5つ目の論点は、新疆ウイグル自治区の統治に関して、習近平やその周辺がアメリカをモデルとしている点だ。
とりわけ注目すべきは、習近平が演説において、2001年に発生したいわゆる「9・11連続テロ事件」と、その後のアメリカ側の対応を参考にしたと言及していること、さらにはアメリカのアフガニスタン駐留や、シリアにおけるIS掃討作戦を非常に気にかけているということである。
日本人にとって中東は物理的・心理的な距離感があるが、国内に一定数のイスラム教徒を抱え、イスラム教国と国境を接している北京上層部にとっては、アフガニスタンやシリアの問題は、新疆ウイグル自治区の治安問題と直結した身近なものとして感じられることが、習近平の発言からもよくわかる。
しかも驚くのは、「アメリカがアフガニスタンで展開している兵力を撤退させると、その地域のイスラム過激派が勢力をつけ、そこに参加して過激主義に染まったウイグル人が出身地域に戻り、分離・独立運動を焚きつけるのではないか」という懸念を習近平自身が抱いていたという点である。
要するに、習近平やその周辺の指導部の中では「われわれのやっていることは、アメリカのやっていることと同じ」というロジックなのだ。
「自分たちは中国政府のような人権蹂躙はしていない」と考えたいアメリカ人にとって、このようなロジックが受け入れがたいことは、容易に想像がつく。
以上、今回の報道の「5つの特徴」を紹介してきたが、とくにこの第4・第5の論点は、西欧諸国、とりわけアメリカのリベラルな思想を持つ人々にとっては、身の毛のよだつほどの嫌悪感を引き起こすものであるということは重ねて指摘しておきたい。
それほどまでに、アメリカ社会と中国社会の「世界観」や「価値観」は異なるのだ。
ニューヨーク・タイムズ紙の記事については、日本ではまだ新聞各紙が簡潔に触れた程度で反応が薄いが、本国アメリカでは、当然ながら実に大きな反響を巻き起こしており、本稿を執筆している20日の時点で記事そのものに400件近いコメントが寄せられている。
また、ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙も、その2日後となる18日にはエリザベス・ウォーレン民主党大統領選候補や識者、さらには専門家たちが本件についてツイッター上に書き込んだものをまとめた記事を掲載している。
中にはこれを「第二のホロコーストだ」として、「世界の人権派よ立ち上がれ」と訴えるメッセージも見てとれる。
冒頭に述べたように、今回の記事は、対中政策ではそれまで中国に甘いと言われてきた米国のリベラル側メディアが、中国にかなり批判的になっていることを再び証明したものといえる。
ちなみに、ニューヨーク・タイムズ紙は2012年に胡錦濤の一族の蓄財ネットワークについての調査記事を書いて北京政府に嫌われており、同社の記者の入国ビザ発給を拒否されるなど、北京とは犬猿の仲であり、これが結果的に今回のリーク記事の発表につながったことは容易に想像がつく。