあおる手法は、地域の誇りを奪うものだ。
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中国など海外での日本茶の商標権侵害を防ぐため、自民党の茶業振興議員連盟(森山裕会長)は、作業部会を立ち上げた。茶産地の名前を勝手に使った海外での商標登録や模倣品が輸出拡大の障壁になるとして、対策を検討する。15日の初会合では、中国で「宇治茶」ブランドが侵害されている実態の報告があった。
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会合では、京都府茶協同組合や京都府宇治市の茶商・丸久小山園が、中国での商標権侵害を訴えた。中国では同組合の組合員が「宇治」の商標登録をしているが、「宇治○○」という商標の出願・登録が茶関連だけで191件あるという。また、同社の商品の模倣品が、中国だけでなく欧米や東南アジアでも流通。「ベトナムでは宇治茶は中国産と思われている」(同社)として、輸出への悪影響を指摘した。
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作業部会は今後、さらに茶業関係者の意見を聞いて対策を検討し、政府に対応を求める方針だ。
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2019年11月16日
ワクチン 接種の豚流通開始 5県、風評防止を徹底
豚コレラ(CSF)の影響を受けた石川、福井、岐阜、愛知、三重の5県で15日から、ワクチン接種した豚の流通が始まった。ワクチン接種で豚コレラの感染リスクが大幅に低下。無事に出荷が始まり、農家は安心して経営が続けられるようになった。流通開始は、初回接種の10月25日から、と畜可能となる20日を過ぎたため。各県は「食べても安全」とするイベントを計画、風評被害防止を徹底する。……
2019年11月16日
農業用ため池 防災へ補強工事を急げ
農業用水を確保するため池の防災工事がなかなか進まない。1カ月前の台風19号の豪雨でも決壊が発生し、住宅浸水をもたらした。補強工事を急ぐべきである。
ため池は全国で約16万7000カ所に上り、所有者らの情報がきちんと登録されているのは受益面積50アール以上で9万6000カ所にとどまる。7割は江戸時代以前に造られた。
多くは地元の水利組合や土地改良区、集落・農家などが管理しているが、農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが指摘されている。昨年夏の西日本豪雨では2府4県で32カ所が決壊し、死傷者を出した。
政府は、今年4月にため池管理保全法を制定。都道府県に対して、警戒が必要な「特定農業用ため池」を指定し補強などを急ぐよう指導している。所有者や管理者は12月末までに県に届けを出す必要があるが、思い通りには進んでいない。
災害は待ってくれない。台風19号とその後の大雨で、127の農業用ため池が損傷し、12カ所が決壊した。幸い死傷者は出なかったが、近くの住宅が浸水被害を受けた。ため池の補強工事はこれからだった。
会計検査院はため池の耐久性を調査。豪雨を対象にした7860カ所のうち約5割で、対策工事の必要性が適切に判定されていないと指摘した。国は「200年に1回起きる洪水流量」に対応できる耐久性を求めていたが、「10年に1回起きる洪水流量」と緩い基準で判定していた県があった。地震への対応も甘い。同院は、耐震性を調査した3199カ所のうち142カ所が適切に判定されていないと指摘した。決壊時の下流域への影響が十分に検討されていないという。
会計検査院の指摘は、ため池管理保全法が成立する前のものだが、危機感の薄さを物語るものだ。ハザードマップすら作っていない市町村も多い。人的被害が頻発しているのに対応が鈍いと言わざるを得ない。農水省は指導を強めるべきだ。
2008年から10年間のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震。一昨年夏の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内にあるため池の1割が決壊した。耐久性を高め、洪水防止策を強めることは防災上欠かせないはずだ。利用する農業者も危機意識を向上させる必要がある。
