挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
極悪怪人デスグリーン ~このヒーローだけは追放してはならなかった~ 作者:今井三太郎

第一章「極悪怪人デスグリーン誕生」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
18/141

第十八話「不死身のデスグリーンさん」

 次に林太郎が目覚めたのは、真っ白なカーテンに囲まれたベッドの上であった。

 身体を起こそうとするも全身にくまなく激痛が走り、切れた皮膚は熱を帯びていた。


「あっ、起きたッスか! 心配したッスよアニキぃーーッ!」

「いだだだだだだ! 死ぬゥ! サメっち離れて、アニキ痛すぎて死んじゃう!」


 林太郎は意識を取り戻すや否や、サメっちにガバッと抱きつかれた。

 全身を襲う痛みに再び意識を失いかけたところで、何とか踏みとどまった。


 騒ぎを聞きつけて、長身の乙女がひょっこりと顔を出す。


「目が覚めたか林太郎。応急措置はしておいたが、まだ身体は痛むみたいだな」

「ソードミナス、なんだその格好は?」

「これか……? いやその……無理やり着せられて……」


 己の姿を指摘され赤面するソードミナスは、医者が着るような白衣を纏っていた。

 長身ゆえか丈は少し足りないように見えるが、黒いロングヘアと相まってその姿はまるでやり手の女医である。


「アニキの手当ても戦闘員のみんなの治療も、全部ソードミナスが一人でやったッスよ」

「ほー、そりゃ不幸中の幸いだな。お客様の中にお医者様がいらっしゃったわけだ」

「ははは……医者、というほどのものじゃないよ。その、昔……ちょっとな」


 ソードミナスはそれ以上は言いづらい、といった風に目を伏せた。

 触れられたくない過去、というものなのかもしれない。


 それを察したのか、サメっちは花瓶の水を替えるといって医務室を出て行った。

 小さな背中を見送ると、ソードミナスはポツリと呟く。


「あんな子供にまで気を遣わせてしまったな……」

「それサメっちの前では言わない方がいいよ。子供扱いするとすぐムキになるから」

「そうか、心得ておこう」


 ソードミナスは眉毛をハの字にして、少し寂しそうにはにかんだ。


 サメっちの“怪人大辞典”なるデータベースによると、ソードミナスが怪人覚醒したのは2年前、北海道での出来事だそうだ。

 それ以前は医科大学に通う、ごく一般的な医大生であったと記録されている。


 林太郎は自身の身体に丁寧に巻かれた包帯を見て、その記録が事実であると確信した。


 しかし怪我を治そうと志す医者の卵が、刃物をバラまき人を傷つける怪人に転じてしまうというのはなんとも皮肉な話である。


 そう考えるとソードミナスが過去を語りたがらないのは、当然のことであるように思えた。

 かつて医療従事者であったという事実が、怪人覚醒の記憶と嫌が応にも繋がってしまうからだろう。


「ソードミナス、手当てをしてくれたことには礼を言う」


 そこまで言って、林太郎は己の口から出た言葉に驚いた。


 怪人としての彼女の境遇に同情したからではない、感謝するのは人として当然のことだ。

 そう自分に言い聞かせる、当然のことなのだ“人”として、と。



「いやいやいや、いいんだ。私にはこれぐらいしか取り柄がないからな」

「……そんなことはないぞ、死ぬところだったんだから」

「いやほんとに、お礼とかいいから……ほんとに」


 やけに謙遜するソードミナスを不審に思いながら、林太郎は己の腕に目を落とした。

 “怪我をした覚えのない箇所”に巻かれた包帯から、じんわりと血がにじんでいた。


「なるほど、治療の割増サービスもやってるわけだ」

「すすす、すまないッ! うぅ……わざとじゃないんだよォ……」

「冗談だよ、助かったぞソードミナス」


 林太郎が改めてお礼を述べると、ソードミナスは真っ赤になって黙り込んでしまった。

 反応が面白くてついつい皮肉が増えてしまったが、少しいじめすぎたかもしれない。

 恥ずかしそうにモジモジするソードミナス……剣持(けんもち)(みなと)を見ていると、林太郎はつい彼女が怪人だということを忘れてしまいそうになる。


 サメっちの牙のように人間態でも怪人の一部が発現する者は多いが、ソードミナスにはそれがないからかもしれない。


