グーグルのクラウドゲーム「Stadia」には、やはりストリーミングならではの“弱点”がある

グーグルのクラウドゲームサーヴィス「Google Stadia」が、米国など14カ国で始まった。家庭用ゲーム機と比べると、現時点では画質や遅延といったストリーミングならではの弱点が散見される。だが、高度なゲームをスマートフォンや非力なノートPCでも楽しめるのは痛快きわまりなく、かつてないほど多くの人やプラットフォームにゲーム体験をもたらそうという試みにはわくわくさせられる──。『WIRED』US版によるレヴュー。

Stadia

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PCゲームは、いつの時代においてもお金のかかる趣味である。子どものころ、わたしは本物のゲーミングPCを買えるようになることを夢見たものだ。

「Windows 98」の最盛期においても、うちのパソコンは「Windows 3.1」だった。男の子がスポーツカーの写真を貼るように、雑誌『PC Gamer』や『WIRED』のページを切り抜いて壁に貼っていた。わたしにとってのランボルギーニやフェラーリは、「Falcon Northwest」や「Alienware」といったゲーミングPCのブランドだったのだ。

そんな女の子にとって、また彼女のような子どもたちにとって、グーグルのクラウドゲームサーヴィス「Google Stadia」は魔法のように思えることだろう。月に10ドル(約1,080円)かかると両親に説明するのは、何千ドルもするゲーム機器に投資価値があると納得してもらうよりもずっと簡単だ。

ヴィデオゲーム版のNetflix

Stadiaはグーグルにとって、ゲームの世界への初の進出となる。家庭用ゲーム機でありながらストリーミングサーヴィスであり、ヴィデオゲーム版のNetflixのようなものだ。

ウェブブラウザーを使えるあらゆる機器に、グーグルはPC品質のゲームを10ドルの月額課金でストリーミングするという。とてつもなく大きな約束だ。グーグルが成功すれば、StadiaはPCや家庭用ゲーム機につきものだった経済的な障壁を一気に引き下げることになるだろう。

グーグルは、このようなサーヴィスを考案した最初の企業ではない。「OnLive」や「PlayStation Now」、そしてNVIDIAも挑戦し、ほとんどが失敗に終わった。この成否の違いを、わたしは「アップル現象」と呼んでいる。アップルはMP3プレーヤーを発明したわけではない。だが、使いやすい製品をつくり、素晴らしいMP3プレーヤーを送り出した。グーグルはゲームのストリーミングにおいて、同じことをしようとしているのだ。

グーグルが成功すれば、PCや家庭用ゲーム機が担ってきたゲーム体験が、何百万ものユーザーにとってより利用しやすいものになる。これはどこから見ても素晴らしい成果だ。とはいえ、もちろん問題点もある。

専用コントローラーは素晴らしい

Stadiaを使えば、ゲームをどこでも楽しめるというのが売りだ。職場でも学校のノートPCでも、まるでGmailにログインするかのように簡単に利用できる。ゲームをしたければ、YouTubeのヴィデオを再生する感覚でインターネット経由でストリーミングできる。ダウンロードは必要なく、面倒なアップデートもない。

何かを購入する必要もない。必要なのは、Stadiaのサブスクリプションと対応したデヴァイスだけだ。グーグルの「Chromecast Ultra」を接続したテレビや、スマートフォン「Pixel」シリーズはもちろんのこと、「Chrome」ブラウザーをインストールしたコンピューターでも楽しめる。つまり、Stadiaのエコシステムにどれだけ投資したいかをユーザーが決めるのだ。

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家庭用ゲーム機のような体験に多額の出費をいとわない人は、「Stadia Premiere Edition」を購入すればいい。このキットにはChromecast Ultra、Stadiaのコントローラー、3カ月分の「Stadia Pro」サブスクリプション(内容の詳細はあとで説明する)と、ゲーム1つが付属して129ドル(約14,000円)となる。

Premiere Editionに付属するStadiaのコントローラーは素晴らしい。ちょうど「Xbox One」と「PlayStation 4」のコントローラーを融合させたような見慣れたデザインで、ふちが丸くて柔らかく、表面の質感が心地よい。ボタンの反応はきびきびしていて、ジョイスティックは滑らかだ。

しばらくすると、Stadiaのゲーム以外にも使いたくなってきた。いまのお気に入りである「Nintendo Switch Proコントローラー」には及ばないが、少なくともPS4の「DUALSHOCK 4」やXbox Oneのゲームパッドと同じくらいよいものだ。

ストリーミングならではの課題

StadiaサーヴィスはPremiere Editionの購入者を対象に始まったものの、まだアーリーアクセス(早期利用)の期間である[編註:現時点で日本ではサーヴィスは始まっていない]。2020年2月にサーヴィスは全面的に提供開始になる予定だ。

本格的に始まる時点で提供されるプランのひとつは、月額課金がない代わりにユーザーはゲームを購入(現時点では1本あたり約60ドル)する仕組みで、1080pと60fpsのストリーミングを楽しめる。月額10ドルの「Stadia Pro」プランでは、毎月1本の新作が提供され、継続的にゲームを無料で楽しめる。いまのところ、このプランには「Destiny 2」が含まれている。