農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成が容易ではないとの指摘がある。県からは「一気に補強するには財源も人も足りない。優先順位を決めて改修するしか方法がない」との声が上がっている。農水省の事業だけでは対応が難しいなら、政府全体で必要な財源を確保すべきだ。
命を守ることを最優先に、ため池の改修・補強工事を急がなければならない。
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2019年11月17日
日米協定承認案を可決 衆院外務委
衆院外務委員会は15日、日米貿易協定の承認案を与党などの賛成多数で可決した。農産品の影響試算の根拠や、牛肉などのセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の実効性確保などが論点となったが、政府と野党の攻防は平行線のままだった。審議時間は、環太平洋連携協定(TPP)などを下回る11時間にとどまった。19日の衆院本会議で採決する予定だ。
自民、公明両与党と日本維新の会、希望の党が賛成。立憲民主、国民民主両党などの共同会派と共産党は反対した。
衆院の審議で野党側は、関税撤廃時期が未定の自動車・同部品を除外した自由化率や経済効果の算定や、追加関税回避の根拠となる議事録を要求した。
農産品では、国内対策がまとまっていない中で「国内対策で農家所得や生産量は維持される」とする農水省の説明に批判が集中。野党側は、現実的な影響試算や国内対策の具体像を示すよう強く求めた。
だが政府・与党は一連の要求には応じず審議を進めた。牛肉SGを巡っても、発動すれば「発動水準を一層高いものに調整する」協議に入るという規定を引き合いに、野党はSGの効果を疑問視。政府の答弁は「結果は予断していない」(茂木敏充外相)にとどまり、議論は深まらなかった。
同日の採決前の討論で、野党は「単純な試算を含む多くの基礎的な資料の提出もないまま採決に至った。厳重に抗議する」(立憲の森山浩行氏)などと政府の姿勢を強く批判した。
19日に衆院を通過した場合、参院では20日にも審議入りする見込み。政府・与党は12月9日の会期末までの承認を目指す。協定の承認は憲法で衆院の優越規定があるが、適用に必要な30日は残っておらず、会期延長がなければ参院での可決が必要になる。
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2019年11月16日
都 市場の活性化を考える会 当事者は蚊帳の外 専門家 過度の自由化を危惧
卸売市場の活性策を市場関係者抜きで決めていいのか――。東京都が「戦略的な市場運営」の在り方を議論しようと新設した検討会に、懐疑的な声が出ている。委員には、大手スーパーや経営コンサルティング会社が名を連ねる一方、市場関係者は1人もいない。都は会の意見を「最大限に活用」(都の設置趣旨)し、2020年度末までに中央卸売市場の経営計画を策定する。当事者不在の議論では民間参入など過度な自由化が進みかねないと、市場関係者の懸念がくすぶる。
都は、経営計画に盛り込む方針に「戦略的な市場運営の推進」を掲げる。計画策定に当たって有識者の知見を最大限に活用するため、都は「市場の活性化を考える会」を今年7月に立ち上げた。流通・マーケティング問題に詳しい中央大学の木立真直教授が、座長を務める。
委員は8人。大手スーパーのイオンの他、公的セクターの経営改革などを手掛けるEY新日本などコンサルティング会社も加わる。農林中金総合研究所など農業関係の有識者も名を連ねるが、卸売会社や仲卸会社など市場関係者は入っていない。
7月の第1回会合に出席した小池百合子都知事は、市場の厳しい経営環境が問題視される中で、強固な財務基盤を確保する重要性を強調。民間経営手法の検討にも触れ、「さまざまな観点から長期的な視点に立って市場経営の在り方を検証することが必要」との考えを示した。10月にも会合を開き、2カ月に1度のペースで開催を予定する。
