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極悪怪人デスグリーン ~このヒーローだけは追放してはならなかった~ 作者:今井三太郎

第一章「極悪怪人デスグリーン誕生」

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第三話「潜入、秘密結社アークドミニオン」

 ビクトグリーンこと栗山林太郎は熱い正義を心に宿すヒーローである。

 ヒーローは悪の怪人を前にして、見て見ぬふりなどできはしないのだ!


「ようこそ! 秘密結社アークドミニオンへ!」

「……あっはい」


 正義のヒーローといえども悪を黙殺せざるをえないときだってある。

 例えば、間違って悪の組織の中枢にたった一人丸腰で乗り込んで、あまつさえ歓迎されてしまったときだ。


「これから仲良くやろうぜ兄弟」

「一緒に世界征服を目指すザンス」

「カワイイぼうや……食べちゃいたい、アハァン」

「ところで栗山さんはなんの怪人なんッスか? サメっちは……ふふふ、秘密ッス」


 東京の地下数百メートルに作られた巨大な闇の聖堂。

 そこにひしめく何十人もの怪人たち。

 人間に近いものもいれば一目で明らかに怪人であるとわかるものもいる。

 全身をイグアナのような鱗に覆われた男。

 首から下で歯車がガチャガチャと音を立てている老人。

 林太郎を頭から丸のみできそうなほど巨大な口を持つ女。

 そして牙を持つ少女。


 林太郎はその和気あいあいとした輪の中心にいた。


 言うなれば猛獣の檻に閉じ込められたウサギである。

 ここで「平和を愛する緑の光、ビクトグリーン!」なんてやろうものなら、

 原型がなくなるまで叩きこねられてハンバーグの材料にされかねない。


「林太郎と言ったな。我輩はアークドミニオン総帥としておぬしを歓迎するぞ! 怪人ならば誰しもが我が同胞であり、庇護すべき子供たちなのである」


 その言葉に、周囲の怪人たちは万歳三唱し、地下空間を邪悪な大歓声が埋め尽くす。


 悪のカリスマ。

 そんな言葉がこれほどしっくりくる老人もそうそういないだろう。

 それもそのはず、ドラギウス三世と言えばヒーロー本部で絶賛全国指名手配中の超大物怪人である。

 その悪名はすさまじく、噂によるとその怒りが頂点に達した際には地形が変わるほどの大地震が起こると言われている。

 十年前、突如として富士山が爆発し富士五湖が富士一湖になってしまったのは彼の仕業だと主張する関係者もいる。


「む? おぬし、緊張しておるのか?」

「ええ、まあその、はい。……恐縮です」

「なに、みんな最初はそうなのだ。このところおぬしのように路頭に迷う怪人が増えてな。すべてはあやつ……ヒーローの風上にも置けぬ憎き外道、ビクトグリーンのせいなのである」


 何を隠そうドラギウスの目の前にいる栗山林太郎こそビクトグリーンその人である。


「オレの母ちゃん、ビクトグリーンに高い布団を買わされてそのまま捕まっちまった……」

「ワタシのカレもビクトグリーンに毒を盛られて昏睡状態のまま牢屋の中に……」

「ワシと死んだばあさんの店、ビクトグリーンのせいで経営破綻させられちまって……」


 今度は周囲から悲嘆と怨嗟の声があがる。

 これはもうハンバーグでは済まないかもしれない。


「うむ……おぬしもこれまで辛い思いをしてきたのであろう。今はゆっくり休むといい」


 そう言ってドラギウスは優しく林太郎の手を握った。

 林太郎が怪人だったならば感激のあまり泣いて崩れ落ちたかもしれない。

 だが今の林太郎は別の理由で涙がこぼれ落ちそうだった。


「サメっち、部屋を案内してやれ」

「かしこまりッス。お荷物お運びするッス」

「いや、大丈夫だから! 自分で持つから!」

「エンリョしちゃダメッス!」


 サメっちが林太郎のキャリーバッグを無理やり持ち上げようとしたそのとき。

 生活用品をぎゅうぎゅうに詰め込み、明らかに過積載だったキャリーバッグのロックがはじけ飛んだ。


 飛び出すお気に入りのTシャツ、愛用のマグカップ、イタリア製のシャンプーハット。


 そして勝利戦隊ビクトレンジャーの必携アイテム――


 ――“ビクトリー変身ギア”



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