 ひとしきり反省すると、林太郎は痛む身体を無理やり引き起こした。


 林太郎にはアークドミニオン秘密基地の情報をヒーロー本部に持ち帰り、ビクトレンジャーへの復帰を果たすという目的がある。

 幸い骨は折れていないとなれば、いつまでもこんな場所で寝ているわけにはいかない。


「おい林太郎、無理をするな。まだ休んでいたほうがいい」

「大丈夫だって、俺はそこらへんの怪人とは鍛え方が違うんだから……っと、あらっ?」


 林太郎は気合いを入れて立ち上がろうとするも、脚に力が入らず体勢を崩した。

 それは怪我云々以前に、この数日で溜まった心労からくる立ち眩みであった。


「危ないッ!」


 とっさに支えようとしたソードミナスを巻き込み、林太郎はベッドに倒れ伏してしまった。

 林太郎の傷ついた身体が、ちょうどベッドにソードミナスを押し倒すような形で覆い被さる。

 鼻と鼻が触れ合うような距離で、お互いの視線が交わる。


「はわっ、はわわわわ! りりり、林太郎!? いきなりそういうのは、困るぞ!」

「違う! 誤解だっ! すまん、すぐにどくから!」

「はっ、まさか助けたお礼は身体でしてもらおうかとか、そういうあれなのか!? ケダモノなのか!?」

「誰がケダモノだッ! 俺はこう見えても平和主義者の紳士なんだぞ! ウグッ!?」


 林太郎は身体を起こそうと腕に力を入れるも、傷だらけの身体は思ったように言うことを聞いてくれない。

 手のひらがシーツの上を滑り、離れようと持ち上げた頭が支えを失ってソードミナスめがけて顔から落下する。


 ももにゅん。


「~~~~ッ!! ~~~~~~~ッッ!!!!!」


 長躯の美女・ソードミナスが、声にならない声をあげる。

 天国の雲のごとく柔らかな感触に両頬を包みながら、林太郎は気が気ではなかった。


 昨今厳しいセクハラどうこうという問題以前に、命の危機が迫っていた。

 回避不能の完全なるゼロ距離、この状態で刃物が射出されようものなら“包帯のおかわり”では済まない。


 いくら動物好きであったとしても、背中に剣山を生やしたヤマアラシを“かわいーっ!”と抱きしめる愚か者がいるだろうか。

 全身を刺し貫かれるのがオチであり、今の林太郎はまさにその状態にあった。


「わざとじゃない! わざとじゃないんらよォ!」

「んんっやめっ……りんたろぉ……動くな、で、出ちゃうからぁ……!」


 背筋を凍らせるような脅迫の言葉は、妙に湿り気を帯びていた。


 身を捩りながら自分の身体の中から湧き出る“モノ”に抗うソードミナスの顔は、もはや爆発寸前といった具合に赤く染まっていた。

 その目には涙がにじみ、呼吸は荒く、力なく林太郎を押し返そうとする細い手はプルプルと震えていた。


 もはやこれまで、林太郎が心の中で『南無三!』と叫んだ、そのときであった。


「水替えてきたッスよ……はわぁーーーッ!! アニキとソードミナスがえらいことになってるッスゥーーーーーッッッ!!!」


 サメっちの驚愕の叫びが、アークドミニオン秘密基地に響く。

 その声を聞きつけて、秘密基地中の怪人たちが医務室に殺到する。


「どうしたーっ! なにがあったーっ!?」

「サメっち、今の叫び声はいったいなんだ!?」

「デスグリーンさんとソードミナスさんがどうしたって!?」


 彼らが目にしたものは、ベッドの上で熱烈に絡み合う患者と女医の姿であった。


「違うんだよみんな、これはちょっとした事故なんだ……」

「……うっ、うっ……やっぱりケダモノだぁ……」


 そのベッドには無数の穴があいており、ベッドの下には大量の刃物が突き立っていた。




 …………。




 無数の武装したザコ怪人を相手に勝利を収め、返す刃で死も恐れぬ蛮行に及んだ林太郎の噂は一瞬で広まった。

 そのあまりの豪傑ぶりに怪人たちは畏敬の念を込めて、彼のことを『不死身のデスグリーンさん』と呼んだ。



 不死身の男は、丸2日間部屋から出てこなかった。


― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはマニュアルをご確認ください。

名前:


▼良い点
▼気になる点
▼一言
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。