「考える会」に対し、11月上旬の都卸売市場審議会では、市場関係者や都議から批判が出た。市場経営に関する事項について都知事に意見する役割を果たす審議会がある中で、新たな会議体を設けることを疑問視し、会での議論を審議会で報告するようくぎを刺す委員もいた。
これに対し、都は「既成概念にとらわれない趣旨で設置した」と説明。「業界の意見を聞かないわけではない。幅広い意見を場合に応じて聞いていきたい」とも答えた。
しかし、市場流通の専門家は「意見を聞くのと、その場で討議するのとは権限が全く違う」と反論。「当事者不在」と農業関係者から評判の悪かった政府の規制改革推進会議を引き合いに出し、「考える会の議論次第では、民間参入など、市場関係者の立場に十分な配慮がなされないまま、自由化を加速させかねない」と危惧する。
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2019年11月19日
農政の新着記事
日米協定受け補正予算 農水国内対策3250億円
政府・与党は21日、2019年度補正予算で、日米貿易協定や環太平洋連携協定(TPP)を踏まえた国内農林水産業対策として、3250億円程度を計上する方向で調整に入った。18年度補正予算の規模を60億円程度上回る。日米協定の合意を受け、農林漁業者の不安を和らげる必要があると判断した。
生産現場からの要望が強い畜産クラスター事業には400億円程度を計上し、中小規模・家族経営の農家が使いやすいよう、補助要件を緩和する。酪農の増頭・増産対策を新設し、240億円程度を盛り込む。両事業を合計すると、18年度補正予算の畜産クラスター事業を90億円程度上回る計算だ。国産チーズ対策は、18年度補正と同程度の約150億円とする。
産地パワーアップ事業には350億円程度を計上し、経営規模などに応じて補助要件を緩和する方向で調整している。農業農村整備(土地改良)事業には、18年度補正予算と同規模の950億円程度を盛り込む。
他に農業関係では、国産農産物の輸出拡大や、スマート農業の推進に向けた対策などを盛り込む。農業関係の合計は、2600億円を上回る規模となる。
林業では、国産の合板や製材、集成材の競争力強化対策などに360億円程度を盛り込む。水産業対策は270億円程度とする方向だ。
政府は、TPPや日米貿易協定などの国内対策の指針となるTPP等関連政策大綱を12月上旬にも改定する。補正予算案も12月上旬にまとめる。
TPP合意後、政府は15~18年度の補正予算で、農林水産分野の国内対策費として毎年3000億円超を計上。計1兆2934億円を講じている。
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2019年11月22日
日米交渉で米国公聴会 「米、乳製品さらに開放を」
米議会下院は20日(日本時間21日)、日米貿易協定に関する公聴会をワシントンで開いた。農業団体などの出席者や議員は、牛肉や豚肉で環太平洋連携協定(TPP)並みに関税を引き下げることを評価しつつ、米や乳製品の市場開放が不十分だと指摘。追加交渉の対象にするよう求める声が相次いだ。関税以外も含めた包括的な協定を求める意見も目立った。
下院歳入委員会の貿易小委員会が公聴会の場となり、農業、自動車の団体やシンクタンクなどの代表者らが出席。同委員会は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら交渉担当者にも出席を要請したが、応じなかった。
TPPでは、日本は米に米国向け輸入枠を、バター・脱脂粉乳は米国を含む加盟国全体向けの輸入枠(ワイド枠)をそれぞれ設けた。だが日米協定では、これらは設定しなかった。
一方、協定の合意に伴い、日米両首脳が9月に署名した共同声明では、協定の発効後、4カ月以内に予備協議を終え、追加交渉の範囲を決める方針を示した。
オバマ政権でTPP交渉のUSTR首席農業交渉官を務めたベッター氏は「協定は全ての農産品をカバーできていない」と指摘。米やバター、脱脂粉乳などの市場開放を改めて求めた。
米国最大の農業団体、ファーム・ビューロー幹部のボーニング氏も一層の市場開放への期待を表明。「(日米交渉で)米国が勝利したのは明らかだが、第2段階の交渉を追求すべきだ」と訴えた。
