挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
極悪怪人デスグリーン ~このヒーローだけは追放してはならなかった~ 作者:今井三太郎

第一章「極悪怪人デスグリーン誕生」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
17/141

第十七話「屍の山の頂点に立つ男」

 栗山林太郎は正義のヒーロー、ビクトグリーンである。


 平和を愛し、平和を乱す者には一切の手心を加えない。

 それが栗山林太郎という男の、ヒーローとしての矜持であった。


 多くの怪人から恨みを買っていることは、今更改めて言うまでもない。


「くたばれぇビクトグリーンおらぁッッ!!」

「ビクトグリーンめッ! このビクトグリーンめッ!!」

「チェストォーッ! ビクトグリーンにチェストーーッ!!」


 ここはアークドミニオン地下秘密基地の奥深く、ザコ戦闘員の訓練用施設である。

 黒いタイツにマスク姿の戦闘員たちが、ビクトグリーンの顔が描かれた人形をボッコボコにしていた。


 その様子を真顔で見つめる男がいた。

 ビクトグリーンこと、栗山林太郎ご本人である。


「いつ見ても迫力あるッスねえ、どうっすかアニキ?」

「どうと言われても、何なのコレ? 拍手でもすればいいの?」

「アニキには、今からみんなの相手をしてもらうッスよ」

「「「「「ウィーーーーッ!!!」」」」」


 どうしても見てほしいものがあると、少女に誘われ連れてこられた闇の底。

 これから林太郎は、むくつけき30人もの戦闘員たちに襲われるらしい。


 一緒に連れてこられたソードミナスに至っては、小さくなってブルブル震えている。


「りりり、林太郎。おまおま、お前の尊い犠牲は終生忘れないと誓おう」

「そうやって俺の尻を憐みの目で見るんじゃない! どういうことか説明してくれるかなサメっち?」


 サメっち曰く、ソードミナスとの戦闘を繰り広げる林太郎の動画が、アークドミニオン内で出回っているらしい。

 それを見たザコ戦闘員の教導係から、是非とも指南をしてほしいと頼まれたのだという。


「サメっち、次回からそういうことは出発前にちゃんと共有しておこうね」

「はぁいッス」

「わかればよろしい。そういうことならさっさと終わらせよう」


 そう言うと林太郎は、サメっちから手渡された木刀を構えた。

 流れの上で仕方なくとはいえ、まさか現役ヒーローが敵組織のザコ戦闘員に稽古をつけることになろうとは。


「しっかし……似てるなァ……」

「ああ……ビクトグリーンにそっくりだ……」

「本物のビクトグリーンを、頭から貪り食ったらしいな……」


 同じように木刀を手にしたザコ戦闘員たちが、口々にそんなことを言う。

 似ているも何も本人なのだが、彼らからしてみればいきなり練習用の的に魂が宿ったようなものだ。

 いざ手合わせといったところで、戸惑うのも無理はないだろう。


 (……その方がこちらとしても楽だな。打ち合い稽古なんかで怪我してたまるかっての)


