「二国家共存」の中東和平構想を放棄したに等しい。トランプ米政権がイスラエルによるヨルダン川西岸での入植活動を容認する方針に転じた。中東の混乱をあおるだけだ。撤回を求める。
イスラエルは一九六七年の第三次中東戦争でヨルダン川西岸を占領し入植を続けてきた。今では約百二十の入植地に四十万人以上のユダヤ人が暮らしている。
ジュネーブ条約は占領地に自国民を移住させることを禁じており、国際司法裁判所も入植は国際法違反との判断を下している。
米国もカーター政権が七八年に「違法」との見解を示して以来、和平交渉を妨げぬよう配慮してきた。オバマ政権は二〇一六年末、入植地建設の停止を求める国連安保理決議を容認し、国際社会と歩調を合わせた。
ところが、ポンペオ国務長官は「入植は国際法に矛盾しない」と明言し、方針転換の理由を「現地の実情を認めた結果だ」と説明した。入植地の撤収が困難になっている現状を追認した形だ。
一四年以来途絶えている和平交渉で、入植地問題は大きな障害だった。イスラエル領へ編入される可能性をはらんだ入植地が増えれば、パレスチナ国家の樹立を認める二国家共存の構想は破綻する。
それだけに米国には和平を実現させる気が本当にあるのか、と疑わざるを得ない。トランプ大統領はパレスチナ人のことなど念頭にないのではないか。
エルサレムをイスラエルの首都に認定したり、占領地のゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認したり、トランプ氏はイスラエルへの肩入れを繰り返してきた。
それもこれも来年の大統領選に向け、イスラエルへの親近感が強いキリスト教福音派に対する支持固めが狙いだ。
聖書を字義通りに信じる保守派の福音派は、米国人の四分の一を占める。一六年の前回大統領選で行われた出口調査によると、白人福音派の八割がトランプ氏に票を入れた。福音派はトランプ氏支持層の中核を成す。
地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定離脱や中国との貿易戦争をはじめ、トランプ氏の行動原理は選挙対策と言っていい。
今回の極端な政策転換にも、パレスチナ問題の歴史的経緯や複雑な事情を酌んで熟慮を重ねた様子はうかがえない。
選挙目当ては政策を歪(ゆが)め、国を誤る。米国に自覚を促したい。
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