全米自動車連盟(UAW)の幹部は、日本産自動車の対米輸出に有利になる通貨安誘導を防ぐ為替条項が含まれなかったことに不満を表明。輸入台数制限にも言及した。
ライトハイザー代表らが出席しなかったことも踏まえ、交渉を巡る手続きについて議会との調整不足を批判する声も相次いだ。日米協定でトランプ政権は大統領の権限で可能な関税削減・撤廃にとどめ、議会承認を経ずに来年1月1日発効を目指している。
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2019年11月22日
平成の大合併しなかった自治体 元気 隣接旧町村と比較 日弁連調査
日本弁護士連合会(日弁連)は11月、人口4000人未満の「平成の大合併」で合併しなかった自治体と合併した自治体を比較し、人口減少率が低いなど非合併自治体が“元気”であるとの調査結果を公表した。高齢化率の進捗(しんちょく)も抑えられ、財政の健全化も進んでいた。日弁連は「非合併の小規模自治体では公務員数が激減せず、農業など産業面でも個性を生かした地域づくりを展開している」と分析する。
高齢化抑え財政健全に
日弁連の弁護士らは、地方自治制度などを研究し昨年春から20人の弁護士らが「空き家、地域再生プロジェクトチーム」を結成して農山村を調査。「合併しなければ小さな自治体は立ち行かなくなる」として進められてきた、平成の大合併の効果や弊害などを検証した。
調査では、2000年時点で4000人未満の小規模な町村と、産業構造が似ていて隣接する合併旧町村の組み合わせを47組作り、原則05年から15年にかけた人口変化や高齢化の進捗(しんちょく)などを比較した。例えば、北海道新篠津村、岡山県西粟倉村、高知県大川村と、合併した近隣自治体を比べた。
その結果、非合併町村は合併旧町村に比べ、人口減少率は47組中43組、高齢化の進捗率は47組中41組で低かった。また、47の非合併町村の財政指標を調査。05年度に合計518億円だった積立金は15年度に2倍近い1010億円に増え、実質収支比率も41町村で上昇するなど、財政の健全化が図られていた。
日弁連は、非合併町村では役場機能が保たれ、公務員数が大きく減っていないことが背景にあると指摘。「非合併自治体は地域住民と役場職員の顔が見える関係が築かれ、地域の個性が発揮しやすい」と分析している。
住民と行政が連携
日弁連は全国各地の現場調査もした。合併しなかった長野県生坂村の農業公社代表、岩間陽子さん(68)は「合併しなかったことで住民の声が予算に反映させやすい面はあった」と指摘。「住民と行政が“協働のむらづくり”をしてきて、村ぐるみで(農水省の)多面的機能支払交付事業で共同作業をし、集落営農も活発になっている」と話す。不安はあるが、合併しないという選択で地域住民に自主性が芽生えたと感じているという。
一方、合併した町の元助役で現自治会会長(73)は「当時は国から地方交付税を減らすと言われて、危機感が強かった。今になってみると合併してよかったと言う町民はいない。ただ、他の地域との比較で一喜一憂するのではなく、自分たちの地域づくりを頑張るしかない」と話す。
地域の個性 尊重を
「空き家、地域再生プロジェクトチーム」リーダーの小島延夫弁護士の話
今回の調査は比較により小規模自治体同士に優劣を付けることが目的ではない。ただ、調査結果からは、合併しなかった自治体で、当初予想されたような地域の衰退は見られないことが浮き彫りになった。
総務省は昨年、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政とする構想を発表しているが、そうした構想を打ち出す前に、平成の大合併の検証が求められる。
地域の枠組みを考えるとき、地域の文化や歴史、農業などの産業といった個性を尊重した上で検討しなければならない。「合併しなければ生き残れない」といった強引に危機感をあおる手法は、地域の誇りを奪うものだ。
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2019年11月22日
20年産主食用米 適正生産708~717万トン 転作後押し課題 農水省
