倉山満(憲政史家、皇室史学者)

 私はこれまでの言説を修正しなければならないと、本気で悩み始めている。

 これまで私は、「自民党の最大支持勢力は、創価学会・公明党である」と主張してきた。第2次安倍晋三政権に限れば、そのように見えてきたのも確かだ。しかし、麻生太郎内閣は創価学会・公明党の支持があったにもかかわらず、鳩山由紀夫民主党に惨敗した。国民が「鳩山民主党でも構わないから、麻生自民党は嫌だ!」と本気で怒ったら、創価学会・公明党が味方になってくれても何の役にも立たないほど脆弱なのが、自民党の実態だ。

 そして約3年後、「誰でもいいから、景気を回復してくれ。民主党を倒してくれ」との国民の声にこたえて、安倍晋三が政権に返り咲いた。そして本日、憲政史上最長の政権になった。

 この間、創価学会・公明党も安倍内閣を支えた。自民党も支えた。7年の間に、「かつての三角大福の時代なら即死」のような危機が何度もあったが、すべて乗り越えた。果たして、創価学会や公明党、あるいは安倍側近や自民党の力だけで可能だろうか。ここまでの長期政権を築いた功労者は他でもない。「野党」であろう。

 もちろん「野党」とは、常に安倍内閣の「よりによって正しいことだけを批判してくれる勢力」のことである。この人たちが「野党」の地位に居座ってくれれば、特に野党第一党の地位にふんぞり返ってくれれば、絶対に安倍自民党は選挙で負けない。

 思えば、「野党」は綺羅星の如く人材が豊富だった。海江田万里、岡田克也、蓮舫、そして枝野幸男。第2次安倍政権期の、歴代野党第一党党首である。いかなる安倍批判者であろうとも、この人たちに日本の運命を任せようとは思わないだろう。実際に有権者は、そういう選択をしてきた。圧倒的多数の日本国民は、何でもかんでも安倍批判に結びつける「アベノセイダーズ」を白眼視し続けてきた。

 だが、それは「安倍首相」に対する一切の批判を許さない「アベノシンジャーズ」を増長させてきた。安倍さん以外に誰がいるのか? 自民党の他に政権担当能力がある政党があるのか? 確かにその通りなのだが、安倍内閣や自民党が、それほど威張れるほど能力があると思っている時点で、「アベノシンジャーズ」は度し難い。
参院選で自民党の支持を訴え演説する安倍晋三首相=2019年7月、東京都千代田区(古厩正樹撮影)
参院選で自民党の支持を訴え演説する安倍晋三首相=2019年7月、東京都千代田区(古厩正樹撮影)
 では「野党」よりマシだとして、自民党にいかほどの政権能力があるのか。

 かつての民主党は、官僚の言いなりになってはいけないことだけは分かっていた。「だけ」は。一方の自民党は、官僚の振り付けで踊る能力だけはある。選挙で選んだ政治家が官僚の言いなりなら、選挙などやめてしまえばよいではないか。選挙がある限り、官僚は責任を国民に押し付けた上で、やりたい放題ができる。自分は陰に隠れて、権力を振るうだけでよい。選挙が忙しくて政治の勉強をする暇がない政治家を、洗脳してしまえばよいだけだ。

 自民党の政治家は、朝から晩まで勉強している。涙ぐましいほど勉強している。料亭で夜な夜な会合を重ねるなど、政局が近いときの幹部くらいだろう。大半の自民党議員は、絶望的なまでに熱心に、勉強をしている。

 何が絶望的なのか。自民党議員の勉強とは、何か。「官僚から情報を貰うこと」である。官僚とは、絶対にポジショントークから逃れられない生き物である。自分の所属する官庁の立場から離れたら、それは官僚ではない。

 例えば、である。今は知らないが、少し前までの財務省は、内部では上司部下関係なく、対等の議論が許された。ただし、外部に対しては、組織で決まった結論以外を出してはならない。だから、「内部では消費増税に反対している官僚が、政治家に対する説得工作で増税を熱弁する」ということも、あり得る。そういう場合、政治家が「官僚の言うことだから正しい」と最初から信じ込んでいたらどうなるか。