 及び腰のザコ戦闘員たちの様子を見かねて、サメっちが口を開いた。


「フッ……アニキの真意を汲み取れるのはやっぱり、一番舎弟のサメっちだけみたいッスね……」

「知っているのかサメっち!?」


 よからぬ予感に、林太郎の眉がピクリと動く。

 そんな林太郎を差し置いて、サメっちは彼の与り知らない“真意”を語り始めた。


「いいッスか? アニキはわざと、ビクトグリーンの格好をしているんッスよ」

「なんと!? いったい何のために!?」

「それはずばり……みんなの戦闘意欲(やるき)を高めるためッス!!」

「「「な、なんだってー!?」」」


 林太郎と戦闘員たちの声が、綺麗にハモった。


 デスグリーンは、あえて憎きビクトグリーンの姿をとっている。

 ザコ戦闘員たちにとってそれは、雷を落とされたような衝撃であった。

 そして一人、また一人と静かに涙を流す。


「そうか……デスグリーンさんは俺たちにヒーローへの殺意を滾らせるため、わざとあのお姿をされているんだ……!」

「自ら進んで恨みを買うことで、みんなに気を引き締めろと仰っているんだ……なんという尊い自己犠牲の精神なんだ……」

「心を鬼にした叱咤激励、その修羅がごとき心意気! 我々はデスグリーンさんの気持ちに全力で応えなければならないッッッ!!!」


 ザコ戦闘員たちは木刀を捨て、剣やら槍やら斧やらとにかく殺傷力が高そうな武器を手にした。

 黒タイツ&マスクの内側で、()()の炎がメラメラと燃え上がる。


「やってやろうぜ野郎ども! デスグリーンさんの胸を借りるつもりでなあ!」

「「「「「ウィーーーッッッ!!!!」」」」」


 ザコ戦闘員たちのボルテージは最高潮に達していた。

 たとえ腕の1本や2本千切れようとも、ビクトグリーンの喉笛を噛み切る覚悟がそこにはあった。


 真顔の林太郎に対し、サメっちがグッと親指を立てる。


「アニキ、さすがッス! サメっちは魂が震えたッスよ!」

「サメっちには後でアニキから大事なお話があります」



 手に手に武器を構え眼前に迫る、約30名のザコ戦闘員たち。


 林太郎にとっては見慣れた光景であったが、その熱気たるやまるでフランス革命のバスティーユ牢獄襲撃部隊である。


「ウィーーーッ!!」

「あぶねぇなっ、このっ!」

「ヴィッ……!?」


 目の前に迫る長槍の白刃を皮一枚でかわし、林太郎の木刀がザコ戦闘員のみぞおちを的確に射抜く。

 返す刃で長槍を奪い取ると、林太郎は続けざまにその石突で詰め寄る3人の額を小突いた。


「おぉーっ、アニキかっこいいッス! ひゅーひゅーッス!」

「やはりすごいな林太郎。いったいどんな修行を積めばそこまで強くなれるんだ?」

「インドの山奥で虎とモンゴル相撲を取ったとでも言えば満足してくれるかな!?」


 外野のサメっちとソードミナスが茶々を入れるが、30人もの戦闘員に殺到される林太郎にはほとんど余裕と呼べるものがなかった。

 なにせ倒したはずのザコ戦闘員が、気力で蘇ってくるのだ。


「うぅ……こんなところで倒れるわけにはいかない……デスグリーンさんのためにも!」

「そうだ……確実に息の根を止めるつもりで、かからないと……デスグリーンさんのためにも!」

「頼むから俺のためにさっさと倒れてくれよォッ!」


 魂の叫び声が、アークドミニオン秘密基地に虚しくこだまする。


 林太郎は肉薄する斧を紙一重でかわし、地面に刺さったところを踏みつけた。

 そのまま勢い任せに、ザコ戦闘員の顔面を蹴り上げる。


 もはや手合わせというよりも、時代劇の大立ち回りといった様相であった。

 もちろんザコ戦闘員たちも、一方的にやられているわけではない。


「倉庫にあったマシンガンも持ってこーいッ! 戦車も出せーーーッ!!」

「「「「「ウィーーーーーッッッ!!!!!」」」」」

「ちくしょうこうなりゃヤケだ! かかってこいやザコどもがァーーーッ!!」

「さすがデスグリーンさん! ロールプレイも完璧だ!」

「うるせェ! 全員まとめて地獄送りだァーーーッッッ!!!」




 ――1時間後。



 周囲に散らばる無数の折れた剣、おしゃかになったマシンガン。

 炎を上げて沈黙する戦車、そして大地に倒れ伏す戦闘員たち。


 山と重なった残骸と屍の中心に、満身創痍の男が立っていた。


「はぁ、はぁ……生きてる……俺、生きてる……!」

「……みんなのために、最後まで人間態を貫くなんて……デスグリーンさん、俺ぁ一生アンタについていきますよ……ガクッ」


 肩で息をする林太郎の足元で、最後のザコ戦闘員が意識を失った。

 それに重なるように、林太郎もバターンと倒れ込んだ。


― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはマニュアルをご確認ください。

名前:


▼良い点
▼気になる点
▼一言
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。