この大学に入り直したい
町の歴史を調べて、模型で可視化していくのは文句なくおもしろそうである。もちろん大変だろうけど、その大変さもまたおもしろいだろう。
しかしこれはどういう研究ということになっているのだろうか。駅の構造と人の行動?聞いてみると、
田村:そう、目的が必要なんだよ(笑)
と笑っていた。おもしろさが優先しているのがうっすら見えてこの人信頼できるなと思った。
「羽化する渋谷」
昭和女子大学 光葉博物館
2019/12/14(土)まで開催(月曜日休館)
10:00 〜 17:00
渋谷駅の立体地図を展示している企画展が現在開催中である(2019年11月現在)。作ったのはこれまでもデイリーポータルZに登場してもらった昭和女子大学 准教授の田村圭介さんだ。
ただ、渋谷駅の立体地図模型なのに、39点ある。
過去から未来まで、地形ありから建物だけまであらゆる渋谷駅が模型になっているのだ。地図が立体になり3次元になって、さらに時間軸まで手に入れて4次元になっている。
「羽化する渋谷」
昭和女子大学 光葉博物館
2019/12/14(土)まで開催(月曜日休館)
10:00 〜 17:00
(※この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリア、東急沿線の魅力を紹介する記事なんです。昭和女子大学は三軒茶屋にあります。)
今回は、渋谷駅の時系列模型を展示している「羽化する渋谷」展と学園祭「秋桜祭」での展示 山手線全駅模型のふたつを見学する。(山手線全駅模型は学園祭だけの展示なのでもう終了しています)
ふたつ同時に見られるならいっしょで!とお願いしたときはまさかこの量になるとは思ってなかった。
まずは渋谷駅の時系列模型を展示している「羽化する渋谷」展から見ていこう。
これだけで田村さんの渋谷への熱は止まらない。周辺の地形込みの模型もある。
谷底の土地に鉄道が集まって駅が肥大化していくのが手にとるように分かる。
この地形込みの模型は別のスケールの作品群もある。
多すぎる。これの説明を聞くのに何時間かかるだろう。しかも取材チームは僕のほか、大山(土木好き)、西村(路線図好き)、三土(地形好き)、べつやく(渋谷好き)というよく喋るメンバーである。
こんなの12時間経っても終わらないぞ。徹夜も覚悟の取材である。
しかし模型も田村さんの話も全て面白かった。全編サビみたいなレポートはじまります。
いま改造中の渋谷駅はどうなるのか。会場中央にある1/100のでかい模型を使って説明してくれた。2020年の模型があるのは分かるがなぜ2012年の模型があるのか。
田村:2012年がもっとも渋谷駅が拡張した時期だから。東横線が地下に行く前です。
渋谷駅はどんどん拡張していっているのだと思ったら、2012年が拡張のピークで、それ以降はコンパクトになろうとしている、とのこと。
田村:この時期が各電鉄会社がそれぞれの最適解を求めてやりたいように作って、別の電鉄会社とドッキングして迷宮化したんですね。
部分で見ても全体が把握しにくいので、つまり「あちこちにある電車のホームがつながって広がってた」と理解してもらえればOKです。
そしてさらに迷宮にさせていたのが折り返しの階段だ。
田村:これがもっとも迷いやすい階段で、踊り場を2回転させると人は方向がわからなくなる。
この原因となっているのが渋谷川である。渋谷駅の地下には川(渋谷川)が流れているのだ。
2012年の渋谷駅では副都心線からJRにむけてまっすぐ階段を作ると川にぶつかってしまうので階段が2回も折り返している。
田村:渋谷駅は川を越えるがテーマなんです。
田村:これで副都心線・東横線からJRに行くときの階段を直階段にできた。これは東急とJRが手を組まないとできないね。2027年にはこの階段を上がったところにJRの改札ができるので、なんとなく歩いていても乗り換えができるようになる。
すげえ!逆に言うとこれまではなんとなく歩いていても乗り換えができない駅だったってことだ。
一画面に収まるかどうかは僕のカメラの問題であるような気もするが次に行く。
この模型、作るのさぞかし大変だろうと思ったらやっぱり大変だった。
大山:模型を作る範囲を決めるのが難しいのでは?
