不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学

大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中

昨年9月に開業した渋谷ストリーム。ビルの華々しさは、泥くさい立ち退き交渉のうえに成り立っていた(記者撮影)

渋谷駅南口すぐの場所に立つ、真新しいガラス張りの高層ビル。昨年9月に開業した「渋谷ストリーム」はレストランやホテル、イベントホールなどを構えにぎにぎしい。オフィスフロアにアメリカのグーグルが入居することを受け、ビル上層部に「Google」のロゴが張り出されるなど、話題は尽きない。

「シブヤ」を体現するような、開放的できらびやかなビル。だがその開発過程においては、立ち退きをめぐって計12件もの訴訟が繰り広げられていたことは、あまり知られていない。

渋谷をめぐる立ち退き戦争

ビルが立つ場所にはかつて東急東横線線渋谷駅の高架があり、その周辺には小規模な雑居ビルが密集し、昼間でもどこか薄暗い場所だった。東横線渋谷駅の地下化に伴って広大な空き地が生まれることを契機に、東京急行電鉄(現・東急)は周辺の中小ビルを巻き込んだ一体的な開発を企図した。

再開発計画は2013年6月に東京都によって策定されたが、東急はそれ以前から周辺のビルオーナーより再開発事業への協力を取り付けていく。オーナーは再開発に対しておおむね好意的であり、地権者間の合意形成は順調に進んでいった。

渋谷ストリームの外観(記者撮影)

ところが、ビルに入居する一部のテナントが、再開発に強硬に反対した。渋谷駅至近でありながら賃料が割安に抑えられていた希少性の高い立地を手放すことを惜しみ、移転に伴う補償金額が不十分だとして、契約期間を過ぎても頑として退去しない。はたして交渉は破談に終わり、決着は法廷の場へと持ち込まれた。冒頭の12件の訴訟とは、この「立ち退き」をめぐるものである。

こうした争いは東急に限らない。目下首都圏のあちこちでつち音が響くが、その開発過程を調べると、立ち退きをめぐって不動産会社とテナントが争った痕跡が随所に見られる。「この数年で、不動産会社などから『立ち退き料を算定してくれ』という依頼が増えた」(都内の不動産鑑定士)。

次ページテナントの追い出しは難しい
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
  • 「非会社員」の知られざる稼ぎ方
  • 御社のオタクを紹介してください
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 令和を生きる若者のための問題解決法講座
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
6

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
  • 東洋経済購読マンa6605f19310f
    「立ち退き料」の経済学???

    経済学が何も関係していない。
    この記事は如何なものか
    up20
    down4
    2019/11/22 05:16
  • といざヤす9fb97ee2a27b
    >入居の意向を示しても「(古めかしい店舗は)ビルの方向性と合致しない」などとビルオーナー側から入居を断られるケースも少なくないという。

    これなんですよね・・・
    ウチの近所の駅前再開発も、昔ながらの商店街を潰して商業ビルや駅前マンションというお定まりのパターンです。
    マンションは高級路線で、売れたようです。下の低層フロアには商業エリアが設定され、それまで商店街で商売していた居酒屋や町中華も何軒か入りましたが、高級マンションの住人の中には「雰囲気に合わない」「上はせっかくの高級ブランドマンションなのに」と、否定的に考える人もいるようです。

    渋谷ですが、ハチ公のご主人も住んでいたように、もともとは郊外の住宅地です。昔からいる人からすれば、不動産会社や電鉄会社の「オトナのお金持ちのおしゃれな繁華街」という「再定義」は勝手だと思うでしょう。
    up21
    down6
    2019/11/22 05:50
  • C18050eb793d193a
    駅前の再開発に伴う立ち退き料の問題ですが、鉄道各社、特にJR東日本と東急ですけど、以前から高架線の耐震工事をもっともな理由として、昔からあるガード下の飲食店や商店の追い出しを図っていますね。鉄道各社としては耐震工事という絶好のチャンスに、これまでの小汚い店舗からお洒落な店舗にイメージチェンジさせたいのは見え見えですけど、新たに入居できる店舗は、資金力と信用力のあるチェーン店か、チェーン店の別形態店舗ばかりの、お値段お高めの若者と女性をターゲットとしたお店ばかりとなり、おじさん達には本当につまらない一角と相成っています。今後、特に御徒駅ガード下の耐震工事の際にはどの様になるのか本当に見ものです。
    up3
    down1
    2019/11/22 12:45
  • すべてのコメントを読む
トレンドウォッチAD
大赤字のソフトバンクグループ<br>それでも強気を貫く根拠

収益に大きな貢献を続けてきたファンド事業がグループの決算に大穴を開けた。事態急変でも孫社長は「反省はするが萎縮はしない」。強気の理由は何か。いずれにせよ焦点は上場申請を取り下げた米ウィーの再建だが、長丁場になりそうだ。