Stadia Proなら4K HDRでゲームを楽しめるうえ、機器の種類によらず(対応さえしていれば)グラフィックスはすべて最高画質の設定になっている。これは実際には機器がゲームを処理していないからだ。

ゲームはグーグルのサーヴァー群が処理しており、映像だけをテレビやウェブブラウザー、Pixelにストリーミングしている。何もダウンロードする必要はない。まるでYouTubeのヴィデオのようにストリーミングされ、それをユーザーが操作する仕組みだ。しかし、これがゲームプレイに多大な影響を及ぼすことになる。

例えば、Google Stadiaのローンチタイトルのひとつは「モータルコンバット11」なのだが、これは妙な選択だ。格闘ゲームはレイテンシー(遅延)において難があることで知られている。タイムラグはコンボの失敗や鈍い反応につながるので、オンラインで格闘ゲームは楽しめない。Stadiaがサーヴァーとの通信に数ミリ秒を必要とすれば、ボタンを押した瞬間と、実行したパンチやキック、ブロックとのあいだに重大な時間差が生まれることになる。

画質は“さえない”印象だが利点もある

実際に試してみたところ、Stadiaによるストリーミングと、PCやPS4など手元のハードウェアでゲームを処理する場合とでは、目立った違いがあった。しかも理想的な条件下(光ファイバー回線でルーターに直結、4K HDR画質の有機ELテレビを利用)であってもだ。ローカルで処理されたゲームの映像の動きは速く、そして深みがあり鮮明だったが、ストリーミングはどれだけ画質を上げてもそこまでではなかった。

Stadiaのゲーム体験は、ときに実際にゲームをプレイしているのではなく、高画質のゲームプレイを映像でを眺めているような気分にさせられる。どことなく“さえない”感じがするのだ。

詳しく説明しよう。まず、このヴィデオを見てほしい。フルスクリーンにして、ディスプレイがサポートする最高品質に設定する。Stadiaでゲームをするのはこんな感じだ。

中級以上のハードウェアでゲームを処理するよりは高品質である。だが、高画質なディスプレイでゲームを楽しむときに期待しているほどには、鮮明でくっきりしていない。Stadiaは中間の画質においては秀でているが、決して超高解像度ではないのだ。

こうした“欠点”こそあるが、今回はほかのレヴューのために使うゲーミングノートPCではなく、非力ともいえるChromebookでDestiny 2にのめり込んだ。11インチのChromebookをひざの上に乗せて遊ぶのは、いい感じである。

別の利点にも気づいた。Stadiaはハードウェアに熱をまったく発生させないのだ。具体的には、YouTubeの動画を見るとき以上には熱を発しない。これはとても大きな利点だ。

ゲーミングノートPCは通常、ひざの上に乗せていられないほどの熱をもつ。だが、Stadiaはハードウェアがゲームを処理するためにフル稼働する必要もないので、発熱の心配がいらない。グーグルのサーヴァーが頑張ってくれているのだ。スマートフォンでStadiaのゲームをしても、映画を観るときほど熱くはならない。

サーヴィスは「まもなく登場」ばかり

オンラインで楽しむStadiaのインターフェースを、Xbox OneやPS4、さらにはSteamのゲームのような従来型のハードウェアを用いたゲームと比べると、明らかに魅力に欠けている。骨に肉が付いていないような印象を受けるのだ。

また、Stadiaはゲームの実績の記録をサポートしていない。ほかのゲーム機で同じタイトルを楽しんでいるプレイヤーと対戦できるのか、それともStadiaのプレイヤーとだけ楽しめるのか、この点もはっきりしない。グーグルによると、プラットフォームをまたいだプレイを可能にすることが目標だというが、ローンチ時点では利用できない見通しだ。

それに家族でアカウントをシェアすることもできない。リヴィングルームでStadiaをセットアップしても、アカウントやプロフィールは当面はひとつだけ。Stadiaのサーヴィス開始時の内容をいくら眺めたところで、「まもなく登場」の表示が並ぶばかりである。

Stadia

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Stadiaが完成形になったとしても、まだ問題がある。ユーザーがStadiaのゲームを「所有」することは決してできないのだ。ゲームのコピーを手元のハードウェアに残すことがないので、ゲーム(料金を払ったゲーム)にアクセスできるのはStadiaに接続している間に限られる。グーグルが特定のタイトルの配信を終えたり、サーヴィスを終了したり(実際によくある)することを決定すれば、料金を払ったゲームもなくなってしまう。

これはゲームのデジタルコピーを購入する仕組みとは根本的に異なる。Steamなどでゲームを購入すると、そのゲームのソフトウェアはユーザーのハードウェアに残る。ところがStadiaでは、購入するゲームと同じ額を払ったとしても、ゲームへのアクセス権を“借りて”いるだけなのである。