農水省は20日、2020年産の主食用米の適正生産量を708万~717万トンと決めた。米の消費減を踏まえ、前年産の適正生産量(718万~726万トン)から約10万トン減らした。需給安定には、今年以上の大幅な転作が不可欠。国産需要が大きい麦や大豆、飼料用米の着実な作付拡大に向けて、国と自治体、産地を挙げた推進ができるかが問われている。……
2019年11月21日
農政局2030年予測 中四国8割の地域 農家減少止まらず
中山間地が多い中国四国地方で、農家の減少が止まらない。中国四国農政局が10月にまとめた2030年の予測では、15年に比べ旧市町村単位で8割の地域の基幹的農業従事者が減少。徳島県では市内全域で40%以上の減少が見込まれる自治体もあり農業の存続が危ぶまれる状況だ。食料・農業・農村基本計画の見直しが議論される中、専門家は生産基盤の立て直しに十分な対策を求めている。(丸草慶人)
「農業がなくなる」 徳島県三好市
「このままだったら、10年後は地域の農業がなくなってしまう」と危機感を持つのは、徳島県三好市東祖谷でソバ40アールなどを栽培する岡本文博さん(77)だ。山に囲まれた集落には住居が並び、隣には草を刈った耕作放棄地が点在している。
山あいの地域では、ソバやジャガイモが伝統的に作られてきた。市は栽培面積を維持するために独自で助成事業を実施。しかし、18年度のソバの申請面積は約7ヘクタールと5年前に比べて4割減。栽培面積の減少に歯止めがかからない。
岡本さんは「急傾斜地で機械がほとんど使えない。地域全体で高齢化が進んで、手作業を負担に感じて栽培する人が減った」と説明する。
農政局の予測で徳島県は中国四国9県で唯一、基幹的農業従事者が増加する地域がなかった。特に山間地の同市は、傾斜15度を超える急傾斜地が9割超に上る。基幹的農業従事者も旧市町村単位の市内の地域全てで、「減少率40%以上」の予測となった。
市によると、中山間地域等直接支払制度の第4期移行時(15年)に61あった集落協定は、現在43に減った。20年度に控える第5期の移行時にも減る見込みで、「高齢化と担い手不足に歯止めがかからない。特に急傾斜地農業では生計が立てにくく、就農につながりにくい」(市担当者)と指摘する。
中山間 高齢化響く
同農政局がまとめたのは「2030年の基幹的農業従事者の増減率」。05~15年の平均増減率を基に、15年の農林業センサスの数値から予測した。その結果、旧市町村単位で中国四国地方の2166地域を見ると、78%の1690地域で基幹的農業従事者の減少が見込まれることが分かった。
このうち「減少率40%以上」が727地域と全体の34%を占めた。「減少率20~40%」は651地域で同30%、「減少率20%未満」は312地域で同14%となった。増加する地域は16%にとどまり、その他6%は基幹的農業従事者がいないなどの地域。
農家の減少は高齢化が影響している。15年の農林業センサスによると中国四国地方の基幹的農業従事者は65~69歳が19%、70~79歳が35%、80歳以上が20%と、全国平均を2~4ポイント上回り、高齢化が著しい。同農政局は「高齢農家がリタイアしても若年層が増えず、全国以上に高齢化が進んでいる」と指摘する。
中山間地が多いため、担い手への農地集積や経営の規模拡大が難しい。18年の農水省の調査によると、耕地面積に占める中山間地域の割合は中国四国地方が61%で、全国を17ポイント上回る。また全耕地面積に占める担い手の利用面積の割合は28%と、全国平均よりも28ポイント低かった。
政策支援の拡充を
中山間地域の厳しい現状に、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長は「どれくらい就農すれば地域が存続できるかの具体的なシミュレーションと、呼び込む必要がある人数の設定をした方が良い」と話す。「特に、中山間地域は農業に加えて他産業やツーリズムなどと組み合わせた収入源の確保が必要」と指摘。その上で「中山間地域等直接支払制度の拡充など、政策支援で地域を支えるべきだ」と提言する。
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2019年11月21日
