SNS全盛時代を迎えている昨今だが、残念ながらSNS依存、スマホ依存も無視できない社会問題として浮上してきている。そして最新の研究では、ツイッターの頻繁な利用が高校生の学業成績を低下させることが報告されている。SNSで我々は“バカ”になってしまうのだろうか。
■ツイッターを使った国語の授業で成績低下
各種SNSの普及とともに、SNSが持つネガティブな側面にも注目が集まっているが、最新の研究では、ツイッターの活用によって高校生のテストの点数が下がるという結果が示されている。学業にツイッターを使うことで“バカ”になってしまうのである。
【その他の画像はコチラ→https://tocana.jp/2019/06/post_98635_entry.html】
イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学の研究チームが2019年5月に発表した研究調査では、学習にツイッターを利用することを検証した結果、国語の読解力と記憶力を問うテストの成績が悪化することが判明したという。
研究チームは2016年から2017年にかけてイタリア国内の高校70校1500人の高校生を調査したのだが、その中でノーベル文学賞作家ルイージ・ピランデッロの小説『生きていたパスカル』を教材にした国語の授業を分析した。
授業では、小説を読んだ生徒の半数が、ツイッターを利用して自らの読書感想を投稿し、他の生徒の投稿にコメントをつけたりとSNS上で学習を深めていった。そしてもう半分の生徒は、従来通り教室内で学習を深める授業を行ったのだ。そして最後に両グループ共に、教材となった小説の理解力と記憶力を計測するペーパーテストが課されたのである。
テストの結果を分析してみると、学習にツイッターを利用した生徒たちはペーパーテストの点数が約25%から40%低くなっていた。この得点の差は無視できない大きなギャップになるという。
興味深いことにツイッターを使った学習で特に成績が下がったのは、女生徒、イタリア生まれの生徒、学業優秀な生徒であったのだ。この調査結果は、ブログ運営やSNSが単に学業不振につながるばかりでなく、知的パフォーマンスを低下させるという結論を裏付けるものになった。
「(SNSは)きわめて有害です。頭の中で何が変化しているのかはわかりませんが、行動やパフォーマンスにおいて何かが確実に変化していると言えます」と研究チームのジャン・パオロ・バルベッタ教授は「ワシントン・ポスト」紙に語っている。
SNS上で意見交換をすることは実に有意義なものであるというイメージもあるが、その一方で面と向かっての人的交流では起こり得ないような種類の“炎上”も発生するのがSNSだ。SNSが知的パフォーマンスが低下した状態での交流だとするなら、確かに“炎上”も起こりやすくなるのかもしれない。SNSを積極利用する人々には気になる話題だろう。
■“つぶやく”ことで理解できていると錯覚
この研究結果を知らされたツイッターの広報担当者は、この件についてノーコメントである。そもそも同社はユーザーの知能向上を目的とはしていないからだ。しかしながらツイッターの“使命”は、この時の高校生の授業の目的とそれほど変わらず「何ら障害のない状態で、新たなアイディアや情報を即座に発信して共有すること」である。
SNSが人的交流の中で目指す理念は決して間違っているわけではなさそうだが、どうして知的パフォーマンスが低下してしまうのだろうか。バルベッタ教授はツイッターが学習に及ぼす「悪影響の可能性」についての最終的な結論を引き出すには、さらに多くの研究が必要であると言及している。
SNSの学習ツールとしての可能性はすぐさま却下されるべきではないということだが、さまざまなテクノロジーの長所を生かした活用法を模索するには、いずれにしてもさらなる研究が必要とされている。
現時点で考えられることとしてバルベッタ教授は、SNSを利用して小説を研究していた高校生の知的パフォーマンスが低下したのは、2つの要因の結果であると示唆している。
1つ目は、生徒がその内容についてツイッターで“つぶやく”ことで作品を十分に理解したという誤った考えを抱きやすいという点だ。自分の頭の中だけではなく、考えを文字にして投稿・公開することで、自分がよりよく理解していると思い込んでしまうのだ。
2つ目は、SNSに費やされた時間が、本を実際に読むのに費やすべき時間に取って代わったことだ。SNSでの意見のやりとりに熱を入れるあまり、肝心の作品を読み込む時間が削られてしまうのである。
今回の研究は、人間の活動、特に学習が代価なしでサイバースペースに移すことができるという主張に疑問を投げかけるものになっているという。たとえば分析によると、スクリーン上での読書は、豊かな読書体験にはならず、飛ばし読み(スキミング)に相当する行為だと一部からは指摘されている。
2016年の研究では、パソコンの使用が許可されている教室で勉強しているアメリカ人大学生は、ペンとノートだけで勉強している学生よりもテストの点数が低いことが報告されている。
SNSやデジタルツールが学習に及ぼす影響についてはまだまだ解明されていないようだが、SNSに意見を投稿することによって、自分がその問題について深く理解していると思い込んだり、我こそ“一家言”あるのだと誇大に膨らむ自己評価へと導く“陥穽”には十分注意が必要なのだろう。
(文=仲田しんじ)
※イメージ画像:「Gretty Images」
この記事にコメントする