現時点では、ゲームは購入するときと同じ額(30ドルから60ドル)でStadiaストアに並べられている。だがグーグルによると、ゲームの価格はまだ確定したわけではないという。

それにゲームのアーカイヴという問題もある。ここ数年のことだが、ゲームを保存して後世に残そうとする取り組みが進められている。芸術のひとつの様式としてゲームの歴史を保存することは、データのコピーに誰もアクセスできなければ、かなり難しくなる。

有料のベータテスト

全体としてStadiaの強みは、その汎用性にある。グラフィックカードが入っていないノートPCでゲームをすると、それがはっきりわかる。それこそ高校生に配るようなChromebookでDestiny 2を楽しめるのは、痛快きわまりない。

このサーヴィスは、Alienwareや「Razer」などのゲーミングPCにとって代わるものではない。手元にあるハードウェアによるゲーム体験のようなシャープで素早い反応が実現することは、決してないだろう。そして技術がどれだけ向上しても、レイテンシーは問題であり続けるはずだ。グーグルが「ネガティヴ・レイテンシー」について何を説明しようとである。

グーグルには、かたちにすべき機能や対処すべき課題が数多くある。そして気高い野望のいくつかにStadiaは応えている。かつてないほど多くの人やプラットフォームに、ゲーム体験をもたらそうとしているのだ。そんな可能性には、なんだか非常にわくわくさせられる。

実績のないサーヴィスに129ドルを投資することに態度を決めかねているとしたら、それはあなただけではない。Stadiaへのアーリーアクセスを可能にするPremiere Editionは、ベータテストにお金を払って参加するような行為に大金をつぎ込むことをいとわない、熱心な信奉者のためのものなのだ。

そして2月が近づいて無料体験が提供されるなら、試してみるべきだろう。そこには驚きが待っているかもしれない。

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TEXT BY LAURA MALLONEE
TRANSLATION BY MADOKA SUGIYAMA

WIRED(US)

  • james-webb-space-telescope-img_0227-2
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あなたが仲間と離れて月の上でブンブン音を立てているハチなら、熱を検知するこのハチの巣に見つかってしまうかもしれない。だが、安心してほしい。100億ドル(約1兆900億円)かけてつくられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の関心は、もっと大きなものに向けられているからだ。

JWSTは2021年に首尾よく宇宙へ打ち上げが成功すれば、地球に似た惑星にある水や、生まれつつある星、ビッグバンのあと1億年以内に形成されたはるか遠くにある物体を見つけることだろう。

JWSTに精度をもたらすのは、主鏡である。その口径はハッブル宇宙望遠鏡の口径の約3倍で、21.3フィート(約6.5m)だ。ハチの巣のような形で折りたためるデザインは、軽量の六角形のベリリウム製セグメント18枚からなり、全体で1枚の鏡として機能する。焦点を鋭くするために、ユリの花粉の幅の1万分の1程度の小さなモーター126基が、18枚のセグメントを少しずつ回転させる。

18枚のセグメントは269.1平方フィート(約25平方メートル)分の光を集めることができる。それは米航空宇宙局(NASA)の現在稼働中の赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」が集める光の量の50倍を超える。セグメントの金のコーティングによって、136億年前に放射された赤外線など長波長光線の反射率が高まる。いかなる望遠鏡もとらえたことがないはるか昔、すなわち宇宙の最遠部から放たれた光を観測できるのである。

「この望遠鏡はタイムマシンです」と、NASAの上級科学者でノーベル賞受賞者でもあるジョン・C・マザーは言う。「光が放たれた当時の物体の様子を観測できます」

「想像したこともない何かがある」

天体物理学者、工学者、化学者ら合わせて1万人もの人々がJWSTのプロジェクトに従事してきた。マザーは最も長く、1996年に留守番電話でNASAのメッセージを聞いたときから関わってきた。そのメッセージは、いまだかつてない巨大な望遠鏡の建造に協力してもらえないかという打診だった。

マザーはメリーランド州のNASAゴダード宇宙飛行センターでチームを率いて研究し、当時はまだなかった10の技術が必要であることを突き止めた。そのなかには、テニスコート大のプラスティック製の遮光シールドもあった。このシールドを使えば、マイナス188℃まで下がる極寒の観測所で赤外線を正確に検出できるようになる(JWSTはヒューストンにあるNASAの真空試験室で極低温試験に臨む)。

JWSTの費用は当初は5億ドル(約544億円)の見込みで、打ち上げは2007年のはずだった。しかし、さまざまな難問(漏れ、破れ、連邦議会)に直面した。そしていよいよ、仏領ギアナから欧州のロケット「アリアン5」で打ち上げられるめどが立った。

JWSTは地球の上空100万マイル(約161万km)にとどまって、最長10年間、1日に458GBの情報を地球に送信する予定だ。JWSTによって、宇宙の起源に関する最も深い謎が解明される可能性がある。「そこにはわたしたちが想像したこともない何かがあります」と、マザーは思いを巡らせる。

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