対中畜産物 月内にも協定署名
政府が、中国に牛肉などの畜産物を輸出するために必要な動物衛生や検疫の協定の署名に向けて、中国政府と最終調整に入ったことが20日、分かった。政府関係者によると、王毅外相が20カ国・地域(G20)外相会議で来日することに合わせて、11月中に署名する案が有力。実際の輸出解禁は協定締結後、当局間で検査体制などの輸出条件を詰めた後になる。
同協定は、国境を越えた動物疾病の情報共有など、両政府の協力を強化し、畜産物の安全な取引を促すことが目的だ。
中国は、日本で牛海綿状脳症(BSE)が発生したことを受けて輸入禁止にしていた牛肉をはじめ、日本産畜産物の輸入解禁に、同協定の整備を要求。両政府は協議を重ね、4月には協定を締結することで実質合意していた。
協定への署名は、G20外相会議が22、23日に愛知県で開かれた後に実施する方向で調整している。中国側の日程で変わる可能性もある。
禁止措置直前の2000年時点での中国への牛肉輸出額は、年間1867万円だった。日本政府は協定合意を契機に、中国での販路を拡大したい考え。今後始まる具体的な輸出条件などの協議を迅速に進め、早期解禁できるかどうかが課題となる。
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2019年11月21日
基盤強化策 拡充へ 中山間、家族も対象 農水省
農水省が、中山間地や中小・家族経営を含む幅広い生産基盤の強化に向けて、新たに「農業生産基盤強化プログラム」を近く策定することが19日、分かった。和牛や酪農の増頭・増産、中山間地の活性化などが柱。日米貿易協定の国内対策の指針となるTPP等関連政策大綱の見直し、次期食料・農業・農村基本計画にも考え方を反映させる。一部は政府がまとめる経済対策に盛り込み、2019年度補正予算や20年度予算などで財源を確保する。
2019年11月20日
家伝法改正へ 各農場に衛生責任者
豚コレラ(CSF)などの対策強化に向け、農水省が検討する家畜伝染病予防法改正の概要が18日、分かった。飼養衛生管理基準の徹底のため、農場ごとに「衛生管理責任者」を設置。都道府県には防疫計画の策定を求める。伝染病の発生時は、衛生管理が不十分な農家への勧告や命令を都道府県に指示できるよう、国の権限を強める方向だ。アフリカ豚コレラ(ASF)は、予防的殺処分の対象にする。
月内に与党との調整を終え、同法改正案を来年の通常国会に提出する。
豚コレラの発生農場では、国の飼養衛生管理基準を十分に守れていない例があった。衛生管理責任者を置くことで、情報共有や従業員教育の徹底を目指す。
管理が不十分な農家への指導にも都道府県によってばらつきがあるため、伝染病の発生やまん延を防ぐ計画を定め、計画に基づいて指導を進められるようにする。
予防的殺処分は、感染家畜の殺処分などの通常措置だけではまん延を防げない場合、一定地域内で感染や感染が疑われる家畜以外も含めて殺処分する措置。現行法では口蹄疫だけが対象だ。
アフリカ豚コレラは隣国の韓国を含め、アジアで発生が拡大している。日本国内に侵入する危険性が高まっている。だが、有効なワクチンが存在せず、伝染力や致死率も高いため、まん延防止には、予防的殺処分を可能にすることが必要と判断した。
旅行客の肉・肉製品の持ち込みによる病原体侵入を防ぐため、空港・港で検疫を担う家畜防疫官の権限強化や違反時の厳罰化なども調整している。
経口ワクチンの散布や、周辺で感染動物が発見された農場の家畜の移動制限、早期出荷促進対策など、野生動物対策も法律に位置付け、安定的に実施できるようにする。
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2019年11月19日
自給率、農地など数値目標 基本計画実態と乖離 策定時より減産品目も 見直しへ検証必須
現行の食料・農業・農村基本計画に定める食料自給率目標や品目ごとの生産努力目標、農地面積など、数値目標のほとんどについて、達成の見込みが立っていないことが農水省の資料で分かった。現行計画の策定前より数値が悪化した品目も目立ち、目標との差が拡大している。同省は基本計画の見直しに着手しているが、計画の着実な推進には何が足りなかったのか、目標は適切だったかを含め、丁寧な分析と政策の検証が欠かせない。