田村:そう、良い質問。駅とはなにかという定義付けから決めていかないといけない。これは出口を含めるという考えで作ってある。
ただ、ハチ公・交差点がないとわからないので目印として入れてある。
この模型を作るにあたって、鉄道会社から図面をもらってないそうだ。
田村:出してくれとお願いしたんだけど、出してくれなかった。古い雑誌には図面がでてたりするので古雑誌を集めたり…。でも、出してくれたら展示するのにまた許可をとったりしないといけないから展示できなかったかもしれない。
古い資料を集めて、実際に歩いて調べている。だから人が歩くことができる部分が模型になっている。
フロアごとに色分けしたらどうかなど言われるそうだが、このデザインにこだわっている。
川だからといって水色に塗ったりせず、ニスで表現したのだ。これだけでこだわりがヒリヒリ伝わってくる。
目を引くのはこの構内図模型だが、地形図と渋谷駅の変遷もよかった。これもいい。だってまず渋谷駅がない時代の地形から始まるのだ。
田村:これが数万年かけてできた渋谷の地形
宇田川という地名も言われてみれば川だ。しかもいまのスクランブル交差点を堂々と流れ、王将も山手線も越えたあたりで渋谷川と合流していた。
この模型群を使って田村さんに1時間ぐらい話を聞いたが、それを全部載せるとギガが減るのでざっくりまとめた。
平地だったら新宿や品川のように横にずらっとホームを並べられたのに、谷だったので工夫を重ねて渋谷が出来てゆく。
このあたりは現地で売ってるパンフレットに完璧にまとまっていた。日経新聞のサイトにも田村さんが書いたいい記事があった(渋谷駅は一日にして成らず 「谷底」変遷から見える過去と未来)。でもパンフレットはキラキラしてかっこいいのでぜひ見に行って買おう。
渋谷駅の再開発で渋谷川を動かしたはすでに書いたが、宇田川も場所が変わっていると教えてもらった。
田村:センター街のあたりを流れていた宇田川が井の頭通りを通るようになった。いまの西武のA館とB館のあいだ。
西村:西武が上でつながっているのは!!
大山:下に川があるから。あれは橋なんですよ
田村:その先の丸いトンネルは、あそこを宇田川が流れてたから
三土:いまは暗渠ですね。自転車置き場があるから。
暗渠が自転車置き場になるのは「暗渠あるある」だそうだ。三土さんが言ってるのしか聞いたことがないのだが。
川を埋めて、隙間の土地にビルを建てて谷が渋谷になった。
ここで終わりではない。地形と駅の関係を示す模型のもうちょっと大きいやつがあるのだ。縮尺1/1000である。これも時代ごとに6点。
3つの丘に囲まれた谷であることがよくわかる。最初の渋谷駅は谷を避けていまの埼京線ホームあたりにあった。
田村:このころの渋谷は3つの川があわさるから湿地帯だった。山手線が高架じゃなかったから、技術的に駅を谷に作れなかったんじゃないかな。
それが1996年にはこうなるのだ。
地表を裏から見ることができるのだ。プールの底から空を見るような感じで土を透視できる。
この模型の後ろにはその時代の渋谷の写真が貼ってある。そこで驚いたのがこの写真。
甘栗屋すごい!と思ったが調べてみると不思議なことがわかった。
甘栗太郎は1917年創業の甘栗屋で、いま渋谷にある甘栗の店は1966年創業なので渋谷の甘栗屋は入れ替わっているのだ。「君の名は」か。
渋谷の歴史だけで2時間かかったが、別の部屋で山手線全駅の模型の展示もあるのだ(学園祭のみの展示なので現在は展示していません)。
制作リーダーの林さんいわく「秋葉原の模型にはガンダムみがある」。ガンダムみってなに?と思ったが意外にしっくり理解ができた。ガンダムみ。
立体地図模型を見た瞬間は構造が把握できないのだが、しばらく見てると自分が知っている駅の構造と合致する。目の前の模型と記憶がシンクロする瞬間が気持ち良い。
いちどシンクロすると模型の中に現実のものがプロットされていく。
この模型もすべて歩いて調べているそうだ。タイルの数や歩数で調べているという。地道!
この山手線全駅模型はもしかするとまた展示があるかもしれないので期待しよう。高輪ゲートウェイ駅もきっと作るはずだ。
町の歴史を調べて、模型で可視化していくのは文句なくおもしろそうである。もちろん大変だろうけど、その大変さもまたおもしろいだろう。
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田村:そう、目的が必要なんだよ(笑)
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