事業撤退の事例シナリオ
新規事業撤退については、SEEDATAでもよく相談を受けてアドバイスもおこないます。
なかでも事業撤退のシナリオをしっかり準備しておく必要があるのは、通常の業務から発生した新規事業ではなく、コンテストをおこなうなど、ある程度目立つ形で公募してできた新規事業の場合です。
そこで今回は公募型の新規事業撤退の場合の事例について解説しますので、シナリオ作りの参考にしてください。
事業撤退のKPIはビジネスモデルと顧客価値の2つの観点が必要
ある百貨店が以下のような2Cの新規事業をおこなったと仮定しましょう。
【事業内容】
C2Cで手芸のレシピを作っている人をポータルに集め、レシピを見たい人たちとユーザー間でやりとりができるサービス。
広告メディアとしてビジネスモデルを成立させたり、そこから商品開発などのアドバイスフィーをとろうというのはよくあるマッチングプラットフォームのケースです。
事業撤退のシナリオを持つ際に重要なのは、
・ビジネスモデルの観点
・顧客価値の観点
という2つです。
新規事業におけるピボットとは、ビジネスモデルを変えることであり、提供価値を変えてしまえばそれはもう別の事業なのでピボットではなく、撤退すべきなのです。
たとえば、ニッチな手芸レシピというジャンルの場合、「日々の手芸から自分が考えたり出てきたノウハウなどを発表して人と交流する場が少ないため、交流の場が必要」というのが顧客価値です。
一方ビジネスモデルは、その情報を見たい人がたくさんいれば、コメントなどのやりとりが盛んになりPVも上がるため、ニッチビジネスの広告メディアとして成立させるというようなものです。
ビジネスモデルは広告モデルがダメなら、手芸レシピを売るマーケットプレイス、もしくはできた作品を売るのもよいでしょう。顧客価値の「交流の場」が満たされていれば、極端な話、ビジネスモデルはなんでもよいのです。
たとえば、広告モデルで考えていた場合、広告ビジネスとしては一般論としてPVが大事です。
仮に1年後、価値は変えず、広告モデルとレシピを売るという2つのビジネスモデルを試したがどちらもうまくいかなかったとしましょう。
ユーザーは5000人ほどで、レシピを載せてくれる人はいたが、活発なやりとりはあまり発生しなかった。つまり、「交流の場」を価値としたが、交流は生まれず、一方通行のやりとりとなり、意外と手芸レシピを買うレベルの交流まで現れなかった。この場合、提供価値が実現できなかったので、残念ながら撤退基準に抵触しているというのが我々の考え方です。
具体的な事業撤退シナリオ
では、このような場合の撤退シナリオをみていきましょう。
基本的に大企業の場合、事業清算・譲渡することになりますが、事業をおこなっている人も一緒に手放してしまうと人材流出につながってしまうという問題があります。
当然人がつかなければ事業価値は下がりますが、事業を最大価格で売ろうというのは一般的なM&Aの考え方であり、大企業の場合は最大価格を目指す必要はありません。
譲渡先を探す場合、必ず「人材も一緒に来てほしい」と言われますが、これまで事業をおこなってきた人材にはノウハウが溜まっているため、その貴重な人材流出は絶対に避けるべきです。
そのため、大企業内で事業譲渡をする場合はできるだけ人材は残すというシナリオを描きましょう。たとえば3カ月なり6カ月なり、一定期間引継ぎしたうえで、サイトにいるユーザーとシステムだけを譲渡する。子会社がおこなっていた場合、事業譲渡すると同時に子会社も清算するのがセオリーです。
逆に、事業撤退のシナリオとしてよくないのは、せっかく作ったのだからなるべく赤字にしたくないからと、高く売ろうとすることです。大企業においては、新規事業を成功させたいという気持ちよりも、イノベーションや挑戦する風土という、文化や人材教育の考え方を優先しましょう。
人材なしで譲渡すれば安くなるのは当然ですが、事業をいきなり潰さず、存続させるというアクションを会社側がとることがポイントです。このようなシナリオを描けるかどうかが、その後新規事業にチャレンジする人の気持ちや、事業を手放して社内の別部署に移らなければならない人のモチベーションにも大きく影響してきます。
本記事で紹介した内容は弊社blogでも詳しく解説していますが、近日発売予定の「コーポレートアントレプレナーバイブル」でさらに詳細に解説しています。新規事業推進でお悩みの担当者さまはぜひお手にとっていただければ幸いです。
語り:宮井 弘之。SEEDATA代表。
構成・文:松尾里美。SEEDATAエディター。