現行計画では、2025年度に食料自給率をカロリーベースで45%にする目標を掲げる。計画策定前の13年度に39%だった自給率は、18年に37%に低下し、過去最低に落ち込んだ。目標との差はさらに広がった。一方、生産額ベースの自給率は18年で66%と、13年から横ばいだった。
同省がまとめた進捗(しんちょく)状況によると、品目ごとの生産努力目標は、基準年の13年に比べて生産量を減らす目標を設定している米と鶏卵、維持の鶏肉、増産を目指すテンサイを除く11品目で達成が困難な状況にある。特にジャガイモや野菜、果実、生乳などは13年に比べ生産量が落ち込む。小麦や大豆、サトウキビは目標との乖離(かいり)が大きい。
畜産物は目標を上回るものもあるが、輸入飼料への依存度は高いままで、飼料自給率は18年に25%となり13年比1ポイント低下。目標の40%は遠い。
13年に453万ヘクタールを超えていた農地面積は、減少の流れを抑えきれない。現行計画では、成り行きに任せれば毎年2・9万ヘクタール減少し、25年には420万ヘクタールに減少するところを施策の効果によって、440万ヘクタールに抑える目標を掲げる。
だが、荒廃農地が見通しを上回って発生したため、直近の19年で439万7000ヘクタールと6年先の目標面積を既に下回る。耕地利用率も上がらず、延べ作付面積は目標との開きが拡大している。
新たな基本計画では、目標を再び設定する。基本計画を検討する同省の食料・農業・農村政策審議会の企画部会では、目標設定に向けて「施策の方向性を明確にすべきだ」、自給率引き上げへ「国民的議論が必要」などの意見が出ている。
同省は企画部会での議論や地方意見交換会などを経て、来年1月にも計画の骨子案を示す。その後、審議会の答申を受け、3月末に新たな基本計画を閣議決定する。
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2019年11月18日
認定農業者 法人初の1割超 高齢化でリタイア増
農業の担い手である認定農業者のうち、法人の割合が初めて1割を超えたことが農水省の調べで分かった。2019年3月末の認定農業者数は23万9043経営体となり、前年に比べ1622減少。このうち法人は2万4965経営体で同1317増えた。高齢化などでリタイアする農家が相次ぐ一方、法人化は進み担い手の中で法人経営の存在感が増している。
認定農業者のうち法人は10年3月末に1万4273経営体で全体の5・7%だったが増加を続け、19年3月末には10・4%に達した。法人以外は19年3月末で21万4078経営体(前年比2939減)で3年連続で減少した。
同省は「高齢化などを理由に認定農業者でなくなる経営体がある一方で、政策的なメリットから集落営農を含めて法人を選択する経営体が増えている」(経営政策課)とみる。
認定農業者制度は、農業経営基盤強化促進法に基づき、農業者が5年後の経営改善目標を記した農業経営改善計画を作成し、市町村が認定する仕組み。国は認定を受けた農業者を低利融資や補助事業で重点的に支援している。
18年4月~19年3月に、5年の計画期間が終わった3万3965経営体のうち2万7029(80%)が再認定を受けたが、6936(20%)が再認定を受けなかった。計画期間の途中で法人化や離農、廃業などで認定農業者でなくなった経営体は2391だった。新たに認定を受けたのは7705(前年比868減)だった。
認定農業者(法人と共同申請を除く)のうち65歳以上の割合は19年3月で37%となり、前年に比べ2ポイント増加。59歳以下は45%で1ポイント減った。29歳以下はわずか0・5%だった。
認定農業者(特定農業法人を除く)を営農類型別に見ると、単一経営が54%、複合経営が46%。法人はそれぞれ62%、38%だった。単一経営の法人の中では「肉用牛・養豚・養鶏等」が17%と最も割合が大きかった。
法人形態は、株式会社が40%、特例有限会社が32%、農事組合法人が26%などとなった。
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2019年11月18日